最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第501話 暗雲
ラルグの塔の最上階に『キーリ』は玉座に座るソフィに呼び出された。
「来たか、キーリよ」
「ああ、どうしたんだ一体?」
「お主に一応、伝えておかねばならぬ事があってな」
「あ! もしかしてあの事かな!」
キーリはここに来る前に『レア』に聞かされていた事を思い出す。
「へへっ、分かってるぜ! リーネと結婚するんだってなソフィ様! 本当におめでとう!」
「な、何? まだ誰にもその事は知らせてはおらぬ筈だ。何故お主が知っておるのだ?」
ソフィは話そうとしていた内容が、飛んでしまう程のキーリの言葉に驚き顔を浮かべた。
「え!?」
屋敷に住んでいる者なら誰でも知っている話だったので、既にソフィが公言していたと思ったが、そうではなかったようで、キーリはやっちまった、という表情を浮かべてソフィの顔を見る。
「あ、いや、そ、それは……。そ、ソフィ様はリーネと仲がいいだろう? もしかしたらそろそろそういう話が出てもおかしくないかなって思ったんだよ! さ、最初に俺に話してくれたのかとばっかり思ってさ……、は、ははは!」
キーリは慌てて早口で捲し立てるようにして、必死に誤魔化すのだった。
「そ、そうなのか? お主もなかなか鋭いところがあるのだな。リーネとの事は『組織』の事が落ち着いた後にゆっくりと皆に話そうと思ったのだが」
「あ、ああ……! そ、その時はまた改めて祝わせてもらうぜ!」
キーリがそう言うとソフィは嬉しそうにお礼を言っていた。
「そ、それでソフィ様。一体俺に何を話したかったんだ?」
「うむ、そうであったな。先日お主に『トウジン』魔国にある『闘技場』の復興の事を教えてもらっただろう? あの後に『ラルフ』と二人で向かったところに、リディアの奴と闘技場施設の前であったのだがな?」
キーリはリディアと言われて、一体誰の事だったっけと考え始めた。
そして闘技場の出場選手で覚えている顔を考えて、ようやくそこでユファと戦っていた人間の事だと思い出すのだった。
「ああ! あのユファと戦った人間の剣士の事か……!」
「うむ。奴はその頃より更に強くなっていたぞ」
ソフィもリディアの姿を思い浮かべながら、再び感心するように頷く。相当にリディアという人間に関心を持っているんだなぁとばかりに、キーリは自分の主の顔を見ながら思うのだった。
「そこで少しいざこざがあってな。そこでリディアはお主と戦いたいと奴が言ってきたのだ」
「へ? 俺と? 何でまた俺なんだ?」
リディアという人間とは面識すらなく、当然会話も交わしたことは無い。キーリは何故自分が指名されたのか、皆目見当がつかなかった。
「どうやらリディアは、この『リラリオ』の世界を管理していた『龍族の王』。つまりお主と直に戦って、自分の強さを明確にしたいと思ったようだぞ」
「ふーむ、成程ね。どこかで俺がこの世界の支配者だったという事を聞きつけたってわけか」
「うむ。そういう事だろうな。後はまぁ闘技場で上のランクのボスとしてお主が君臨していたからという理由かもしれぬし、お主の言うような理由だったのかもしれぬな」
実際は過去に『リディア』が『トウジン』付近にいた事で、ヴァルテンと戦っていたキーリを見て、関心を示したというのが一番の理由であったのだが、それは二人には知る由も無かった。
「それで俺にこの話をするってことは、ソフィ様は俺にアイツと戦えっていう事なのか?」
「それなんだがな。更にややこしい事になっておってな……」
「ややこしい事?」
「我が『キーリ』はそこらの大魔王より強いぞとリディアに告げると、あやつが『今更、魔王と戦ったところで俺の相手にはならん』と言ってな。それを隣で聞いていたラルフが、リディアと戦いたいと、目の前で殺意を剥き出しにして口に出したのだ」
「ラルフが? 何で人間のアイツが?」
「あやつの苛立った理由は、ユファにあると我は思っておる」
ソフィがそこまで言うと、キーリは合点がいったとばかりに苦笑いを浮かべるのだった。
「ああ……。そう言う事かぁ」
――『ユファ』は前回闘技場で『リディア』と戦った。
そのリディアが『今更、魔王程度』と言ったのであれば、ラルフにとっては、匠であるユファに対して『今更眼中にない』と告げられたと勘違いしたのだろうなとばかりに、キーリは想像するのだった。
「我としては『ラルフ』も『リディア』も共に成長していって欲しいと願っておるし、一度はぶつかって欲しいとも思っておる。だから我は奴に条件を突きつけたのだ。この『ラルフ』に勝つことが出来ればキーリと戦わせてやるとな」
