最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第512話 常識が通じない男

 特別室の扉をノックした後に入ってきたのは、この国の王である『シチョウ』と、その後ろからもう一人。髪を後ろで一つに束ねて剣を腰に差した女性が入ってくるのだった。

「皆、忙しい中よく来てくれた。感謝する」

 シチョウ王はそう言って取り繕うような真似は一切せず、中に居る者達に笑みを向ける。 

 公の場というわけでも無い為、シチョウは気軽に接しているときのような表情で礼を言うのだった。単なる同盟国とは違い、三大魔国の結束は固く、前回の戦争時も三国が協力して乗り越えてきた。そんな彼はソフィやシス達を戦友であり、頼り頼られる仲間だと思っているからこその一言だった。

「国の復興と闘技場の開催おめでとう!」

「見事な復興みせてもらったぞ。流石は『シチョウ』王だな。おめでとう!」

 ソフィとシスは同時にシチョウに復興を祝う言葉を贈る。
 嬉しそうに頷くシチョウにソフィは言葉を重ねる。

「シチョウよ『闘技場』開催初日にこちらの無理を聞いてもらって悪かった」

 本来であれば『勲章ランク』に分かれた大会が行われる予定だったのだが、ソフィがシチョウに無理を言って『リディア』と『ラルフ』のエキシビションマッチをねじ込んでもらったのだった。

「これくらい何という事はないさ。こちらもまた、楽しませてもらうつもりだしな」

「すまぬな。そう言ってもらえると助かる」

「……そうだソフィ。いい機会だからな、こいつを紹介しておこう」

 そう言ってシチョウは、隣に居た女性に前に出るようにと視線を送る。

「こいつは最近この国のNo.2となった『アイゲン・リジョア・フィクス』だ。
 シチョウの紹介と共に、アイゲンと名乗った女性はソフィ達に頭を下げる。

「……まだまだ若輩の身ですが、シチョウ様を支える気持ちは誰にも負けないつもりです。ソフィ様、シス様。宜しくお願い致します!」

 ソフィやシスは『アイゲン』と名乗る若い魔族に頷きを向けて声を掛ける。
 そして静かにソフィ達の会話を聞いていた『レルバノン』や『ユファ』も視線を『アイゲン』に送る。

 アイゲンがトウジン魔国のNo.2と名乗るのであれば、ラルグ魔国とレイズ魔国で同じくNo.2である『レルバノン』や『ユファ』とは、今後色々と顔を合わせる機会があるだろうと考えるのだった。

 アイゲンの紹介が終わって各国の王への挨拶を終えたシチョウは、闘技場のリングを見渡し始める。

「それでソフィよ。今回は唐突な話だったが、そろそろ説明してもらってもいいか?」

「ああ、うむ!」

 シチョウはソフィに声を掛けて、隣の席へ座らせて話を聞き始めるのだった。

 ……
 ……
 ……

「しっかしあれだな。凄い盛況ぶりだなオイ……」

 受付でもらった自分の指定された観客席の書かれた、数字を見ながらレキは自分の席を探す。
 普段であれば闘技場の観戦受付さえ済ませれば自由に入り観戦できるのだが、今日は再開初日だという事もあり、混乱を未然に防ぐ為に受付で席を予約してから入り、用意された自分の席へ座る決まりとなっているのだった。

「確かこの辺のはずなんだが、おっと!」

 椅子の後ろに大きく書かれた数字を見ようとしていたレキは、必死に手元の紙と見比べていた為、こちらに向かって歩いてきた、背の高いスキンヘッドの男に不注意でぶつかってしまうのだった。

「わりぃわりぃ、自分の席を探してたもんでよ?」

 素直に謝罪をしようとしたレキが最後まで言う前に、男は苛立ち交じりにレキに怒号を発してきた。

「てめぇっ! 喧嘩売ってんのか!」

 スキンヘッドの男は、レキのサイズの合っていない服の胸倉を掴み上げる。

「ああ? オイオイ……。だから俺が謝ろうとしてるところだろうが、それをお前が勝手にキレてんじゃねぇよ」

「何だと!? お前がぶつかってきたせいだろうが! だっせぇ服きやがってよ! 舐めてんのかコラァ!」

「この服はダサイのか?」

「そもそも何でそんなサイズの合ってない服きてんだよ、お前馬鹿なんじゃねえのか!?」

「あー。サイズが合ってねぇのは仕方ねぇんだよ」

 そしてレキは自分の服とスキンヘッドの男の服を見比べた後に、レキはその男に手を伸ばした。

 ――次の瞬間。
 怒号と罵声を浴びせてきた、男の首が吹き飛んだ。

「ははっ! こうやって新しい服を手に入れてるからよ。サイズとか分かんねぇんだよな! しかしダセェなら変えとくか、お前の服はダサくなけりゃいいんだけどな?」

 レキは目の前の首が無くなった男の服に手を掛けて、平然とそのなくなった首の部分を通しながら、スキンヘッドの着ていた血まみれの服を奪って自分の服を着替え始めるのだった。

 周囲に居た者達は、レキのあまりの理解出来ない行動を見て、驚きで声が出せなかった。

 ――しかし誰かが声をあげれば、すぐに伝播して騒ぎになるだろう。
 レキは着替えを終えた後に周りに居る者達に『金色の目ゴールド・アイ』を使って『自分は何も見なかった』という感覚を植え付けるのだった。

「こいつはこのままオブジェとして置いといてもいいが、後からくる奴らが見たらまーたうるせぇだろうからな。面倒だが消しておくか」

 そう言って首とシャツが無くなった男を空間から、永遠に『除外』するのだった。

「ふふっ! しかし今度の服もサイズが合ってるとは言えねぇな。この身体の持ち主は相当身長が高かったんだなぁ? こいつが魔族だったら別にこいつの身体と取り換えっこしてもいいんだけどな。ゴミ屑みたいな人間の身体よりは、まだこっちの身体の方がマシだろ」

 ――、新しく着替えた服を手で触りながら『代替身体だいたいしんたい』を早く変えたいと考えながら、虚ろな目を浮かべた人間を操って椅子の背もたれ代わりにして闘技場のリングの方に視線を移すレキであった。

 ……
 ……
 ……

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