最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第538話 露店の盛んな町

 グランの門番たちに門を開けてもらい、ソフィ達はようやく見慣れたグランの町の風景を目の当たりにする。

「おお……! 中はあまり変わっておらぬな。しかし人が増えたか?」

 森の方からグランの町に入ったソフィ達だが、こちら側からみても昔に比べて行き交う人々が、ソフィ達の居た頃よりも多くなっているように感じられた。

 そして『グランの名物』ともいえる膨大な数の露店が立ち並んでいた。人が二人分通れる通路を挟んで左右に露店があるのだが、ここから中央にある冒険者ギルドの場所までずらりと並んでいるのである。

 ソフィとリーネは横並びに露店の間を進んでいく。元々ここに住んでいたリーネは感慨深いものがあるのか、商品棚を見るというよりは見知った商人が居ないかどうかを見るように、露店主の顔を見ているようだった。

「お、おい! ソフィ、ソフィじゃないか?」

 そこへレグランの実がないかを探していたソフィに見知った者から声が掛けられるのだった。

「……む? おお! 『』ではないか!」

 ソフィに声を掛けてきたのは、いつもソフィに『レグランの実』を売っていたあの露店主おやじだった。

「久しぶりじゃないか! お前いつ戻ってきたんだ? 会いたかったぞ!」

「うむ。先程こっちについたところだ。おやじも元気だったか?」

 矢継ぎ早におやじに話しかけられるソフィだったが、やはりソフィも会いたいと思っていたのだろう。嬉しそうにおやじに言葉を返しながら笑みを浮かべる。ソフィのその様子に横で二人の会話を聞くリーネも嬉しそうに微笑むのだった。

「かーっ! お前さんが来るってわかってたらもっと『レグランの実』を仕入れておいてやったのによ! 今はこれだけしかねぇが、ほらっ! もってけ!」

 そう言って露店主のおやじは、ソフィに一山の『レグランの実』を差し出すのだった。

「おお! すまぬな! 早速一つもらってもよいか?」

「ああ、それはもうお前にやるから。好きなだけ食え食え」

 顔を綻ばせながらソフィは、レグランの実を小さな口で頬張るのだった。

 ソフィがレグランの実を食べる姿を頷きながら見ていたおやじだったが、そこでずっとソフィの様子を見ていたリーネに話しかける。

「リーネちゃんも久しぶりだな。ソフィと一緒に大陸を渡ったと聞いていたが、今はソフィとでも暮らしているのか?」

 おやじはニヤニヤと笑いながらリーネにそう言ってくる。リーネはおやじがからかっているのだと直ぐに気づき、薄く笑いながら口を開いた。

「お久しぶりね。露店のおじさん? ソフィはもう私の旦那様だから、当然一緒の屋敷に住んでいるわよ?」

「え?」

 おやじはきょとんとした表情を浮かべていたが、レグランの実を食べ続けているソフィに視線を移した。

「……む? どうしたおやじ」

「お、おい! ソフィ。嬢ちゃんの言葉は本当なのか?」

「ん? 一緒に暮らしているという話か?」

「あ、ああ。それにお前が旦那って……」

「ああ、リーネは我が娶ったぞ」

 堂々と言い放つソフィに再びおやじは目を丸くするのだった。

「娶ったってお前。お前まだ10歳くらいだって言ってただろう?」

 ソフィは何を言っているのかと思ったが、そういえばここに来た時に『おやじ』に冒険者ギルドに加入する試験の話を聞いた時に年齢を言っていなかったかと思い直して、今更説明するのもおかしいかと、黙ったままにする事にした。

「それがどうかしたのか?」

「いや、どうかしたかって。お前……」

 露店のおやじはソフィを心配して色々と考え始める。
 普通であれば子供の戯言だと本気にするわけもないが、このソフィは普通の子供ではない。

 あの『勲章ランクA』の中でも最強と名高い剣士『リディア』を倒した程の実力を持っていて『ヴェルマー』大陸の魔族達からこの大陸を救った英雄である。

 更に言えばその魔族が犇めく『ヴェルマー』大陸の中にあるなのである。そして噂によればソフィはこの大陸の『ケビン』王国と『ルードリヒ』王国のどちらとも同盟関係にあると聞いたことがある。

 経済的に何も問題は無く、大陸間を挟んだ他国とも良好な関係を確立している。それに王族ともなればソフィ程の年齢であっても、婚約関係はおかしくはないのかもしれない。

(あれ? 何も問題はないのか? いや、し、しかし……)

 露店のおやじはソフィに現実の厳しさを教えようと考えたが、色々と説教の材料が頭に浮かんでは消えていく。結局おやじがついて出た言葉は――。

「ほ、本当にソフィは、?」

 おやじから出て来た言葉は、結局そんな当たり前の言葉だった――。

「ああ、当然だ。リーネには

 ――断言であった。
 それが当然であるかのように、何の迷いもなくソフィは断言する。

 一時の気の迷いや、子供が簡単に決めた約束を口にするのとは違う。ソフィの今の言葉を聞いた者は、誰であっても信じさせられる程の『』があった。

「そ、そうか……。お前が言うなら、確かに心配はないな」

 自分の子供くらいの年齢のソフィだが、もう露店のおやじはソフィを子ども扱いなど出来なかった。まるで自分よりも遥か年上でこの世の全てを知り尽くしているような、妙な説得力を持った老人に見えてしまったからである。

 実際にはソフィは『露店商おやじ』よりも遥かに年上で、こんな子供の見た目になっていなければ、そもそも最初から子ども扱いはされなかっただろうが、ようやくこの見た目であっても『露店商おやじ』はソフィの存在感を理解したようである。

「よ、よし……! そうと分かればお前さん達には、良い物をやろう!」

 露店商おやじはそう言うと、自分の荷物に手を伸ばして何かを探し始めた。

「お! あったあった。ソフィ手を出せ」

 何やら自分の荷物を調べていたおやじは、何かを手に持ってソフィに渡そうとするのだった。

 ……
 ……
 ……

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