最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第274話 ヌーの新魔法
ソフィとヌーの二体の大魔王の戦いが、ここ『リラリオ』の世界のヴェルマー大陸で始まった。
現在はまだ二体とも本気で戦ってはいないが、すでに大魔王ヌーは『金色のオーラ』を纏い始めている為に、このまま戦闘が長引けばいつ両者が本気になっても何もおかしくはない。
二人が本気で戦っていないとはいっても、すでに両者共の戦力値は百億を越えている。
この時点でリラリオの世界の魔族や、龍族といった上位種でも二体の戦闘に介入できない程である。
互いに放ち合っている簡単な魔法一つをとっても、大陸一つがあっさりと消滅する程の魔力なのである。
金色を纏うヌーの攻撃に『青』と『紅』の二色のオーラを纏いながら戦っていたソフィだが、徐々にヌーに追い詰められていく。
数千年前の時点では『ソフィ』のこの『二色のオーラの』状態で、ヌーの金色状態を圧倒出来ていた為に、ヌーが如何にこの数千年の間に力を増していたか分かると言うものだろう。
しかしヌーは心の内では喜んではいなかった。
ヌー程の力の持ち主であればソフィという存在が本気になった時、どうなるかが容易に想像がつくからである。
(出来ればこの化け物が本気になる前に、虚を突いて殺しておきたいところだが……)
すでに先程より徐々にソフィの力が強くなっていっている。
この化け物は敵が強ければ強い程意欲が高まっていき、気が付けば手が付けられなくなるのだ。出来ればこいつが本気になる前に殺しておきたい。
ヌーはそう考えて、実験体から会得した魔法の一つをここで放つのだった。
「実に楽しみだ。お前程の化け物であっても、未知なる魔法には慌てるのかがな」
そう言うとヌーは『フルーフ』の編み出した新魔法の術式を組み始める。
…………
ヌーの攻撃を受けている内にソフィは無意識に笑みを浮かべていた。
現在のソフィの戦力値は150億を優に超えているが、その状態であってもヌーが圧倒しているといっていい。そうであるのに拘らず、ソフィは悠然とした態度で焦りなど一切なかった。
――あるのは、もしかしたらという期待と不安。
ソフィは普段の戦闘で過度の期待をすることは少ない。
だがしかしソフィは一度期待感を募ってしまえば、全てを差し置いてそちらに意識を向ける。
(ああ……よい気分だ。レアと戦っているときも高揚感は感じていたが、このヌーという魔族はまだまだ底が見えぬ男だ。クックック、素晴らしく期待させてくれるじゃないか)
そこへ攻撃を続けていたヌーが一度手を止めた。高揚感に包まれていたソフィは、そこでヌーの様子を視る。
何やら見たこともない紋様の魔法陣が浮かび上がっていく。どうやら先程の死神を使役する魔法と同様に新魔法のようだった。
(この魔力の高まり、神域魔法か? 避けるか防御をするか、はたまた一度受けてみるか?)
ソフィは見た事のないヌーの新魔法に興味津々である。
――神域魔法、『精神除去』。
瞬間、ソフィの耳傍でカチッという鍵がかかったような音が聞こえたかと思うと、ソフィの思考は強引に遮断されて、何も考えられなくなってしまう。
「もう少し抵抗するかと思ったが」
確かに今ヌーが放った魔法は単なる大魔王であれば、防ぎようがない攻撃ではあったが、ヌーはソフィ程の存在であれば容易に対抗されると踏んでいた。
しかし実際に『精神除去』の魔法が発動されて、ソフィの目から色が消えた。
どうやらソフィは、わざとヌーの攻撃をその身に受ける事を選んだようである。
「クックック、まぁよい! どんな化け物であろうと考える思考そのものを奪われてしまえば、どうにもなるまい?」
ヌーの言葉通りソフィが纏っていた青と紅のオーラが消えて、戦力値が30億未満の大魔王化の通常状態に戻っている。
そしてヌーはすでにソフィを殺す為の魔法の詠唱を始めていた。
ソフィ程の大魔王であれば、精神を失くした状態でも何があるか分からない為である。
――そしてこの時のヌーの行動は正しかった。
過去にミールガルド大陸にて『スフィア』という、シーマのラルグ魔国所属の魔族がソフィに対して『光芒閃麗』という魔法を用いて現在のヌーの魔法のように一時的に、意識を失わせる事に成功したことがあるのである。
(※第80話 光芒閃麗)
しかしその状態からソフィの内に眠る魔王が目覚めてしまい、自動で目の前の脅威を取り除いた。
精神が消失したり意識を失わせたからといって、ソフィという大魔王を相手に油断をしてはいけない。
今の状態でようやくアドバンテージを取れたかもしれないと思い、手を抜かずにとどめを刺しに行かなければ勝利はあり得ないのである。
その事をどうやら理解している様子のヌーは、詠唱を完成させてソフィを殺す為の魔法を最大魔力で放つ。
