最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第633話 戦士へと変貌する心
カストロL・K基地では魔人や魔族の間で色んな想いが錯綜していた。その場にいた魔人族達の多くは、魔族が何故あんなに強いのかと考える一方、協力する事が当たり前の事なのに、何故この場を去ったのだとエイネに対して憤慨する者や、その魔族が去るのを止めなかった『トマス』最高司令官を見て、一体何を考えておられるのだと揶揄する者。
そして戦争に負けた事で魔族としての矜持を失い、魔人族に隷属し従う事が当然だと考え始めていた若い魔族達は自分達と同じ同胞の魔族の身でありながら、あれだけの強さを有して魔人族の最高司令官に対しても堂々と自分の主義主張を言い放って、この場を去っていったエイネのカリスマ性に感化されて魔族達の間に一つの想いが生まれつつあった。
――『このままでいいのだろうか』。
魔人の軍に所属している魔族の多くは敵陣に潜伏して、視察や工作を行う斥候部隊である。
中には魔人に頼りにされて安全な場所に居られる衛生兵のような魔族も居るが、そんな者は一握りであり、ほとんどの魔族は使い捨てにされるような扱いの者が多い。
魔族とは戦いの中に身を置き、常に切磋琢磨し、崇高たるこの血を尊ぶ優れた種族の筈である。他種族に顎で使われて盾にされたり、使い捨てにされる存在ではない。
先程バルザー司令官を葬ったあの同胞を見よ。あれこそが本当のあるべき魔族の姿だ。
我々はこのままでは魔族でありながら、この『優れた血を汚す愚か者』になり果てる。
誰もまだ声には出せないが『エイネ』の行動によって、確かに魔人族に隷属していた魔族の心に変化が生じた。彼らの目はびくびくと魔人族に怯えていた頃と違い、一人の戦士の目へと変貌していく。
――そして一体の魔族が突如、大声で叫び始めた。
「俺達は崇高な存在にして、どの種族よりも優れた魔族の筈だ!! 目を覚ませ誇り高き魔族の血を持つ者達よ!!」
一人の若い魔族はそう声高に言い放つと、先程エイネに対して陰口を叩いていた魔人に殴り掛かっていった。若い魔族に殴られた魔人は突然の事に驚いてその場で尻餅をついた。
「なっ、何をしやがる貴様!」
慌てて立ち上がった魔人は、荒い息をしながらも恐ろしい形相で魔人を睨みつける『魔族』の姿に怯みをみせる。そしてその怯んだ僅かな一瞬の間に、今の若い魔族の行動に共感した魔族達が若い魔族の元に一斉に近寄ってきた。
「そうだ! 俺達は魔族なんだ! この血を汚してヘラヘラ生きているくらいなら戦って死ぬことを選ぶ!!」
「今まで好き勝手してくれやがって! 殴り倒してやる!!」
『淡く紅い』オーラを纏い始めた魔族達は、近くに居る魔人達に次々と襲い掛かっていく。これから龍族と全面戦争をするという時に、魔族達はまさかの大反乱を起こすのであった。
コテージに向かって歩き始めていたエイネは、その同胞達の勇気ある行動と咆哮に足を止めて、ゆっくりと振り返った。
エイネもまた魔族なのである。違う世界であろうと同じ同胞が、自分の足で一生懸命立ち上がった事に喜ばない理由がない。
「我ら魔族が滅びるときは、最後の最後まで戦い抜いた後です。戦う事すらせずに無様に生きるなら、戦い抜いて死になさい」
『女帝』は自らを奮い起こして立ち上がった同胞達にそう言い残すと、再びフルーフの待つコテージに向かって歩き始めた。
そして一番最初に自身を奮い起こして魔人達に向かって攻撃を仕掛けた魔族から『淡く紅い』オーラ以外の色が交ざり始める。
再びエイネは背後の一体の魔族の急な『魔力』の上昇を感知して振り返る。
「ちょっと……! まさかこんなタイミングで『リーシャ』と同じ『力』に目覚めるの?」
エイネは完全に足を止めて驚いた様子で、一体の若い魔族の青年を見る。彼は『金色のオーラ』を纏いながら懸命に格上の魔人と戦っている。どうやらあの魔族はかつてのレアのように、唐突に自分の先天性の力に気付き、戦う意思を見せた事で燻ぶらせていた力の体現を果たしたのだろう。
しかし『金色の体現者』だからといっても、あの魔族の元々の戦力値は所詮は『上位魔族』程度のものである。体現者としての『力』に目覚める頃には、既に『真なる魔王』領域以上に達していた『レア』や『リーシャ』とは違い、このまま戦力値が遥か差のある魔人と戦えば間違いなくやられる事だろう。
――エイネは体現者の戦いぶりを見ながら、腕を組んで迷う様子を見せる。
彼女は支配者でも統治者でもない。この世界の住民でもない以上、同胞たちに手を貸す事はあっても導くような事は出来ない。直ぐにこの世界から居なくなる自分にとって彼女が先程考え付いた役割は重過ぎる。
――しかしようやく目を覚ました同胞に何の猶予を与えないようでは、無責任すぎるかもしれない。
「もう! 仕方ないわね」
エイネは遠くに居る軍の最高司令官と言っていた男に『金色の目』を使い操り始めた。
――『魔族達を捕らえるのは構わないが、一人でも死なせたらお前を殺す』。
軍の最高司令官『トマス・ハーベル』は、エイネの『金色の目』によって深層意識を支配された。そしてエイネによって植え付けられた恐怖心を払拭するかの如く、命令を守るために、そして魔族を生かすために動き始めるのだった。
「私がするのは貴方達に選択肢を与えるところまでよ。この世界で生き残りたいと願うならば、後は貴方達次第ね」
