最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第460話 魔王軍と組織、両参謀の邂逅

 神域領域の魔法にして『時魔法タイム・マジック』系統でもある『概念跳躍アルム・ノーティア』によって、レアは『アレルバレル』の世界から再び『リラリオの世界』へと戻ってきた。

「どうやら無事に戻ってこれたようね。ひとまずシスを待ちましょうか」

 自分の発動の後に直ぐに発動を始めていたシスであれば、もう僅か数秒で戻ってくるだろうとレアは思いその場で待つことにするのだった。

 ……
 ……
 ……

 レアがリラリオへ向かった後、シスは無表情のまま魔法の準備を取りやめた。

「どうしたの? 貴方は帰らないの?」

 レアの後を追って『魔法』で別世界へと向かうだろうと思っていたリーシャは、突然のシスの『魔法』のキャンセルに、訝し気な表情を浮かべて問いかけるのだった。

「……」

 リーシャの言葉に返事をせずに『シス』は、虚ろな目で虚空を見つめていたが、やがてゆっくりと目の焦点があっていき、その視線の先に居る『組織の者達』を見つめていた。

(本当に不思議な女だ。魔族の身でありながら、人間の宿す魔力を感じる……)

 ディアトロスは目の前に居るシスの纏う魔力を『慧眼』で品定めをするように視る。

 しかしそこで上空からの『圧』を感じたディアトロスは、シスから視線を外してその『圧』を放つ正体に目を向けさせられるのだった。

 次の瞬間『精霊』の大陸全域に張っていた『ディアトロス』の『結界』に亀裂が入る音が聞こえたかと思うと、あっさりと破られるのであった。

「け、結界が……!!」

 精霊女王『ミューテリア』がそう呟くと『九大魔王』達は一斉に『金色のオーラ』を纏い始めた。

』や『』といった準戦闘態勢ではなく、彼ら九大魔王達が持つであった。

「リーシャ! 主は『あの若造』の周りに居る者達を掻きまわせ!」

「は、はい! ですけどディアトロス様! まだ『シス』さんがこの場に居るんですけど!?」

 ちらりとリーシャは背後を振り返ると、長い髪で表情がよく見えないシスが嗤っている姿が目に入る。

「そちらは構わぬ。ワシが見ておこう」

 ディアトロスがそう告げると、リーシャは頷きを返した。

 結界が破られて続々と組織の者達が空から降りてくる。

 先程の『別世界』から雑に集めた『分隊』ではなく、今こちらに向かってきている者達は『組織』の総帥である大賢者『ミラ』がの『本隊』であった。

 顔を見せた組織の者達は『人間』や『魔族』といった括りはなかった。大賢者『ミラ』に心酔して崇拝を行い、そして信仰すらする者達である。

 この場に集まった組織の者達の数は総勢『百』を越えていた。一人一人がこの『アレルバレル』の世界でなければ、そのとなれる器を持つ者達であった。

 ディアトロスはそんな者達には目もくれず、一番最後に降りてきた『魔族』を睨みつける。

 ――その魔族の名は『ルビリス』。

 かつてディアトロスを捕縛したである。

「遂にワシの前に姿を見せたか、このが……!!」

 数千年という長い年月を生きてきた『ルビリス』を前にして、その『ルビリス』よりも更に長い年月を生きてきた『ディアトロス』はのであった。

 ……
 ……
 ……

 ディアトロスがちらりとイリーガルに視線を送ると、イリーガルは背に担いでいた大刀を抜き始めて、自身の大刀に『青のオーラ』を纏わせて『創成付与』を行う。

 今の一瞬で『ディアトロス』が、あの『魔族』に向かって攻撃をするつもりなのだと悟り、イリーガルがシスの盾となる準備を行ったのである。

「全く手間を掛けさせてくれますね『智謀ちぼう』。おとなしく牢屋に入っていればいいものを……」

 ディアトロスを異名の二つ名で呼ぶルビリスは、首を左右に振って困ったものだとばかりに手をあげる。

「随分と舐めた真似をしてくれたな『ルビリス』。ワシを敵に回してただで済むと思うなよ?」

 腕を組んでいたディアトロスは、静かに手を降ろしていく。

「もう何千年も貴方達『魔王軍』は、我が物顔でこの世界を牛耳ってきたのですから、そろそろ次の世代へと譲り渡してはくれませんかねぇ?」

「抜かせよ? ただの人間を勇者とやらに仕立て上げて『ソフィ』を外へと追いやった事で、もうお主らは勝ったつもりなのだろうが、まだまだワシらが居るのだ。後悔させてやるぞ」

「ふははは! 全くいつまでこの世界のNo.2でいるおつもりなのですかな? 貴方はあの『』とは違うのだ。たった数千年では大魔王ソフィを追い抜く事は不可能でも、追いつくことなど造作もないのですよ? 大魔王『ディアトロス』殿」

