最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第265話 魔術師の戦い方

 レインドリヒがユファと会話を終えた後、配下達を下がらせた。

 すでにレインドリヒはユファと一騎打ちをするという話を事前にしてあるために、この場にいるレインドリヒの配下達は、主とユファの勝負の邪魔をしないように距離を取り始める。

 ユファは横目でその様子を見ていた。レインドリヒはいけ好かないが、一度言った事は律儀に守る男だという事は理解している。

 レインドリヒが勝負で一対一を提案した以上、そう簡単に嘘を吐くような真似はしないだろう。外野を意識せずにユファもまた、レインドリヒにのみ集中する事にした。

 ユファの身体を纏っているオーラは『青』だが、そこにじんわりと『紅』のオーラが混ざりつつあった。

 前回のキーリとの戦闘中に、二色のオーラの『混合』までは体現させることに成功したユファは、あれから徐々にではあるが『併用』に近づけてきていた。

 ラルフの修行を見ながらも更に自分の修行も怠らず、毎日の中で研鑽を今も続けるユファであった。

 そんなユファを見てレインドリヒは驚く。

「まさか、二色の併用……? 全くレアにしても君にしても俺を驚かせてくれる」

 大魔王の領域に居る者であっても、二色のオーラを扱える者は少ない。それどころか真なる魔王の領域で『青』のオーラを体現させたことで満足し、それ以上の研鑽をおざなりにして練度そこそこの魔王も居る程なのである。

 という一つの到達点に辿り着いたユファが今もまだ研鑽を続けて『魔』を追求している。

 そしてついに二色のオーラの『併用』にまで、あと一歩というところまで来ているのであった。

 ストイックに生きる事が美談だとは言わないが、あの努力や研鑽を怠らぬ者を好むソフィの配下に相応しいといえるだろう。

 まだまだ『二色の併用』の領域に居る者と比べると甘いが、それでも彼女の『青』状態の練度と比べると戦力値はこちらが上である。

 【種族:魔族 名前:ユファ 状態:二色の混合 契約の紋章
 魔力値:7500万 戦力値:9億7920万 所属:ソフィの配下・九大魔王】。

 加えてこのリラリオには、彼女の主であるソフィが居る為、更に契約の紋章の効力によって、彼女の戦力値は上昇している。

 レインドリヒが三千年前にユファと戦った時、まだユファの戦力値は精々が4億程だった。

 それが今や新しい技法を身に着けて、10億近い戦力値をレインドリヒに見せつけているのである。彼に驚くなという方が難しい事だろう。

 しかしレインドリヒは驚きはするが、それでもあっさりと負けるつもりはない。戦力値にいくら差がある相手だろうと策を弄せばいくらでも勝機は生まれる。

 むしろ相手の方が戦力値が高ければ高い程、レインドリヒは勝つことに執着する。

 、オーディエンスたちに思われる程、それを覆した時の何物にも得難えがたい快感を得る事が出来るからである。

 

 

