最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第491話 見違えた姿を見せる剣士と、滾る元殺し屋
キーリの話を聞いたソフィとラルフは、直ぐに闘技場の様子を見に行く事にして『トウジン』魔国へと魔法で向かうのだった。
トウジン魔国の門を守るシチョウの配下にソフィが顔を見せると、嬉しそうな表情を浮かべた門兵は、魔国への門を開けてくれた。
中に通されたソフィ達は、トウジン魔国の復興具合に驚かされる事となった。
「ラルフよ。トウジン魔国に建物を直せる術者をレイズ魔国から派遣したか?」
「いえ、ソフィ様。そんな話は聞いてませんが……」
ソフィ達の目には、レア達との戦争の余波を受けて建物が崩れていた事実などが、一切なかったかの如く完全に元通りの街並に戻っていた。そして闘技場やギルドといったものも外装を見る限り、直ぐに再開可能だと思わせる程であり、これは夢でも見ているのかとソフィ達が感じる程だった。
もう少し闘技場の様子を見ていくかそれともこのまま『シチョウ』に会いに行くか迷うソフィだったが、そんなソフィの元に一人の剣士が近づいてきた。
「ソフィ様」
ラルフは静かに近づいてくる者を見ながらソフィに声を掛ける。
「うむ、分かっておる」
ゆっくりとその剣士は、闘技場の入り口付近に居たソフィの近くまで歩いてきた後、無表情のまま声を掛けてきた。
「久しぶりだな。ソフィ」
ソフィの身体に震えが走った。まさかトウジン魔国の復興具合以上に驚く事は、早々ないだろうなと思った矢先に、その驚きを越える『存在』に出会う事となったのである。
――その剣士の名は『リディア』。
ミールガルド大陸で最強の剣士と呼ばれていた男で、ソフィと直接戦いを交えた事もある人間である。
「……ああ、久しぶりだな。リディアよ」
ソフィの身体に震えが走った理由。それは原石が唐突に研磨されたかの如く、眩い輝きを放っていたからである。魔力や力を開放しなくても分かる。
ソフィの目の前に居る人間は、並々ならぬ努力という言葉では言い表せない程に、確実な成長を果たしていた。そしてそれは嘘偽りなく、堅実な努力の結果であることを同じ努力を積み重ねてきた配下達と同じ匂いを嗅ぎ取った事で、ソフィは正しく理解するのだった。
「ここトウジン魔国で闘技場がそろそろ再開されるという話を聞いてな。我らも一度見ておこうと思って、今日ここに来たのだ」
ソフィが『ラルグ』魔国から『トウジン』魔国まで足を伸ばした理由を話すと、何かを考え始めたリディアだが、視線をソフィに戻すとおもむろに口を開くのだった。
「ソフィ。お前はこの大陸にある大国の王である事は理解している。理解しているが少し俺に時間をくれないか?」
「どういう事だ?」
「闘技場が再開される日に、俺は闘技場に出るつもりだ」
「ふむ?」
「本来であればその後にお前と戦うと言いたいところだが、俺はお前の力量が分からない程馬鹿じゃない。今はまだお前にはどう足掻いても到底勝てないだろう」
「……」
「だからまずはお前の配下となった龍族の王と戦わせろ。そこで俺の今の力をお前に見て欲しい」
それは普段決して他人に見せる事のない、リディアの真剣でとても『必死』な表情だった。
自分より強い者の存在などを一切認めてこなかった男が、唯一人認めたソフィに対して、自分に関心を持たせたい『リディア』の決死の覚悟から呟かれた言葉だったようである。
「クックック。いきなり『キーリ』の奴を指名するとはな。分かっているのか? あやつは我から見ても相当に強い。そこら辺に居る『魔王』とは比べ物にならぬ程の強さだぞ?」
「ふんっ! 今更『魔王』程度など俺の敵にはならんさ」
それは前回リディアが戦った『ユファ』をも含まれているような口調だった為に、隣に立つラルフは周囲に漏れ出る程の殺気をリディアに向けた。