「何じゃと?」

 煽るような言葉でこの『魔界』の支配者『ソフィ』の右腕である、ディアトロスを怒らせる『ルビリス』であった。

「いつまでも強者の態度をとるなと言っているのですよ。一度私に捕われた時点で『格付け』は済んでいるのです。雑魚はさっさと引っ込んでいなさい」

「よかろう。吐いた唾は飲めぬぞ若造!」

 ディアトロスが左手に魔力を集約し始めると、百を越える組織の者達は一斉に行動を開始した。

 ――神域魔法、『終ワラヌ窮愁、生ト死ノ狭間』。

 リーシャやイリーガル。それにこの大陸の味方の者達を省いた『組織』の者達のみに限定して『ディアトロス』の魔法は行使された。

 ディアトロスの魔法で『組織』の魔族達は、次々に苦痛に顔を歪めながらその身を地に伏していく。

 しかしディアトロスは眉を寄せて、自身の放った魔法に納得がいかない表情を浮かべた。

 ディアトロスの放った魔法は『真なる大魔王』領域に居る者達であっても、瞬時に動けなくする程の力を持っている。如何に組織の『本隊』達であっても数十体は確実に仕留められると、ディアトロスは踏んでいたのである。

 ――しかし実際に効果を及ぼした者達の数が、彼の想定よりも余りにも少なかったのである。

「やはりあいつか!」

 そしてディアトロスは自身の魔法の効力が大幅に減少した原因をその『慧眼けいがん』で見抜いた。

 ディアトロスの視線の先、賢者が纏う法衣を身につけた『人間』が、目を『金色』にさせながら周囲に『結界』を張っていたのである。

 その結界の効力は定かではないが、どうやらディアトロスの魔法を、若しくはさせる結果を出した事から『』もしくはその逆の『』を上げたのだろうと予想する。

 ディアトロスの魔法を凌いだ組織の者達は、一気に散らばりながら向かってくる。

 数の上で圧倒的な差があるために、ディアトロスは舌打ちをしながら向かってくる連中に視線を向ける。

 ――そこでリーシャが動いた。

 リーシャの身体が二重にも三重にもブレ始めたかと思うと一瞬で姿が見えなくなり、近づいて来ていた『組織』の者達が倒れ伏していく。

 左右に持つ短剣は金色に輝き、その持ち主であるリーシャもまた、金色の輝きで辺りを照らしながら敵を屠っていくのであった。

 そしてそれを見ていたイリーガルもまた動く。

「うおおおお!!』

 イリーガルが大地に大刀を突き刺したかと思うと、周囲一帯全ての者達が動けなくなり、組織の賢者達が張っていた『結界』は全て掻き消えた。

「あまりワシら『』を甘く見るなよ?」

 そして結界の効力がなくなった事を確認したイリーガルは、再び両手に魔力を灯し始めて同時に二つの魔法を行使する。

 ――神域魔法、『終ワラヌ窮愁、生ト死ノ狭間』。
 ――神域魔法、『消失ス、名モ無キ骸』。

 結界の守りが消えた組織の『本隊』達は、ディアトロスの魔法によって再び苦痛に顔を浮かべて、精神を不安定にさせて動きを止めた後に数十を越える者達の身体をコマ切れにしていくのであった。

 そして間髪入れずに『イリーガル』の居る方向から剣圧が放たれて、その剣圧の直線上に居た者達の首が綺麗な切断線を見せながら胴体から離れていった。

「やれやれ。確かに九大魔王が揃って三体も居れば相当に厄介だな」

 そう呟いたルビリスは、最後尾で溜息を吐いた後に手を頭上高く翳す。

 ――神聖魔法、『聖なる再施ホーリー・レナトゥス』。

 何と『ルビリス』の魔法によって、切り刻まれて絶命しようとしていた者達の身体が次々と修復していくのだった。

「お主のその魔法はあの『人間の若造』が使っていた再生の魔法か!」

 忌々しいとばかりにルビリスの『魔法』の効果を見ながら『ディアトロス』は舌打ちをする。

「おや? ご存じでしたか。流石に無駄に長く生きているだけはありますねぇ? ではご存じであるのならばこの崇高な魔法の効力も知っておいでなのでしょう?」

 そう言ったルビリスは悦に入り、自分の使った魔法によって元通りになっていく者達を見ながら、恍惚の表情を浮かべ始めた。

「破壊されたもの達が何事もなく、きれいに元通りになっていくのを見るのは、とても、とてもとても美しいとは思いませんか? それもただ元通りになるだけではありませんよ? そのモノが本来持っている美しさが破壊によって新たな一面を見せた後に元通りになることによって、これまでのそれを知る者や見る者にとって、意外な一面性を見出す事が出来るのです」

 ルビリスは恍惚な顔を浮かべながら、たまらないと言った様子で意気揚々と話し始めるのだった。

「魔法とは元来こうあるべきなのですよ! 奇跡は更なる奇跡を生み出すのです……!!」

 カカカカと高笑いを始めて、自身の主と同じ感性持ち『根源』ともいうべき、に魅了されたその目で厭らしく嗤う『ルビリス』であった。

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