最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第488話 ユファの悩み

 ラルグの塔の修復作業が終わり、元通りになったという話をユファから聞いたソフィは、ユファと共にラルグの塔へと足を踏み入れた。

「もう少し掛かるかと思ったが、中々に早かったな」

 レアの極大魔法『凶炎エビル・フレイム』によって燃やされてしまい、完全に消し炭になっていたラルグの塔は確かに元々の形を取り戻していた。

 修復の作業は『ラルグ』魔国と同盟を結んでいる『レイズ』魔国の者達に頼んだという事もあり、監査役はユファが行ったようで、ユファも納得のいく様子で塔を見て回っていた。

「ええ。今回は私の配下達に大部分を任せたので少しばかり心配でしたが、よくやってくれたと思います。これならもう建物の修復はギルドを通さなくても『レイズ』魔国の者達だけでも、やっていけるようになるかもしれませんね」

 余程に今回の修復に満足が行ったのだろう。ユファは何度も頷いていた。

「うむ。よくやってくれたな、礼はまた今度改めてさせてもらう」

 ソフィがそう言うと慌ててユファは首を横に振った。

「何を仰いますか! そうでなくとも今回の件はレアがやった事ですからね。修復は同郷の私が責任を持ちますよ。その分

 ぶつぶつと呟き始めたユファに、苦笑いを浮かべながらソフィは相槌を打つ。

「それでシスはもう大丈夫か? 結果としてはシスのおかげでディアトロス達は無事だったわけだしな。我としてはシスにも感謝を伝えておきたいのだが」

「その事で少し相談があるのですが。ソフィ様。この後少しお話に付き合って頂いても宜しいでしょうか?」

 突然ユファが消え入りそうな声と共に、表情を暗くしたのでソフィは眉を寄せる。

「何かあったのか? 長くなりそうならば、一度屋敷に戻るとしようか?」

 ソフィがそう言うとユファはこくりと頷いた為、ラルグの塔の修復加減には問題はないと判断した二人は、ソフィの屋敷に移動を始めるのだった。

 …………

 ソフィの自室に戻ってきた後、ユファをソファーに座らせる。
 ユファは礼を言ってソファーに腰かけると、静かに口を開き始めるのだった。

「実は最近『シス』の様子が少しおかしいのです」

 ユファは心底心配しているとばかりに声を出し始める。

「まさか怪我でもしたのか? 組織の連中からレア達を守って戦ったとは報告を受けてはいるが」

 ディアトロス達から概ね話は聞いていたが、シスが怪我をした云々の話は聞いていなかった為、ソフィはユファの様子から大怪我をしていたのではと心配する声をあげた。

「あ、いえそれは大丈夫なのですが……」

 何か思い詰めた様子であり、ユファはどう話していいか悩んでいる様子であった。

「怪我ではないという事は、シスの中に眠っている『』かな?」

 ソフィがそう言うと、シスは否定も肯定もせず首を傾げる。
 どうやら当たるとも遠からず、といったユファの様子にソフィは、ディアトロスが言っていた『エルシス』が何やら関係しているのではないかと思い始めるのだった。

「確かにあの子の中には、私がやられそうになった時に生まれた人格と言いますか『憎悪』を孕んだ性格のようなものが、時折姿を見せる事は今までも多々あったのですが、実は今回あの子はそれとは別に全く今までになかった性格が、再びあの子の中に生まれたようなのです」

「……新たな性格だと?」

 魔族の中には普段温厚な者が、突然に『魔王の血』に支配されて、別人格が生まれるケースが多々あり、あまり魔族では珍しい事ではないのだが、どうやらユファの様子から顧みるに、また魔族の血とは別なようであった。

「はい『憎悪』という形で本来眠っていた力が、一時的に表に出てきて戸惑う事は、今までもありましたが、今回は完全に私が見てきたあの子の力とは違い、突然降って湧いた力が、あの子の身体を借りて動き始めたように私は感じるのです。そしてあの子もそれを気づいていて、自分とは違うそのに怯えている様子なのです」

「何者かが魔法か何かの類で、シスの身体に憑依しているのではとお主は感じておるのだな?」

 ソフィから憑依という言葉を聞いたユファは、空いていたピースがすっぽりと埋まるように、しっくりときて何度も頷いて見せた。

「そ、そうです! 今までと違う何かが、あの子の身体に憑依したような感じなのです!」

「成程。それならばユファよ、一度シスを連れてきてもらえぬか? 我に少し考えがある」

 ユファは少し考え始めたが、今のシスはもうだいぶ落ち着きを取り戻しているために、大丈夫だろうと判断して頷くのだった。

「分かりました。あの子を一度見てやってください。ソフィ様」

 そう言って頭を下げるユファに、ソフィは頷きを見せるのだった。

 …………

 今日もユファはソフィの屋敷ではなく、シスの元へと帰っていった。
 だいぶ落ち着きを取り戻した様子ではあるが、ユファはまだシスが心配なのだろう。

 ソフィはユファからの相談と先日のディアトロスから聞いたシスの様子を考えて、ある決心をして机の引き出しを開けた。

 ――その中には『』が入っていた。

 魔族の使う『念話テレパシー』と同じ要領でソフィは、札に魔力を込めて語りかけると、すぐに札が光を持ち返事が返ってきた。

(どうした大魔王ソフィ。何か困り事か?)

 札を通して『サイヨウ・サガラ』の声が聴こえ始めた。
 どうやらソフィが札を使った事に気づき、直ぐに応答してくれたのである。

(うむ。すまぬがお主の力を借りたいのだ)

 ソフィが困っていると伝えると、すぐにサイヨウから言葉が返ってくる。

(そうか、分かった。当分の間は小生も予定を空けておこう。お主に時間が出来た時は、いつでも連絡をしてくるがよいぞ)

 サイヨウも忙しいであろうと思ったが、返ってきた言葉はまさに二つ返事であった。

(すまぬなサイヨウ。宜しく頼みたい)

(構わぬ。お主の頼みであれば、小生はいつでも力になると言った筈だ)

 サイヨウとの会話が終わると、札の明滅していた光はやがて音もなく消えた。
 どうやら再びこの札に『魔力』を灯せば何度でも波長を合わせる必要がなく『念話テレパシー』のように連絡が取れるのだろう。

 ソフィはこれは大変優れているものだとばかりに、札を見ながら頷くのだった。

「サイヨウにはいずれ礼をせねばなるまいな」

 ソフィはサイヨウの言葉に、思わず嬉しさから笑みを浮かべるのだった。

 ……
 ……
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