最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第406話 新たな風景を見るための決断
バルドはいつものように培養液に浸けられたモノを見るために『カプセル装置』がある『魔界』南方大陸の施設跡にきていた。
「む。もうこんな時間か、そろそろ戻らなくてはな」
バルドは『時魔法』を用いていつものように『カプセル装置』を空間除外する。
そして魔力の残滓など残されていない事を確認すると、周囲に張っていた結界を閉じていつものように集落へ戻ろうと立ち上がる。
「おや? もうお帰りですか。もう少し『大賢者様』のコレクションを眺めていかれては?」
バルドは突然の声に驚いて慌てて振り返る。
「お主は誰かね?」
バルドが尋ねる先には鮮やかな赤色の立襟の祭服に身を包んだ、初老がかった年齢程の男が立っていた。
「そのサンプルを管理していた大賢者様のしがない配下で『ルビリス』と申す者です」
「大賢者だと? つまりお主らが例の『組織』の連中か」
バルドはルビリスの言葉を聞いて、サンプルと呼ばれた『人間』のようなモノに視線を移す。
「これを使って一体大賢者とやらは、何を企んで居たのだ?」
バルドがそう尋ねると、ルビリスは首を横に振る。
「それは我が組織に関係する者以外には、お教えするわけにはまいりませんねぇ」
「……」
教えられないとルビリスに言われたバルドは、苦虫を噛み潰したかのような表情を見せた。
「どうやら貴方も我々と近い感性をお持ちのようだ。もしよければ我が組織には興味はありませんか? 貴方さえよければ、今なら推薦をさせていただきますが」
その言葉になぜかバルドは心を揺れ動かされてしまう。バルド自身何故こんなにも『サンプル』と呼ばれているものに心が惹かれているのか分からないが、どうしても気になってしまうのだった。
しかし大賢者とは現在ソフィの魔王軍が追っている反魔王軍とよべる『レジスタンス』の『組織』を束ねる明確な敵なのである。
「そ、それは……。出来ぬ」
元々魔王軍に在籍していたバルドが、この実験の行く末が気になるからといって目の前の連中の『組織』に加入するような事があれば、それは魔王軍ひいてはソフィへの裏切りとなってしまう。
軍を退いたとはいえ、今でも大魔王ソフィの事を尊敬しているし、裏切るつもりは全く無いバルドである。
「その『サンプル』よりも現在は更に進んだ存在が居るのですが、気にはなりませんか? 本来でしたら今はまだ、組織の上層部に居る者達しか閲覧できないのですが、余りの変わり様に驚かれる程だと思いますよ?」
ルビリスはそこで一度言葉を区切り、まるで演劇を演じるに大袈裟に手ぶりを交えながら、バルドに視線を送る。
「貴方ほどのその『サンプル』に魅力を感じていただけるような、いわば同士となり得る崇高なお方でしたら、大賢者様に取り次いで許可を取らせていただくことも吝かではないと考えておりますが――」
バルドの近くまで歩いていき、そこで一度クルリと身を回転させて両手をあげて笑う。
「これは最後の好機だと思ってください。もうこの場所が壊された以上はこの実験はこの世界では出来ませんのでね。貴方はもうこの機会を逃せば永劫、この先の映像をその目に宿す未来はありませんよ?」
バルドの周りをまわりながら、演者のルビリスは悪魔のように囀る。
「しかしこの場で貴方が『組織』に入ると一言仰れば、貴方は大賢者様が見据える素晴らしい作品達をその両目で目の当たりすることでしょう!」
バルドにはルビリスの言葉が、恐ろしく魅力的な提案のように感じられた。
「この新たな生命の誕生ともいうべき、存在の完成形が見られるというのか」
ルビリスに返事をしたのではなく、自分に言い聞かすようにつぶやく。しかしそんなバルドの呟きに自らの言葉を添えるように語り掛ける。
「ええ、もちろんですとも! 人間でもなく魔族でもなく、しかし自分の意志を持った新たな生命が自分を持って行動して、そして生活をして、いつかはそんな者達が普通に会話をするような、まさに神が作り出した人間達のように動く未来を貴方は間近で見られることになるでしょう!」
ルビリスは抑揚をつけた語り口調で、バルドをその気にさせるように煽る。
「た、確かにそれは見てみたい。これ程のモノを創り出す者が作る新たな生命の息吹を……」