――神域魔法『禍々崩』。
ソフィの周囲が禍々しい色に染まり、空気が汚染されていく。
ここにきてもヌーは手を抜くような事はしない。直接ソフィに対して攻撃を放つ事で、何らかの影響で『精神除去』の効力が失われる可能性がある。そう考えての周囲に影響を及ぼす魔法を選び抜いていく。
確実に間違いなくソフィを殺すには全ての可能性を削りながら、攻撃するくらいでちょうどいい。
この化け物に対しては、慎重過ぎるくらいでようやく安心できるくらいなのだから。
本来のヌーはこのように詰将棋をするかの如く攻撃をするのではなく、周囲を巻き込んで一気に攻撃して破壊するという事を常としている。
しかし過去アレルバレルの地でそのような行動に出て、手痛い敗北を経験してからは、ヌーはソフィに対して一切手を抜く事はあり得なかった。
…………
ソフィの精神は強引に除去されており『禍々崩』の影響で周囲の空気に毒が混ざり、少しずつソフィにダメージが蓄積されていく。
ソフィに対するというより、ソフィの周囲の空間に干渉しているせいで、自動で展開されている『障壁』等は全く防衛の意味を為してはいない。
そしてソフィ本人はこの汚染を防ぐ意識が落とされている状況下であり、対策など出来る状態ではない。つまりこのヌーの執拗なソフィ崩しは功を奏していた。
アレルバレルの世界という類まれな世界の化け物たちの巣窟。その頂点に延々と立ち続けたソフィが、長年No.2の座に苦しんできた『大魔王』が、ついに陥落させるところまで来たといっても過言ではなかった。
精神消失に周囲から徐々にソフィに入り浸る毒は、少しずつ少しずつソフィにダメージを与えていくのだった。
「まだだな……。まだもう少し弱らせなければ、こいつを確実には仕留められん」
ヌーはソフィの様子を観察し続けて、この状態で一気に極大魔法で沈めようとかと考えたが思いなおす。
ここにきて何がきっかけでソフィが復帰するか分からない。
ヌーは他者を警戒しながらも、ソフィに蓄積していくダメージを測り続けるのだった。
現在はまだ二体とも本気で戦ってはいないが、すでに大魔王ヌーは『金色のオーラ』を纏い始めている為に、このまま戦闘が長引けばいつ両者が本気になっても何もおかしくはない。
二人が本気で戦っていないとはいっても、すでに両者共の戦力値は百億を越えている。
この時点でリラリオの世界の魔族や、龍族といった上位種でも二体の戦闘に介入できない程である。
互いに放ち合っている簡単な魔法一つをとっても、大陸一つがあっさりと消滅する程の魔力なのである。
金色を纏うヌーの攻撃に『青』と『紅』の二色のオーラを纏いながら戦っていたソフィだが、徐々にヌーに追い詰められていく。
数千年前の時点では『ソフィ』のこの『二色のオーラの』状態で、ヌーの金色状態を圧倒出来ていた為に、ヌーが如何にこの数千年の間に力を増していたか分かると言うものだろう。
しかしヌーは心の内では喜んではいなかった。
ヌー程の力の持ち主であればソフィという存在が本気になった時、どうなるかが容易に想像がつくからである。
(出来ればこの化け物が本気になる前に、虚を突いて殺しておきたいところだが……)
すでに先程より徐々にソフィの力が強くなっていっている。
この化け物は敵が強ければ強い程意欲が高まっていき、気が付けば手が付けられなくなるのだ。出来ればこいつが本気になる前に殺しておきたい。
ヌーはそう考えて、実験体から会得した魔法の一つをここで放つのだった。
「実に楽しみだ。お前程の化け物であっても、未知なる魔法には慌てるのかがな」
そう言うとヌーは『フルーフ』の編み出した新魔法の術式を組み始める。
…………
ヌーの攻撃を受けている内にソフィは無意識に笑みを浮かべていた。
現在のソフィの戦力値は150億を優に超えているが、その状態であってもヌーが圧倒しているといっていい。そうであるのに拘らず、ソフィは悠然とした態度で焦りなど一切なかった。
――あるのは、もしかしたらという期待と不安。
ソフィは普段の戦闘で過度の期待をすることは少ない。
だがしかしソフィは一度期待感を募ってしまえば、全てを差し置いてそちらに意識を向ける。
(ああ……よい気分だ。レアと戦っているときも高揚感は感じていたが、このヌーという魔族はまだまだ底が見えぬ男だ。クックック、素晴らしく期待させてくれるじゃないか)
そこへ攻撃を続けていたヌーが一度手を止めた。高揚感に包まれていたソフィは、そこでヌーの様子を視る。
何やら見たこともない紋様の魔法陣が浮かび上がっていく。どうやら先程の死神を使役する魔法と同様に新魔法のようだった。
(この魔力の高まり、神域魔法か? 避けるか防御をするか、はたまた一度受けてみるか?)
