最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第477話 魔神級の大賢者

 ちらりと一瞬だけミラは振り返ってルビリス達を見る。

(……やれやれ、下手に刺激をして攻撃の矛先を変えたくはないのだがな。それにしても流石はエルシスというべきか。完全に今の私が振り回されてしまっている)

 大賢者として『神聖魔法』を熟知して誰よりも使いこなせていると、ミラは考えていたがやはりというべか『神聖魔法』を編み出した張本人を前にすると、自分はまだまだで戦い方一つにしても、改善の余地があるなと思い始めるミラだった。

 すでに百を越える聖者達は互いに数を減らしているが、どちらの陣営にもまだ到達はしておらず、聖者達の戦いは拮抗していると言えた。

 その部分だけを見ればあの伝説の大賢者エルシスを相手にここまでやれているだけで、自分はよくやっていると誇りたくなるところだが、あのシスは自分と同じことを

 そして右手は今もまだ『終焉エンド』の魔法を展開中であった。
 あの『終焉エンド』に費やしている魔力を全て聖者達を生み出す『神聖魔法』に回せば、拮抗している現状があっさりとシス側に傾いてしまうだろう。

 だが、相手が片手だからと言って決して気を抜く事は出来ない。
 『終焉エンド』が発動している最中は、一定の耐魔力を下回った瞬間に魂を抜き取られてしまうのだ。
 あの魔法が発動している限り、大きなダメージを負う事はもちろんの事。調子にのってこちらの『魔法の威力』を高めようとして『魔力』を使いすぎる事も出来ない。
 この領域の戦闘ともなると、戦闘技術と器用さが要求される。まさに高レベルなとなるのであった。

(ルビリス達が九大魔王達にダメージを負わされる万が一を考えて、あの『終焉エンド』の魔法を一度解除させなければならないか……)

 そう考えたミラは行動を開始するのであった。

(……)

 シスはミラの創り出した聖者達を自身の聖者で倒しつつも遠目に映るミラから、一切目を離さず意識を向けていた。

 ――そこである事にシスは気づいた。

 『ことわり』を刻む事も魔法を使うための『発動羅列』さえ、まだミラは行ってはいないが、こちらに気づかせないように『魔力回路』から少しずつ『魔力』を出して『魔法』を使うための魔力を『スタック』させていたのである。

 つまりあの『ミラ』という大賢者が、今からこれまでとは違う行動に出るだろうと『シス』は予測したのであった。
 何を目的として『魔力』の待機場所スタックを作ったのかは分からないが、このままでは埒があかないとミラが考えて、こちらに一石を投じようとしたのだろう。

 ――ならばその先の先を見越して動けば良いだけの事。

 大魔王シスは自らの聖者の背後に周り、ゆっくりとその姿を『ミラ』の位置から確認出来ないようにする。

 そして左手に『魔力』をスタックさせた後に『先制攻撃』に出る。

 『高速転移』を使って一気にミラの頭上まで接近したかと思えば、シスはミラに向けて魔瞳まどうである『金色の目ゴールド・アイ』を放つ。

 ――神聖魔法、『聖光耐滅魔セイント・ブレイク』。

「くっ……!」

 突如頭上に現れたシスが自身に向けて『耐魔力』を削りにきたのだと悟り、自身が使おうとしていた、の場所を変えて『魔法』の発動のキャンセルを行って一気に後方へとバックステップをした直後に向きを変えて『高速転移』でその場から離れるために移動を開始するのだった。

(……あ、危なかった! 少しでも『耐魔力』が一定値を下れば奴の用意している『終焉エンド』で魂を持っていかれてしまう……っ!)

 ミラは『高速転移』を使って回避行動を行っている最中に先程の攻撃の事を考えていたが、まだミラは『シス』の今の見た目に騙されて、人一倍知っている筈の『を過小評価してしまっていた。

 大賢者『エルシス』という存在がひとたび攻撃を始めた時には、すでに二手から三手先を読んで攻撃の準備を終えており、確実に仕留める手筈が整っているという事を――。

 ――神聖魔法、『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』。

 『高速転移』を一度使うと着地点につくまでは、軌道修正をする事が出来ない。
 先程の『聖光耐滅魔セイント・ブレイク』はミラにわざと回避を行わせるための布石であり、その事に気づけなかったミラは完全にシスの誘導に引っかかってしまったのである。

 魔族ではないミラではあるが、シスの『神聖魔法』は人間に対しても多大な効力を発揮する。
 手足そして魔力を僅かコンマ数秒程止められてしまったが、直ぐにミラは『聖動捕縛セイント・キャプティビティ』を解除してみせた。

 『神聖魔法』に精通しているミラは『神聖魔法』に対して、瞬時に対抗できる程に脳内に知識を蓄えている。 しかしそれでも『高速転移』を使わされてしまっている現状では、軌道修正出来ないために大魔王シスの中に居る『エルシス』を相手にするには、その先程の止められた僅かコンマ数秒でさえ、といえるのであった。