ルビリスの言葉の意味。荒唐無稽な有り得ないような物語だが、もしそんな未来があるのならば、見てみたいという衝動に駆られるバルドだった。
「では、我らの同士となる事を決断なされますか?」
「分かった。お主らの『組織』に加わろう……」
そこでルビリスはニコリと笑った。
「それでは貴方のお気持ちが変わらぬ前に、契約をさせていただきたいのですが構いませんか?」
「契約じゃと?」
「はぁい! 別の世界の魔族が生み出した魔法でしてね? 約束事を守らせる為の契約を結ぶ魔法で、この魔法によって契約した内容をですねぇ? 一方的に破棄や反故にすると死神が現れて、なな、何と! 死神によって魂を狩り取られてしまうのです」
「つまり今この場で私がお前達の組織に入ると契約した後に、儂がお前達を裏切ればその『死神』とやらに私の命を奪われると?」
ルビリスは笑っていた表情を真顔に変えて頷く。
「まさにその通りです。死神の契約執行は『命』ではなく『魂』を狩り取るものなので、貴方が別の身体を用意していたとしても転生や再生などは出来ませんのでご了承下さいませ」
そんな魔法を『アレルバレル』の世界では聞いた事がないため、どこまで信じるべきかで悩んだバルドだったが『カプセル装置』に入った『サンプル』を一瞥した『バルド』は信じるのであった。
「分かった。儂は契約をしよう」
バルドがそう決断すると『ルビリス』は『レパート』の世界の『理』が入った刻印の魔法陣を生み出す。
「それでは、契約をさせていただきます」
――呪文、『呪縛の血』。
この呪文は『理』そのものを生み出した『フルーフ』という大魔王が編み出した秘術の呪文である。
『呪縛の血』を扱える者は、この時代ではまだ生み出した『フルーフ』。そのフルーフから寵愛を受けた魔王『レア』。同世界の『ユファ』にそして『フルーフ』と親交のあった大魔王『ソフィ』のみだけの筈であった。
しかし同じく『魔』を創り出す事を可能とする天才大賢者『ミラ』によって、外法紛いの方法ですでに『呪縛の血』を含めた多くの呪文や魔法は組織の上層幹部の者達に、共有されてしまっているのだった。
「さて、これで契約は完了しました。ようこそ我らの組織へ! 歓迎を致します『慚愧』の大魔王『バルド』様!」
高らかに声を上げて新たな『組織』の仲間を歓迎する『ルビリス』であった。
……
……
……
「む。もうこんな時間か、そろそろ戻らなくてはな」
バルドは『時魔法』を用いていつものように『カプセル装置』を空間除外する。
そして魔力の残滓など残されていない事を確認すると、周囲に張っていた結界を閉じていつものように集落へ戻ろうと立ち上がる。
「おや? もうお帰りですか。もう少し『大賢者様』のコレクションを眺めていかれては?」
バルドは突然の声に驚いて慌てて振り返る。
「お主は誰かね?」
バルドが尋ねる先には鮮やかな赤色の立襟の祭服に身を包んだ、初老がかった年齢程の男が立っていた。
「そのサンプルを管理していた大賢者様のしがない配下で『ルビリス』と申す者です」
「大賢者だと? つまりお主らが例の『組織』の連中か」
バルドはルビリスの言葉を聞いて、サンプルと呼ばれた『人間』のようなモノに視線を移す。
「これを使って一体大賢者とやらは、何を企んで居たのだ?」
バルドがそう尋ねると、ルビリスは首を横に振る。
「それは我が組織に関係する者以外には、お教えするわけにはまいりませんねぇ」
「……」
教えられないとルビリスに言われたバルドは、苦虫を噛み潰したかのような表情を見せた。
「どうやら貴方も我々と近い感性をお持ちのようだ。もしよければ我が組織には興味はありませんか? 貴方さえよければ、今なら推薦をさせていただきますが」
その言葉になぜかバルドは心を揺れ動かされてしまう。バルド自身何故こんなにも『サンプル』と呼ばれているものに心が惹かれているのか分からないが、どうしても気になってしまうのだった。
しかし大賢者とは現在ソフィの魔王軍が追っている反魔王軍とよべる『レジスタンス』の『組織』を束ねる明確な敵なのである。
「そ、それは……。出来ぬ」
元々魔王軍に在籍していたバルドが、この実験の行く末が気になるからといって目の前の連中の『組織』に加入するような事があれば、それは魔王軍ひいてはソフィへの裏切りとなってしまう。
軍を退いたとはいえ、今でも大魔王ソフィの事を尊敬しているし、裏切るつもりは全く無いバルドである。
