最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第376話 魔王レアは長老バルドに見下される
集落がある森の中まで戻ってきたレア達は、そのまま空から地に降りる。戻って来た彼らは全員が照らし合わせたかのように無言だった。
それは別に何か意図があった訳でもなく、単に三人ともが各々で考え事をしていたからではあったのだが。レアの場合はメモを手に入れたことで、新たな目標となるローブを纏っていた男『ソフィ』の事を考えていた。
エイネの無言の理由は何度かバルド共に訪れたあの屋敷に、あんな規模の悪魔が残っていた事を憂んでのことであった。
そして更にバルドはメモを見ながら、ゆっくりと後ろをついてくるレアの事を考えていたのである。
一番前を歩いていたエイネが、集落の結界を解き中へ入ろうとする。
バルドも入ろうとしたのだが、急にそこで立ち止まったかと思うと後ろを振り返った。突然目の前でバルドがこちらを見たので、レアは俯き考え事をしていた顔をあげた。
「んぅっ?」
どうしたのかとレアは、自分を見ているバルドに首を傾げる。
「どうしたんですか?」
後ろから誰も来ていないのを不思議に思ったエイネが、集落の外で立ち止まっている二人に声をかける。
「エイネ。すまないがお前は先へ戻ってくれ。私は少しレアさんと話したいことがあるのでな」
「えっと。それは構いませんが……」
長老の様子は後ろを向いているために確認は出来ないが、どうやら大事な事を話そうとしているようだと察したエイネはそのまま素直に戻ることにするだった。
「それじゃあ私は、ビル爺とリーシャの様子を見に畑へ行きますので、お話が終わったら声を掛けて下さいね」
「ああ、分かった。急にすまないな」
背後を向いたままバルドが手を振るのを確認して、エイネは後ろ髪を引かれる思いを抱きながらもその場を後にするのだった。
「急にどうしたのかしらぁ?」
レアは真剣な表情を浮かべる『バルド』の目を見ながらそう口にする。そんなレアの前でバルドは突然魔力を開放するのだった。
「!?」
レアは突然のバルドの膨大な魔力に自衛する気概を働かせる。しかしレアに何かをしようという魔法ではなく、どうやら会話を他の者に聞かれないようにと、この辺一体の空間を遮断したようだった。
簡単に行われた魔法だが、これは『時魔法』の『空間除外』の応用であった。使う魔力は『空間除外』より少ないが、範囲を絞り声だけを遮断するという使い方は難度的には更に上であった。
そんな魔法をあっさりと使うバルドを見たレアは、感心すると共にこの後の展開に興味を持たされる。
「貴方は一体、私に何を話すつもりかしら?」
バルドは真剣な表情を浮かべたままで口を開いた。
「レアさん。単刀直入にお尋ねしますが、貴方はこの世界の魔族ではありませんね?」
開口一番に『バルド』から告げられた言葉はレアを驚かせた。
「どうしてそう思ったのかしらぁ?」
「貴方が普段から纏っている障壁の『理』。それはこの世界の『理』ではない事がまず一点。それにこの世界に居ながらにしてソフィ様の存在や、先の戦争で起きた事を知らない事が更に一点。そして今日あの屋敷で魔導書に潜んでいた悪魔と戦った時の魔法陣の刻印。これらを顧みればこの世界の魔族では無いという事の証明になりますな」
レアはこのバルドの理論を聞いて、この世界が『リラリオ』の魔族達とは、全く比較にならないレベルだと言う事を悟る。
レアは『レパート』から『リラリオ』の世界に渡った後の十年間で、独自の『理』を用いた障壁を展開している事をまだ気づかれたことはなかった。
リラリオの『理』を管理する『精霊』達ですら、レアの扱う『理』や『障壁』といったモノがどういうものかなど。検討もついていなかっただろう。
――そしてそれは確かにその通りであった。
精霊達はレア使う魔法に興味を示しはしていたが、その中身に対しては全く無知に等しく、単に効力に目がいっているだけの『興味』の域に過ぎず、具体的にどういったモノかを調べたり、自分達で出来るだけ解き明かそうと模倣を行ったりする素振りさえ『精霊族』達は見せなかった。