ソフィは見た事のないヌーの新魔法に興味津々である。
――神域魔法、『精神除去』。
瞬間、ソフィの耳傍でカチッという鍵がかかったような音が聞こえたかと思うと、ソフィの思考は強引に遮断されて、何も考えられなくなってしまう。
「もう少し抵抗するかと思ったが」
確かに今ヌーが放った魔法は単なる大魔王であれば、防ぎようがない攻撃ではあったが、ヌーはソフィ程の存在であれば容易に対抗されると踏んでいた。
しかし実際に『精神除去』の魔法が発動されて、ソフィの目から色が消えた。
どうやらソフィは、わざとヌーの攻撃をその身に受ける事を選んだようである。
「クックック、まぁよい! どんな化け物であろうと考える思考そのものを奪われてしまえば、どうにもなるまい?」
ヌーの言葉通りソフィが纏っていた青と紅のオーラが消えて、戦力値が30億未満の大魔王化の通常状態に戻っている。
そしてヌーはすでにソフィを殺す為の魔法の詠唱を始めていた。
ソフィ程の大魔王であれば、精神を失くした状態でも何があるか分からない為である。
――そしてこの時のヌーの行動は正しかった。
過去にミールガルド大陸にて『スフィア』という、シーマのラルグ魔国所属の魔族がソフィに対して『光芒閃麗』という魔法を用いて現在のヌーの魔法のように一時的に、意識を失わせる事に成功したことがあるのである。
(※第80話 光芒閃麗)
しかしその状態からソフィの内に眠る魔王が目覚めてしまい、自動で目の前の脅威を取り除いた。
精神が消失したり意識を失わせたからといって、ソフィという大魔王を相手に油断をしてはいけない。
今の状態でようやくアドバンテージを取れたかもしれないと思い、手を抜かずにとどめを刺しに行かなければ勝利はあり得ないのである。
その事をどうやら理解している様子のヌーは、詠唱を完成させてソフィを殺す為の魔法を最大魔力で放つ。
――神域魔法『禍々崩』。
ソフィの周囲が禍々しい色に染まり、空気が汚染されていく。
ここにきてもヌーは手を抜くような事はしない。直接ソフィに対して攻撃を放つ事で、何らかの影響で『精神除去』の効力が失われる可能性がある。そう考えての周囲に影響を及ぼす魔法を選び抜いていく。
確実に間違いなくソフィを殺すには全ての可能性を削りながら、攻撃するくらいでちょうどいい。
この化け物に対しては、慎重過ぎるくらいでようやく安心できるくらいなのだから。
本来のヌーはこのように詰将棋をするかの如く攻撃をするのではなく、周囲を巻き込んで一気に攻撃して破壊するという事を常としている。
しかし過去アレルバレルの地でそのような行動に出て、手痛い敗北を経験してからは、ヌーはソフィに対して一切手を抜く事はあり得なかった。
…………
ソフィの精神は強引に除去されており『禍々崩』の影響で周囲の空気に毒が混ざり、少しずつソフィにダメージが蓄積されていく。
ソフィに対するというより、ソフィの周囲の空間に干渉しているせいで、自動で展開されている『障壁』等は全く防衛の意味を為してはいない。
そしてソフィ本人はこの汚染を防ぐ意識が落とされている状況下であり、対策など出来る状態ではない。つまりこのヌーの執拗なソフィ崩しは功を奏していた。
アレルバレルの世界という類まれな世界の化け物たちの巣窟。その頂点に延々と立ち続けたソフィが、長年No.2の座に苦しんできた『大魔王』が、ついに陥落させるところまで来たといっても過言ではなかった。
精神消失に周囲から徐々にソフィに入り浸る毒は、少しずつ少しずつソフィにダメージを与えていくのだった。
「まだだな……。まだもう少し弱らせなければ、こいつを確実には仕留められん」
ヌーはソフィの様子を観察し続けて、この状態で一気に極大魔法で沈めようとかと考えたが思いなおす。
ここにきて何がきっかけでソフィが復帰するか分からない。
ヌーは他者を警戒しながらも、ソフィに蓄積していくダメージを測り続けるのだった。
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