当然その殺気に気づかないリディアではなく――。
「何だ? 俺に殺気を向けて、貴様死にたいのか?」
「ソフィ様。申し訳ありませんが、この男と戦わせて頂けないでしょうか?」
ソフィから見ても中々の練度の『青』をラルフは纏う。
そしてラルフは視線で殺せそうな程の殺気を込めながらリディアを睨んでいた。
色々と考えながらソフィは数秒程黙り込んだ。
やがてソフィは静かに頷くのだった。
「ではリディアよ。闘技場のルールに則り、ラルフを倒して見せよ。その後であれば国の警備に忙しいキーリに声を掛けて貴様と戦わせてやっても構わぬぞ」
現在キーリはあの『ミラ』の組織達の襲撃に備えて『レイズ』魔国の警備の仕事がある為、闘技場に参加はさせないつもりでいたソフィだったが、横に立つラルフと眼前に居るリディアの滾る程の熱量を感じてそう告げるのだった。
「本当か? 言質は取らせてもらったぞ。では龍族の王に、ヨロシク言っておいてくれ」
ラルフの事など最初から眼中にないとばかりに、もうキーリと戦うつもりのリディアはそう告げると、満足そうな表情を浮かべてその場から去って行った。
「すみませんソフィ様。勝手な真似を働いてしまいました」
リディアが去っていく後ろ姿を見ていたラルフだったが、その姿が完全に見えなくなると、表情を元に戻してソフィの方を向き直り頭を下げるのだった。
「む? 何を謝る必要がある。あやつだけではなく、お主も研鑽に時間を費やしている事を我が知らぬとでも思ったか? 構わぬ。存分に戦うがよいぞ?」
「ありがとうございます! それとすみません。これから少しユファ様の元へ向かわせて頂きたいのですが……」
「ああ。もちろん構わぬよ。レイズ魔国の方へ送り届けてやろう。それと当分は我の護衛はいらぬぞ? しっかりとユファの元で稽古をつけてもらってくるのだ」
「あ、ありがとうございます! 絶対にあいつを倒してご覧に入れます」
決意に満ちた目をした自らの配下を頼もしく思いながら、ソフィはその言葉に嬉しそうに頷くのだった。
……
……
……
トウジン魔国の門を守るシチョウの配下にソフィが顔を見せると、嬉しそうな表情を浮かべた門兵は、魔国への門を開けてくれた。
中に通されたソフィ達は、トウジン魔国の復興具合に驚かされる事となった。
「ラルフよ。トウジン魔国に建物を直せる術者をレイズ魔国から派遣したか?」
「いえ、ソフィ様。そんな話は聞いてませんが……」
ソフィ達の目には、レア達との戦争の余波を受けて建物が崩れていた事実などが、一切なかったかの如く完全に元通りの街並に戻っていた。そして闘技場やギルドといったものも外装を見る限り、直ぐに再開可能だと思わせる程であり、これは夢でも見ているのかとソフィ達が感じる程だった。
もう少し闘技場の様子を見ていくかそれともこのまま『シチョウ』に会いに行くか迷うソフィだったが、そんなソフィの元に一人の剣士が近づいてきた。
「ソフィ様」
ラルフは静かに近づいてくる者を見ながらソフィに声を掛ける。
「うむ、分かっておる」
ゆっくりとその剣士は、闘技場の入り口付近に居たソフィの近くまで歩いてきた後、無表情のまま声を掛けてきた。
「久しぶりだな。ソフィ」
ソフィの身体に震えが走った。まさかトウジン魔国の復興具合以上に驚く事は、早々ないだろうなと思った矢先に、その驚きを越える『存在』に出会う事となったのである。
――その剣士の名は『リディア』。
ミールガルド大陸で最強の剣士と呼ばれていた男で、ソフィと直接戦いを交えた事もある人間である。
「……ああ、久しぶりだな。リディアよ」
ソフィの身体に震えが走った理由。それは原石が唐突に研磨されたかの如く、眩い輝きを放っていたからである。魔力や力を開放しなくても分かる。