どこかで自分達は『理』を生み出した存在なのだと、自前の自己認識の高さや自尊心が邪魔をして『関心』や『興味』に対して積極的に手を伸ばそうとまではしなかったのだろう。
「なるほど。確かにご明察ね。私はここ『アレルバレル』とは違う世界の『レパート』という世界の魔族にして『大魔王フルーフ』の直属の配下よぉ」
レアの言葉を聞いてやはりそうかとバルドは頷きを見せる。
「それで私が別世界来た魔族だとして、どうしようというのかしら?」
バルドがどうしたいのかによって、今後のレアの行動は大きく変わる。
「レアさん……。残念だがこの世界にはもう『フルーフ』殿は居ないのですよ」
「は?」
突然のバルドの言葉に呆然とするレアであった。
「フルーフ殿はソフィ様と知己の間柄だったのだが、突然に姿を消してしまってね。ソフィ様はフルーフ殿が突然居なくなったことで心配されておったのだが、その直後に大魔王『ヌー』という愚か者がソフィ様に対して戦争を仕掛けたきよったのです」
レアは黙ってバルドの言葉に耳を傾け続ける。
「ヌーはソフィ様に従う事を由としない魔族達と手を組み。このアレルバレル中の多くの魔族を巻き込んだ大戦争に発展させたのです」
「今もソフィっていう魔族が支配者だという事は、それだけ多くの魔族を同盟にしても『ヌー』という輩は負けたのかしら?」
バルドの言葉を聞かなくても分かりきった質問だが、レアは歴史の流れを掴むために敢えてそう質問するのだった。
「各所的にはヌーの軍勢は勝利を収めていたといっていいでしょうが、本丸であるこの大陸にあるソフィ様の魔王城一帯に攻め込んできた魔王達は全滅しました」
「へぇ……? 話を聞いているとソフィの軍勢より、ヌーの軍勢の方が多かったように聞こえたようだけど、そんなに差があったのかしら?」
魔族が魔王以上の領域に踏み込んでしまえば、数というモノは全く意味を為さない事は知っている。
しかし同じ『魔王』同士の戦争ともなれば、また話は少し変わってくる。魔王の領域に辿りついた力がある者達。つまり質を持った量がある一派が上にくるのは自明の理であるからだ。
「ソフィ様の軍勢とヌー達の連合魔王軍の軍勢では『数』の上ではヌー達の連合軍が上でしたが『質』ではソフィ様の軍勢の方が、圧倒的に優れておりましたな」
「成程ね。ソフィには優秀な配下達が多かったのねぇ」
「いや、それももちろんありますが、この世界ではソフィ様に勝てる生物など存在致しませんな。例えソフィ様一人が相手をなされても、ヌーを含めた大魔王連合軍は敗れ去っていたでしょう」
「は?」
話の流れが突然変わったように感じられたレアは、素っ頓狂な声をあげた。どうやらこのバルドという集落の長老とやらは、ソフィという魔族を崇拝する信者のように感じられたのである。
(話が見えてこないわねぇ? このバルドは私に何をしようというのかしら? 私が屋敷で力を示した事で、ソフィという魔族にとって脅威をもたらせる恐れがあると思って、この場で始末しようという事かしらぁ)
たとえ質が量に勝るとはいっても、大魔王の領域に居る者達が集っているのであれば、たった一人で勝てるというのはとてもでは無いが現実的では無い。
それにこのバルドという男がソフィに心酔しているのは、ソフィよりソフィの配下が優れているから勝てたともとれるレアの発言に、ムキになって論じ返してきたことからも容易に理解が出来た。
「それで私をここに呼び止めて、一体何をしようというのかしらぁ?」
「レアさん。貴方がフルーフ殿を大事に思う気持ちは分かるが故に、一つ進言しておきましょう」
「へぇ? 私に進言ですって?」
「フルーフ殿をこれ以上追うことは、止めておきなさい」
レアは突然のバルドの言葉に眉を寄せて不快感を露にし始めた。
「ハッ……! 突然何を言うかと思えば。まぁひとまずはその理由を聞いてもいいかしらぁ?」
