最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第331話 違う世界の理と魔法概念
自室で精霊の事を考えていたレアは、今後どうするべきかを思案していた。
「エリスちゃん達には悪いけど、やっぱり私が新たな『理』を、一から教えるべきなのかしらねぇ」
レイズ魔国王であるエリスは、配下の魔族達に魔法で戦うという術を教え始めており、徐々に魔法部隊の編制にも力を費やし始めていた。
その事についてはレアとしては歓迎すべき事であり、ようやくこの世界の魔族達が前へと進み始めたといえる事なのだが、今回の悩みの種となっている出来事とは精霊の作り出した『理』の問題がそれを邪魔しているという事なのである。
今ここでレアが魔人と同様に精霊族を滅ぼしてしまえば、精霊の『理』の依存が邪魔をしてしまい、魔族達は魔法を使えなくなってしまう事だろう。
代替案としてレア達の世界の『理』をエリスを通して理解させようとしたが『魔』の才能を持っているエリスでさえ、おそらく数十年から下手をすれば数百年はかかると前回レアは感じた。
このままレアがこの『リラリオ』の支配者として、何時までもこの世界に留まり続けるつもりであれば、ゆっくりと時間をかけてでも『レパート』の世界の『理』が世界中に浸透するまで待つということも出来るのだが、当然そんなわけにはいかない理由がある。
何故ならレアとしては一刻も早くこの世界を支配し終えて『レパート』の世界へ戻り、フルーフ様の元へと帰らなければならないからだ。
――だが、レアは気づいていなかった。
ここに来た当初のレアであればこの世界の『魔』の『理』がどうなろうが知ったことではなく、さっさと精霊族を滅ぼしていたであろう。
しかし今のレアはこの世界の同胞達の為に、精霊の『理』を失わせずに、また『魔法』をこれまで通りに使えるように、どうにかしてやりたいと考えている。
もちろん優先すべきはフルーフなのは変わらないが、エリスやベイドそしてこの大陸に生きる魔族の為を思って、行動している彼女がいる事は間違いなく事実なのである。
それが同胞を想う気持ちなのか、はたまた単なる情なのかは親と思っている『フルーフ』以外に親しく接した事のないレアにとっては、まだまだ気づくことは出来ないのだった。
「『理』ってそんなに難しく考える必要はないんだけどなぁ。魔法の発動さえ最初に覚えたならば、あとはいくら『理』が変わろうとも『発動』と『魔力』の相互関係を汲み取って、自分がやりたいように気持ちを押し出せばいい筈なんだけどねぇ?」
そう独り言ちるレアは、二つの『理』を同時に使い魔法を唱える。
――左手でこの世界の『理』を使った『終焉の炎』と、右手でレパートの『理』を使った『終焉の炎』。その二つの超越魔法を同時に手の平の上で掌握する。
別々の『理』を介したにも拘らず、互いにほぼ同一の魔力を有して発動させられたのだった。
簡単に別の『理』を使った魔法を発動させたレアだが、簡単なように見えてこれは、普通の魔族からしてみれば、決して簡単には真似が出来ないような非常に高等なテクニックを織り交ぜられて使われている。
今レアが使っている技術は、現代に生きるこの世界のどの魔族であっても真似ができる物ではない。あくまで『二色の併用』という更に高難易度な『力』を会得するに至った、まさに努力をし続けたレアだからこそ可能としているのだった。
しかし今後の事を考えると、他の魔族達やこの世界に生きる魔法使いにとっては精霊達の『理』よりも、レア達の世界の『理』を理解し広めていってもらったほうが良いだろう。
――レアから見た精霊達の『理』は、その扱う魔法に限界がある為であった。
この世界の『理』では、あくまで天井となる魔法が『超越魔法』であり、レア達の使う『神域魔法』といった領域には絶対に届かない。
それこそ『真なる魔王』や『大魔王』。更にその上まで目指すのであれば、レア達の世界やソフィ達の世界の『理』を覚えなければ、いずれは頭打ちになってしまうのである。
「今を取るか、先を取るかの選択が迫られているわねぇ」
レアはこの世界に生きる、魔族達の未来の事を考えてそう呟くのであった。
