第272話　最強と最恐の再会

「久しぶりだな、大・魔・王・ソ・フ・ィ・」

　一瞬で目の前まで転移してきたヌーは、ソフィの顔を見ると口角を吊り上げながらそう告げた。

「うむ。実に数千年ぶりといったところか？　大・魔・王・ヌ・ー・」

　言葉では旧友との再会を喜ぶような言葉だが、互いに纏うオーラは戦意で溢れている。そしてヌーはソフィの足元に居るレアを一瞥する。

「ん？　そこに居るのは、フ・ル・ー・フ・の・配・下・の・魔・王・か？」

　突如現れたヌーに自分の主の名前と自分の名前を呼ばれたレアは、ソフィから視線をヌーに向ける。

「あ、貴方は誰なのかしらぁ？」

　弱々しい声でレアがヌーに尋ねると、にやりと笑いながらヌーは手をレアに翳す。

「え……？」

　ぼやぁっとヌーの手が光ったかと思うと、一直線にレアに向けて光が放たれた。

　瞬間――。

　レア達が居た場所に大爆発が起こり、ヴェルマー大陸に大きな穴が出来上がった。

「誰に向かって口をきいているつもりだ？　屑・が」

　粉々になった場所を見ながらヌーはそう呟いた。

「クックック……。その不遜な態度は変わっておらんな」

　レアを抱えて空に居るヌーの背後に立つソフィが、そう口を開くとヌーは再び笑う。

「俺はいずれ全ての世界の頂点に立つ男だぞ？　屑相手にいちいち拘わってられるかよ」

　仮にも一つの世界を力で支配した『魔王』レアは、その言葉に怒りで自分を取り戻していた。

「随分と偉そうだけどぉ、私を屑と呼ぶ貴方は一体どこのどなた様ですかぁ？」

　魔力が枯渇しているにも拘わらず、レアは売られた喧嘩を買うように言葉を返す。

　しかし煽るようなレアの言葉だが、今度は上機嫌で堪えられないとばかりに笑い始める。

「な、何なのよぉ？」

「いやはや滑稽な馬鹿はどこまでも滑稽だと思ってなぁ？　俺の事を知りたいのか？　知りたいなら教えてやるよ」

　そう言って一呼吸置いた後、ヌーは真実を告げる。

「俺様の名前は『ヌー』。お前のご主人様である『フルーフ』を実・験・体・と・い・う・名・の・玩・具・にして、飼ってやっている者だ」

　そう言って高笑いを始めるヌーだった。

　そんな聞き捨てならない言葉がレアの耳に入ってきた事で、彼女は目を丸くして驚いた。

「何ですって……？」

　間髪入れずにヌーは、言葉を続ける。

「フルーフの奴はなかなか使える奴だったからな。俺が奴を手駒にして有効活用してやっていると言っているのだ」

　その言葉にレアは、凍り付いたかのように動かなくなる。

（ふ、フルーフ様はこいつの元に居るの？　ど、どうして？　フルーフ様は大魔王ソフィに壊されて、意識が戻らなくなっていたんじゃないの？）

　レアの頭の中でぐるぐると答えの出ない問いが渦巻き始める。

「お前はヴァルテンに騙されて、そこに居る化け物と戦わされていたのだろう？　だから滑稽だと言ったのだ馬鹿めが！　フハハハハ！！」

　まだ事情を呑み込めていないレアだが、目の前の男が気に入らない。沸々と怒りが湧いてくるを感じるレアだった。

「ここまで言われてもまだ理解出来ないか？　屑はどこまで言っても屑だな。お前のご主人様も自分が強いと勘違いしていた屑だったなぁ？　弱・い・く・せ・に・俺に刃向かってきて、今では俺の忠実なる犬だからなぁ。揃って哀・れ・な・ゴ・ミ・屑・達・だ！　お前らは本当に笑わせやがる！」

　そう言って再び大笑いを始めるが、比例してレアは激昂していく。

　気に入らない、気に入らない、気に入らない……――。

　――気に入らない！！

「フ・ル・ー・フ・様・を・馬・鹿・に・す・る・な・ぁ・っ・！！」

　瞬間、魔力が枯渇している筈のレアの目が金色に光輝く。どうやら生命力を介して力を振り絞っているようだ。

「うわああっっ！！」

　恐ろしい速度でレアはヌーに殴りかかっていった。

　――しかし、レアの右拳はヌーにあっさりと受け止められる。

「ククククッ！！　屑では所詮こんなもんだろうな。では、あっさりと消してやろう」

　そう言って魔力を込め始めたヌーのせいで、掴まれていた右手に焼けるような痛みがレアに伝わってくる。

「ぐっ……！！」

　手を放そうとしてもがっしりとヌーが掴んでいる為離れない。痛みで歪めるレアの顔をヌーはニヤニヤと笑いながら眺めていた。

「もうよい、つまらぬ。そこまでにするがよいぞ」

　ソフィがそういうと恐ろしい魔力の圧がヌーに襲い掛かり、レアを掴んでいた腕から後ろ、肩の部分が引き千切れてそのまま吹き飛ばされていった。

　――余程にソフィは気・分・を・害・し・た・の・だ・ろ・う・。

　先程までのレアとの戦闘の時と、全く正反対の表情を浮かべたソフィは、攻撃の矛先をヌーに向けてレアを助けるのであった。