最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第178話 過去のフィクス、リーゼ
「我はソフィという者だ。後ろの者達もお主達と争うつもりはない」
自分達には敵対する意思はないという事をリーゼに伝えたが、そんなソフィの言葉より先にリーゼは背後に居たレルバノンの姿に目を奪われるのだった。
「……待て! お、お前は『鮮血のレルバノン』ではないのか!?」
そう言うとリーゼは紅い目になり、一気に淡く紅いオーラで身を纏い始めた。
時代が進んでも彼女は『最上位魔族』であり、一時代を築いた魔法使いである。魔族でないリーネやスイレン達は『最上位魔族』のオーラの余波をまともに受けてしまい、苦しそうな声をあげた。
「!」
ソフィは苦しそうにしているリーネを見て表情を一変させる。
そして少し苛立ち交じりに『金色の目』を発動させた。
「やめぬか……!」
リーゼの『紅い目』は一瞬で解除されて、紅いオーラが出せなくなるのだった。
「!!!」
リーゼは目の前の子供が自分と次元の違う存在である事を一瞬で理解する。
「まずは我の話を聞け。よいな?」
圧倒的な威圧感の前に『リーゼ』は、額に脂汗をかきながらなんとか頷く。
この存在の手にかかれば自分程度など、あっさりと物言わぬ骸に変えられるという力の差を感じた為だった。
――ここでリーゼがソフィの言葉に素直に頷いて正解だった。
大魔王ソフィは自らに対する行為には存外に従容ではあるが、自身の仲間に対して向けられる『脅威』に対しては非常に敏感になる。
先程の『リーネ』のように苦しめられたり、剰え怪我でも負わされようものならば、ソフィはその敵対行為を行う如何なる存在であろうとも、この世から消滅させる事に何の抵抗もなくなってしまうのであった。
背後で事の成り行きを見守っていたリディアもまたソフィの『魔瞳』の威圧に、知らず知らずに刀に手をかけていた。どうやら無意識に恐怖心に支配されてしまっていたのだろう。
自分の震える手を見たリディアは苦笑いを浮かべるのだった。
(ククッ……! まだまだコイツの背中すら見えないか)
自分の目標が遥か遠くの領域に居るのを感じたリディアは、更に意欲を高めていくのだった。
ソフィは『金色の目』を解いて、いつもの目の色に戻った後に静かに口を開いた。
「まず最初に言っておくが我とレルバノンは魔族ではあるが、後ろに居る者達は『ミールガルド』大陸』から来た人間の冒険者である」
リーゼはソフィの話すその言葉に信じられないとばかりに驚いた。
「『ミールガルド』大陸だと!? た、確か今『ミールガルド』大陸にはラルグ魔国の者達が……」
リーゼ達は『レイズ』魔国が滅ぼされた後、子供達を連れてここに隠れ住んでいた。
そしてラルグ魔国の『シーマ』達は『ヴェルマー』大陸を制圧した後に侵略範囲を広げて人間達の大陸である『ミールガルド』をその手に収めようとしていた筈であった。
「うむ。しかし我らの住む大陸に危険を運んできたその『ラルグ』魔国とやらの魔族達は全員消えてもらった」
「えっ……?」
今度こそリーゼは驚愕に声を隠しきれなかった。
リーゼは少年の言葉を聞いた後、隣にいる『レルバノン』に視線を移すが、そのレルバノンもソフィが嘘偽りを申してはいないとばかりに、リーゼに視線を送りながら首を縦に振って同意して見せる。
「この方は嘘は言っておりませんよ。レイズ魔国の元フィクスのリーゼ殿。彼は私達とは比較にもならない強さを持つ、本当の魔王なのですから」
――『魔王』。
魔族の領域を遥かに上回る者。
過去『ヴェルマー』大陸に存在した魔王はその圧倒的な力から、次々と『リラリオ』に存在する大陸を支配して残虐の限りを尽くしたという。
信憑性は薄いと思われているお伽話ではあるが、リーゼやレルバノン、それにその前時代に生きていた魔族はこの『魔王』が本当に居たという事を知っている。
リーゼはお伽話の中身を確認するように思い耽っていたが、ふと意識を戻すとそのままソフィの方に視線を向けて口を開いた。
「な、成程。先程の力は『魔王』の領域に立つ者だというのであれば納得が行くというものだ。だが貴方がラルグ魔国を攻め滅ぼした『魔王』だとして、どうしてここ『ヴェルマー』大陸に?」
リーゼは子供達を守るように、自分の背後に移動させながらソフィに問いかける。
もしラルグ魔国が攻めてきた事に対して、この大陸へ報復に来たというのであれば、現在居るレイズの者達だけでも自分が守らなければとばかりに、リーゼは震える手を隠すように拳を握る。
ソフィはそんな様子のリーゼに溜息を吐いて頷きを一つ入れた。
「心配せずともよい。我はお主達に何かをしようと考えてここに来たわけではない」
そしてソフィは、シスとヴェルトマー達もこの大陸に一緒に来ている事を伝えるのだった。
「ま、待てっ……! ヴェルトマーが生きているだと!? 奴は病気に侵された後にラルグ魔国の『シュライダー』にその命を奪われた筈ではないのか!」
「彼女がそんな簡単に死ぬように者に思えますか?」
ソフィに向けて口を開いたリーゼだが、そのソフィの隣に居るレルバノンが、含みのある笑いを浮かべながら口を挟むのだった。
「……い、いや思わないが……。し、しかし……」
病気にかかって魔力が使えないにしても、身近で数千年も見てきたあのヴェルトマーがそう簡単に死ぬとは思えなかった。
