最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第510話 近づく目標との戦い

 闘技場の前でソフィ達がレキと話をしている頃。シティアスの辺境付近で『ユファ』と『ラルフ』が戦っていた。

 エルシスのおかげでラルフの魔力回路は広がり『妖精の施翼フェイサー』を一回だけ使える程の魔力を貯めて置けるようになった為に、早速ユファに教わっていた『妖精の施翼フェイサー』を使って戦闘で『速度』上昇の効力を馴染ませているのだった。

 ラルフは『』の練度が2.5を越えて、更に『妖精の施翼フェイサー』で速度が一気に向上することに成功した。の時の名残もあり、初動となる最初の一撃は恐るべき『速度』の領域に達した。

 滑らかに手足を扱いながら、両手で別々の箇所の相手の急所を狙う為に『』を纏っているユファであっても得意の魔法を使わなければ不利に陥る程まで、ラルフは力をつけてきていた。

「ここまでね、よくやったわ」

 そして『ユファ』は合格点に十分達したと判断して、試合を止めるのだった。

「ありがとうございました」

 ラルフは纏っていた『』を解除して、師であるユファに頭を下げた。

「いい? リディアはきっと最初は貴方の様子を見ようとしてくるでしょう。その隙を狙って勝負を決めるつもりで最初から一気に『妖精の施翼フェイサー』を使って、全力でぶつかりなさい? そこで勝負が決まらなくてもかなり有利な展開へ持っていける筈よ」

「分かりました。では相手の機動力を潰す為に、足を狙い確実に潰します」

 今のラルフの速度を持ってすれば、殺し屋時代に培った急所を突くテクニックは十分に脅威だろう。今回ではまだラルフは、リディアには勝てるというところまでは行けないかもしれないが、それでもかなりの飛躍に繋がっている事は疑いようがない。

 ――ユファはそんな弟子を信じて送り出すだけである。

「その意気よ! 頑張ってきなさい!」

 ユファはガッツポーズをラルフに見せて、ウインクするのだった。

 ラルフは頷いて再び『魔力』を魔力回路に注ぎ始める。
 まだ闘技場が開かれるまで時間は十分にあるだろう。今の内に使った分『魔力』を『魔力回路』に貯め直すのだった。

 【種族:人間 名前:ラルフ・アンデルセン 年齢:23歳 状態:通常
 魔力値:22万 戦力値:1億1700万 所属:大魔王ソフィの直属の配下】。

 ↓
 【種族:人間 名前:ラルフ・アンデルセン 年齢:23歳 状態:青
 魔力値:55万 戦力値:2億9250万 所属:大魔王ソフィの直属の配下】。

 ……
 ……
 ……

 『トウジン』魔国にある宿の一室。がちゃりと音を立てて一人の男が入ってくる。
 同室のベッドで横になっていたリディアは身体を起こして、入ってきた男を睨みながら口を開いた。

「おいレキ! 貴様、何処へ行っていた?」

「ちっ! 起きていたか」

 レキはリディアが研鑽を終えて宿に戻り、泥のように眠るのを確認した後に出て行ったのだが、戻ってみるとすでに起きていたリディアに、詰め寄られてしまうのだった。
 すでに魔力感知か何かで何処へ居たかを知られているだろうと判断したレキは、素直に白状するのだった。

「『闘技場』の様子を見に来ていた、お前のご執心の魔族を観察してきたんだよ」

 レキの言葉にリディアは立ち上がる。

「てめぇ……! アイツに手を出しやがったのか? 斬るぞ貴様……!」

 普段であればここまで感情を表に出さない男が、あの魔族の事になるとここまでの反応を見せる。レキはそれを歪んだ目で観察しながら心の中で嗤う。

「見てきただけだと行っただろう? 少しばかり会話をしたくらいだ」

 実際は『使、ソフィとやらの反応を見たのだが、その事をわざわざ言う必要はないと『レキ』はうそぶくのだった。

「まぁいい……。今度勝手な真似をしたら、お前であっても斬るからな」

 そう言い残してリディアは扉を荒々しく開けたかと思うと、そのままレキには一瞥もくれずに部屋を出て行った。

「クカカカッ! 全く、俺を前にして大した人間だぜ。

 かつてこの世界を支配した事のある男はそう言って、もう一つの自分が使うベッドに倒れ込むのだった。

(……しかしあのソフィという魔族は確かに強いな。こんなの身体で勝てる相手ではないようだ)

 ソフィという大魔王だけではなく、その周りに居た『老いぼれ』や『小娘』もそこそこに強かった。特に小娘の方は今後の伸び代は相当なものであった。

 もしかすると『レキ』が率いていたよりも強くなれるかもしれない。リディアの『別世界』からやってきたとかいう眉唾話を信じるつもりはなかったが、あれ程の者達を目の当たりにすれば信じる他にないとレキは考えさせられるのだった。

「楽しみにはなってきたな」

 邪悪な笑みを浮かべながら、次の『代替身体だいたいしんたい』を考えるであった。

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