最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第201話 同じ穴の貉

 あの夜から『ラルフ』は『ユファ』と修行を本格的に開始した。

 人間の身であるラルフだが、魔族としての戦い方をユファに教えられておりすでに『淡く紅い』オーラを拳に纏わせて戦う事が出来ていた。

 ユファと戦う前で『最上位魔族下位』レベルの戦力値の領域には立っていたラルフだが、現在はすでにその成長を凌駕しており『最上位魔族上位』レベルにまで達していた。

 これは『シス』の母親である『セレス』女王が健在だった頃の『レイズ』魔国の最側近達といえる『』や『』と肩を並べられる程の強さである。

 【種族:人間 名前:ラルフ 年齢:23歳
 魔力値:16678 戦力値:1880万 所属:大魔王ソフィの直属の配下】。

 ここまで強くなれたのは『ハウンド』達との修行のおかげでもあった。つまりユファの修行に耐え得るだけの地盤となる戦力値があったからこその賜物である。

「よし、今日はここまでにしましょう?」

 ユファの言葉でいつものように一日の修行が終わる。

 ラルフは素直に頷きオーラを消すと、自然体になりながら整理運動を施し始める。

 あの一件以来、ラルフは一切を無理をしなくなった。

 ユファの言うように休憩を挟まずに限界まで研鑽を続けたところで、メリットが少なくデメリットの方が遥かに大きい事に気付かされた為である。

 そして何よりもユファに教わっているという事が、リディアに置いて行かれていくかもしれないという焦燥感を打ち消しているのだった。

「ありがとうございました、また明日も宜しくお願いします」

 ラルフは感謝を言葉にして今日もいつものように拠点へと戻って休もうとしたが、そこでユファに声をかけられた。

「ねぇねぇ、今日は少し呑みに行かない?」

 ここのところユファと修行をするになってから、こういう誘いをよく受ける事が増えた。

 もちろんサシで飲む事もあるが、ミールガルド大陸で酒やつまみなどを買いに行った後、ベア達の居る拠点で喋りながら呑んだり、シス達の居る部屋で呑む事もある。

 男女の関係というよりも同じ主を持つ配下として話し合うことが目的である。

 ラルフとユファはソフィという主をただの主と思っていない。

 むしろソフィという教祖きょうそを崇める信者のような感じなのである。つまりこの二人がウマが合うのはであった。

「それはいいですね。今日はソフィ様の『魔法』について話をしませんか?」

 …………。

 こういった感じなのであった。

 そして二人が向かった先は、『グラン』の町のギルドに併設されている酒場だった。

 前までは朝方に修行をしていたが、今は修行終わりに飲む事も多いので酒場が開いている時間を選ぶ事が多い。

 そしてギルドがちょうど閉まる時間なので、常連となっているラルフ達に合流する者達も居た。その中の一人がギルドの窓口にいるお姉さんであった。

 彼女の名前は『キャリー』。

 グランのギルドでは人気があり、いつも男性に食事を誘われているお姉さんである。

 今日もギルド終わりに、何人かの冒険者に声をかけられていたが、ラルフたちの姿を酒場で見かけて華麗に断ってきた所であった。

「へい! 今日も私を混ぜてぇ」

 制服を脱ぎ私服となった格好で『キャリー』はラルフとユファに話しかけた。ユファもラルフも慣れたもので、ここで呑む時は『キャリー』の分の椅子も確保してある。

「どうぞ。いつものように『エール』と『ブラーブボア』のすじ肉でいいですか?」

 『ブラーブ・ボアのすじ肉』とは、この酒場の名物で豚の魔物の肉であった。

「ありがとう」

 笑顔で返事をして、三人で今日もソフィの話で盛り上がる。

 そして数時間が過ぎた頃、話はミールガルド大陸のケビン王国の話になった。

 ソフィ達がヴェルマー大陸に渡って数日が経ち、王国内でも大きく変わったことがあったらしい。

 ケビン王がソフィに感化されたのかここ数年では見られなかった意欲が見られて、国の立て直しの為に王自らが次々と政策に尽力しているらしい。

 貴族や他の王族の驚いているらしく、一番顕著だったのは冒険者ギルドに対して多額の支援を始めたことだろう。

 今まではステイラ公爵の反対もあり、ルードリヒ王国のように冒険者ギルドと懇意になる事もなかったが、ステイラ公爵の反対を押し切って支援を開始したとの事だった。

 その言葉を聞いてユファは、呑んでいたグラスをテーブルに置いて口を開いた。

「なんとか、この国が潰れる事は避けられそうね」

 ユファもまた『レイズ』魔国を数千年と支えてきた国柱の一人である。

 ソフィと同じように王があのままであれば、遠くない未来にケビン王国は割れるだろうとみていた。

 しかし王が自らが変われば何度でも王国というものは立て直せる。

 国民あっての王ではあるが、王あっての『王国』なのである。

 今は荒廃した土地となっている『レイズ』や『ラルグ』の残党が荒らしまわっている『ヴェルマーだが』、本格的にソフィが動き始めれば、すぐに『ヴェルマー』大陸は蘇るだろう。

 その時に『ミールガルド』大陸の『ケビン』王国は、ソフィが率いる大国と同盟を結んでいる事で、さらに発展は盤石となる事だろう。

 長年大魔王達によって荒れ果てていた世界そのものを立て直し、統治し続けた王が同盟になるというのだから。

(あとは、レアの行動次第かしらね……)

 ユファが王国の話からある魔王の事を考え始めた頃、キャリーが一番最後に合流したにも拘わらず酔い潰れた為に、いつものようにここでお開きとなった。

 ユファがいつものように『キャリー』を部屋まで送るというので、ラルフはその護衛を兼ねて後をついていく。

(この方に護衛など必要無さそうですがね)

 ラルフは戦闘訓練の時の『ユファ』の姿を思い浮かべる。

 『淡く紅い』オーラの時ならば、何とかついていけるが、ひとたび『淡く青い』オーラになれば、もう今のラルフにはついていけない。

 攻撃速度だけではなく、思考速度までもが加速しているようにラルフは思える。

 実際そうなのかもしれないが、あまりの変貌ぶりに最初は自信を無くした物だ。

(リディアもまた、あの『柄のない二刀』を具現した後、一気に戦力値が跳ね上がる……。あの形態が何なのかまでは分からないが、今の私でも追いついたと思えないのは、あのオーラに包まれた姿を見ているからでしょうね……)

 ラルフが多少酔った頭でそんな事を考えながらユファの後をついていくと、不意にユファから声が掛けられた。

「焦らなくても大丈夫よ。私が修行を見ているのだから、いずれ追いつかせてあげるわ」

 ユファは背中にキャリーを担ぎながら、前を向いたままそう口を開いた。

 ラルフは微笑みを浮かべながら、見抜かれていましたかと小さく呟く。

(この方もまた、果てしなき遠い場所を歩いている)

 ――と、ラルフはのままでそう思うのだった。

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