そして次の日。レアはラクスに稽古という名のシゴキを終えた後、エリス魔国王のいるレイズへと向かった。レイズ魔国の魔法部隊の進捗を見る為である。
レアがレイズ魔国にある訓練場へ着くと、エリス女王の叱咤する声が聞こえてきた。
「魔法は闇雲に使うモノではありませんよ! 相手の行動を見て魔力の消費を抑えながら、相手を追い詰めるのです!」
「も、申し訳ありません! 女王!」
どうやら訓練場では魔族達が、紅組と白組に分かれて戦っているようである。実戦を考えた模擬戦闘が行われているようだった。
「研鑽を積んでいるわねぇ? いいことよぉ」
――そんな訓練場に幼女の声が響き渡った。
魔族達はその声につられるようにレアの方を見る。
そしてその声の正体が魔族の王である事を知ると、直ぐにその場に全員が跪いた。
「れ、レア様!!」
魔族達に指示を出していたエリス女王もまた、慌ててその場でレアに跪くのだった。
「そんな事しなくていいから、さっさと続きをしなさい? 私が見ていてあげるわぁ」
レアがそう言うと、跪いていた魔族達は嬉しそうに顔を上げた。
この場に居る魔族達は『魔』を追求する事が仕事の魔法部隊である。そこにレアという自分達の領域の遥か先へ行っている『魔』の先駆者が現れたわけである。
そんなレアに修行を見てもらえるのかもしれないと考えた魔族達が、大袈裟と思える程に喜ぶのも仕方のない事であった。
再び魔族同士でチーム戦が再開されたのを満足そうに眺めるレアだったが、そこにエリスが声をかけてきた。
「突然でしたので驚きましたよ。本日はどうなされたのですかレア様」
「急にきてごめんねぇ? 貴方の国の魔法部隊をこの目で見ておきたくてね」
そう言ってレアは、稚拙ながらも魔法で戦う魔族達の様子をその目で追い続ける。
だが、才能あるエリスに教えられていた魔族達は、決して稚拙ながらも戦い方は悪くはない。
使う魔法や魔力はまだまだだが連携が取れており、レアを以てしてもなかなかに上手いと思わせる行動を彼らはとっていた。
「最初に牽制に魔法を使う者。それに合わせて相手がとる行動を見てから判断して、仲間が魔法を使っているわねぇ? これは貴方の教えかしらぁ?」
もしこれが彼らが個々で考えた上での動きであれば、この国の魔法部隊はかなり強くなるだろうとレアは思うのだったが、返ってきた言葉はやはりというべきか違っていた。
「はい、私が教えました。この魔法部隊はまだまだ編成されたばかりの部隊です。魔法や魔力はまだまだこれからなので、まずは実戦での身の置き方や戦い方を教えようと思いまして」
その言葉に満足そうに頷くレアであった。
「うんうん、間違ってないわよぉ! 大変よろしいよぉ」
そう言ってレアは隣に並び立っていたエリスの頭を宙に浮いた後に撫でるのであった。
「お、お戯れを!」
エリスは顔を赤くしながら後ずさる。その様子を見てレアはにやにやと笑うのであった。
「でもそうねぇ……。こうして頑張っている者達を見ていると、やっぱり精霊達を滅ぼすのはやめにして他に屈服させる方法を考えたほうがいいのかしらねぇ」
エリスはその言葉に驚いた顔でレアを見る。レアという魔族の王は、この世界を支配しようとしていたのをエリスはよく知っている。
この大陸の王となる前にレアが言っていた言葉の中に『魔族をこの世界で一番の種族にしてやる』というような言葉があった。
それはつまり『人間族』や『魔人族』。それに『精霊族』に『龍族』の全ての種族を支配して、この世界を支配しようという事である。
――だが決してそれは簡単な事ではない。
精霊は魔族の歴史より長くこの世界に君臨してきた種族であり自尊心もある。
レアが如何に強いといっても脅しには屈さず、そうなった場合は戦争を選ぶであろう。隷属や支配して屈服させるというのは、滅ぼす以上に難しい事なのである。
それにエリスから見てこの国の魔族に手を出してきた精霊族をレアが許すとは、到底思えなかったのである。
だが――。
今レアが告げた言葉は、レアのそんな理念を曲げてまでこの国に生きる者たちを考えての発言だったのだとエリスは理解する。
(このお方は私たちの事を真摯に考えて下さっている。何か私達にできる事はないのかしら?)