「その『サンプル』よりも現在は更に進んだ存在が居るのですが、気にはなりませんか? 本来でしたら今はまだ、組織の上層部に居る者達しか閲覧できないのですが、余りの変わり様に驚かれる程だと思いますよ?」
ルビリスはそこで一度言葉を区切り、まるで演劇を演じるに大袈裟に手ぶりを交えながら、バルドに視線を送る。
「貴方ほどのその『サンプル』に魅力を感じていただけるような、いわば同士となり得る崇高なお方でしたら、大賢者様に取り次いで許可を取らせていただくことも吝かではないと考えておりますが――」
バルドの近くまで歩いていき、そこで一度クルリと身を回転させて両手をあげて笑う。
「これは最後の好機だと思ってください。もうこの場所が壊された以上はこの実験はこの世界では出来ませんのでね。貴方はもうこの機会を逃せば永劫、この先の映像をその目に宿す未来はありませんよ?」
バルドの周りをまわりながら、演者のルビリスは悪魔のように囀る。
「しかしこの場で貴方が『組織』に入ると一言仰れば、貴方は大賢者様が見据える素晴らしい作品達をその両目で目の当たりすることでしょう!」
バルドにはルビリスの言葉が、恐ろしく魅力的な提案のように感じられた。
「この新たな生命の誕生ともいうべき、存在の完成形が見られるというのか」
ルビリスに返事をしたのではなく、自分に言い聞かすようにつぶやく。しかしそんなバルドの呟きに自らの言葉を添えるように語り掛ける。
「ええ、もちろんですとも! 人間でもなく魔族でもなく、しかし自分の意志を持った新たな生命が自分を持って行動して、そして生活をして、いつかはそんな者達が普通に会話をするような、まさに神が作り出した人間達のように動く未来を貴方は間近で見られることになるでしょう!」
ルビリスは抑揚をつけた語り口調で、バルドをその気にさせるように煽る。
「た、確かにそれは見てみたい。これ程のモノを創り出す者が作る新たな生命の息吹を……」
ルビリスの言葉の意味。荒唐無稽な有り得ないような物語だが、もしそんな未来があるのならば、見てみたいという衝動に駆られるバルドだった。
「では、我らの同士となる事を決断なされますか?」
「分かった。お主らの『組織』に加わろう……」
そこでルビリスはニコリと笑った。
「それでは貴方のお気持ちが変わらぬ前に、契約をさせていただきたいのですが構いませんか?」
「契約じゃと?」
「はぁい! 別の世界の魔族が生み出した魔法でしてね? 約束事を守らせる為の契約を結ぶ魔法で、この魔法によって契約した内容をですねぇ? 一方的に破棄や反故にすると死神が現れて、なな、何と! 死神によって魂を狩り取られてしまうのです」
「つまり今この場で私がお前達の組織に入ると契約した後に、儂がお前達を裏切ればその『死神』とやらに私の命を奪われると?」
ルビリスは笑っていた表情を真顔に変えて頷く。
「まさにその通りです。死神の契約執行は『命』ではなく『魂』を狩り取るものなので、貴方が別の身体を用意していたとしても転生や再生などは出来ませんのでご了承下さいませ」
そんな魔法を『アレルバレル』の世界では聞いた事がないため、どこまで信じるべきかで悩んだバルドだったが『カプセル装置』に入った『サンプル』を一瞥した『バルド』は信じるのであった。
「分かった。儂は契約をしよう」
バルドがそう決断すると『ルビリス』は『レパート』の世界の『理』が入った刻印の魔法陣を生み出す。
「それでは、契約をさせていただきます」
――呪文、『呪縛の血』。
この呪文は『理』そのものを生み出した『フルーフ』という大魔王が編み出した秘術の呪文である。
『呪縛の血』を扱える者は、この時代ではまだ生み出した『フルーフ』。そのフルーフから寵愛を受けた魔王『レア』。同世界の『ユファ』にそして『フルーフ』と親交のあった大魔王『ソフィ』のみだけの筈であった。
しかし同じく『魔』を創り出す事を可能とする天才大賢者『ミラ』によって、外法紛いの方法ですでに『呪縛の血』を含めた多くの呪文や魔法は組織の上層幹部の者達に、共有されてしまっているのだった。
「さて、これで契約は完了しました。ようこそ我らの組織へ! 歓迎を致します『慚愧』の大魔王『バルド』様!」
高らかに声を上げて新たな『組織』の仲間を歓迎する『ルビリス』であった。
……
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