ソフィの目の前に居る人間は、並々ならぬ努力という言葉では言い表せない程に、確実な成長を果たしていた。そしてそれは嘘偽りなく、堅実な努力の結果であることを同じ努力を積み重ねてきた配下達と同じ匂いを嗅ぎ取った事で、ソフィは正しく理解するのだった。
「ここトウジン魔国で闘技場がそろそろ再開されるという話を聞いてな。我らも一度見ておこうと思って、今日ここに来たのだ」
ソフィが『ラルグ』魔国から『トウジン』魔国まで足を伸ばした理由を話すと、何かを考え始めたリディアだが、視線をソフィに戻すとおもむろに口を開くのだった。
「ソフィ。お前はこの大陸にある大国の王である事は理解している。理解しているが少し俺に時間をくれないか?」
「どういう事だ?」
「闘技場が再開される日に、俺は闘技場に出るつもりだ」
「ふむ?」
「本来であればその後にお前と戦うと言いたいところだが、俺はお前の力量が分からない程馬鹿じゃない。今はまだお前にはどう足掻いても到底勝てないだろう」
「……」
「だからまずはお前の配下となった龍族の王と戦わせろ。そこで俺の今の力をお前に見て欲しい」
それは普段決して他人に見せる事のない、リディアの真剣でとても『必死』な表情だった。
自分より強い者の存在などを一切認めてこなかった男が、唯一人認めたソフィに対して、自分に関心を持たせたい『リディア』の決死の覚悟から呟かれた言葉だったようである。
「クックック。いきなり『キーリ』の奴を指名するとはな。分かっているのか? あやつは我から見ても相当に強い。そこら辺に居る『魔王』とは比べ物にならぬ程の強さだぞ?」
「ふんっ! 今更『魔王』程度など俺の敵にはならんさ」
それは前回リディアが戦った『ユファ』をも含まれているような口調だった為に、隣に立つラルフは周囲に漏れ出る程の殺気をリディアに向けた。
当然その殺気に気づかないリディアではなく――。
「何だ? 俺に殺気を向けて、貴様死にたいのか?」
「ソフィ様。申し訳ありませんが、この男と戦わせて頂けないでしょうか?」
ソフィから見ても中々の練度の『青』をラルフは纏う。
そしてラルフは視線で殺せそうな程の殺気を込めながらリディアを睨んでいた。
色々と考えながらソフィは数秒程黙り込んだ。
やがてソフィは静かに頷くのだった。
「ではリディアよ。闘技場のルールに則り、ラルフを倒して見せよ。その後であれば国の警備に忙しいキーリに声を掛けて貴様と戦わせてやっても構わぬぞ」
現在キーリはあの『ミラ』の組織達の襲撃に備えて『レイズ』魔国の警備の仕事がある為、闘技場に参加はさせないつもりでいたソフィだったが、横に立つラルフと眼前に居るリディアの滾る程の熱量を感じてそう告げるのだった。
「本当か? 言質は取らせてもらったぞ。では龍族の王に、ヨロシク言っておいてくれ」
ラルフの事など最初から眼中にないとばかりに、もうキーリと戦うつもりのリディアはそう告げると、満足そうな表情を浮かべてその場から去って行った。
「すみませんソフィ様。勝手な真似を働いてしまいました」
リディアが去っていく後ろ姿を見ていたラルフだったが、その姿が完全に見えなくなると、表情を元に戻してソフィの方を向き直り頭を下げるのだった。
「む? 何を謝る必要がある。あやつだけではなく、お主も研鑽に時間を費やしている事を我が知らぬとでも思ったか? 構わぬ。存分に戦うがよいぞ?」
「ありがとうございます! それとすみません。これから少しユファ様の元へ向かわせて頂きたいのですが……」
「ああ。もちろん構わぬよ。レイズ魔国の方へ送り届けてやろう。それと当分は我の護衛はいらぬぞ? しっかりとユファの元で稽古をつけてもらってくるのだ」
「あ、ありがとうございます! 絶対にあいつを倒してご覧に入れます」
決意に満ちた目をした自らの配下を頼もしく思いながら、ソフィはその言葉に嬉しそうに頷くのだった。
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