最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第419話 伝説の魔王と出会うレルバノン

 ユファ達が冒険者ギルドの中に入ると、びっしりと掲示板に依頼の紙が貼られているのが目についた。

「前に来た時よりずっと依頼が多くなったみたいね」

 どうやらレアが起こした戦争の所為で再び修繕した建物などが壊れたため、ギルド全体に依頼が殺到しているようだった。

「ユファ様!」

 そこで窓口で冒険者の担当をしていた職員が、話しかけてきた。

「ん? 確か貴方は新しくこのギルドにきた『ディネガー』だったかしら?」

 ディネガーと呼ばれたギルド職員は頷く。

「はい、そうです! 当面はラルグ魔国の方へ滞在する予定だと聞いていましたが、本日はどうなされましたか?」

「ちょっとレルバノンにこの子を紹介しときたくてね。居たら呼んでもらってもいいかしら?」

「ギルド長にですか? 分かりました、少しお待ちください」

 ディネガーはレアの方をちらりと一瞥した後に頷き、建物の奥へと入っていった。

 レアは物珍しそうにギルドの中を見渡している。

「ねぇ、ユファ? 私もギルドの依頼って受けられるのかしら?」

「え? そりゃここで冒険者になる手続きさえ終わらせたら受けられるけど。何アンタ冒険者になりたいの?」

 ユファが驚いた様子でそう聞くとレアは笑って頷いた。

「ここに貼られている依頼の紙を見ていると、ほとんどは私の所為で困っている人達の依頼のようだからさ。その何て言うか、私にも出来る事があればと思ったのよぉ」

「レア……!」

 レアの言葉にユファは思うところがあったのか、更に声を掛けようとしたところで奥からここレイズのギルド長『レルバノン』が姿を見せるのだった。

「ユファさん。お待たせしました。おや?」

 ユファに声を掛けるレルバノンだったが、そこで隣に居る黒髪の幼女の姿が目に入り声を漏らす。

 じっとレアの様子を見るレルバノンにユファが紹介を始める。

「レルバノン。忙しいところ呼び出してすまなかったわね。今日はこの子のことでここに来たの」

 そういってユファはレアの背中を軽く前に出すのだった。

「初めましてぇ。私はソフィ様の配下となったレアよぉ。宜しくねぇ?」

「レア……? 『』……『』!?」

 レルバノンは目を丸くして驚くのだった。

「後日正式に『ラルグ』魔国でこの子の紹介は行う予定ではあるのだけど、先に貴方にも紹介しとこうと思ってね。覚えておいてねレルバノン」

「いやはや驚きました。ここのところずっと『レイズ』に居たのでね。詳しい事情はまだソフィ様からは何も聞いていなかったもので」

 レルバノンは『ラルグ』魔国王の補佐という役職を持つ『ラルグ』魔国の『フィクス』ではあるが、現在は『レイズ』の冒険者ギルド長を兼任していて忙しい身であり、突然にソフィの元に現れたレアの事は初耳だったのだった。

「ひとまず奥へどうぞ」

 そしてレルバノンに促されてギルドの奥の部屋へ案内されるユファ達であった。

 ……
 ……
 ……

 テーブルを挟んで互いにソファーに座りながら、再びレルバノンは口を開いた。

「現在はこのレイズの冒険者ギルド長をしておりますが、ラルグ魔国の王の補佐の役を仰せつかっております『レルバノン・フィクス』と申します『魔王』レア様。宜しくお願い致します」

 ギルド部屋で開口一番でレアに自己紹介をするレルバノンであった。

「貴方がソフィ様の最側近ということね? 私に敬語は必要ないわぁ。レアって呼び捨てにして構わないわよぉ」

 元はこの世界の支配者であったレアだが、現在はソフィの配下として生きることになったレアは、自分の立ち位置を明確に示した形でレルバノンに告げるのであった。

「分かりました。では今後はレアさんと呼ばせていただきますよ」

 敬語のままのレルバノンだったが、レアはそれならそれで構わないという表情を浮かべた。

「このヴェルマーに戦争を仕掛けたこの子が、ソフィ様の配下になることに驚いたとは思うけど、ソフィ様が決めたことだから、そこに思う事があっても堪えてねレルバノン」

 ユファはそう言って、レアを気遣うように肩に手を置く。

「ええ。もちろん私は構いません。しかし驚きましたよ。この世界で最強の種族であった、。そしてレイズ魔国の『』女王の師匠であったとされる『リラリオ』の支配者『魔王』レアが、こうして目の前でみられるとは」

