最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第583話 統治の意味
「お初にお目にかかる大魔王ソフィ。突然の貴方の城への訪問を許して欲しい」
男は玉座の間の扉を開け放った後、ソフィに向けて声を掛ける。
「それは別に構わぬ。それで我が魔王城へ何用かな?」
「はっ! 私は魔界の西方の大陸出身の魔族で、名は『ステア・グロビデンス』と申す者です。本日は貴方にお話しをしたい事があり。この城に参った次第」
「……」
ソフィはステアと名乗った魔族を見るが、やはり一度もその顔を見たことは無かった。
同じ世界出身と言えども魔界は広く、魔王軍でも無い魔族であれば面識が無いのも仕方が無い。
「西側の大陸出身か……とくれば、大魔王ヌーが居たところの筈だが、お主はヌーと何か関係がある魔族かの?」
玉座に座るソフィの隣で『ディアトロス』がこの『ステア』に問いかける。
「確かに何度かは大魔王ヌー殿とは言葉を交わした事はありますが、特に所属などにおいては彼とは関係がありません」
どうやら嘘を言っているようには感じ取れない。
ステアという魔族の見た目はそれなりに若いが、見た目だけでは魔族の年齢は分からない。
しかしソフィや自分達『九大魔王』の面々を前にして堂々と喋るその姿や佇まいは、決して若輩者といった様子でも無く、それなりにこの『アレルバレル』の『魔界』で、過ごしてきた事を感じさせた。
どうやらその様子から『ディアトロス』は、西側の大陸出身であるヌーと何か関連があるのではないかと『ステア』に尋ねたようであった。
「ふむ。まぁそれはよいとして。我に話とは一体何かな?」
「まず最初に断っておきたいのですが、私は『煌聖の教団』や、その同盟組織の者ではありません。そして貴方の魔王軍に敵対する意思も当然ながらありません」
どうやらステアは余程にソフィ達に、敵対するつもりはないという主旨を最初に伝えておきたかったようだ。
「……まぁ、お主一人でこの城へ来た事からもその意思が無い事は理解しておるよ」
ソフィの言葉にディアトロスや、イリーガル達も頷きを見せる。
しかしステアの話はここからが本題なのだろう。
彼の目が真剣そのものといった風に、変わったのをソフィは感じた。
「貴方がこのアレルバレルから姿を消した後『煌聖の教団』はそれを待っていたとばかりに各地に勢力を伸ばし始めたのです」
ソフィはそこでディアトロスの顔を見るが、ディアトロスは頷いていた。
『ディアトロス』もソフィが居なくなった後の『アレルバレル』の世界を『人間界』のダイス王国の宰相の立場から見続けてきた為に、ステアの言葉に偽りが無い事を知っており、男の話す内容に間違いはないようだった。
「貴方と魔王軍を強制的にこの世界から排除して、これまで何処にも属さずに来た者達を強引に『煌聖の教団』へと所属させていき、教団の為にと謳いながら無理やり働かせる。そして従わなければ、どこか違う世界へと送られたり、教団の総帥であるミラやその信徒達によって処刑されました……」
「……」
自分が居なくなった後のアレルバレルの事情は、浅くではあるがディアトロスから聞いていた。
しかしそれはあくまでディアトロスの居た『人間界』での話が多かった為に、今のステアの話を聞いてソフィは憤りを覚えた。
「お主の言うその組織の『煌聖の教団』とやらに無理矢理入団させられた奴らは嫌々ながらに今も働かされておるのか?」
「はい。断れば死が待っていますからね。表立っては従うフリをしていますが、元々彼らもこの『アレルバレル』の世界の魔族です。本音ではミラには従いたくないのが実情です」
どうやら今まで魔王軍にも属さず、単独で生きてきたつもりで居た魔族達の多くは、ソフィという魔界の中心人物を失い『煌聖の教団』で無理矢理働かされる事となった為に、ようやく彼ら達はソフィの『統治』の在り方と有難みを知ったのだろう。
「『煌聖の教団』に強引に入れられた者達は、無理矢理働かされていると言ったが、実際はどのような事をさせられておるのだ?」
「主には教団に逆らう反乱分子の始末。そして今は教団の数を増やす為に、活動させられていますね」
どうやら本当にこの広い魔界全土を『煌聖の教団』は支配しようとしているようだった。
「では『人間界』は……。人間達はどうなっている?」
「『人間界』の方でも勇者『マリス』とそのパーティ達が処分された後、
ダイス王国の大臣として潜伏している『ルビリス』達の手によって、王だけではなく民達も洗脳させられ始めている模様です」
ディアトロスから勇者『マリス』達の大まかな事は聞かされてはいたが、どうやら『人間界』も『魔界』も『アレルバレル』の世界は『煌聖の教団』達によって余りにも酷い惨状になっているようであった。
