最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第258話 動き始めた魔術師

 魔術師レインドリヒの部隊は『レパート』の世界特有の魔法を扱う者達が多く、まさにこの世界の魔導士から見れば『魔術師』と呼べる部隊達であろう。

 魔法を創り出す天才フルーフの影響を色濃く継いだ魔法使い達は、レアの訓練の甲斐もあって驚異的な程の強さを持つ。

 元々レインドリヒの部隊はこの世界の魔族達と変わらない程の強さだったが、レアがフルーフの居なくなった魔王軍の主となってから、一気に改革が行われたといっても過言ではない。

 この世界で引き合いを出す者がいるとすれば『ユファ』だろうか。レイズ魔国を魔法大国に一気に押し上げた『ユファ』の上位互換と呼べるものが『魔王』レアなのであった。

 皮肉にもヴェルトマーとして三千年『レイズ』魔国を鍛え上げたユファと、ほぼ同じ年月を費やされて力をつけた『レパート』の世界の魔族達であるが『代替身体だいたいしんたい』の身体のユファと生粋の魔王の身体のレアでは、教える側に差が生まれるのも仕方がなかった。

 『魔王』レア専属の部隊だけではなく、この世界に転移してきたレパートの魔族達は、ヴェルマー大陸の『シーマ』前ラルグ魔国王が率いていたリラリオの魔族達とは、比べ物にならない強さである。

 そもそもこのリラリオの世界は魔族よりも龍族の方が遥かに強く、魔族は過去の『魔王』レアによって種族の地位向上をはかれたのだから『レパート』の世界より魔族としての差は仕方のない事ではあった。

 魔術師レインドリヒは部隊を率いてレイズ魔国へ向かっている最中だが、この先の『レイズ』魔国で彼は一つの賭けをしようと考えていた。

 レインドリヒはレアをと考えているが、ヴァルテンが居る限りはそれも難しいだろう。

 更に言えば『呪縛の血カース・サングゥエ』の所為で、言葉で伝える事も遮られている。

 彼の本心では組織の事情を全てレアに話して本当の敵がだれであるかを伝えて戦争を止めたいと思っている。その先に待ち受けているのがたとえ、

 その為には今から向かっているレイズ魔国に攻める箇所を割り当てられた事が、不幸中の幸いなのであった。

 何故ならレイズ魔国には、同じ世界出身の馴染みの魔王ユファが居る為である。

 そのユファは『災厄の大魔法使い』として、レパートの世界では恐れられていた魔王であり、魔術師レインドリヒとは、何度も殺し合いをした仲でもある。

 互いにどちらが上かを何度も競い合った敵ではあるが、怨恨などはなく『』として信頼している。

 レインドリヒの賭けが上手くいくかどうかは、ユファに掛かっているという事であった。

 どうやってユファとコンタクトを取ろうかと考えながらレインドリヒは、部隊を引き連れて『リラリオ』の空を飛んでいく。

 その速度は龍族程には速くはないが、かなりの速度で飛んでいる為に『ヴェルマー』大陸まではもう目と鼻の先であった。

「さてお前達! 『隠幕ハイド・カーテン』を使え! 『レイズ』魔国の国境辺りまで姿を隠す事が出来ればそれでいい」

 レインドリヒがそう告げると配下達は、頷きながら言われた魔法を行使していく。

 『隠幕ハイド・カーテン』とは、ここ数百年の間に『魔王』レアによって伝えられた魔法で、元々は彼女の親代わりである大魔王『フルーフ』が編み出した魔法であった。

 その魔法の効力とは、自分の本来の魔力や戦力値を完全に隠して姿や気配を消す魔法である。

 この魔法が一度発動されてしまえば敵側が『魔力感知』や『漏出サーチ』といった魔法で、こちらを探ってきたとしても、術者が膨大な魔力を使用したりして余りに不自然な魔力の奔流を相手に悟られない限りは、その存在の位置がバレる事はない。

 戦力値や魔力コントロールが出来ない魔族であっても使える魔法である為に、現在のレパートの世界では最初に覚える事を推奨される程の重要視される『魔法』となっていた。

 もちろん大魔王の領域にいる者達には、長い時間誤魔化せはしないだろうが、ここからレイズ魔国までの距離の間であれば、十分に役立つ魔法である為に『レインドリヒ』は配下達に使用を促したのである。

 レインドリヒの部隊は約百体の魔族。その全ての魔族の魔力と戦力値は『偽りの幕ハイド・カーテン』に包まれて姿をも隠し通すのであった。

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