最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第561話 神殿の中
神殿の中は外の『結界』とは比較にならない程の魔力が込められた更なる『結界』が張られていた。どうやら山にあった鳥居の結界は、可視を防ぐ事に尽力していたようで、ミラの魔力で隠した上での、二重の狙いがあったようだ。そして神殿の中での結界は一層強力なモノで、大魔王領域の者であっても下限付近の力しかなければ、思うような威力の魔法を使えない程であった。
どうやら神殿内の『結界』は『神聖魔法』特有の結界が施されているようで、魔族にのみ甚大な効力を発揮する結界のようであった。そして大魔王領域最上位に位置するヌーであっても、かなり影響を及ぼす程の結界の効力が漂っているようである。
「大層な結界を張っているが、こんなものが必要になる程の物がここに何かあるのか?」
先頭を歩いていくミラに、ヌーはぶつけるように言葉を投げかける。
「ああ、そうだな。今の私たちにとっては一番必要なものが、ここにはある」
「……」
二人の会話はそこで一度終わり、神殿の中を歩いていく。そしてある扉の前で、ミラは立ち止まった。
「お前がこの中にあるモノを見れば驚くかもしれないが、事情は後で説明するから騒ぐなよ」
ミラはヌーにそう告げると扉をゆっくりと開け放った。扉が開かれて中の重々しい空気が外へと漏れ始める。そして神殿内で一際結界の魔力が濃い部屋の中央には、何とヌーが管理していた筈の存在がそこには居た。
――大魔王『フルーフ』が虚ろな目をしながら、手足を封じられた状態で鎮座させられているのだった。
「どういう事だ? こいつの所有権は俺にある筈では無かったのか? そもそもこいつは今、俺の配下が管理していた筈だが?」
大魔王ヌーは冷静な口調だが、内心怒りがこもっているのが容易に見て取れるのだった。そんなヌーの言葉を聞いていたミラが言葉を遮るように口を開いた。
「だから事情は後で説明すると言っただろう? お前の部下の命を奪うような真似はしてはいない。
少しばかり気を失ってもらっている内に、こいつを運び込んだだけ……っ!?」
ミラが最後まで話す前にヌーが一気に『魔力』を上昇させた。そして『金色のオーラ』が、ヌーの周囲に纏われ始める。
「調子に乗るなよミラ。あの化け物を倒す算段があるというからお前と同盟を結んではいるが、俺のモノを勝手に盗む事まで許可した覚えは無い」
現在の大魔王フルーフの所有者はヌーであり、ありとあらゆる新魔法を創り出させては、ヌーは自分のモノにしていた。
既にいくつかの魔法は実戦レベルでの起用も可能にしており、ヌーは更に過去にフルーフに作らせた複数の魔法も覚えている最中であった。
そしてその魔法を覚えるのに必死だった為に、こうして配下に預けていたフルーフを奪われていた事を知らなかったヌーはミラの勝手な行動に怒りを露にするのだった。
「ヌーよ。もはや『それ』に新魔法を生み出させている余裕は無いのだ」
「何だと?」
『お前も分からないわけじゃないだろう? 前回お前が口にした通りだ。今更『新魔法』を二つ、三つ覚えたところであのソフィを相手に役立ちはしないだろう」
ディアトロスやイリーガルといった『九大魔王』クラスであれば、フルーフを使って新魔法を開発して覚えていく事は、有利に働くのは間違いは無いだろう。
しかし大魔王ソフィが相手では、あまり意味を為さないだろう。ソフィに押し勝てるような『魔力』があれば別であろうが、あの化け物に魔力で勝つ事は容易ではない。
ソフィを倒す可能性があるとすれば、魔族に特化した特攻効果のある『神聖魔法』や『時魔法』になるだろうが、その『時魔法』は『魔神』を召喚された時点で無意味になるだろうし、神聖魔法を使うにしても現時点のミラより強い神聖魔法の使い手。あの『エルシス』でさえソフィには勝つことが出来なかったのだ。
そんなエルシスにも劣る彼の『神聖魔法』では、ソフィに勝てるとは思えない。詰まるところ正攻法で大魔王ソフィに勝てる方法など、現時点では存在しないのだ。
ソフィを別世界へと跳ばす事で出来た猶予を使い『アレルバレル』のNo.2に登りつめた大魔王ヌーと手を組んだ上で『フルーフ』を有効活用して、新魔法を次々と生み出させながら『煌聖の教団』と共に力を蓄えて万全の体制を整えて、ソフィに勝てると判断した時に襲撃を仕掛けるという『当初の計画』通りに、事が進んでいるのであればこんな強引な手をミラは取らなかっただろう。
しかし現実は『化け物』がアレルバレルの世界へと、いつでも戻ってこられるようになってしまった。
更には奴の配下達を始末して魔王軍のほとんどの幹部達を別世界へと跳ばした事が、明確にバレてしまった。
あの化け物は『煌聖の教団』を許す事は無く『確実』に始末しようとする筈である。
ミラにとってはもう一刻の猶予も残されてはいないのである。数百年から数千年もの期間を掛けながら、安全性を保持したままの計画はすでに破綻し、現時点でも可能性のある方法を選択しなければ自分達の未来は無い。
ここは是が非でもヌーには納得してもらう必要があり、フルーフの所有権を得てミラは『力』を手にしなければならないのであった。
「貴様の計画とやらであの『化け物』に勝てる確率はどれくらいだ?」
どうやらヌーもこのままでは、どうしようもないと考えていたのだろう。それならば少なくとも策のない自分よりは、何かしら計画を持っているらしいミラに託した方がいいだろうと、差し迫った焦燥感の中で遺憾ながらも仕方なく判断したヌーは、その計画の成功率の程を確かめようとするのだった。
