最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第652話 狡猾な狙いと看破する司令官

 イルベキアとハイウルキアの両国とも同時期に各国で会議が行われていたが、行動が早かったのは、ハイウルキア国であった。

 イルベキアがエイネに言われた通りにこの龍族の大陸で支配者としてイーサ龍王の後を受け継いだ方がいいかという議論がなされていた頃には、ハイウルキアでは二つの結論を出していた。

 イルベキアのヴァルーザと手を組んだ魔族をハイウルキアへと迎え入れるという結論と、イルベキアとの同盟を破棄して、戦争を仕掛けるという結論である。

 ハイウルキアの恐ろしいところは各国と同じように議論をする場では、色々な意見が交わされるのだが、決まった事項については会議に参加した全員が一丸となって協力体制に入るのである。

 全決定権を持つガウル王を筆頭に、好戦的な案を出すメッサーガや、冷静に分析を果たすピードに出た案について検討をして、まとめる役のジラルド。

 ハイウルキアが上手く成り立っている要因には、彼らガウルの側近の功績がとても大きい。
 そして今回の会議で、二つの案が決定事項として選出される事となった。

 メッサーガが出したイルベキアに戦争を仕掛けるという案についてピードとジラルドが付け加えた案が、今回の襲撃が行われたスベイキア大国を利用する事である。

 厳密に言うとイーサ龍王を失い、混乱と同時に激しい怒りに包まれて報復の機会を窺う、スベイキア軍のネスコー司令官とイーサ龍王の子息シェイザーを利用しようという作戦である。

 早速ガウルはメッサーガとピードを連れてスベイキアに向かった。
 そしてジラルドは、ハイウルキアの龍族の多くを魔族エイネとヴァルーザ龍王達の動きを見張る為にイルベキア周辺に配備させるのであった。

 ……
 ……
 ……

「ガウル龍王。それでは我が国を襲った首謀者はヴァルーザ龍王だと?」

「そうだ。俺とここに居る配下達が、直接奴らの会話を聞いている」

「そ、そんなまさか。ヴァルーザ龍王はイーサ様を常に慕っておられた筈。何を目的にこんな襲撃をしたというのです!」

 未だ襲撃の跡が色濃く残るスベイキア大国では、国家規模で生じている混乱を収める為に動き回っていた軍の最高司令官であるネスコー元帥と、次期国王と称されるシェイザー王子に大事な話があると告げてガウルたちは、スベイキアに強引に会いにきたのであった。

 ようやくスベイキア軍を動かして、国民達の避難を終わらせて一段落した時に、悠長に面会をしたくはなかったネスコー達だが、ガウルからこの襲撃はイルベキアが綿密に立てられた『国家転覆の計画だった』と言われて渋々と話を聞かされるに至ったのであった。

「そうです。そこが彼の非道な思想が隠されていたのです」

「つまり?」

 ガウル龍王の眉唾な話に軍の司令官であるネスコー元帥は、話半分で聞きながら首を横に振るが、その横でイーサ龍王の子息『シェイザー』王子はガウル龍王の話に必死に耳を傾ける。

「シェイザー様、あまり鵜呑みにされてはいけません」

「ネスコー元帥。君は黙っていたまえ! すまないガウル、続けてくれ」

 全くガウル達の話を信用していないネスコー司令官だったが、どうやらシェイザーの方は、この話を信用しているようでネスコーを黙らせた上で、ガウルから情報を聞き出そうとするのだった。

 イーサ龍王が亡くなった今、スベイキアという多くの同盟国を持つ大国で次期国王となるであろう『シェイザー』王子に黙れといわれてしまえば、スベイキア軍の最高司令官である『ネスコー』元帥とて何も言えなくなる。

 ネスコーは心の中で上手くしてやられたとばかりにガウルを睨みつける。どうやらネスコーは、このタイミングで話を持ち掛けてきたガウル達の策略に薄々と気づいたようである。

 確かにヴァルーザ龍王が、軍と魔族を引き連れて、この国に来ていたのは事実である。
 しかしイーサ様と親交があるヴァルーザ龍王が、国家転覆を狙って城を攻めたとは考えづらい。

 どちらかといえば目の前に居るガウル龍王の方が、我が国に対して反逆を狙っていたという噂が出回っていたくらいであった。何より直接的な攻撃をした魔族よりも、まだ同盟国である筈のイルベキアを非難してこのような話を持ち掛けてきている時点で、ハイウルキアの狙いは分かるというものである。

 しかしまだまだ外交経験も少なく、純粋である若い王子は、昔から親交のあるガウルを信じ切っている様子であった。

 ネスコーは、ガウルの横に並び立つメッサーガ達を見る。
 熱心にガウル龍王がシェイザー王子に、ある事ない事を吹き込んでいる横で、メッサーガとピードは、ネスコーの視線に気付いてすっと視線を外す。

(やはりこの者達は、信用出来る者達ではないな)

 ネスコー元帥はシェイザー王子が、間違った選択肢を選ばないようにと祈る事しか出来なかった。

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