最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第606話 宿敵

「全く、手を掛けさせやがる……」

 ゆっくりとフルーフの開けた穴から、浮かび上がってきた男の名は『ヌー』。
 かつて『アレルバレル』の世界で『フルーフ』と戦い、彼の人生と彼の娘である『魔王』レアの人生を大きく変えた『』に位置する『最恐』の大魔王である。

「こうして話をするのは数千年ぶりだな。我が宿敵よ」

 フルーフの周囲を金色のオーラが纏われて、迸る魔力が吹き荒れる。

「宿敵? 馬鹿を言うなよフルーフ」

 ヌーはフルーフを嘲笑うかのような笑みを浮かべた。

「何が宿敵だ……。思い上がるなよ雑魚が!」

 ヌーもまた金色のオーラを纏いながら、射貫くような視線をフルーフに向ける。
 フルーフとヌーは互いに『金色の目ゴールド・アイ』で互いに睨み合う。

 バチバチと音を立てながら、魔力の余波が周囲に影響を及ぼす。
 イザベラ城の壁の一部が二人の大魔王の魔力の影響により、僅かに亀裂が入るのであった。

「勘違いするなよフルーフ。お前が今生きていられているのは、お前に魔法を生み出す価値があったからだけだ。今も俺やミラの奴がその気になれば、あっさりとお前を始末する事を出来るのを忘れるなよ?」

「はんっ! 宿敵という意味を取り違えるなよ若造が」

「ああ? 何だと?」

 ヌーは青筋を浮かべながら、フルーフの言葉に耳を傾ける。

「ワシの愛するレアは今もワシの帰りを待っているだろう。命令を忠実に守った愛する娘をしっかり褒めてやらねばならないというのに、そのワシの邪魔をしたお前達は、許すわけには行かぬ」

「ふんっ! さっきの言葉の答えになってねぇよ。老いぼれ!」

 ――神域魔法、『仮初増幅イフェメール・アンプ』。
 ――神域魔法、『邪解脱リベラシオン』。

 ヌーは自身の魔力を普段の数倍増幅させた後に『死神』を次々と呼び出し始めた。

「その両方の魔法には見覚えがある。どうやらワシが創った魔法じゃな?」

 確かに意識を失った後、ヌーがフルーフに編み出させた魔法に間違いがなかった。

「フハハハ! その通りだ老いぼれ! お前が創った魔法だ。その凶悪さはお前自身が理解しているだろう……。行け!」

 数体の死神は命令を出したヌーの言葉と同時に、フルーフに向かって襲い掛かっていく。

「『死神』は『命』を司る『神』だ。厳かで絶対的な存在だぞ? ここぞという時に力を借りるのはよいが、このようにに扱うてはいかぬ」

「黙れ。貴様も死神共を使役する魔法を使っているじゃねぇか!」

「力を借りる事に関して、敬意を持てと言っておるのだ!」

 ――呪文、『死司降臨アドヴェント・デストート』。

 フルーフが怒号を発して呪文を唱えると、ごっそりとフルーフの魔力が消費されて、膨大な魔力を持っている筈のフルーフは『魔力枯渇』の影響を受けて眩暈を起こし始めた。

 死神達は片膝をついて頭を押さえる『フルーフ』に、好機チャンスとばかりに鎌を振り下ろそうとする。

 だが、フルーフの魔力によって使役された存在が姿を見せた瞬間であった。死神達は攻撃を取りやめて、フルーフの今の姿勢を真似するかの如く一斉にその場に跪く。

「ああ? 何だ貴様ら何してやがる!?」

 自分の命令を無視し始めた死神達に、ヌーは苛立ちをぶつける。

 しかしそれでも死神達は一向に動こうとはせず、頭を伏せるかのように下を向き続ける。

 ――それは自分達の本当の主を前にして、礼を尽くすようであった。

 やがて』が闇から現れると辺りを見渡して、そして死神達を睨みつける。

 そして自分に従うように諂うへつらう同胞達を前にしてその『死神』はゆっくりと息を吐いた。

「何だぁ? あんなモノは前に戦った時は使わなかっただろうが……」

 フルーフが使役したと見られるマントをつけた『死神』は、ヌーが使役した死神達とは顔から何から全てが違う。何より違うのはその死神から放たれる圧がまるで『』を思い起こさせる程であった。

「よく来てくれたな、

 そんな中で『フルーフ』は、自身が使役したであろう『死神』に声を掛けるのであった。

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