そして言葉を告げたレア自身も葛藤を続けていた。
(フルーフ様の言葉は最優先だけどぉ。何か精霊達を滅ぼさずに、支配するいい方法はないものかしらぁ……)
目の前で模擬戦が行われる最中、二体の魔国王は互いにそれぞれの思惑を抱えるのであった。
「エリスちゃん達には悪いけど、やっぱり私が新たな『理』を、一から教えるべきなのかしらねぇ」
レイズ魔国王であるエリスは、配下の魔族達に魔法で戦うという術を教え始めており、徐々に魔法部隊の編制にも力を費やし始めていた。
その事についてはレアとしては歓迎すべき事であり、ようやくこの世界の魔族達が前へと進み始めたといえる事なのだが、今回の悩みの種となっている出来事とは精霊の作り出した『理』の問題がそれを邪魔しているという事なのである。
今ここでレアが魔人と同様に精霊族を滅ぼしてしまえば、精霊の『理』の依存が邪魔をしてしまい、魔族達は魔法を使えなくなってしまう事だろう。
代替案としてレア達の世界の『理』をエリスを通して理解させようとしたが『魔』の才能を持っているエリスでさえ、おそらく数十年から下手をすれば数百年はかかると前回レアは感じた。
このままレアがこの『リラリオ』の支配者として、何時までもこの世界に留まり続けるつもりであれば、ゆっくりと時間をかけてでも『レパート』の世界の『理』が世界中に浸透するまで待つということも出来るのだが、当然そんなわけにはいかない理由がある。
何故ならレアとしては一刻も早くこの世界を支配し終えて『レパート』の世界へ戻り、フルーフ様の元へと帰らなければならないからだ。
――だが、レアは気づいていなかった。
ここに来た当初のレアであればこの世界の『魔』の『理』がどうなろうが知ったことではなく、さっさと精霊族を滅ぼしていたであろう。
しかし今のレアはこの世界の同胞達の為に、精霊の『理』を失わせずに、また『魔法』をこれまで通りに使えるように、どうにかしてやりたいと考えている。
もちろん優先すべきはフルーフなのは変わらないが、エリスやベイドそしてこの大陸に生きる魔族の為を思って、行動している彼女がいる事は間違いなく事実なのである。
それが同胞を想う気持ちなのか、はたまた単なる情なのかは親と思っている『フルーフ』以外に親しく接した事のないレアにとっては、まだまだ気づくことは出来ないのだった。
「『理』ってそんなに難しく考える必要はないんだけどなぁ。魔法の発動さえ最初に覚えたならば、あとはいくら『理』が変わろうとも『発動』と『魔力』の相互関係を汲み取って、自分がやりたいように気持ちを押し出せばいい筈なんだけどねぇ?」
そう独り言ちるレアは、二つの『理』を同時に使い魔法を唱える。
――左手でこの世界の『理』を使った『終焉の炎』と、右手でレパートの『理』を使った『終焉の炎』。その二つの超越魔法を同時に手の平の上で掌握する。
別々の『理』を介したにも拘らず、互いにほぼ同一の魔力を有して発動させられたのだった。
簡単に別の『理』を使った魔法を発動させたレアだが、簡単なように見えてこれは、普通の魔族からしてみれば、決して簡単には真似が出来ないような非常に高等なテクニックを織り交ぜられて使われている。
今レアが使っている技術は、現代に生きるこの世界のどの魔族であっても真似ができる物ではない。あくまで『二色の併用』という更に高難易度な『力』を会得するに至った、まさに努力をし続けたレアだからこそ可能としているのだった。
しかし今後の事を考えると、他の魔族達やこの世界に生きる魔法使いにとっては精霊達の『理』よりも、レア達の世界の『理』を理解し広めていってもらったほうが良いだろう。
――レアから見た精霊達の『理』は、その扱う魔法に限界がある為であった。
この世界の『理』では、あくまで天井となる魔法が『超越魔法』であり、レア達の使う『神域魔法』といった領域には絶対に届かない。
それこそ『真なる魔王』や『大魔王』。更にその上まで目指すのであれば、レア達の世界やソフィ達の世界の『理』を覚えなければ、いずれは頭打ちになってしまうのである。
「今を取るか、先を取るかの選択が迫られているわねぇ」
レアはこの世界に生きる、魔族達の未来の事を考えてそう呟くのであった。
そして次の日。レアはラクスに稽古という名のシゴキを終えた後、エリス魔国王のいるレイズへと向かった。レイズ魔国の魔法部隊の進捗を見る為である。
