最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第311話 龍族の王、魔族の王に注目する

「こ、こんな馬鹿な事が……!?」

 遠く離れた龍族の住む『ターティス』大陸では、龍達が空に浮かんでいる映像にそう声を漏らした。

「ディラルク、あいつの姿をよく見ておけ」

「え!?」

「近い未来、あの魔族はだろうからな」

 そう言う始祖龍キーリの身体は、緑のオーラに纏われていた。その様子にディラルクは、呆然としながらも空に浮かんでいる映像を再び見るのだった。

 ……
 ……
 ……

 魔人の大半を殺し尽くた『魔王』レアは残った魔人の前にとうとう姿を見せた。息切れ一つせずにあれだけの戦闘を終えた後、今もまだ『青いオーラ』に包まれているレアを見て『幹部級』の魔人達は知らず知らずの内に恐怖に怯えて後ずさる。

「さーて……。全世界へお披露目会は無事に成功したようねぇ? 後はお前達との戦闘を楽しみましょうかぁ」

 そう言ってレアは射抜くように魔族の王『シュケイン』を見る。

「な、なんと、いう……事だ……」

 シュケインは目の前の『魔王』を前に眩暈を起こしてフラつく。

「しゅ、シュケイン様!!」

 慌てて『幹部級』の魔人『バラン』が『シュケイン』の身体を支えるのだった。

 しかしシュケインがこうなるのも無理はないだろう。まさかこんな結末になるとは誰も予想をしていなかったのだから。

 ――格下と見ていた魔族。それもたった一体の子供相手に『幹部級』を含めた全軍出撃命令。

 バランは戦争に勝利する事に何の疑いも持たなかった。それどころか他種族から臆病者と思われるかもしれないと、彼は見当違いの心配までしていたのだ。

 それが蓋を開けてみれば、まさかの魔族の子供一体にほぼ全ての魔人が全滅である。

 そしてこの時に残っているのは『幹部級』と『王』のみなのである。

 ――たった数分の出来事だった。

 最初の悍ましい魔法一発で『下級兵』全体が吹き飛び、あの魔族の姿が消えたと同時にあっさりと『中級兵』と『上級兵』が、まるでカマイタチが通り過ぎたかの如く、身体を次々と切り刻みながら、一体一体確実に息の音を止められていった。

 バランは『スクアード』をすでに発動させて身体強化をしていた。だからこそ身体強化で目まで強化してしまい、余計に見えなくていいものまで見えてしまっていた。

 ――あの魔族は特別に魔法を使ったわけではなく、ただ単に転移を繰り返しながら楽しそうに一体一体殺して回っていたのだ。

 腕を振るうだけで衝撃波を起こして魔人の固い皮膚をまるで豆腐のようにスパスパと切りつけながら、軽く首を掴むだけであっさりと捥げていった。

 『上級兵』までの魔人は、さぞ恐怖だっただろう――。

 敵の姿が見えずに次々と仲間の至る箇所から血飛沫をあげて、絶命していく姿を間近で見させられて気が付けば自分の首まで跳ね飛ばされているのだから。

「お、俺達は………、魔人だぞ! に、負ける筈がなぁぁああい!!」

 【種族:魔人 序列:8位 アディア(幹部級) 戦力値:1億5300万】。

 アディアは『スクアード』を纏いながら、目の前の『魔王』レアに向かっていく。

 彼は魔人の『幹部級』の中でも力が強く『リオン』や『リーベ』よりも序列が上の選ばれた魔人であった。

 ――しかし。

 ひゅっという風を切るような音が聞こえたかと思うと『魔王』の姿が消える。そして次の瞬間にはアディアの首が胴体からスパリと切断されて、噴水のように血があがるのだった。

 『魔王』レアにとって『幹部級』の魔人のアディアと『下級兵』の魔人に差など感じない。

 ――であった。

「このままだと『』を試すまでもなく終わるわねぇ? もっと強い奴はいないのかしらぁ」

 そう言って残っている魔人達を見下すように告げる『魔王』レアであった。

 ……
 ……
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