「もはやこのままでは『アレルバレル』の世界は『煌聖の教団』に全て支配されてしまう。私はこれまで貴方の魔王軍に属してこなかった。しかしそれでも逆らう真似も当然ながらせずに、どこにも属さずに『中立』を保ってはきました。私も一人の魔族として誰かに命令される事をよしとせず、自分で考えて動きたかったからですが『煌聖の教団』のやり様を見て、貴方が統治していた頃の『アレルバレル』の世界が……。如何に守られていたかを恥ずかしながらようやく気付く事が出来たのです!」
ステアが一息で喋ると、その顔には汗が浮かんでいた。
余程この世界の惨い所を見てきたのだろう。その時の事を思い出しながら辛そうに語る。
「再び煌聖の教団からこの世界を取り返して欲しい。これは私の願いだけではなく、私に賛同している他の『中立』の者達も同じ思いを抱いております」
ステアの必死で話す言葉を聞いたソフィは、静かに目を閉じて考え始める。
『大魔王ソフィ』は数千年間に渡ってこの世界を統治してきた。
見る者によっては『統治』では無く『支配』と呼ぶ方が正しいと思う者もいただろう。
そしてソフィは、勇者マリスに自分の統治を『圧政』と言われた事に思う事があり、リラリオの世界で気ままに冒険者として生きていく事も視野に入れていた。
自分が居なくなる事でこれまでとは違った『アレルバレル』の世界となって、安寧という名の平和が訪れるというのであれば『大魔王ソフィ』はもう要らない存在となるだろうと考えたからだ。
―――『その世界に生きる民達が、自分からその世界の為にと想わなければ、本当の平和は築けない』。
いくら力を持つ者が、世界の為に平和にしようと告げて統治者のつもりでいたとしても、民達が協力しようと思わなければ、所詮は独りよがりの単なる『支配者』にしかならない。
『リラリオ』の世界でその事を学び『トウジン』魔国の『シチョウ』という一国の『国王』を見てきたソフィは、ようやくやらなければいけない事が見えた気がしたのだった。
そして死を覚悟してこの場に現状を伝えに来たステアと、その賛同者たちはこの世界の平和の為に、大魔王ソフィに再び『統治者』として戻ってきて欲しいと伝えに危険を省みずにこの『魔王城』へと来た。
もちろんこの魔界全土に生きる『煌聖の教団』に逆らう者達の総意というわけでは無いだろうがそれでも、ソフィに協力を願い出る者が少なからず居るという事であり、ソフィはようやく本当の意味での『統治』というモノに少しだけ、歩み寄れた気がするのだった。
……
……
……
男は玉座の間の扉を開け放った後、ソフィに向けて声を掛ける。
「それは別に構わぬ。それで我が魔王城へ何用かな?」
「はっ! 私は魔界の西方の大陸出身の魔族で、名は『ステア・グロビデンス』と申す者です。本日は貴方にお話しをしたい事があり。この城に参った次第」
「……」
ソフィはステアと名乗った魔族を見るが、やはり一度もその顔を見たことは無かった。
同じ世界出身と言えども魔界は広く、魔王軍でも無い魔族であれば面識が無いのも仕方が無い。
「西側の大陸出身か……とくれば、大魔王ヌーが居たところの筈だが、お主はヌーと何か関係がある魔族かの?」
玉座に座るソフィの隣で『ディアトロス』がこの『ステア』に問いかける。
「確かに何度かは大魔王ヌー殿とは言葉を交わした事はありますが、特に所属などにおいては彼とは関係がありません」
どうやら嘘を言っているようには感じ取れない。
ステアという魔族の見た目はそれなりに若いが、見た目だけでは魔族の年齢は分からない。
しかしソフィや自分達『九大魔王』の面々を前にして堂々と喋るその姿や佇まいは、決して若輩者といった様子でも無く、それなりにこの『アレルバレル』の『魔界』で、過ごしてきた事を感じさせた。
どうやらその様子から『ディアトロス』は、西側の大陸出身であるヌーと何か関連があるのではないかと『ステア』に尋ねたようであった。
「ふむ。まぁそれはよいとして。我に話とは一体何かな?」
「まず最初に断っておきたいのですが、私は『煌聖の教団』や、その同盟組織の者ではありません。そして貴方の魔王軍に敵対する意思も当然ながらありません」
どうやらステアは余程にソフィ達に、敵対するつもりはないという主旨を最初に伝えておきたかったようだ。
「……まぁ、お主一人でこの城へ来た事からもその意思が無い事は理解しておるよ」
ソフィの言葉にディアトロスや、イリーガル達も頷きを見せる。
しかしステアの話はここからが本題なのだろう。
彼の目が真剣そのものといった風に、変わったのをソフィは感じた。
「貴方がこのアレルバレルから姿を消した後『煌聖の教団』はそれを待っていたとばかりに各地に勢力を伸ばし始めたのです」
ソフィはそこでディアトロスの顔を見るが、ディアトロスは頷いていた。