レアがレイズ魔国にある訓練場へ着くと、エリス女王の叱咤する声が聞こえてきた。
「魔法は闇雲に使うモノではありませんよ! 相手の行動を見て魔力の消費を抑えながら、相手を追い詰めるのです!」
「も、申し訳ありません! 女王!」
どうやら訓練場では魔族達が、紅組と白組に分かれて戦っているようである。実戦を考えた模擬戦闘が行われているようだった。
「研鑽を積んでいるわねぇ? いいことよぉ」
――そんな訓練場に幼女の声が響き渡った。
魔族達はその声につられるようにレアの方を見る。
そしてその声の正体が魔族の王である事を知ると、直ぐにその場に全員が跪いた。
「れ、レア様!!」
魔族達に指示を出していたエリス女王もまた、慌ててその場でレアに跪くのだった。
「そんな事しなくていいから、さっさと続きをしなさい? 私が見ていてあげるわぁ」
レアがそう言うと、跪いていた魔族達は嬉しそうに顔を上げた。
この場に居る魔族達は『魔』を追求する事が仕事の魔法部隊である。そこにレアという自分達の領域の遥か先へ行っている『魔』の先駆者が現れたわけである。
そんなレアに修行を見てもらえるのかもしれないと考えた魔族達が、大袈裟と思える程に喜ぶのも仕方のない事であった。
再び魔族同士でチーム戦が再開されたのを満足そうに眺めるレアだったが、そこにエリスが声をかけてきた。
「突然でしたので驚きましたよ。本日はどうなされたのですかレア様」
「急にきてごめんねぇ? 貴方の国の魔法部隊をこの目で見ておきたくてね」
そう言ってレアは、稚拙ながらも魔法で戦う魔族達の様子をその目で追い続ける。
だが、才能あるエリスに教えられていた魔族達は、決して稚拙ながらも戦い方は悪くはない。
使う魔法や魔力はまだまだだが連携が取れており、レアを以てしてもなかなかに上手いと思わせる行動を彼らはとっていた。
「最初に牽制に魔法を使う者。それに合わせて相手がとる行動を見てから判断して、仲間が魔法を使っているわねぇ? これは貴方の教えかしらぁ?」
もしこれが彼らが個々で考えた上での動きであれば、この国の魔法部隊はかなり強くなるだろうとレアは思うのだったが、返ってきた言葉はやはりというべきか違っていた。
「はい、私が教えました。この魔法部隊はまだまだ編成されたばかりの部隊です。魔法や魔力はまだまだこれからなので、まずは実戦での身の置き方や戦い方を教えようと思いまして」
その言葉に満足そうに頷くレアであった。
「うんうん、間違ってないわよぉ! 大変よろしいよぉ」
そう言ってレアは隣に並び立っていたエリスの頭を宙に浮いた後に撫でるのであった。
「お、お戯れを!」
エリスは顔を赤くしながら後ずさる。その様子を見てレアはにやにやと笑うのであった。
「でもそうねぇ……。こうして頑張っている者達を見ていると、やっぱり精霊達を滅ぼすのはやめにして他に屈服させる方法を考えたほうがいいのかしらねぇ」
エリスはその言葉に驚いた顔でレアを見る。レアという魔族の王は、この世界を支配しようとしていたのをエリスはよく知っている。
この大陸の王となる前にレアが言っていた言葉の中に『魔族をこの世界で一番の種族にしてやる』というような言葉があった。
それはつまり『人間族』や『魔人族』。それに『精霊族』に『龍族』の全ての種族を支配して、この世界を支配しようという事である。
――だが決してそれは簡単な事ではない。
精霊は魔族の歴史より長くこの世界に君臨してきた種族であり自尊心もある。
レアが如何に強いといっても脅しには屈さず、そうなった場合は戦争を選ぶであろう。隷属や支配して屈服させるというのは、滅ぼす以上に難しい事なのである。
それにエリスから見てこの国の魔族に手を出してきた精霊族をレアが許すとは、到底思えなかったのである。
だが――。
今レアが告げた言葉は、レアのそんな理念を曲げてまでこの国に生きる者たちを考えての発言だったのだとエリスは理解する。
(このお方は私たちの事を真摯に考えて下さっている。何か私達にできる事はないのかしら?)
そして言葉を告げたレア自身も葛藤を続けていた。
(フルーフ様の言葉は最優先だけどぉ。何か精霊達を滅ぼさずに、支配するいい方法はないものかしらぁ……)
目の前で模擬戦が行われる最中、二体の魔国王は互いにそれぞれの思惑を抱えるのであった。
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