最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第664話 鬼神の如く

 ディアトロスは『高速転移』で離れて行ったブラストを眺めていたが、やがてはこちらに近づいてくるソフィに視線を移した。

「先程組織の奴の魔力が感じられたが、ブラストはそれで向かったのか?」

「そうじゃ。お主を誘い出す罠かもしれぬからな」

「ディアトロスよ。ミラとやらは何故この世界に姿を見せぬと思う?」

 『煌聖の教団こうせいきょうだん』の幹部『ハワード』と『リラリオ』の世界で戦ったり『アレルバレル』の世界では『ユーミル』という幹部と戦ったソフィだったが、その『煌聖の教団こうせいきょうだん』の幹部達を束ねているであろう組織の総帥の『ミラ』だけは未だに、その姿を『アレルバレル』の世界に見せてはいなかった。

「それなんじゃがな。あの若造はお主と戦うのを避けておるのだろうが、確かにワシも可笑しいと思っておった」

 二人は魔王城に向かい少しずつ歩みを進めていきながら話を続ける。

「単にお主から逃げるのであれば、配下共を向かわせはせぬだろうし、こんな小出しをするように、部下を出して来る理由が分からぬ」

「やはりこちらの動向を探る為に、何かをやっているように思えるな」

「若しくはお主をのが、狙いだったりしてな」

 ディアトロスのその何気ない言葉にソフィは足を止めた。

「……まさか」

 ソフィは『リラリオ』の世界に向かわせた『レア』の顔が脳裏に過るのだった。

「ユファに『リラリオ』の世界の様子を見に行かせたほうがよいかもしれぬな」

 ソフィが頭に過った内容に同時に行き着いたディアトロスは、ソフィが喋るより先に結論を出す。

「ああ。これはまずいな。直ぐにユファの元へ行こう」

 ディアトロスはソフィの言葉に頷き、足早に魔王城の中に居る『ユファ』の元へ向かうのだった。

 ……
 ……
 ……

「リーシャ! 思った以上に敵が多そうだ。作戦を変更する。俺はこれから殿へ移動する。お前はこの集団をステア殿に先導させて中央大陸へ真っすぐ向かわせてくれ」

「分かりました! もう奴らはすぐそこまで来ています。私も軌道修正が必要ないと感じたら直ぐに加勢しますので!」

 二人は短い会話の後、直ぐに行動を開始する。
 もうこの集団のすぐそこまで『煌聖の教団こうせいきょうだん』は迫ってきているのだった。

 『高速転移』を用いてこちらに向かってきている以上、普通に移動しているイリーガル達では、追いつかれるのは仕方のない事だった。

 イリーガルは彼らを守るために、一番後ろへと『高速転移』で移動を行い、逆にリーシャはステアに先頭を行かせて中段後方まで緩やかに移動しながら敵からの攻撃に対して守りに備え始める。

 そしてイリーガルが最後尾に到着したと同時に、数万の本隊の軍勢を引き連れた『リザート』が顔を見せた。

 そのリザートの周りには、空を埋め尽くすほどの数が集結していた。
 そしてその軍勢達が『イリーガル』の姿を見た瞬間に一斉に攻撃を行おうと『魔法』を放つのであった。

 一つ一つが戦力値にして500億を優に超える力を有する魔族達の『神域魔法』である。
 しかしイリーガルは背中から大刀を引き抜いたかと思うと、その大刀を放たれた『魔法』目掛けて思いきり振り切った。真一文字に振り切られた大刀の衝撃波によって『煌聖の教団こうせいきょうだん』の魔族達の魔法は『イリーガル』に届く前に消え失せるのであった。

 しかしその神域魔法を放つ間の僅かな時間の間に、次々と数万を越える魔族達が『イリーガル』の近くまで接近してくるのだった。

 ――数の上で圧倒的な不利な上に敵はそれぞれが『大魔王中位』領域以上である。

 確かにイリーガルは、である為に彼ら組織の魔族とは明確な戦力値の開きはある。しかしそれでもひとたび戦闘となれば、大魔王領域同士であれば、一つの選択ミスで戦力差を覆す事もあり得る。