『ディアトロス』もソフィが居なくなった後の『アレルバレル』の世界を『人間界』のダイス王国の宰相の立場から見続けてきた為に、ステアの言葉に偽りが無い事を知っており、男の話す内容に間違いはないようだった。
「貴方と魔王軍を強制的にこの世界から排除して、これまで何処にも属さずに来た者達を強引に『煌聖の教団』へと所属させていき、教団の為にと謳いながら無理やり働かせる。そして従わなければ、どこか違う世界へと送られたり、教団の総帥であるミラやその信徒達によって処刑されました……」
「……」
自分が居なくなった後のアレルバレルの事情は、浅くではあるがディアトロスから聞いていた。
しかしそれはあくまでディアトロスの居た『人間界』での話が多かった為に、今のステアの話を聞いてソフィは憤りを覚えた。
「お主の言うその組織の『煌聖の教団』とやらに無理矢理入団させられた奴らは嫌々ながらに今も働かされておるのか?」
「はい。断れば死が待っていますからね。表立っては従うフリをしていますが、元々彼らもこの『アレルバレル』の世界の魔族です。本音ではミラには従いたくないのが実情です」
どうやら今まで魔王軍にも属さず、単独で生きてきたつもりで居た魔族達の多くは、ソフィという魔界の中心人物を失い『煌聖の教団』で無理矢理働かされる事となった為に、ようやく彼ら達はソフィの『統治』の在り方と有難みを知ったのだろう。
「『煌聖の教団』に強引に入れられた者達は、無理矢理働かされていると言ったが、実際はどのような事をさせられておるのだ?」
「主には教団に逆らう反乱分子の始末。そして今は教団の数を増やす為に、活動させられていますね」
どうやら本当にこの広い魔界全土を『煌聖の教団』は支配しようとしているようだった。
「では『人間界』は……。人間達はどうなっている?」
「『人間界』の方でも勇者『マリス』とそのパーティ達が処分された後、
ダイス王国の大臣として潜伏している『ルビリス』達の手によって、王だけではなく民達も洗脳させられ始めている模様です」
ディアトロスから勇者『マリス』達の大まかな事は聞かされてはいたが、どうやら『人間界』も『魔界』も『アレルバレル』の世界は『煌聖の教団』達によって余りにも酷い惨状になっているようであった。
「もはやこのままでは『アレルバレル』の世界は『煌聖の教団』に全て支配されてしまう。私はこれまで貴方の魔王軍に属してこなかった。しかしそれでも逆らう真似も当然ながらせずに、どこにも属さずに『中立』を保ってはきました。私も一人の魔族として誰かに命令される事をよしとせず、自分で考えて動きたかったからですが『煌聖の教団』のやり様を見て、貴方が統治していた頃の『アレルバレル』の世界が……。如何に守られていたかを恥ずかしながらようやく気付く事が出来たのです!」
ステアが一息で喋ると、その顔には汗が浮かんでいた。
余程この世界の惨い所を見てきたのだろう。その時の事を思い出しながら辛そうに語る。
「再び煌聖の教団からこの世界を取り返して欲しい。これは私の願いだけではなく、私に賛同している他の『中立』の者達も同じ思いを抱いております」
ステアの必死で話す言葉を聞いたソフィは、静かに目を閉じて考え始める。
『大魔王ソフィ』は数千年間に渡ってこの世界を統治してきた。
見る者によっては『統治』では無く『支配』と呼ぶ方が正しいと思う者もいただろう。
そしてソフィは、勇者マリスに自分の統治を『圧政』と言われた事に思う事があり、リラリオの世界で気ままに冒険者として生きていく事も視野に入れていた。
自分が居なくなる事でこれまでとは違った『アレルバレル』の世界となって、安寧という名の平和が訪れるというのであれば『大魔王ソフィ』はもう要らない存在となるだろうと考えたからだ。
―――『その世界に生きる民達が、自分からその世界の為にと想わなければ、本当の平和は築けない』。
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『リラリオ』の世界でその事を学び『トウジン』魔国の『シチョウ』という一国の『国王』を見てきたソフィは、ようやくやらなければいけない事が見えた気がしたのだった。
そして死を覚悟してこの場に現状を伝えに来たステアと、その賛同者たちはこの世界の平和の為に、大魔王ソフィに再び『統治者』として戻ってきて欲しいと伝えに危険を省みずにこの『魔王城』へと来た。
もちろんこの魔界全土に生きる『煌聖の教団』に逆らう者達の総意というわけでは無いだろうがそれでも、ソフィに協力を願い出る者が少なからず居るという事であり、ソフィはようやく本当の意味での『統治』というモノに少しだけ、歩み寄れた気がするのだった。
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