 彼が『鮮血のレルバノン』の二つ名を掲げて『レイズ』魔国と敵対していた頃に『セレス』という女王が居た。

 魔力自体は『最上位魔族』の域を越えてはいなかったが『セレス』女王は決して侮れない魔法使いだった。

 レアが元の世界に戻った後に『ラルグ』魔国や『トウジン』魔国。その他の国々が幾度となく『レイズ』魔国を攻め滅ぼそうと戦争を起こしたが、その度に見た事も聞いた事もない『ことわり』の刻印が刻まれた魔法を操り、大国や小国の区別なく撃退して見事に『レイズ』魔国をへと、再び押し上げた人物であった。

 一説にはこの世界から突然姿を消した『魔王』レアが使っていた古の魔法を操っていたとされて『魔王』レアの後継者として選ばれた魔族と言われていた。

 『レイズの魔女』の伝説を作り上げた『魔王』レアの噂は、後世に生まれた『レルバノン』も耳にしていた。

 いわばこの世界の覇王であった人物が、目の前に居るのである。
 レルバノンもまた例外ではなく『』に魅入られた魔族の一体だったため、レアを目の当たりにして尊敬の念をもって『レア』を見つめるのだった。

「私の事を知っているのは光栄だけどぉ。今の私はもうこの世界の支配者ではなく、ただの敗北者なのだからそんな目で見つめられても困るのだけどねぇ」

 自虐するようにそう告げるレアだが、自身の行ってきた事を語るこの世界の人物の登場に『レア』は内心喜んでいた。

 そしてもう一つ。過去のレアが『レパート』の『ことわり』を残したメモをが、しっかりと覚えて練習して使ってくれていた事にレアは涙が出るくらい嬉しかった。

(私はちゃんと貴方の約束を守れることが出来たのねぇ。そして貴方もしっかりと、私との約束を守ってくれた。こんなに嬉しい事はないわよぉ!)

「いえいえ、ご謙遜を。ところで今日はどうしてユファさんと来られたのでしょう? ソフィさん。いえ失礼。ソフィ様が遣わせるとすれば『ラルグ』魔国の統括軍事副指令である『レヴトン』か、軍の管理部長である『ゲバドン』だと思ったのですがね」

 レアとユファの過去の関係を知らない『レルバノン』がそう言うと、ユファが代わりに口を開いた。

「そういえば貴方の前では『』の時の私しか知らないモノね? この子と私は同郷の世界出身でね。私が所属していた魔王軍の後輩なのよ」

「……は?」

 再びレルバノンの目が驚愕に揺れる。

 レルバノンとユファの『代替身体だいたいしんたい』時代であるヴェルトマーとは、互いにライバル関係であった。

 自分と同じ年齢くらいだと思っていたユファが、まさか尊敬をしていた伝説の『魔王』レアと同郷の魔王軍で更にそのレアの先輩だったと言うのだから、この反応は当然と言えた。

 色々な情報が一気にレルバノンの頭の中に入ってきて数秒程。脳の処理が追い付かなくなってしまった。

「待ってくださいユファさん! 貴方はまさか『セレス』女王よりも年齢が……! うぐっ!」

 年齢を聞こうとしたレルバノンは思いっきり殴られて、テーブルの上でお腹を抑えて突っ伏す。

「女性に年齢を聞くのは失礼よ?」



 腕を組みながら怒れるユファと、腹を抱えてテーブルに突っ伏すレルバノンをみながら、レアはニヤニヤ笑いながら声を漏らすのだった。

 先輩の素の顔を久しぶりに見たレアは満面の笑みを浮かべたかと思うと、その後は何やら顔つきになるレアであった。

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