「儂らが独自に調べた情報ですが、どうやらフルーフ殿はある『組織』に、目をつけられておったようでしてな。フルーフ殿がこの世界から姿を消したのは、その組織の連中が攫ったかもしれないのです」
「な、何ですって?」
「ここだけの話ですが、ソフィ様達もフルーフ殿の所在を掴もうと動いておる最中でしてな。これ以上は我々としても勝手に動いて欲しくはないのですよ。もちろん何か分かれば貴方にも教えて差し上げると約束しますので、ここで引いてはもらえませんかな?」
「それは出来ない相談ね。私はフルーフ様を探すためにここに来たのよ? 貴方たちに教えてもらわなくても自分で探し出して見せるわぁ」
レアがバルドの提案を断るような言葉を口にした瞬間。目の前の『バルド』の目つきが険しく変わるのだった。
「レアさん。先程も言いましたがね。フルーフ殿はソフィ様の大事な友人なのだ。ここで行方を逃すことは出来ぬ。ようやく組織の連中の存在を割り出した今、下手に貴方が嗅ぎまわられることで、その重要な足掛かりを失うわけにはいかぬのですよ」
「ふんっ! それは私には関係のないことね。貴方たちは貴方たちで動いていればいいじゃない。私は独自にフルーフ様を探すわよ? たとえ貴方がいくら止めようとしてもね」
勝手な言い分を告げてきたバルドに、真っ向からレアは対立するのだった。
「中途半端な力しかない貴方が、首を突っ込んでいい案件ではない。フルーフ殿を探す事はとても危険な事なのだ。貴方もまだ死にたくはないでしょう?」
その言葉にレアは更に苛立ちを覚える。
努力と研鑽を常に続けてきたレアに対して、中途半端な力と吐き捨てる目の前の老人に、レアは何が分かると言いたげな目で睨む。
「貴方は私が弱いとでも言いたいのかしらぁ? こう見えてもねぇ、私は一つの世界を支配した実績を持っているのよぉ?」
それはレアが少し前まで居た『リラリオ』の世界の事を指していた。
曲がりなりにもその世界は『龍族』という、かなりの上位の戦力値を持つ者が支配する世界だった。
その世界をたった一体で支配して見せたレアは、ある種『矜持』を持っている。
――だが、次のバルドの言葉によって、そのレアの自尊心は深く傷つけられるのだった。
それは別に何か意図があった訳でもなく、単に三人ともが各々で考え事をしていたからではあったのだが。レアの場合はメモを手に入れたことで、新たな目標となるローブを纏っていた男『ソフィ』の事を考えていた。
エイネの無言の理由は何度かバルド共に訪れたあの屋敷に、あんな規模の悪魔が残っていた事を憂んでのことであった。
そして更にバルドはメモを見ながら、ゆっくりと後ろをついてくるレアの事を考えていたのである。
一番前を歩いていたエイネが、集落の結界を解き中へ入ろうとする。
バルドも入ろうとしたのだが、急にそこで立ち止まったかと思うと後ろを振り返った。突然目の前でバルドがこちらを見たので、レアは俯き考え事をしていた顔をあげた。
「んぅっ?」
どうしたのかとレアは、自分を見ているバルドに首を傾げる。
「どうしたんですか?」
後ろから誰も来ていないのを不思議に思ったエイネが、集落の外で立ち止まっている二人に声をかける。
「エイネ。すまないがお前は先へ戻ってくれ。私は少しレアさんと話したいことがあるのでな」
「えっと。それは構いませんが……」
長老の様子は後ろを向いているために確認は出来ないが、どうやら大事な事を話そうとしているようだと察したエイネはそのまま素直に戻ることにするだった。
「それじゃあ私は、ビル爺とリーシャの様子を見に畑へ行きますので、お話が終わったら声を掛けて下さいね」
「ああ、分かった。急にすまないな」
背後を向いたままバルドが手を振るのを確認して、エイネは後ろ髪を引かれる思いを抱きながらもその場を後にするのだった。
「急にどうしたのかしらぁ?」
レアは真剣な表情を浮かべる『バルド』の目を見ながらそう口にする。そんなレアの前でバルドは突然魔力を開放するのだった。
「!?」
レアは突然のバルドの膨大な魔力に自衛する気概を働かせる。しかしレアに何かをしようという魔法ではなく、どうやら会話を他の者に聞かれないようにと、この辺一体の空間を遮断したようだった。
