最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第677話 エルシスVSルビリス、バルド、ヌー

「あの時は舐めた真似をしてくれたな、今度こそ潰してやる」

 大魔王ヌーは、眼下に居るシス女王にそう告げると『スタック』をさせていた魔法を放つ。

 ――神域魔法、『邪解脱エビル・リベラシオン』。

 次々とヌーの周囲に魔法で契約された死神が使役されていく。
 しかしまだ魔力自体は、体力のように完全には回復していない為、消費を抑えての発動だったらしく、その死神の数は十体程であった。
 
 ダールの世界でフルーフと戦った時よりその数は少ない。
 しかしそれでも、今のエルシスにとっては脅威に映る。

「やれやれ……。出来れば残された魔力はに、残しておきたいんだけどね」

 最初から居たルビリスやバルド、そして死神を使役したヌー。この三体までならエルシスは、シスの生命の少量を貰う事で、魔力に変換して『』で倒す事は出来るだろう。しかしこちらを見て不敵に笑っているミラまでを相手にする事を考えると、シスの生命をかなり使わされる事となるだろう。

 ――最悪、取り返しのつかない事になるかもしれない。
 エルシスは決して、それだけはしたくはなかった。

 その為にも目の前で戦闘態勢に入っているヌーとやらは、かなり魔力消費を抑えながら倒さなければならないだろう。

 エルシスは死神に囲まれながら、やがてを纏いながら『スタック』を始めた。

「こうなる事が予測出来ていたら『空間除外イェクス・クルード』は使わなかったんだけどね」

 ヌーやミラが来る事が分かっていたら、先程の魔族達の相手をする時に使う魔力の消費を抑えて、もっと効率の良い戦い方をすることも出来たのにとばかりに、エルシスは少しばかり後悔をするのだった。

 しかし数十万という規模の大魔王が攻めてきた後に、続けざまに再びとは普通は思わない。

 そもそもエルシスだからこそ『煌聖の教団こうせいきょうだん』の本隊数十万体を倒す事が出来たのである。この後にミラ達が出現することを予測して十万体の魔族を相手に、魔力を節約してない方が悪いとは誰であってもエルシスに、苦言はいえないだろう。

「行け。あの女を血祭りにしろ」

 ヌーの命令に死神達は従い、一斉にエルシスに向かっていった。ヌーが行動を開始したのを見届けた後、ミラはルビリス達を一瞥する。どうやらヌーだけでは無く、ミラはルビリスとバルドにも戦闘を強いるようであった。

 ルビリスは素直にミラの視線に頷き、そしてバルドは溜息を吐きながら『スタック』を始める。十体程の死神が彼らの代名詞というべき、を振りかぶりながらエルシスに襲い掛かった。

 一番前に居た死神の鎌を持つ手をエルシスは、右足で押すように蹴りあげると、死神の攻撃を防ぐと同時に、その死神を盾になるよう利用して、背後から迫る死神達から自身の姿を晦ませる。

 エルシスは正確に距離感を測りながら一気に『高速転移』で、バックステップをするように距離をとると、エルシスが先程居た場所に、死神達が一箇所に集まり立ち止まる。

 どうやら一番前に居た死神が邪魔をしてその後ろに居た死神達は、エルシスの姿が見えず、足止めをさせられたようだった。

 エルシスは狙い通り敵を利用して、ブラインド効果を生じさせる事を現実のものとした後『スタック』させていた魔力を一つの魔法発動に利用する。

 ――神聖魔法、『聖光波動撃セイント・ウェイブ』。

 死神達にかなり効果的な、聖なる光の振動が死神達を襲う。魔族と同様に死神もまた、聖なる力に対してはかなりの効果が期待できるのだった。
 『邪』や『悪』といった性質を持つ所謂属性のようなモノに対して、聖なる効力は絶大な効果をきたす。

 ――それはつまり『』である。

 死神達が苦しむような声をあげた後、身体がブレるように震えながら歪んでいく。
 エルシスは死神達に追撃をしようとするが、迫る魔力を感知してその場から離れる為にその場から上空へ跳びあがる。

 ヌーもまた死神の身体を利用して見えずらい死角を作りながら、エルシスを攻撃しようとしていたのである。躱された事で舌打ちをするヌーだったが、まだその攻撃は続いている。エルシスが上空へと逃げた場所にはすでにルビリスとバルドが、その姿を見せていた。

「……卑怯だとは言わないで下さいよ? 貴方ほどの存在と戦う以上、我々はあらゆる手を使わなければいけません」

 ――神聖魔法、『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』。

 エルシスの宿るこの身体はシスのものでありそのシスは魔族である。つまりルビリスの発動させた神聖魔法は、エルシスに対しても『』効果を及ぼす。

 しかしその魔法自体を生み出したエルシスには『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』は通用しない。エルシスはルビリスの神聖魔法を無効化しようと目を金色に輝かせる。

 だが、その次の瞬間。
 エルシスの体が鉛のように重くなり動きが封じられる。この感覚は先程一度味わっている。

 ――バルドであった。

 どうやらルビリスの神聖魔法は、最初から囮だったようだ。
 神聖魔法のエキスパートであるエルシスには、同じ神聖魔法では動きを封じる事は出来ないと、理解している彼らは、瞬時にルビリスの魔法で隙を作り、本命のバルドの『』で、動きを止める寸法だったのだろう。

 先程バルドのを受けたエルシスは、中々にこれを解除するのが困難だと知っている。バリアを張る『魔力』も惜しいとそう考えていたエルシスだったが、そんな事も言ってられないと、魔力を防衛に回す。

 これによって残されていたシスの魔力は枯渇し、以後は生命力に頼らなくてはならなくなった。

「……ククク。制限されながら戦うのは大変そうだなぁ?」

 ルビリスとバルドの攻撃でその場に固定させられたエルシスの元に、再び笑みを浮かべた大魔王ヌーが迫っていた。

「そうだね、本当に厄介だよ君たちは!」

 愉快そうな表情を浮かべるヌーに向けてエルシスは『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』を放った。

「おっと! 前回はこれのせいでお前を殺し損ねたんだよなぁっ!」

 ヌーはいつの間にか黒いモヤのようなモノに包まれた先程の『死神』をエルシスに投げつける。
 他の死神は既に幽世へと送り返されていたようだが、どうやらヌーが一体の死神だけは、何か特殊な手段を用いて現世に留まらせて、エルシスが自分に向けて『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』を使うだろうとアタリをつけて、死神を盾にするつもりだったらしい。

 投げつけた死神は『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』で身動きとれなくなったが、ヌー自身はエルシスの捕縛を躱す事に成功する。

「分かってる分かってる!! お前に確実なダメージを与えるには、まだ足りないよなぁっ!」

 ――神域魔法、『禍々崩オミナス・コラップス』。

 直接エルシス自身を狙う魔法ではなく、ヌーは世界に干渉する汚染魔法を使う。エルシスはその汚染された空気を吸い込んでしまい顔を歪ませる。

「ぐぁっ……! ゲホッ、ゲホッ……!」

 エルシスは左手で口元を押さえる。
 どういった規模の毒なのかをエルシスは把握するために、右手で呼吸器官を順繰りに擦り始める。

 しかしその行動はヌー程のを前にして、完全に隙を作ってしまったといえるのだった。

「……終わりだな?」

 ――神域魔法、『闇の閃日ダーク・アナラービ・フォス』。

 大魔王『ヌー』は自身の最大の『極大魔法』をエルシスの目前で発動するのだった。

 ……
 ……
 ……

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