最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第587話 天才は天才に惹かれる

 牢の中に入れられている『フルーフ』は、次から次にあらゆる事を試していく。
 魔瞳である『金色の目ゴールド・アイ』も、彼の『特異』の力も『スタック』や『金色のオーラ』でさえも、発動はするのだが、次の瞬間には無に帰してしまう。

 しかし最初に試した通り、はするのである。
 『スタック』が出来ない為に魔法を発動する事は決して出来ないが、一瞬でも魔力回路から魔力を出す事が出来るのであれば、あらゆる事をやってやれない事はない。

 次にフルーフは『レパート』の世界の『ことわり』を用いて、頭の中である魔法を思い浮かべる。

 それは『時魔法タイム・マジック』の『絶対防御アブソリ・デファンス』である。

(※絶対防御の効果は、自分を対象とするや、魔法である)。

 しかしこれは『ことわり』をこの世界に刻む段階では発動はされるが『スタック』の段階に移行する前に、枷の『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』の効力が優先されて『絶対防御アブソリデファンス』は発動されない。

 『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』というを動けなくする『デバフ』効果を打ち消す為の『時魔法タイム・マジック』である『絶対防御アブソリ・デファンス』が、打ち消されるという正に矛盾めいた状態であった。

「……ククッ! 神聖魔法とやらを思いついた者は、で間違いはなさそうだな! 今ワシは『概念跳躍アルム・ノーティア』を生み出す時以上の意欲を掻きたてられておる!」

 である『フルーフ』は、『エルシス』が編み出した魔法を解除するという、正に難解なミッションを魔力を封じられた状態で、更には僅かな時間で成し遂げなければならない。

 失敗すれば殺されはしないだろうが、再び自分を操ろうと何らかの方法を考えているミラによって、再び自我を閉ざされてしまう事だろう。

 哀れな人間とは言ったが、それでも一度は天才フルーフを完膚なきまでに支配して見せた男である。直ぐに新たな方法を思いついて見せるだろう。

 ――大賢者ミラもまた『』なのだから。

 しかしフルーフの頭の中から、ミラの事などは直ぐに追い出された。
 『』の事などより、フルーフはある事を考える事に忙しいからである。
 その中の一つである自分の手段を封じて見せた神聖魔法を編み出した者は、自分の『魔』の知識を上回る『魔』の天才かもしれないと考えた事。

 自身の『魔』の知識を上回る存在に『レパート』の世界では、出会う事がなかった大魔王フルーフ。

 『呪縛の血カース・サングゥエ』や『概念跳躍アルム・ノーティア』という画期的な魔法を創り出して見せたフルーフだったが、全ての魔族に対して聖動捕縛セイント・キャプティビティ』は自身の編み出した前者の魔法二つと同等。いやもしくはだとフルーフは感じ取ったのである。

 そして頭の中で考えている二つ目の事は、この天才的な魔法である『神聖魔法』を不自由な状況と限られた時間の間に自分が解く事が出来たら、どれだけ凄い事なのだろうかという事である。

 ――『』は同じ領域に居る『』にしか理解されない。
 探求は誰にでもできるが、死ぬまで追求し続ける事は一握りの存在しか居ない。

 誰もが頭では思い浮かべる事は出来てもその誰もが現実に、

 期待と不安は一対だとよく言われているが、失敗する不安があるからこそ、期待する事が出来るのである。

 そしてその不安を乗り越えて期待していたモノを掴んだ時、言いようのない幸福と、高揚感を得られる事だろう。

 今、フルーフという天才が考えている事は、ミラの事でも、自分が殺されるかもしれないという事でもない。

 神聖魔法という自分を越えているかもしれないが編み出した魔法を必ずや自分の編み出した魔法で超克して、自分こそが、という事であった。

 もしこの場にフルーフを見ている者が居たとしたら気が狂っていると思う事だろう。

 ――目を血走らせて、発狂しているかの如く嗤っているのだから。

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