簡単に行われた魔法だが、これは『時魔法』の『空間除外』の応用であった。使う魔力は『空間除外』より少ないが、範囲を絞り声だけを遮断するという使い方は難度的には更に上であった。
そんな魔法をあっさりと使うバルドを見たレアは、感心すると共にこの後の展開に興味を持たされる。
「貴方は一体、私に何を話すつもりかしら?」
バルドは真剣な表情を浮かべたままで口を開いた。
「レアさん。単刀直入にお尋ねしますが、貴方はこの世界の魔族ではありませんね?」
開口一番に『バルド』から告げられた言葉はレアを驚かせた。
「どうしてそう思ったのかしらぁ?」
「貴方が普段から纏っている障壁の『理』。それはこの世界の『理』ではない事がまず一点。それにこの世界に居ながらにしてソフィ様の存在や、先の戦争で起きた事を知らない事が更に一点。そして今日あの屋敷で魔導書に潜んでいた悪魔と戦った時の魔法陣の刻印。これらを顧みればこの世界の魔族では無いという事の証明になりますな」
レアはこのバルドの理論を聞いて、この世界が『リラリオ』の魔族達とは、全く比較にならないレベルだと言う事を悟る。
レアは『レパート』から『リラリオ』の世界に渡った後の十年間で、独自の『理』を用いた障壁を展開している事をまだ気づかれたことはなかった。
リラリオの『理』を管理する『精霊』達ですら、レアの扱う『理』や『障壁』といったモノがどういうものかなど。検討もついていなかっただろう。
――そしてそれは確かにその通りであった。
精霊達はレア使う魔法に興味を示しはしていたが、その中身に対しては全く無知に等しく、単に効力に目がいっているだけの『興味』の域に過ぎず、具体的にどういったモノかを調べたり、自分達で出来るだけ解き明かそうと模倣を行ったりする素振りさえ『精霊族』達は見せなかった。
どこかで自分達は『理』を生み出した存在なのだと、自前の自己認識の高さや自尊心が邪魔をして『関心』や『興味』に対して積極的に手を伸ばそうとまではしなかったのだろう。
「なるほど。確かにご明察ね。私はここ『アレルバレル』とは違う世界の『レパート』という世界の魔族にして『大魔王フルーフ』の直属の配下よぉ」
レアの言葉を聞いてやはりそうかとバルドは頷きを見せる。
「それで私が別世界来た魔族だとして、どうしようというのかしら?」
バルドがどうしたいのかによって、今後のレアの行動は大きく変わる。
「レアさん……。残念だがこの世界にはもう『フルーフ』殿は居ないのですよ」
「は?」
突然のバルドの言葉に呆然とするレアであった。
「フルーフ殿はソフィ様と知己の間柄だったのだが、突然に姿を消してしまってね。ソフィ様はフルーフ殿が突然居なくなったことで心配されておったのだが、その直後に大魔王『ヌー』という愚か者がソフィ様に対して戦争を仕掛けたきよったのです」
レアは黙ってバルドの言葉に耳を傾け続ける。
「ヌーはソフィ様に従う事を由としない魔族達と手を組み。このアレルバレル中の多くの魔族を巻き込んだ大戦争に発展させたのです」
「今もソフィっていう魔族が支配者だという事は、それだけ多くの魔族を同盟にしても『ヌー』という輩は負けたのかしら?」
バルドの言葉を聞かなくても分かりきった質問だが、レアは歴史の流れを掴むために敢えてそう質問するのだった。
「各所的にはヌーの軍勢は勝利を収めていたといっていいでしょうが、本丸であるこの大陸にあるソフィ様の魔王城一帯に攻め込んできた魔王達は全滅しました」
「へぇ……? 話を聞いているとソフィの軍勢より、ヌーの軍勢の方が多かったように聞こえたようだけど、そんなに差があったのかしら?」
魔族が魔王以上の領域に踏み込んでしまえば、数というモノは全く意味を為さない事は知っている。
しかし同じ『魔王』同士の戦争ともなれば、また話は少し変わってくる。魔王の領域に辿りついた力がある者達。つまり質を持った量がある一派が上にくるのは自明の理であるからだ。
