最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第370話 再開されたリーシャの試験

 レアは再び何かを言いたげにしていたが、そこでエイネは手を前に出して制止する。

「ちょっと待ってくださいね。貴方がボアを怯えさせたせいでかなり遠くまで行っちゃったみたい。このままだと森の外へと出てしまうかもしれないから、一度連れ戻しにいかせてください」

「え? ああ、それは別にいいけどぉ……」

 エイネはにこりと笑って、その場から一瞬で転移していった。

(今のもただの転移じゃなくて『高速転移』ねぇ? エイネといったかしら、只者じゃなさそうねぇ)

 そしてエイネは僅か数秒でボアを担いで戻ってきた。

「よいっ……、しょっと!」

 巨体のボアをあっさりとその場に下ろすエイネ。そんなエイネに向けてレアは『漏出サーチ』を放った。

 【種族:魔族 名前:エイネ 状態:通常魔力値:測定不能 戦力値:測定不能】。

(そ、測定不能……! 確かに今の私は『青』も『二色の併用』も使ってはいないけれど、素の状態でも戦力値の方は2億は越えていた筈。測定不能という事は目の前の女は、最低でも通常の状態の私より、戦力値が相当上なのは間違いない!)

「貴方、この世界の支配者の一味とか言わないわよねぇ?」

「は?」

 レアの突然の言葉にきょとんとした表情を浮かべるエイネ。

「私が見るに貴方の戦力値は4億を超えているわよね? それ程の強さを持っていると言う事は、この世界の支配者級だと私は思っているのだけど……」

「くすっ……」

 驚いた表情を浮かべていたエイネだったが、レアの言葉に笑い始める。

「な、何かおかしいことをいったかしら?」

「だって、私がこの世界の支配者だなんて、突然笑わせてきたのは貴方じゃないですか」

 エイネはもう我慢できないとばかりに大笑いを始める。

「確かにさっきこの森の外でローブを纏った魔族やら、大きな刀を背負った魔族も大きな力を持っていたけどぉ、貴方もその一味っていう事じゃないのぉ?」

 レアが先程遭遇した魔族達の特徴をエイネに伝えると、合点がいったとばかりに頷いた。

「あ、そうですよ! きっとそのローブを纏ってい御方こそが、我々魔族の王様です! 近くにソフィ様がいらしていたのね。そうだと知っていたら、一目拝ませて頂きたかった」

 羨ましいとばかりにレアを見るエイネ。

 そう様子からどうやら本当にこのエイネという女が支配者ではないようだ。

 それにしてもさっき遭遇した魔族達の中で一番戦力値が低かったローブの男が、どうやらこの世界の支配者だという話を聞いたレアは眉を寄せる。

「ローブの男が支配者だというのは本当の事なの!? 周りにいた魔族達のほうが戦力値が高い気がしたけどぉ」

 レアがそう言うと再びエイネはくすくすと笑い始めるのだった。

「ソフィ様はお優しいお方だから。普段は力を抑えてこの辺の魔物達に刺激を与えないようになさっているのよ」

「よく分からないけど、そのソフィという男が支配者なのね。支配者なのに優しいの? 貴方もさっき会いたいとか言っていたけど」

「ねぇ! いつまでも二人で話してないで私の試験を再開してよ!! つまんないよ!」

 レアが再び質問をしようとしたが、ずっと二人のやり取りを見ていた『リーシャ』がもう我慢できないとばかりに喚き出した。

「はいはいごめんね。レアさん。この子の試験を先にやってもいいかしら?」

 話の途中だったが試験の邪魔をしたのがレアだったために、渋々と了承するレアであった。

「いいけど。後でしっかりと説明してよね? 私も聞きたいことがいっぱいあるんだから!」

 レアがそう言うとエイネは、はいはいと告げて『リーシャ』に対する扱いをされる『レア』だった。

 納得がいかないレアだったが、これ以上は話を遅延させるだけだと引き下がる。レアが下がって場を開けるとエイネは気を失っているボアに手を充て始める。

 すると意識を失っていたボアが目を覚まして、主であるエイネに声をあげた。

「グオオオッ!」

 エイネがボアをなでると、そのボアは再び嬉しそうな声をあげる。

「よしよし、じゃあ『ボル』。悪いけどもう一回リーシャと戦ってあげてね?」

 エイネがそう言うと『分かった』とばかりに唸り声をあげて『リーシャ』の方に向き直る。

「じゃあリーシャ準備はいい? はじめるわよ?」

「おっけー!! いつでもいいよ!」

 リーシャは再び二本の短剣を手に持って構え始める。

 リーシャの様子を確認した後、エイネが小さく詠唱を始めるとボアの目が出会った時のように紅くなり始めた。

(あのボアの戦力値が一気に跳ね上がった!? どうやら今のがこの世界の『ことわり』の魔法なのかしら?)

 この世界の魔族ではないため、レアはエイネが何をしたのかは分からないが『レパート』の『ことわり』のように、このアレルバレルの世界の『ことわり』なのだろうとアタリをつけるレアであった。

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