最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第215話 激突、三体の龍族

 バチバチと火の粉がはねるような音と共にキーリは『緑色のオーラ』を体現させたかと思うと、身体の周囲に纏い始める。

(ま、まずい! こ、こいつは他の龍よりも遥かに強い……っ!)

 ユファは先に使用していた『魔力感知』で、緑のオーラを纏った幼女が尋常ではない事を悟り、副作用が激しい『漏出サーチ』を使わなかった。

 しかしそれでも他の龍達とは、まるで比べ物にならない戦力値だろうと判断するのだった。

 【種族:龍族 名前:キーリ(人型+緑オーラ)戦力値:4億7800万】。

「お前達! 地上で雁首揃えて見上げている暇そうな奴らの相手をしてこい」

 そういって下のソフィ達の配下や『レイズ』の者達を指差す。その言葉にユファは慌てるのだった。

「ま、待ちなさい! お前たちの相手は私よ!」

 そう言って駆け出そうとしている龍達の行動を止める為にユファは動き出す。

 しかし次の瞬間、キーリはズブリと自分の左手首に右手の指を差し込み始める。

「!?」

 ――『龍呼ドラゴン・レスピレイ』。

 キーリの手首からぽたりぽたりと血が垂れ落ちていく。

「お前はその場で動くなよ?」

 そう言われたユファは縫い付けられたかのように、自身の体が動かなくなるのであった。

(ば、馬鹿な……! この私の『金色の目ゴールド・アイ』よりも……!?)

 ユファは『金色の目ゴールド・アイ』で相殺しようとキーリを見るが、彼女の『魔瞳まどう』は発動されなかった。

「まぁお前も『魔族』の中では強い方なんだろうが、それでもアイツレアが懸念を抱くような相手には見えねぇなあ?」

 そう言うとキーリは、レキオン達に視線を送る。

 二体の龍はコクリと頷き、シティアスの周囲に居るベア達に向かって飛んでいく。

(ま、まずい……! このままじゃ……!)

 ――超越魔法、『終焉の炎エンドオブフレイム』。

「!」

 キーリは突如自身に向けられて放たれた炎を躱してみせる。

「ヴェルッ! 大丈夫!?」

 その『魔法』を放ったのは『淡く青い』オーラを纏ったシスであった。

「え、ええ……! 助かったわよ、シス!」

 自由に動けるようになったユファは、シスに感謝の言葉を述べる。

「おいおい、また『魔王』様のご登場か? この世界はいつの間にこんなに強い『魔族』の存在が多くなったんだか」

 キーリは次から次に出てくる戦力値の高い『魔族』に辟易とする。

 レアとの戦争前であればここまで戦力値の高い魔族は居なかった。

 始祖龍であるキーリが『リラリオ』を掌握していた時代であれば、人間や魔族よりもむしろ、精霊や魔人の勢力の方が問題であった。

 かつてのこの世界では『魔族』から『魔王』という昇華した存在等は生まれず、魔族といえば戦力値2000万程度の『最上位魔族上位』辺りで頭打ちであった。

 ――そんな情勢を切り崩した存在が『魔族』レアである。

 『魔人王』や『精霊王』達の存在が消されて、彼女キーリら『龍族』をも封印してみせて、この世界を『魔族』と『人間』だけにしたレアの存在が大きい。

 ――

(今は黙ってレアに従うがいつかはアイツを出し抜き、魔族達を支配して龍族が再度天下を取ってやる)

 ――と。

 その為には自分達の存在が有益になるとレアに思わせる必要がある。

「いいだろう。てめぇら二人まとめて潰してやる」

 キーリはそう告げると『緑のオーラ』を再度纏い始めた。

「シス、私は貴方とベア達の両方のサポートに入るから、その間だけ全力でアイツを止めて頂戴!」

「分かったわ!」

 そう言うと二人は『淡く青い』オーラを纏いながら、戦闘態勢に入るのであった。

 ……
 ……
 ……

 レキオンとディラルクが、恐ろしい速度で『シティアス』に集まっているベア達に向かっていく。

「お前たち、来るぞ!」

 ベアが声を掛けるとソフィの配下達は、一体たりとも逃げずに『龍族』を迎え撃とうとする。

 ――そこに蒼い光がベアたちを包み込む。そして次にベア達を赤い光が包む。

 ――上空にいるユファからの『』であった。

 蒼い光は『聖なる護守アミナ』という味方の防御力を数段上げる魔法である。

 そして赤い光は『滾る戦の要アグレセス』という味方の攻撃力を数段上げる魔法であった。

 ユファはシスのサポートをしつつも『シティアス』全域に、上位魔族以下の敵の攻撃を防ぐ結界を張り、更にはレキオンたち龍族が迫るベア達に、補助魔法で全体の底上げをはかってみせるのであった。