「成程な。しかしそれなら言っちゃ悪いが、俺が戦う事になるだろうなぁ」
『ラルフ』も強い部類だとはキーリも思っているが、しかしそれでもあの時点でユファを本気にさせた挙句に『金色のオーラ』を纏った『リディア』を見ているキーリにとっては、ラルフに負けるという未来が見えなかった。
「しかしキーリよ、まだわからぬぞ? 我が何故ラルフを配下にしたと思う?」
「いや、それはアイツに強くなる素質があったから、というのは勿論分かってますよ?」
「うむ。確かにまだ今はリディアには勝てぬかもしれぬ。だが我はラルフがいずれ化ける気がするのだ。それも我の予想を大きく越えてな」
――ただの酔狂で、ソフィはラルフを『配下』にした訳ではない。感じるものがあったからこそ配下にしたのである。
現にラルフは戦力値を着々と上げ続けて、短い期間で魔族の『エルザ』さえ打ち破った実績を持った。ソフィはそんなラルフに、強い期待を抱いているのだった。
「まぁ、何はともあれ、ソフィ様がそう言うなら俺もそれを信じてみるぜ? じゃなかった。信じて見ますぜ? し、信じて見ますよ? いや、違う信じます……よ?」
「クックック……」
敬語になったり素が出たり、言葉遣いにはまだまだブレが見えるキーリだったが、しっかりとソフィの言葉に頷くのだった。
だがソフィは、その四苦八苦する様子のキーリに笑いが堪えきれなかったようである。
「だがキーリよ。もしお主が戦う事になったなら手加減などは一切するでないぞ? 『龍化』はもちろん全力で相手をしてやってくれ」
そう告げるソフィの視線を見た時、ぞくりとキーリは身体に震えが走った。冗談でも何でもなくソフィは言っていると、その視線で理解するキーリであった。
「わ、分かったぜ……、ソフィ様! 遠慮せずに闘技場をぶっ壊すつもりで暴れてみせるぜ!」
「いや、うむ。しかし建物は壊さずとも……。あ、いや、うむ。本気でやるがよいぞ」
復興したての闘技場が粉々に吹き飛んだら『シチョウ』はまた怒るだろうかと考えて、やっぱり少し抑えてもいいと言おうかと悩んだが、やる気になったキーリの目を見て、撤回はしないでおくソフィであった。
闘技場がまた当分の間は使えなくなるかもしれないと、ソフィはそう考えながらも『リディア』と『ラルフ』の成長した姿を戦いを通して、ようやく見る事が出来るかもしれないと期待するのだった。
……
……
……
「来たか、キーリよ」
「ああ、どうしたんだ一体?」
「お主に一応、伝えておかねばならぬ事があってな」
「あ! もしかしてあの事かな!」
キーリはここに来る前に『レア』に聞かされていた事を思い出す。
「へへっ、分かってるぜ! リーネと結婚するんだってなソフィ様! 本当におめでとう!」
「な、何? まだ誰にもその事は知らせてはおらぬ筈だ。何故お主が知っておるのだ?」
ソフィは話そうとしていた内容が、飛んでしまう程のキーリの言葉に驚き顔を浮かべた。
「え!?」
屋敷に住んでいる者なら誰でも知っている話だったので、既にソフィが公言していたと思ったが、そうではなかったようで、キーリはやっちまった、という表情を浮かべてソフィの顔を見る。
「あ、いや、そ、それは……。そ、ソフィ様はリーネと仲がいいだろう? もしかしたらそろそろそういう話が出てもおかしくないかなって思ったんだよ! さ、最初に俺に話してくれたのかとばっかり思ってさ……、は、ははは!」
キーリは慌てて早口で捲し立てるようにして、必死に誤魔化すのだった。
「そ、そうなのか? お主もなかなか鋭いところがあるのだな。リーネとの事は『組織』の事が落ち着いた後にゆっくりと皆に話そうと思ったのだが」
「あ、ああ……! そ、その時はまた改めて祝わせてもらうぜ!」
キーリがそう言うとソフィは嬉しそうにお礼を言っていた。
「そ、それでソフィ様。一体俺に何を話したかったんだ?」
「うむ、そうであったな。先日お主に『トウジン』魔国にある『闘技場』の復興の事を教えてもらっただろう? あの後に『ラルフ』と二人で向かったところに、リディアの奴と闘技場施設の前であったのだがな?」
キーリはリディアと言われて、一体誰の事だったっけと考え始めた。
そして闘技場の出場選手で覚えている顔を考えて、ようやくそこでユファと戦っていた人間の事だと思い出すのだった。
「ああ! あのユファと戦った人間の剣士の事か……!」
「うむ。奴はその頃より更に強くなっていたぞ」
ソフィもリディアの姿を思い浮かべながら、再び感心するように頷く。相当にリディアという人間に関心を持っているんだなぁとばかりに、キーリは自分の主の顔を見ながら思うのだった。