 ――完全無防備の状態となってしまったミラに、シスは夥しい数の『発動羅列』を並べ始める。

「!?」

 それは『大賢者』の領域に居るミラでさえ、程の膨大な『発動羅列』の数だった。
 更に『スタック』させている『魔力』は、既に全ての『発動羅列』に組み込まれており、まるで最初からこの場所で確実に仕留めようと決めていたかの如く、いやをなぞっているようであった。

 ――次から次に『神域領域』の『魔法』が『ミラ』に襲い掛かる。
 声をあげる事も出来ない程の痛みと衝撃が、ミラの命を奪うために繰り返し与えられていく。


「……」

 何度目かの『死』の末にようやく動く事が出来たミラは魔瞳である『金色の目ゴールド・アイ』でシスの動きを捉えようと相手の虚をついて放った。

 しかしそのシスは『ミラ』が生き返ることが出来るという事を知らない筈だったというのに、突如として『死』から蘇って相手が気付いていないであろうという瞬間を狙った『ミラ』のでさえ――。

 ――何事もなかったかのように、躱してみせるのであった。

「ば、ばっ、馬鹿な!? なっ、ぜ、躱せっ……っる!?」

 キィイインという音と共に、大魔王シスはをミラに向けた。

 大魔王シスは十字を切る――。

 ――神聖魔法、『聖なる十字架ホーリー・クロス』。

「させませんよぉっ!!」

 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。

 ルビリスは『高速転移』を用いてズタボロにされたミラの前に立った直後に『時魔法タイム・マジック』で『シス』の魔法を次元の彼方へ飛ばして防いだのであった。

 ――そして千載一遇の好機チャンスがミラ達に訪れた。

 シスが『聖なる十字架ホーリー・クロス』を放った事によって出来た大きな隙。
 その正体は『ディレイ硬直』であった――。

 『死』から再び蘇ったミラは、そのシスの隙を見逃す筈もなく、笑みを浮かべながら渾身の魔法を放つ。

「終わりだ、エルシス!!」

 ――神聖魔法、『聖なる十字架ホーリー・クロス』。

 先程のエルシスが放った『神聖魔法』をそっくりそのままお返しとばかりに、ミラはシスに向けて『聖なる十字架ホーリー・クロス』を放つのだった。

 ――しかしそれでも大魔王シスの中に居る『エルシス』を止めるには至らなかった。

 ――神聖魔法、『聖身憑依セイント・アバター』。

 先程のルビリスがリーシャに対して見せた幻影を創り出して、シスの本体の姿がその場から消えたかと思うと、ミラ達の頭上高くに出現して、目下に居る『ルビリス』と『ミラ』をは、彼らの居る中心に向けて準備していた『極大魔法』の『スタック』を解放を行った。

 すでにエルシスの中では、このパターンも可能性として読んでいてその対策も織り込み済みなのであった。更に言えば『ルビリス』が『時魔法』でミラを救うパターンではなく、直接エルシスに対して攻撃を行う可能性までもを考慮して『聖身憑依セイント・アバター』という相手の攻撃を完全回避出来るように『スタック』まで作っていた。

 この『ミラ』と『ルビリス』という存在の起こせるであろう、全通りのパターンを考慮した上で比較的取る行動の可能性の高いモノから順番に潰しにかかっていたのであった――。

 ――神聖魔法、『聖光波動撃セイント・ウェイブ』。

 次元が歪んだかの如くミラ達の視界に映る周囲がブレ始めたかと思うと、自分達の身体が『浄化』の流れに巻き込まれたかのような、何かに吸い込まれるような感覚を味わう。

 そして次の瞬間、流されていく身体に信じられない程の痛みが走った。
 ミラとルビリスの両者が、既に自分が死んだかと思える程の痛みが遠いところに感じられた頃。上空から冷静にシスは、ミラ達を冷たい目で見下ろすのだった。

 ――そして今居る場所より更に上空へと上がっていき、シスは右手に全てを終わらせる程の膨大な『魔力』を集約させる。

 その『魔力』の大きさはこれまでの使用してきていた『神聖魔法』の比ではなかった――。

 ――大魔王シスによって全てを終わらせる魔法。

 先程のミラの張った『大結界』を一瞬で破壊した『終焉エンド』以上の『魔力』が注ぎ込まれた最早『魔神域』と呼べる程の『終焉エンド』であった。

 この規模の『魔神域』の『終焉エンド』はあの大魔王『ソフィ』程ではないが、それでも『魔力コントロール』を少しでも怠れば『魔界全域』に生きる者達の魂を一瞬で抜き取る程である。

 流石の『ミラ』も脂汗を浮かべながら諦観するように、シスの目を見つめる事しか出来なかった――……。

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