「ソフィ様の軍勢とヌー達の連合魔王軍の軍勢では『数』の上ではヌー達の連合軍が上でしたが『質』ではソフィ様の軍勢の方が、圧倒的に優れておりましたな」
「成程ね。ソフィには優秀な配下達が多かったのねぇ」
「いや、それももちろんありますが、この世界ではソフィ様に勝てる生物など存在致しませんな。例えソフィ様一人が相手をなされても、ヌーを含めた大魔王連合軍は敗れ去っていたでしょう」
「は?」
話の流れが突然変わったように感じられたレアは、素っ頓狂な声をあげた。どうやらこのバルドという集落の長老とやらは、ソフィという魔族を崇拝する信者のように感じられたのである。
(話が見えてこないわねぇ? このバルドは私に何をしようというのかしら? 私が屋敷で力を示した事で、ソフィという魔族にとって脅威をもたらせる恐れがあると思って、この場で始末しようという事かしらぁ)
たとえ質が量に勝るとはいっても、大魔王の領域に居る者達が集っているのであれば、たった一人で勝てるというのはとてもでは無いが現実的では無い。
それにこのバルドという男がソフィに心酔しているのは、ソフィよりソフィの配下が優れているから勝てたともとれるレアの発言に、ムキになって論じ返してきたことからも容易に理解が出来た。
「それで私をここに呼び止めて、一体何をしようというのかしらぁ?」
「レアさん。貴方がフルーフ殿を大事に思う気持ちは分かるが故に、一つ進言しておきましょう」
「へぇ? 私に進言ですって?」
「フルーフ殿をこれ以上追うことは、止めておきなさい」
レアは突然のバルドの言葉に眉を寄せて不快感を露にし始めた。
「ハッ……! 突然何を言うかと思えば。まぁひとまずはその理由を聞いてもいいかしらぁ?」
「儂らが独自に調べた情報ですが、どうやらフルーフ殿はある『組織』に、目をつけられておったようでしてな。フルーフ殿がこの世界から姿を消したのは、その組織の連中が攫ったかもしれないのです」
「な、何ですって?」
「ここだけの話ですが、ソフィ様達もフルーフ殿の所在を掴もうと動いておる最中でしてな。これ以上は我々としても勝手に動いて欲しくはないのですよ。もちろん何か分かれば貴方にも教えて差し上げると約束しますので、ここで引いてはもらえませんかな?」
「それは出来ない相談ね。私はフルーフ様を探すためにここに来たのよ? 貴方たちに教えてもらわなくても自分で探し出して見せるわぁ」
レアがバルドの提案を断るような言葉を口にした瞬間。目の前の『バルド』の目つきが険しく変わるのだった。
「レアさん。先程も言いましたがね。フルーフ殿はソフィ様の大事な友人なのだ。ここで行方を逃すことは出来ぬ。ようやく組織の連中の存在を割り出した今、下手に貴方が嗅ぎまわられることで、その重要な足掛かりを失うわけにはいかぬのですよ」
「ふんっ! それは私には関係のないことね。貴方たちは貴方たちで動いていればいいじゃない。私は独自にフルーフ様を探すわよ? たとえ貴方がいくら止めようとしてもね」
勝手な言い分を告げてきたバルドに、真っ向からレアは対立するのだった。
「中途半端な力しかない貴方が、首を突っ込んでいい案件ではない。フルーフ殿を探す事はとても危険な事なのだ。貴方もまだ死にたくはないでしょう?」
その言葉にレアは更に苛立ちを覚える。
努力と研鑽を常に続けてきたレアに対して、中途半端な力と吐き捨てる目の前の老人に、レアは何が分かると言いたげな目で睨む。
「貴方は私が弱いとでも言いたいのかしらぁ? こう見えてもねぇ、私は一つの世界を支配した実績を持っているのよぉ?」
それはレアが少し前まで居た『リラリオ』の世界の事を指していた。
曲がりなりにもその世界は『龍族』という、かなりの上位の戦力値を持つ者が支配する世界だった。
その世界をたった一体で支配して見せたレアは、ある種『矜持』を持っている。
――だが、次のバルドの言葉によって、そのレアの自尊心は深く傷つけられるのだった。
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