「グオオオオッ!」

 ベアが咆哮をあげて迫りくるレキオンたちに圧をかける。

 戦力値に差があるとはいっても、ベアは『真なる魔王』階級クラスの魔物である。

 恫力を持つ声は『レキオン』と『ディラルク』の聴覚に直接影響を与えた。

「……ちぃっ、全くだな!」

 レキオンは苦虫を噛み潰したような、そんな表情を浮かべて速度を緩める。

 そこに『ロード』の一体である『キラー』が神経毒の効力を持つ針を放つ。

 レキオンはベアに注意力を割きすぎてしまい、そのキラーの放つ数本の針が刺さってしまうのであった。

 更にユファの攻撃力をあげる魔法も作用して、先程までよりも効力が微増していた。

「先程返された痛みを忘れたか? また同じ目にあわせてやろう」

 そう言ってレキオンが龍呼を放とうとするが、その瞬間を狙って今度は『ユファ』から上空から極大魔法が放たれた。

 ――神域魔法、『天空の雷フードル・シエル』。

 爆音が空に響き渡ったか思うと、同時に光の速さで『大魔王』の放つ雷が『レキオン』の身に降りかかる。

「ぐぁああっ!!」

 しかし狙ったレキオンにその雷は当たらなかった。傍に居た『ディラルク』がレキオンを守ろうと龍の速度を活かして前に出た為であった。

 しかしそれを見たユファが、転移魔法で『ディラルク』の真後ろに出現する。

「!?」

 雷の一撃によって大きなダメージを負ったディラルクだが、何とかまだ動けるようでユファの居る方へ振り返り様に炎を吐くが、既にその場にユファは居なかった。

 『災厄の大魔法使い』は自由にさせると手が付けられない。

 最強の種族である『龍族』のディラルクがユファの姿を探すが、どこにも見当たらない。

 そして次の瞬間にはクラリと眩暈を起こし、ディラルクは途方もない嘔吐感を覚えるのだった。

「うぐ……っ! ぐぇぇ……、い、一体何が!?」

 ベアがそこに再度咆哮をあげるとディラルクは聴覚を刺激されて、眩暈と嘔吐感に包まれながら地面に落とされる。

 そこに『ロード』の一体である『クラウザー』がその存在を示す――。

 ディラルクが落ちた場所から更に深い穴が、ディラルクの大きな龍の身体を地面に落としていく。

 どこまでも落ちていくような浮揚感を感じつつ聴覚をやられて、更に眩暈を伴っているディラルクは、自分が今どうなっているのかがもう分からなかった。

 ――そして次の瞬間、熱いという感覚の後に鋭い痛みが走った。

 ソフィの配下達である『ハウンド・ドッグ』や『グランド・サーベルタイガー』の大群が押し寄せて、龍の長い体の隅から隅まで余すことなく喰いちぎろうと噛みついていた。

「うぐ……! ぐっぉえ……」

(こ、これは……、これは悪夢だ……!)

 身体がいう事をきかず、激しい嘔吐感と更に激しい痛みに晒されながらディラルクは、自身に近づくを感じとるのだった。

 ……
 ……
 ……

「次はお前が相手か?」

 遡る事数分前、キーリに対峙するのはユファを助けて間に入ったシスである。

「ええ。よくも私の大事なヴェルを傷つけてくれたわね? 子供だからって、容赦はしないわよ」

 そういうとシスは『金色の目ゴールド・アイ』をキーリに放つ。

 ――しかしシスの魔瞳『金色の目ゴールド・アイ』目視でキーリは躱してみせるのだった。

「はっ、そんなものが俺に当たるワケがないだろう?」

 キーリはシスの背後に回り、右手でシスの背中目掛けて内臓を握り潰そうとする。

「くっ!」

 シスは器用に体を捻りながらキーリの手から逃れる。

「はは! よく今のを避けたな? 大したものだぜ?」

 殺し合いの最中だというのにキーリは、余裕たっぷりにシスに言い放つ。

「油断してると足元を掬われるわよ!」

 ――超越魔法、『終焉の雷エンドライトニング』。

 魔王の閃光がキーリに向かって放たれた。

 一筋の閃光はキーリの身体を焼き尽くさんとするが、何とキーリはその雷を、

「なっ!?」

 魔法で相殺した訳でもなく、ただ単に蚊を払いのけるかのようにシスの『超越魔法』を手で払うのだった。

「はんっ! 馬鹿が! 俺にそんなが通じる訳がないだろうが」

 小馬鹿にするように笑うと、キーリはシスに肉薄していく。

「くっ! 馬鹿にしないで!」

 シスが無詠唱で『万物の爆発ビッグバン』をキーリに放とうとするが、それよりも速くキーリは姿を消す。

「ど、どこ!?」

 慌ててシスが辺りを見回すが、キーリの姿が見えない。

「こっちだよ、

 キーリがそう言い放つと左手の手の平を上に向けて、右手は添える様に左手首を掴む。

「!?」

 ――その瞬間にシスは自分の身体が動かなくなる。

 鉛のように重心に重しがかかるというよりは、建物の一部になったような奇妙な不思議な感覚であった。

「動けないだろう? 残念だが、お前はもう終わりだ」

 そして添えていた右手を離したキーリは、二本の指でシスを指差してその後に一気に下へ振り下ろした。

「あ……!」

 猛スピードで空から地面に叩き落とされていく。シスにだけ重力がもかかったような、負荷を感じさせる速度だった。

 しかし地面に叩きつけられる瞬間、凜とした声がシスの耳に届いた。

 すると迫っていた地面がなくなり、代わりにユファの手の中に抱かれていた。

「何とか間に合ったわね。シス、良く持ちこたえてくれたわよ?」

 そう言ってユファは、シスに笑いかけるのだった。

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