最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第449話 シスの潜在する力
ソフィの『レパート』の『理』を用いた練習は一旦休憩を挟む事となった。
シスはお茶を入れてくると言い残して部屋を出た。執務室の横に備える自室の間の給湯室で全員分のお茶を淹れながら、先程のソフィの魔法を思い出す。
実際休憩と聞いてお茶を淹れに行こうとしたのは本心だが、シスはあのままあの部屋に残る事が出来なかったもう一つの理由があった。
――それはソフィの魔力を直に見た事により、シスの潜在する『力』が感化されてしまいシスは居てもたっても居られなくなってしまったのである。
こういった事が起きた時のために、ユファに教わっていた事がある。
それはレパートの『理』を用いて、使う魔法を頭に思い浮かべてその魔力を少しずつ使わず、一気に魔力回路から自分の周囲の空気に魔力を混ぜ合わせて、強制的に『魔力』を浪費させるのである。
魔法を使う意思や詠唱さえしなければ『魔法』にはならないため、周囲に影響を及ぼす事がなく、シスは魔力消費による疲労で冷静に戻る事が出来るのである。
あまりいい方法とはいえないが、こうでもしなければシスは落ち着きを取り戻せないと『ユファ』は看破して幼い時分からシスにこのやり方を教えていた。
この感情の昂りを放っておけば、シスは変貌して潜在的な力のようなモノに心を圧し潰されて気絶をしたり、暴走ぶりを見せたりする事があったのである。
「早く冷静にならないと……」
シスはソフィの魔力の影響を受けつつある自分を抑えようと、魔力回路に膨大に有する自身の魔力を一気に供給して、頭に魔法を思い浮かべようとする。
――ガララ。
しかしそこで唐突に給湯室のドアが開き、レアが入ってきた。
「……驚いたわねぇ。部屋を出て行く時の貴方の血走った目が気になって後を追ってみれば、何をそんなに魔力を高めているのぉ? 眠っていた『憎悪』が目を覚ましたかしらぁ?」
レアはどういうつもりかは知らないが、シスが魔王の資質に目覚めた時の事を口に出しながら煽るように告げる。
「『魔王』レア? 今は出て行ってちょうだい。邪魔をしないで」
普段であれば冷静にレアを追い返す事が出来るシスだったが、今この時においてはそれが出来ない。
「そんな苦しそうな表情をしている貴方を見捨ててはおけないわねぇ?」
そう言ってどういうつもりか、レアはシスに近づこうとする。
「近づかないでって言っているのよ!!」
シスの目が金色に変わり、寄ってくるレアに向けて敵意を剥き出しにしながら睨みつける。
「!!」
瞬間――。
レアもまた目を金色に変えて『シス』の目を見る。
バチバチと音を周囲に立てながら、お互いの魔瞳『金色の目』が拮抗して、やがて効力が消えた。
「貴方の潜在的な力って、一体どれくらい大きいのかしらねぇ? 貴方がこの世界の魔族にユファの『代替身体』を壊された時、その力の一端を見て私は『憎悪』の魔王ちゃんって名付けたけど、ソフィ様と戦った時やキーリちゃんと戦った時は、どちらかといえば場に満ちる魔力に興奮していたように思えたわねぇ? 私はどんな形にしろ、貴方の本当の力っていうのを知っておきたいのよねぇ?」
「そんなの私にも分からないわよ! いいから出て行って。私はそんなのなくたって構わないの」
レアには付き合いきれないとばかりに、必死に自分の自我を保とうと必死になる。
「あらぁ……? 私は貴方に言ったわよねぇ? 償いをするって」
そう言うとレアは再び『金色の目』をシスに放つのだった。
シスもまたレアの行動が読めず自衛のために『金色の目』で相殺しようとする。
「貴方の言う償いって、街の復興をしてくれるということではなかったの!?」
先程と同じように拮抗する『金色の目』にレアは舌打ちをしながら、自身の周囲に金色のオーラを纏い始める。
レアの戦力値と魔力値が一気に10倍に膨れ上がり、その膨大な力を前にしたシスはその場に蹲る。
「……街を復興するだけが、償いじゃないわよ? それに私はこうも言ったわよぉ? 『貴方に何か望む事があれば、私の力の限りで償う』ってねぇ?」
そこでレアは自身の背後から迫ってくる二人に気づき視線をシスから離す。
「レアぁ!! 貴方一体何をしているの!」
レアが金色のオーラを纏っており、大事なシスがその場で蹲っているのを見たユファは、レアがシスを虐めているように見えたのだろう。逆上して怒号を放つのだった。
「先輩! ちょっと今は黙ってて。これは私の償いなのよぉ」
そしてレアはユファから横に居る自分の主となったソフィに視線を移す。
一秒に満たない間だったが、ソフィはレアの視線の意味を察して静かに頷く。
「それなら、私にわかるように説明をしてからにしなさい!」
そう言ってユファは、シスとレアの間に入ろうと動き始める。
――しかしそこでユファは金縛りにあったように動かなくなる。
「えっ!?」
ユファはレアが何かをしたのかと思って、動かない身体のまま視線だけをレアに移すが、レアが何かをしたようには見えず、未だに力の対象先はシスのほうへ行っていた。
「落ち着けユファよ。ここはレアを信じてやりたいようにやらせてやれ」
ユファが動けない理由はどうやら、レアではなくソフィのようだった。