そう言うとエイネは止めていた足を動かして、遥か東から襲撃しようと迫っている龍族の大群に向けて『高速転移』で移動を開始するのだった。
……
……
……
そして戦争に負けた事で魔族としての矜持を失い、魔人族に隷属し従う事が当然だと考え始めていた若い魔族達は自分達と同じ同胞の魔族の身でありながら、あれだけの強さを有して魔人族の最高司令官に対しても堂々と自分の主義主張を言い放って、この場を去っていったエイネのカリスマ性に感化されて魔族達の間に一つの想いが生まれつつあった。
――『このままでいいのだろうか』。
魔人の軍に所属している魔族の多くは敵陣に潜伏して、視察や工作を行う斥候部隊である。
中には魔人に頼りにされて安全な場所に居られる衛生兵のような魔族も居るが、そんな者は一握りであり、ほとんどの魔族は使い捨てにされるような扱いの者が多い。
魔族とは戦いの中に身を置き、常に切磋琢磨し、崇高たるこの血を尊ぶ優れた種族の筈である。他種族に顎で使われて盾にされたり、使い捨てにされる存在ではない。
先程バルザー司令官を葬ったあの同胞を見よ。あれこそが本当のあるべき魔族の姿だ。
我々はこのままでは魔族でありながら、この『優れた血を汚す愚か者』になり果てる。
誰もまだ声には出せないが『エイネ』の行動によって、確かに魔人族に隷属していた魔族の心に変化が生じた。彼らの目はびくびくと魔人族に怯えていた頃と違い、一人の戦士の目へと変貌していく。
――そして一体の魔族が突如、大声で叫び始めた。
「俺達は崇高な存在にして、どの種族よりも優れた魔族の筈だ!! 目を覚ませ誇り高き魔族の血を持つ者達よ!!」
一人の若い魔族はそう声高に言い放つと、先程エイネに対して陰口を叩いていた魔人に殴り掛かっていった。若い魔族に殴られた魔人は突然の事に驚いてその場で尻餅をついた。
「なっ、何をしやがる貴様!」
慌てて立ち上がった魔人は、荒い息をしながらも恐ろしい形相で魔人を睨みつける『魔族』の姿に怯みをみせる。そしてその怯んだ僅かな一瞬の間に、今の若い魔族の行動に共感した魔族達が若い魔族の元に一斉に近寄ってきた。
「そうだ! 俺達は魔族なんだ! この血を汚してヘラヘラ生きているくらいなら戦って死ぬことを選ぶ!!」
「今まで好き勝手してくれやがって! 殴り倒してやる!!」
『淡く紅い』オーラを纏い始めた魔族達は、近くに居る魔人達に次々と襲い掛かっていく。これから龍族と全面戦争をするという時に、魔族達はまさかの大反乱を起こすのであった。
コテージに向かって歩き始めていたエイネは、その同胞達の勇気ある行動と咆哮に足を止めて、ゆっくりと振り返った。
エイネもまた魔族なのである。違う世界であろうと同じ同胞が、自分の足で一生懸命立ち上がった事に喜ばない理由がない。
「我ら魔族が滅びるときは、最後の最後まで戦い抜いた後です。戦う事すらせずに無様に生きるなら、戦い抜いて死になさい」
『女帝』は自らを奮い起こして立ち上がった同胞達にそう言い残すと、再びフルーフの待つコテージに向かって歩き始めた。
そして一番最初に自身を奮い起こして魔人達に向かって攻撃を仕掛けた魔族から『淡く紅い』オーラ以外の色が交ざり始める。
再びエイネは背後の一体の魔族の急な『魔力』の上昇を感知して振り返る。
「ちょっと……! まさかこんなタイミングで『リーシャ』と同じ『力』に目覚めるの?」
エイネは完全に足を止めて驚いた様子で、一体の若い魔族の青年を見る。彼は『金色のオーラ』を纏いながら懸命に格上の魔人と戦っている。どうやらあの魔族はかつてのレアのように、唐突に自分の先天性の力に気付き、戦う意思を見せた事で燻ぶらせていた力の体現を果たしたのだろう。
しかし『金色の体現者』だからといっても、あの魔族の元々の戦力値は所詮は『上位魔族』程度のものである。体現者としての『力』に目覚める頃には、既に『真なる魔王』領域以上に達していた『レア』や『リーシャ』とは違い、このまま戦力値が遥か差のある魔人と戦えば間違いなくやられる事だろう。
――エイネは体現者の戦いぶりを見ながら、腕を組んで迷う様子を見せる。
彼女は支配者でも統治者でもない。この世界の住民でもない以上、同胞たちに手を貸す事はあっても導くような事は出来ない。直ぐにこの世界から居なくなる自分にとって彼女が先程考え付いた役割は重過ぎる。
――しかしようやく目を覚ました同胞に何の猶予を与えないようでは、無責任すぎるかもしれない。
「もう! 仕方ないわね」
エイネは遠くに居る軍の最高司令官と言っていた男に『金色の目』を使い操り始めた。
――『魔族達を捕らえるのは構わないが、一人でも死なせたらお前を殺す』。
軍の最高司令官『トマス・ハーベル』は、エイネの『金色の目』によって深層意識を支配された。そしてエイネによって植え付けられた恐怖心を払拭するかの如く、命令を守るために、そして魔族を生かすために動き始めるのだった。
「私がするのは貴方達に選択肢を与えるところまでよ。この世界で生き残りたいと願うならば、後は貴方達次第ね」
そう言うとエイネは止めていた足を動かして、遥か東から襲撃しようと迫っている龍族の大群に向けて『高速転移』で移動を開始するのだった。
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