最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第492話 道理にかなう言葉

 ソフィは『高等移動呪文アポイント』で一度レイズ魔国へ戻り、ラルフを送り届けた後に再びシチョウに会う為に『トウジン』魔国へ戻ってきた。

 そして今は『トウジン』魔国王であるシチョウの屋敷で、シチョウと酒を酌み交わすソフィだった。

「突然来てくれるのはいいのだが、前持って言ってくれなければ何ももてなせんぞ?」

 久しぶりに会ったシチョウは、一介の魔族であった頃と違い国王としての威厳が出てきていた。
 髭を伸ばしたその姿はまるで、ある国のサムライと呼ばれるいで立ちをして、ソフィに苦言を呈していた。

「いやいやすまぬな。別にもてなしてくれぬともよい。少し我の話し相手になって欲しいだけだ」

 シチョウも暇という訳ではないがであるソフィを前にしては、断るという選択肢は浮かばなかった。

「まぁソフィ王がそこまで言うのであれば、いくらでも話くらいは聞くがな」

「シチョウ。お主が我に対して、堅苦しい呼び方をするのはやめよ」

 唐突に無表情になりながらソフィがそう言うと、慌ててシチョウは頷いた。

(王と呼ばれる事に慣れていないのか? 今更だと思うが……。いや、そうではなく何か抵抗があるのか?)

 シチョウが頷いた事でソフィは、ようやくいつもの笑みを浮かべる。

「シチョウよ、お主は人間をどう思う?」

「は?」

 どういう話題をソフィが出すのかと考えていたシチョウは、その予想外の言葉に素っ頓狂な声をあげた。

「人間は我ら魔族と違い寿命が短い。しかしその短さで寿命の長い魔族よりも、時には成長を見せるのだ。我はそれが不思議でならぬと思ってな」

 どうやらソフィは人間の成長の早さに驚いているのだろうと理解したシチョウは、静かにソフィの言葉に返答を出す。

「それはなのではないか? 魔族は寿命に余裕があるが、人間にはその余裕がない。だからこそだろう?』

「それが成長に繋がっておるという事か」

「そう言う事だと俺は思う。但し誰もが必死になって結果を残そうとするとは限らないがな。俺が思うにはそういったをする必要性があるを定めたからこそ、に繋がっているのだろうな」

 シチョウの言葉に重みを感じたソフィは、目を閉じて今の言葉を反芻させる。

「目標を立てて、結果を残す為に、か」

「努力をする必要が無ければ、人間であろうと魔族であろうと、はしないだろうな」

「それが寿命の短い人間であれば、余計に必死になるという事だな」

「だが、をどこに定めるかは、それぞれ同じ人間だろうと魔族だろうと異なるだろう? 結局のところは本人次第だと俺は思うが、まぁ魔族より人間が強いと感じるのであれば、それはやはり寿命への焦りだろうな」

「クックック、今日お主に会いに来てよかった。お主はやはり我などよりよっぽどを持っておるな」

「何?」

 唐突な言葉にシチョウは訝し気にソフィを見るが、ソフィは大きく頷いたかと思うと屋敷の縁側からゆっくりと立ち上がり、シチョウを見ながら口を開いた。

「シチョウよ。今後も出来れば『ラルグ』魔国や『レイズ』魔国と同盟を続けて行って欲しいのだが、構わぬか?」

「ああ、それはもちろんだ。もう過去のように三大魔国で争うようなことなく、手を取り合ってやっていきたいと俺は思っているし、今後俺が引退して後継者を立てたとしてもこの教えを守らせていこうと思っているよ」

 シチョウの言葉を聞いたは、大満足といった様子で頷いて見せた。

「その言葉が聞けて良かった。我はやはりこのが好きだ」

 そう言ってソフィは小さな体で廊下を歩いていく。

 その後ろ姿を見たシチョウは何故か、このままソフィを見送ればもう二度と会えないような感覚を抱き慌てて後を追いかける。

「ちょ、ちょっと待ってくれよソフィ! お前、このまま何処か行ったりしないよな!?」

 ソフィの肩を強引に掴むようにしてソフィの足を止める。

「当然だろう? 我にはまだまだやり残したことが多く残っておるしな」

 そう言ったソフィは笑みを浮かべていたが、何処か寂しそうな笑顔にシチョウの目に映った。

「そ、そうか」

「おお、そうだ! お主にもう一つ聞きたいことがあったのを思い出したぞ?」

「あ、ああ。何でも聞いてくれよ」

「この街の復興の早さの秘密は、一体何なのだ?」

 全く今までの話と関係ない話になった事で『ソフィ』の表情がいつも通りに戻ったために、どこかシチョウは安心しながら応える。

「ふっ。トウジンは俺を含めた皆が国を想っている。そして国を愛している俺達からすれば、皆で協力する復興作業は『』ということだ」

 誇らしげにそう告げたシチョウの顔を驚いた様子でソフィは見るのだった。

「嬉しさと楽しい気持ちか……」

 ――その時のソフィの表情は、まるで出口の見えない迷路をようやく抜け出せたような、そんな晴れ晴れとした顔だったと、後にシチョウは語るのだった。

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