 敵が数十体程の差であるならば、イリーガルはそんなミスを起こす事はゼロに等しいだろう。しかし現状は数十体程度の差ではないのである。
 『煌聖の教団こうせいきょうだん』の別動隊とはいえ、彼らは元々『アレルバレル』の世界で育った魔族。そしてその数はなのである。

 『イリーガル』であっても全力にならなければ乗り切る事は困難と言えた。
 敵の第一波ともいえる『神域領域』の『極大魔法』を全て防ぎ切ったイリーガルは、すぐ様自身の力を

 イリーガルの目が金色になり変わり、周囲を纏っていた『青』のオーラを大刀に付与していく。彼は防御に回していたオーラも全て『大刀』に乗せようとしている。それはつまり、『超攻撃重視型』に、戦闘スタイルを変えるつもりなのであった。

 大刀にオーラを纏わせ終えたイリーガルは、その大刀を今まで以上の力で両手で握りしめる。

「ウオオオッッ!!』

 そしてイリーガルは周囲に居るに向けて、その大刀を全力で振り切った。

 ――たった一振り。その一振りで百体以上の魔族の首が千切れ飛んで行った。

「離れろ! 正面から奴にあたるな! 散らばれ、散らばるんだ!」

 リザートはその一振りを見た後、慌てて配下達に指示を出す。

「ウオオオッ!!』

 しかし『イリーガル』は止まらない――。

 攻撃を終えた直ぐにその場から次々と移動しての首だけを見ながら大刀を振り回す。
 自分の背丈より遥かに大きい刀を自由自在に操り、イリーガルは鬼神の如く刀を操りながら、戦力値500億を越える大魔王の首を次々と落としていく。

 『九大魔王』にして『処刑』の異名を持つ『イリーガル』は、ソフィに刃向かう組織に

 『大魔王ソフィ』を『生涯の親分』と決めたイリーガルは、その命が失われるまでソフィの刀として生きるつもりである。

 そんなイリーガルの刀には並々ならぬ彼の信念と呼べるものがこもっている。当然に生半可な気合で彼の刀を止める事は敵わない。

 すでに数えきれない程の組織の大魔王達の首を落としているというのに、イリーガルの体力は衰える素振りは見られない。

 もちろん『煌聖の教団こうせいきょうだん』の者達も黙って、首を差し出しているワケではないのである。鬼人と化した修羅ともいえる『処刑』の攻撃に対して防御をしようとしたり、イリーガルの大刀攻撃の隙をついて攻撃をしたりしているのである。

 しかしまるで重厚な装備を整えた『ラッセル車』のように、イリーガルに対しての攻撃が全く通用しないのである。

 いや攻撃自体のダメージは少なからずとはいえ、与えられてはいるのだろう。しかしイリーガルはそんな事は感じさせず、そして仰け反ることがないのである。

 攻撃を与えているというのに、痛みを感じさせずそして止まらない。
 眼光は金色に光り輝き、彼の目を見ると竦み上がってしまう。そして彼の間合いの中で、足を止めれば首が飛ぶ。離れて魔法を撃つとそちらに反応して、転移をしながら首を刈り取りにくるのである。

 攻撃をすれば優先的にそちらに意識を向けて殺しに来る為に、教団の魔族達は攻撃をする事自体にやる気が削がれていくのであった。

 リザートはそんなイリーガルを見て、信じられないとばかりに睨みながらそして歯軋りをする。
 こちらが圧倒的な数的有利をとっており、だった筈なのである。

 それが蓋を開けてみれば『鬼神』を出現させてしまい逆に狩られている始末である。

「い、一撃で大魔王領域の者達の首を落としてこちらの攻撃は通らず。そして止まることなく続けられる殺戮。く、クソ……ッ! こ、こんな化け物を相手に一体どうしろというのだ!?」

 『煌聖の教団』の本隊の指揮をネイキッドに任されて浮かれていたリザートは『処刑』の異名を持つ『イリーガル』を過小評価しすぎていた事にようやく気付いた。

 ―――『アレルバレル』の世界においてであるソフィが認めた

 その存在の意味をようやく理解したリザートは、指示を出す口も止まり、配下達が殺されていくのを黙って見る事しか出来なかった。

 ……
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