「やりたい事があるのならば、自由にするがよいぞ」
「ありがとねぇ、ソフィ様ぁ!」
そう言った後に蹲るシスの肩を掴んだレアは、そのまま視線を給湯室の窓に向ける。
キィイインという音と共にレアの目が紅くなったかと思えば、窓のサッシごとはじけ飛んでいき、レアはその窓からシスを抱きながら外へ出て行った。
「もう! ソフィ様!」
勝手なことをするレアと、それを自由にさせるソフィにぷりぷりと怒りながら、ユファは口を尖らせて怒鳴る。
「まぁ、よいではないか。レアは何か考えがあってやったのだろう。それに我から見てもシスの様子はおかしかった。ここはレアを信じてみようではないか」
「確かに『シス』の様子がおかしかった。また魔力の暴走が起きたのね」
ぽつりとそう呟くユファの言葉を聞いたソフィは、レア達が出て行った窓の方を見るのだった。
……
……
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シスはお茶を入れてくると言い残して部屋を出た。執務室の横に備える自室の間の給湯室で全員分のお茶を淹れながら、先程のソフィの魔法を思い出す。
実際休憩と聞いてお茶を淹れに行こうとしたのは本心だが、シスはあのままあの部屋に残る事が出来なかったもう一つの理由があった。
――それはソフィの魔力を直に見た事により、シスの潜在する『力』が感化されてしまいシスは居てもたっても居られなくなってしまったのである。
こういった事が起きた時のために、ユファに教わっていた事がある。
それはレパートの『理』を用いて、使う魔法を頭に思い浮かべてその魔力を少しずつ使わず、一気に魔力回路から自分の周囲の空気に魔力を混ぜ合わせて、強制的に『魔力』を浪費させるのである。
魔法を使う意思や詠唱さえしなければ『魔法』にはならないため、周囲に影響を及ぼす事がなく、シスは魔力消費による疲労で冷静に戻る事が出来るのである。
あまりいい方法とはいえないが、こうでもしなければシスは落ち着きを取り戻せないと『ユファ』は看破して幼い時分からシスにこのやり方を教えていた。
この感情の昂りを放っておけば、シスは変貌して潜在的な力のようなモノに心を圧し潰されて気絶をしたり、暴走ぶりを見せたりする事があったのである。
「早く冷静にならないと……」
シスはソフィの魔力の影響を受けつつある自分を抑えようと、魔力回路に膨大に有する自身の魔力を一気に供給して、頭に魔法を思い浮かべようとする。
――ガララ。
しかしそこで唐突に給湯室のドアが開き、レアが入ってきた。
「……驚いたわねぇ。部屋を出て行く時の貴方の血走った目が気になって後を追ってみれば、何をそんなに魔力を高めているのぉ? 眠っていた『憎悪』が目を覚ましたかしらぁ?」
レアはどういうつもりかは知らないが、シスが魔王の資質に目覚めた時の事を口に出しながら煽るように告げる。
「『魔王』レア? 今は出て行ってちょうだい。邪魔をしないで」
普段であれば冷静にレアを追い返す事が出来るシスだったが、今この時においてはそれが出来ない。
「そんな苦しそうな表情をしている貴方を見捨ててはおけないわねぇ?」
そう言ってどういうつもりか、レアはシスに近づこうとする。
「近づかないでって言っているのよ!!」
シスの目が金色に変わり、寄ってくるレアに向けて敵意を剥き出しにしながら睨みつける。
「!!」
瞬間――。
レアもまた目を金色に変えて『シス』の目を見る。
バチバチと音を周囲に立てながら、お互いの魔瞳『金色の目』が拮抗して、やがて効力が消えた。
「貴方の潜在的な力って、一体どれくらい大きいのかしらねぇ? 貴方がこの世界の魔族にユファの『代替身体』を壊された時、その力の一端を見て私は『憎悪』の魔王ちゃんって名付けたけど、ソフィ様と戦った時やキーリちゃんと戦った時は、どちらかといえば場に満ちる魔力に興奮していたように思えたわねぇ? 私はどんな形にしろ、貴方の本当の力っていうのを知っておきたいのよねぇ?」
「そんなの私にも分からないわよ! いいから出て行って。私はそんなのなくたって構わないの」
レアには付き合いきれないとばかりに、必死に自分の自我を保とうと必死になる。
「あらぁ……? 私は貴方に言ったわよねぇ? 償いをするって」
そう言うとレアは再び『金色の目』をシスに放つのだった。
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先程と同じように拮抗する『金色の目』にレアは舌打ちをしながら、自身の周囲に金色のオーラを纏い始める。
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そこでレアは自身の背後から迫ってくる二人に気づき視線をシスから離す。
「レアぁ!! 貴方一体何をしているの!」
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「先輩! ちょっと今は黙ってて。これは私の償いなのよぉ」
そしてレアはユファから横に居る自分の主となったソフィに視線を移す。
一秒に満たない間だったが、ソフィはレアの視線の意味を察して静かに頷く。
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