最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第276話 世界を掌握する力

 ソフィの精神はヌーの魔法よって強制的に消失させられている今、ソフィを守ろうとする防衛本能とも呼べる

 だが現在ソフィは思いの他多くのダメージが与えられている為、それよりも早くヌーが攻撃魔法を放てば、流石にソフィといえども戦闘不能状態に陥らせる事が可能だろう。

 本来であればこの状態のソフィであっても、ヌーが相手でなければ何の脅威にもなりえない状況下にあった。

 しかしその戦っている相手は『アレルバレル』の『魔界』出身の全魔族の中でも、『大魔王』ヌーなのである。

 ――ソフィに届き得る存在が、満を持して全てを終わらせる準備に取り掛かった。

 対するソフィはここにきて過去に一番最強と呼べた状態、大賢者と戦うに至った形態、その本領へと姿を変えていく。

 力ある魔族が到達する『紅』。力ある魔王が到達する『青』。そして研鑽に研鑽を重ねた者が才能というファクターを重ね合わせて到達する『二色の併用』。

 ――そしてそしてそれすらも上回る『金色のオーラ』。

 それは生まれ持った素質がある者にだけ体現出来る物で、先天性の神の贈り物と呼ばれる魔族の能力向上の最大を誇るオーラの色。

「『無限の空間、無限の時間、無限の理に住みし魔神よ、悠久の時を経て、契約者たる大魔王の声に応じよ。我が名はソフィ』」。

 ――だが、ソフィがその進化の形状を身に纏うまでの刹那。すでにこちらもまた完成形と呼べる魔法。

 ヌーの340億の魔力が注ぎ込まれた、対ソフィの為だけに開発された神域魔法。その邪悪で禍々しい魔法は、ソフィという対象を根底から破壊するためだけの魔法であった。

 その魔法が産声を上げるかの如く、現世に体現しその存在意味と存在理由を示すかの如く、真っすぐに一直線にソフィに放たれた。

 ――神域魔法、『エビル』。

 ソフィに放たれたその神域魔法は、恐ろしい威力を以てソフィを覆い尽くす。精霊が司る四元素の魔法とは違い、まさに漆黒の闇の深淵にあるモノ。

 大魔王『ヌー』がそれのみに注視しそれのみに注ぎ込み『』を化け物を殺す為だけに開発された魔法。

 精神を奪い本人に自覚させること無く、だがしかし確実に与え続けたダメージ。

 そして一気にそれらのダメージを集約させて増幅させた後に、ヌーが出せる最大最恐魔法。その緻密に計算された全てが、今ソフィを飲み込んだのだ。

「……間に合った! ふ、ふははは!!」

 大魔王ヌーは笑う。おかしくて笑うのではない――。

 大魔王ヌーは笑う。嘲笑しているわけではない――。

 大魔王ヌーは笑う。――。

 ――大空を闇が覆う。

 リラリオの世界のヴェルマー大陸だけではない、リラリオの世界、全ての空を禍々しい闇が覆うのだ。

 勇者の放つ光が世界全てを照らすと言うのであれば、魔王の放つ闇は世界全てを覆う。

 全ての世界に定められた運命。その運命こそ『力』がある者が創り出す物なのだ。ここにヌーという大魔王は一つのを示した。、疑いようのない王の力である。

 …………

「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。敵を滅ぼす力を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ。我が名はソフィ』」。

 ――声が聞こえた。

 確実に息の音を止めた筈の化け物の方から、まるで何事もなかったかの如く声が。

「何だ……?」

 達成された願いに笑いを続けていたヌーが、ソフィの声に反応する。

「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。終焉を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ。我が名はソフィ』」。

 ソフィの目は虚ろであり、まだ精神は消失したままなのは見て取れる。

 つまりこの声はソフィの内に眠る大魔王本能が喋っている。

 ――そんな事はどうでもいい。

 『エビル』はどうしたのだ? 空を覆い隠す程の闇は? 何故その中心となった対象者が平然と喋っていられるのだ?

 ヌーは今起きている状況を理解出来ていないが、どうしようもない消失感が体中を駆け巡っているのを感じた。

 この感覚は久しいがそれ故に明確に記憶に残っている。大魔王ヌーにと同一であったためである。

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