「そこで少しいざこざがあってな。そこでリディアはお主と戦いたいと奴が言ってきたのだ」
「へ? 俺と? 何でまた俺なんだ?」
リディアという人間とは面識すらなく、当然会話も交わしたことは無い。キーリは何故自分が指名されたのか、皆目見当がつかなかった。
「どうやらリディアは、この『リラリオ』の世界を管理していた『龍族の王』。つまりお主と直に戦って、自分の強さを明確にしたいと思ったようだぞ」
「ふーむ、成程ね。どこかで俺がこの世界の支配者だったという事を聞きつけたってわけか」
「うむ。そういう事だろうな。後はまぁ闘技場で上のランクのボスとしてお主が君臨していたからという理由かもしれぬし、お主の言うような理由だったのかもしれぬな」
実際は過去に『リディア』が『トウジン』付近にいた事で、ヴァルテンと戦っていたキーリを見て、関心を示したというのが一番の理由であったのだが、それは二人には知る由も無かった。
「それで俺にこの話をするってことは、ソフィ様は俺にアイツと戦えっていう事なのか?」
「それなんだがな。更にややこしい事になっておってな……」
「ややこしい事?」
「我が『キーリ』はそこらの大魔王より強いぞとリディアに告げると、あやつが『今更、魔王と戦ったところで俺の相手にはならん』と言ってな。それを隣で聞いていたラルフが、リディアと戦いたいと、目の前で殺意を剥き出しにして口に出したのだ」
「ラルフが? 何で人間のアイツが?」
「あやつの苛立った理由は、ユファにあると我は思っておる」
ソフィがそこまで言うと、キーリは合点がいったとばかりに苦笑いを浮かべるのだった。
「ああ……。そう言う事かぁ」
――『ユファ』は前回闘技場で『リディア』と戦った。
そのリディアが『今更、魔王程度』と言ったのであれば、ラルフにとっては、匠であるユファに対して『今更眼中にない』と告げられたと勘違いしたのだろうなとばかりに、キーリは想像するのだった。
「我としては『ラルフ』も『リディア』も共に成長していって欲しいと願っておるし、一度はぶつかって欲しいとも思っておる。だから我は奴に条件を突きつけたのだ。この『ラルフ』に勝つことが出来ればキーリと戦わせてやるとな」
「成程な。しかしそれなら言っちゃ悪いが、俺が戦う事になるだろうなぁ」
『ラルフ』も強い部類だとはキーリも思っているが、しかしそれでもあの時点でユファを本気にさせた挙句に『金色のオーラ』を纏った『リディア』を見ているキーリにとっては、ラルフに負けるという未来が見えなかった。
「しかしキーリよ、まだわからぬぞ? 我が何故ラルフを配下にしたと思う?」
「いや、それはアイツに強くなる素質があったから、というのは勿論分かってますよ?」
「うむ。確かにまだ今はリディアには勝てぬかもしれぬ。だが我はラルフがいずれ化ける気がするのだ。それも我の予想を大きく越えてな」
――ただの酔狂で、ソフィはラルフを『配下』にした訳ではない。感じるものがあったからこそ配下にしたのである。
現にラルフは戦力値を着々と上げ続けて、短い期間で魔族の『エルザ』さえ打ち破った実績を持った。ソフィはそんなラルフに、強い期待を抱いているのだった。
「まぁ、何はともあれ、ソフィ様がそう言うなら俺もそれを信じてみるぜ? じゃなかった。信じて見ますぜ? し、信じて見ますよ? いや、違う信じます……よ?」
「クックック……」
敬語になったり素が出たり、言葉遣いにはまだまだブレが見えるキーリだったが、しっかりとソフィの言葉に頷くのだった。
だがソフィは、その四苦八苦する様子のキーリに笑いが堪えきれなかったようである。
「だがキーリよ。もしお主が戦う事になったなら手加減などは一切するでないぞ? 『龍化』はもちろん全力で相手をしてやってくれ」
そう告げるソフィの視線を見た時、ぞくりとキーリは身体に震えが走った。冗談でも何でもなくソフィは言っていると、その視線で理解するキーリであった。
「わ、分かったぜ……、ソフィ様! 遠慮せずに闘技場をぶっ壊すつもりで暴れてみせるぜ!」
「いや、うむ。しかし建物は壊さずとも……。あ、いや、うむ。本気でやるがよいぞ」
復興したての闘技場が粉々に吹き飛んだら『シチョウ』はまた怒るだろうかと考えて、やっぱり少し抑えてもいいと言おうかと悩んだが、やる気になったキーリの目を見て、撤回はしないでおくソフィであった。
闘技場がまた当分の間は使えなくなるかもしれないと、ソフィはそう考えながらも『リディア』と『ラルフ』の成長した姿を戦いを通して、ようやく見る事が出来るかもしれないと期待するのだった。
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