 これこそが『魔術師』レインドリヒとしての

「さぁユファ、俺を再び楽しませてくれよ?」

 そう告げるレインドリヒの戦力値が大きく上昇していく。

 『魔術師』という異名より先に、レインドリヒの名の冠には『大魔王』がつく。

 ――彼の『青』の練度はユファより上である。

 【種族:魔族 名前:レインドリヒ(大魔王化) 状態:青の練度2.2倍
 魔力値:5500万 戦力値:9億1300万 所属:魔王レアの配下】。

 レインドリヒは堂々とユファの射程内で魔法の詠唱を始める。それを見たユファが嫌そうに顔をしかめるのだった。

「アンタの戦い方って本当厭味よね? 揺さぶりのつもりでしょうけど私には効かないわよ!」

 レインドリヒが無詠唱で放てる筈の魔法をわざわざ詠唱しているのを見て、ユファはわざとその誘いに乗って無詠唱で得意の魔法を放った。

 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。

 天候系魔法で恐ろしい速度と破壊力を持つ『天空の雷フードル・シエル』は、今も尚詠唱を続けているレインドリヒに目掛けて放たれた。

「勝手な事を言ってもらっては困るなユファ……!」

 ――神域『時』魔法、『次元防壁ディメンション・アンミナ』。

 無詠唱で防御系最強魔法を発動させて、ユファの雷の『魔法』を防ぐレインドリヒ。

 『俺の行動は全てが勝利へのロジックだぜ? つまらない事を言うなよ」

 そう言ってお返しとばかりに、詠唱を済ませた魔法をユファに向けて発動。

 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。

 詠唱付きのレインドリヒの魔力から放たれる『万物の爆発ビッグバン』は大きな威力を以てユファ周辺に大爆発を起こす。

「じゃあ一流の魔法使い相手にさ、突出した威力でも無い単発系の魔法を使うのは、一体どういうつもりなのかしら?」

 レインドリヒの魔法を避けるでもなく、防御をするでもなく、ユファは同火力の魔法で相殺する。

 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。

 無詠唱でも魔力はユファの方が遥かに上である為に、調節されたユファの魔法はレインドリヒの魔法を一瞬で飲み込み相殺する。

 続けてレインドリヒは、ユファの背後に転移してほぼ距離のない位置から次の魔法を放つ。

 ――超越魔法、『終焉の炎エンドオブフレイム』。

(今度は火属性? 一体何を狙っているのよ)

 ユファもまたその場から一瞬で転移して、レインドリヒの魔法を躱す。

(まさか、を狙っているの?)

 魔法と魔法の効果を組み合わせる事で、単なる魔法でも魔力以上の強さを持たせることが出来る。

 『終焉の炎エンドオブフレイム』ともなると、空気中の温度を上げるのに申し分ない火力を持つ。上手く調節して威力を増大させる狙いだとすれば、今はその下準備をしているという事になる。

 ――つまりこれは油断させる狙いを含めたへの布石なのかもしれない。

 そう考えたユファは一気に距離を取って、レインドリヒの策略から逃れようとする。

 場所を移してさえしまえば、レインドリヒが何を考えていようとも全てが水泡にす。

 レインドリヒと何度も死闘を繰り広げてきたユファは、レインドリヒが何かを企んでいるとしても、回避できるという自負があった。

 しかしそれはレインドリヒもまた同じであり、ユファが自分の考えを先読みする事は容易に考えられた。

 つまり不可解な事をすればユファは、自分から距離を取るだろうという狙いは功を奏したのである。

 レインドリヒから目を逸らさず、全ての意識をレインドリヒに集中していたユファは、突如自分に降り注いでくる雷光に気が付かなかった。

「え?」

 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。

 バチバチと音を立てて寸分違わず先程のユファと、同じ威力の雷光がユファに直撃する。

「うぐああっっ!!」

 先程の『万物の爆発ビッグバン』の詠唱と思われた魔法は『天空の雷フードル・シエル』の遅延発動の為の詠唱であった。

 そして最初からこの場所へユファが来る事を見越しての行動であったのだ。

 一流の魔法使いであるユファが、自らに迫る魔法に一切気が付かず被弾したのである。

(何故私が移動した先に? ここに移動することが分かっていた? そ、そんな事がこの私に出来る訳がない!)

 何が起きたか理解できないユファは、一時的にパニック状態になる。

 その油断からいつの間にかレインドリヒが、自分の目の前に転移してきた事に気が付かず、更に対応が遅れる。

「くっ……!」

 ユファはパニック状態のまま、過剰すぎる程の魔力を込めて『魔力障壁』を発動する。

 しかし魔法を放ってくる筈のレインドリヒが目の前から消えた。そして次の瞬間には、ぐらりとユファの身体が揺れる。

「!?」

 ユファを直接狙った魔法ではなく、その周辺一帯に毒を振りまく汚染の魔法を使ったのである。

 この魔法は消費が少ない魔法の為、ユファが『代替身体だいたいしんたい』の時によく使う魔法であった。

 大ダメージを与えて隙だらけのこのタイミングで追撃をせず、さらにパニックを誘発する魔法を選択したレインドリヒ。

 ――一連の流れは全てレインドリヒの計算上で行われていた。

 ユファは汚染魔法から離れて、呼吸をするために上空高く飛び上がる。

 しかしそこにはユファの動きが手に取るように分かるといわんばかりに、先回りしたレインドリヒが、笑みを浮かべて待ち受けていた。

 ――超越魔法、『炎帝の爆炎エクスプロージョン』。

 ユファを一気に沈める魔法ではなく、どれもこれもが徐々に弱らせる為の魔法ばかりであった。

 次々と炎帝から放たれる火球が、ユファに降り注ぐ。

 汚染魔法でユファの呼吸を奪われて、先程の天空の雷で大きなダメージを負っているユファは、
 面白いように火球が次々と被弾する。

「うぐっ……! うあああっ!」

 身体が弾かれ跳ね上がったところにレインドリヒは、勝負を決めに雷光の一撃を放つ。

 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。

 精神面と肉体面同時にダメージを負っているユファは防ぐ事が敵わず『魔術師』の神域魔法をその身に直撃してしまう。

 ――こうして戦力値でも魔力値でも上回るユファは『大魔王』レインドリヒに敗れるのだった。

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