その言葉を引き出したミラは、ニヤリと笑いながら確率を口にする。
「確実に勝てる確率までの算出は難しいが……」
――『私が魔神の力を得る事が出来れば敗北は限りなく、ゼロに近くなるだろう』。
……
……
……
どうやら神殿内の『結界』は『神聖魔法』特有の結界が施されているようで、魔族にのみ甚大な効力を発揮する結界のようであった。そして大魔王領域最上位に位置するヌーであっても、かなり影響を及ぼす程の結界の効力が漂っているようである。
「大層な結界を張っているが、こんなものが必要になる程の物がここに何かあるのか?」
先頭を歩いていくミラに、ヌーはぶつけるように言葉を投げかける。
「ああ、そうだな。今の私たちにとっては一番必要なものが、ここにはある」
「……」
二人の会話はそこで一度終わり、神殿の中を歩いていく。そしてある扉の前で、ミラは立ち止まった。
「お前がこの中にあるモノを見れば驚くかもしれないが、事情は後で説明するから騒ぐなよ」
ミラはヌーにそう告げると扉をゆっくりと開け放った。扉が開かれて中の重々しい空気が外へと漏れ始める。そして神殿内で一際結界の魔力が濃い部屋の中央には、何とヌーが管理していた筈の存在がそこには居た。
――大魔王『フルーフ』が虚ろな目をしながら、手足を封じられた状態で鎮座させられているのだった。
「どういう事だ? こいつの所有権は俺にある筈では無かったのか? そもそもこいつは今、俺の配下が管理していた筈だが?」
大魔王ヌーは冷静な口調だが、内心怒りがこもっているのが容易に見て取れるのだった。そんなヌーの言葉を聞いていたミラが言葉を遮るように口を開いた。
「だから事情は後で説明すると言っただろう? お前の部下の命を奪うような真似はしてはいない。
少しばかり気を失ってもらっている内に、こいつを運び込んだだけ……っ!?」
ミラが最後まで話す前にヌーが一気に『魔力』を上昇させた。そして『金色のオーラ』が、ヌーの周囲に纏われ始める。
「調子に乗るなよミラ。あの化け物を倒す算段があるというからお前と同盟を結んではいるが、俺のモノを勝手に盗む事まで許可した覚えは無い」
現在の大魔王フルーフの所有者はヌーであり、ありとあらゆる新魔法を創り出させては、ヌーは自分のモノにしていた。
既にいくつかの魔法は実戦レベルでの起用も可能にしており、ヌーは更に過去にフルーフに作らせた複数の魔法も覚えている最中であった。
そしてその魔法を覚えるのに必死だった為に、こうして配下に預けていたフルーフを奪われていた事を知らなかったヌーはミラの勝手な行動に怒りを露にするのだった。
「ヌーよ。もはや『それ』に新魔法を生み出させている余裕は無いのだ」
「何だと?」
『お前も分からないわけじゃないだろう? 前回お前が口にした通りだ。今更『新魔法』を二つ、三つ覚えたところであのソフィを相手に役立ちはしないだろう」
ディアトロスやイリーガルといった『九大魔王』クラスであれば、フルーフを使って新魔法を開発して覚えていく事は、有利に働くのは間違いは無いだろう。
しかし大魔王ソフィが相手では、あまり意味を為さないだろう。ソフィに押し勝てるような『魔力』があれば別であろうが、あの化け物に魔力で勝つ事は容易ではない。
ソフィを倒す可能性があるとすれば、魔族に特化した特攻効果のある『神聖魔法』や『時魔法』になるだろうが、その『時魔法』は『魔神』を召喚された時点で無意味になるだろうし、神聖魔法を使うにしても現時点のミラより強い神聖魔法の使い手。あの『エルシス』でさえソフィには勝つことが出来なかったのだ。
そんなエルシスにも劣る彼の『神聖魔法』では、ソフィに勝てるとは思えない。詰まるところ正攻法で大魔王ソフィに勝てる方法など、現時点では存在しないのだ。
ソフィを別世界へと跳ばす事で出来た猶予を使い『アレルバレル』のNo.2に登りつめた大魔王ヌーと手を組んだ上で『フルーフ』を有効活用して、新魔法を次々と生み出させながら『煌聖の教団』と共に力を蓄えて万全の体制を整えて、ソフィに勝てると判断した時に襲撃を仕掛けるという『当初の計画』通りに、事が進んでいるのであればこんな強引な手をミラは取らなかっただろう。
しかし現実は『化け物』がアレルバレルの世界へと、いつでも戻ってこられるようになってしまった。
更には奴の配下達を始末して魔王軍のほとんどの幹部達を別世界へと跳ばした事が、明確にバレてしまった。
あの化け物は『煌聖の教団』を許す事は無く『確実』に始末しようとする筈である。
ミラにとってはもう一刻の猶予も残されてはいないのである。数百年から数千年もの期間を掛けながら、安全性を保持したままの計画はすでに破綻し、現時点でも可能性のある方法を選択しなければ自分達の未来は無い。
ここは是が非でもヌーには納得してもらう必要があり、フルーフの所有権を得てミラは『力』を手にしなければならないのであった。
「貴様の計画とやらであの『化け物』に勝てる確率はどれくらいだ?」
どうやらヌーもこのままでは、どうしようもないと考えていたのだろう。それならば少なくとも策のない自分よりは、何かしら計画を持っているらしいミラに託した方がいいだろうと、差し迫った焦燥感の中で遺憾ながらも仕方なく判断したヌーは、その計画の成功率の程を確かめようとするのだった。
その言葉を引き出したミラは、ニヤリと笑いながら確率を口にする。
「確実に勝てる確率までの算出は難しいが……」
――『私が魔神の力を得る事が出来れば敗北は限りなく、ゼロに近くなるだろう』。
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