最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第350話 セレス王女に敵意を向けられる魔王レア

 ラクス達がラルグ魔国へ到着したとき、視界に入ったのは龍達と戦うレアの姿だった。

 彼女は龍の返り血一つ浴びずに向かってくる龍達を次々と薙ぎ倒していく。

 遠くから炎を吐かれると同時にレアはそこから姿がなくなり、次の瞬間には炎を吐いた龍が白目を向いて空から落とされていく。そして姿を現したと同時に攻撃をして、そして再び姿が消える。

「す……っ、すげぇ……!!」

「!」

 感嘆の声を漏らすラクスと、目を剥くように驚きながらレアを視るセレス王女。

 今もラルグ上空から数匹単位で龍達が次々と倒されて落ちてくる。神々に近い種族とされる龍族が、たった魔族一人を倒せずにいた。

「戻ってきたみたいねぇ? んぅっ?」

 ラクスを『漏出サーチ』で感知したレアがそちらに向く。そしてエリスを連れてきたのだとばかり思っていたレアは、そこで隣にいるのがエリスではなく、小さな子供であったことで眉を寄せながら声をあげるのだった。

 戦闘の最中にあるにも拘らず、余所見をするレアに龍族達は怒りの形相を浮かべる。

「舐めるなぁっ!!」

 龍達が群れを成しながら長い尾を絡ませるように、空を泳ぎながらレアに突っ込んでくる。

 しなやかに動く龍達は見事な連携を見せながら、一気にレアを食いちぎろうとばかりに口を開けて突っ込んでくるのだった。

 一瞬の隙を狙いその龍の大口にレアは、飲み込まれたようにラクス達は見えた。

「レア!?」

 だが、あと一歩でレアを飲み込めるという状態で、その龍は虚ろな目で止まった。

 レアの目が『金色』に輝き、強引に龍の足を止めたのだった。

「ちょっとあなたは黙ってなさい」

 ――神域魔法、『点風ヴァン・ポイント』。

 次の瞬間。レアの周りに恐ろしい程の風が生じたかと思えば、周りにいた龍達は全てその風に飲み込まれて全身を風で切り刻まれながら、遠くへと吹き飛ばされていった。

 レア達の近くに龍達は完全に居なくなった。一体何体の龍達を相手にしていたのだろうか、地面には恐ろしい程大きな体をした龍達が無造作に転がっており、重なり合うように倒れていた。

 元々ラルグ魔国へと向かっていたブリューセンの部隊。そして三隊に分かれて各地を争っていた部隊。トウジンからこちらに向かっていった部隊。そしてラクス達の前を飛んで行った龍族の部隊。その全ての龍達はレアというによって、全滅させられたのだった。

 唖然とした表情を浮かべながら、ラクスは『金色』の目をした幼女を下から見上げる。

「こ、これが『魔王』。わたしたちとは全く違う生き物だ……」

 背後からまるでこの国の王を憎い敵のように、表すセレスの言葉が聞こえてくる。

 その声を聴きながらラクスは複雑な面持ちをしながら、こちらに向かって降りてくるレアに視線を向けるラクスだった。

 …………

「おかえりなさぁいラクスちゃん。どうやら無事で何よりのようだけどぉ、エリスちゃんはどうしたのかしらぁ?」

 言葉はラクスに向けられているが、レアの視線はその隣にいるセレスを捉えている。

「その事なんだが、落ち着いて聞いてくれレア……」

 言い難そうにしながらも真剣にレアの目を見て話すラクスに嫌な予感を感じたのか、レアもそこでようやく視線をラクスに移しながら言葉を待つ。

「俺が向かった時にはすでにレイズ魔国は陥落させられていた。そこに居た生存者はここにいるセレスだけで、エリス女王は……」

 その言葉にレアは、信じられないといった表情を浮かべながらラクスの言葉を遮る。

「待ちなさい。結界が破られて直ぐに貴方を『レイズ』魔国に向かわせた筈よ? そんな、まさか……! 『魔王』の領域に居るエリスちゃんが、そ、そんなまさか……一方的に?」

 ここに攻めてきた龍族と同じくらいの強さであれば、ラクスでさえも倒せる筈である。

 レアが鍛えたエリスはすでに『覚醒した魔王』へと昇華していて、更にはその証である『淡く青い』オーラも体現させていた。

 戦力値は1億を優に越えている筈であり、たとえ数十体の龍に囲まれていたとしても、レパートの世界の『ことわり』の魔法も教えてある『エリス』が、こんな短時間でやられるとは思えなかった。

「お母様は、我が国の同胞を庇い戦死したよ……」

 そこで今まで黙っていたセレスがぽつりと言葉を漏らした。

「貴方はエリスちゃんの……?」

 レアに視線を向けられたセレスは、ラクスを見ていた時とは違い、恐ろしく冷徹な目でレアを睨み返していた。

「初めまして『。私はレイズ魔国王エリスの娘『セレス』です」

「!!」

 レアはまさか自分の治める大陸で、これ程までにを向けられるとは思わなかった。

 声に棘があるわけでもなく、ただ自己紹介をされただけであるにも拘らず、セレス王女の目はを見るような、それ程までに冷たい目だったのである。

「お、おいっ、お前……!」

 そこで隣にいたラクスが、セレスの態度を咎めるように口にするのだった。

「いいのよぉ……」

 今も自分に対して睨みつけるような視線を送ってくる『セレス』にレアは言葉を紡ぐ。

「貴方。龍族に狙われる原因を作った私が憎いのよねぇ? ごめんねぇ」

 ラクスは驚いた表情でレアを見る。今までラクスはレアが素直に謝罪をする姿を見たことがなかった為である。それも心底申し訳なさそうな態度で謝罪をするレアであった。

「ぅ……っ、うううっ!!」

 その言葉に下唇を噛みながら声にならない声をあげて、やがてセレス王女はその場でぽろぽろと涙を流し始めるのだった。

 ――その視線はのままだった。

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