最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第474話 二つの魂と、一つの身体

 『アレルバレル』の中央大陸はソフィの魔王城がある場所だが、この大陸には精霊達も多く居る。
 そしてその精霊達の大陸の上空、魔法で生み出された大勢の聖者達が互いの術者に従い、同じ聖者同士で戦いが繰り広げられている。その聖者達を生み出しているのは『神聖魔法』と呼ばれる失われし根源の魔法である。

 二人居る術者の内の一人は『リラリオ』の世界出身の魔族にして、天才と呼ばれた魔族『シス』。シスには『魔』の天才と呼ばれる本来の魔族の魂の他に、もう一つの魂が内側に宿っていた。その魂とはかつて『アレルバレル』の世界で一時代を築き上げた『魔』の天才『エルシス』だった。

 だが、エルシスの魂がシスの身体に滞在しているからといって、人格が変わるという事ではない。

 ここが複雑な点ではあるのだが、山伏『サイヨウ・サガラ』の説法にもあるように『輪廻転生りんねてんせい』により人間であった『エルシス』は、今世の魔族シスとして蘇ったのは確かなのである。

 しかし同時にシスの母親である『』から生を受けた時には、シス本来の魂がすでに宿っていたのである。

 つまり本来のシスの魂と、本来はシスの体に宿る事のなかった『輪廻転生りんねてんせい』を果たしたエルシスの魂が一つの魂として同化してシスの中で滞在しているのである。

 二つの魂が同時に一つの肉体に宿り、同時に表に出る事は出来なかった。
 二つの魂を宿らせたまま生きて行くと、いつかはシスの精神が持たずに自我の崩壊へと誘われる。

 そこでエルシスの魂は因果を曲げるかの如く、自我を芽生えさせる事なく『シス』の内側に眠る事を願った。気絶と言った意識を失う程度では表に出る事はない深い深い精神の奥底。

 深淵と呼ばれる精神の最果ての奥底に『エルシス』は、シスの身体を生かすために、自ら封じ込めたのである。

 元々エリスやセレスのように、『魔』の適正が高い家系に生まれたシスの身体は、当然のように膨大な魔力を持っていたおかげもあり、エルシスの魂はシスの魂と共に滞在することに成功したのである。

 『輪廻転生りんねてんせい』をしたからといってエルシスの魂は、このまま表に出るつもりはなく、シスの生涯を見守るように逝くつもりだった。

 ――しかしある事がきっかけで表に出る筈のなかった『エルシス』の魂は、表に出ざるを得なくなったのである。

 そのきっかけとなった事件で表に出る事が決してないと思われていた、精神の奥底に宿っていたエルシスの魂は表に出る事となった。

 ――その出ざるを得なくなった理由は一つだった。

 シスの精神が崩壊しかけてしまい、魂に大きなダメージを負ってしまった事で、肉体の死を迎えかけてしまったのである。

 その精神の崩壊寸前まで行った原因は、シスの家族同然のとある『魔族ヴェルトマー』が、当時『ラルグ』魔国に所属していた魔族『』によって目の前で切り刻まれてしまった。それもシスを守って『ヴェルトマー』は殺されたのである。

 この事件はシスを狂わせる程の大きなトラウマを生んでしまった。
 シスの魂は無意識に自分の肉体を守るために、精神の深淵に眠るエルシスの魂を追い出して、エルシスの居た深淵に引きこもってしまったのである。

 エルシスの魂は無垢な子供のような状態で外に出される事となったが、それでも長年シスの身体の奥底とはいっても、これまで滞在していたのは間違いではなく、シスの潜在する『魔』の知識を吸収してエルシスの魂はシスの一部として蘇ったのである。

 こうしてシスの中には、本来の優しき『シス』とそのシスに潜在する裏の顔ともいえる『大魔王』。それにプラスされるかの如く『エルシス』の魂が宿る事となった。

 ――全てはシスを守るために。

 レアが判断した通り、シュライダーへの憎悪によって覚醒したシスは『』へと大きく傾き『憎悪』の大魔王となる筈だった。

 しかしそれを止めたのは『』として多くの徳を前世で積んできた『エルシス』の魂だった。

 更に言えば『ユファ』の『代替身体だいたいしんたい』である『ヴェルトマー』が、最後に放った

 ――今では根源魔法とされる『神聖魔法』である『ルート・ポイント』。

 この魔法はその人物が必要とする者の所へ転移する『神聖魔法』であった。
 つまりシスの中に居るエルシスは、ソフィの事だけが前世で悔いとして残っており、そのエルシスの魂にとってもシスの魂にとっても『ルートポイント』が、ソフィの元へ向かわせたのは偶然ではなく必然であり、そして因果によって生まれた運命とも言えるのであった。

 余りにも複雑な因果が絡みつき、まるで運命がそうさせたかの如く『シス』はここに居る。

 そしてそのエルシスの魂はソフィの大事な者達を守るため、彼の願望を叶えられなかった悔いを晴らすために『

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