しかしそれでも、どうやって生き延びたのかが説明がつかず、リーゼは口元に手をやりながら考え始めるのだった。
しかし考えていたリーゼだが、途中から笑みを浮かべ始めた。
「ふ、ふふ……。そうか無事だったか! 生きているというのであれば、もうそれでよい。考える必要などないな。よかった、本当によかった……!」
リーゼは自答に至った後も何度も頷きを繰り返した。
「それで、何故お主達はレイズ魔国に?」
リーゼはヴェルトマーの事は納得したが、そこでソフィの方に視線を向け直すと再び同じ疑問を口にするのであった。
「この大陸の者達が『ミールガルド』大陸に仕掛けた戦争で、この大陸の支配者である『ラルグ』魔国が敗戦した事は先程述べたな?」
そこでピンと来たのかソフィが続きを話す前に被せるようにリーゼが口を開いた。
「つまり『ヴェルマー』大陸の国々を人間達の属国、もしくは植民地にするという事を伝えに来たという事か?」
傍で聞いていた子供達が、リーゼの話す内容に驚きの声をあげた。
「な、なんだよそれ! ラルグ魔国の奴らが勝手に仕掛けたんだろ!」
「そうだよ、僕たちは関係ないじゃないか!」
まだ幼いとはいっても彼らは魔族であり、人間より長く生きている筈である。
つまり頭では理解している筈だが納得が行かないとばかりに、口を出さずにはいられないのだろう。年端のいかない子供のように駄々をこね始めた。
「まあ戦争を仕掛けてきたのがこの国でなかろうとも、この国を支配圏に収めたラルグが戦争を仕掛けた以上は、そのラルグ魔国の属国となったレイズ魔国も無関係というわけにはいかぬだろうな」
それが戦争で負けた者の宿命だと、そう言わんばかりにリーゼはそう告げた。
「うむ。普通であればそういう事なのだが、我は一つだけ条件を呑んでくれさえすれば、今まで通りにしてくれてよいと思っている」
リーゼは今喋っているソフィという存在が、どういう立場に居る者なのか全くわからなかった。
先程の一件を省みるにソフィが単なる『ミールガルド』の使者という立場で、遣わされた者とは思えなかったからである。
しかしその疑問の前にひとまずは、この目の前の少年の条件というモノを聞いてからにしようとリーゼは決断する。
「我はこのヴェルマー大陸に、冒険者ギルドを設立しようと思っておる」
リーゼはよく分からないと言った様子で、ソフィの言葉に耳を傾けた。
「その話をする前に聞きたいのだが、レイズ魔国とやらの生存者は、ここに居る者たちで全員か?」
ソフィの言葉にリーゼは首を横に振る。
「いや、食材を取りに行っている者や、その者達の護衛に出ている者。それにまだまだ居る事は居るのだが……」
やはりまだまだ生存者は多かったようだ。
「うむ、そうか。ではその者達が戻ってきてから続きを話そうと思うのだが、どこか全員を集められる程の広い場所が残っているのであれば、案内してもらえぬだろうか?」
この地下は確かに安全性を考えれば一番だろうが、大勢で会議等をするには手狭であった。
「分かった。しかしラルグ魔国はミールガルドに向かった軍以外にも、城を守る者達や少数ながら強者な魔族も残っている。そういった連中に見つかれば、非常にまずいのだが……」
リーゼがレイズ魔国の子供や戦えない者達の事を考えてそう口にすると、ソフィは問題はないとばかりに頷きを見せた。
「すでにこのレイズの町の周辺には、我の配下達が見張っている。たとえ『ラルグ』魔国の残党が攻めてきたとしても、お主らは何も心配はせずともよいぞ」
先程のソフィの魔力を見ていなければ『ラルグ魔国を侮るな』と告げていたリーゼだったが、その力を見た今となっては、リーゼも素直にソフィに頷きを見せる他なかった。
自分達には敵対する意思はないという事をリーゼに伝えたが、そんなソフィの言葉より先にリーゼは背後に居たレルバノンの姿に目を奪われるのだった。
「……待て! お、お前は『鮮血のレルバノン』ではないのか!?」
そう言うとリーゼは紅い目になり、一気に淡く紅いオーラで身を纏い始めた。
時代が進んでも彼女は『最上位魔族』であり、一時代を築いた魔法使いである。魔族でないリーネやスイレン達は『最上位魔族』のオーラの余波をまともに受けてしまい、苦しそうな声をあげた。
「!」
ソフィは苦しそうにしているリーネを見て表情を一変させる。
そして少し苛立ち交じりに『金色の目』を発動させた。
「やめぬか……!」
リーゼの『紅い目』は一瞬で解除されて、紅いオーラが出せなくなるのだった。
「!!!」
リーゼは目の前の子供が自分と次元の違う存在である事を一瞬で理解する。
「まずは我の話を聞け。よいな?」
圧倒的な威圧感の前に『リーゼ』は、額に脂汗をかきながらなんとか頷く。
この存在の手にかかれば自分程度など、あっさりと物言わぬ骸に変えられるという力の差を感じた為だった。
――ここでリーゼがソフィの言葉に素直に頷いて正解だった。
大魔王ソフィは自らに対する行為には存外に従容ではあるが、自身の仲間に対して向けられる『脅威』に対しては非常に敏感になる。
先程の『リーネ』のように苦しめられたり、剰え怪我でも負わされようものならば、ソフィはその敵対行為を行う如何なる存在であろうとも、この世から消滅させる事に何の抵抗もなくなってしまうのであった。
背後で事の成り行きを見守っていたリディアもまたソフィの『魔瞳』の威圧に、知らず知らずに刀に手をかけていた。どうやら無意識に恐怖心に支配されてしまっていたのだろう。
自分の震える手を見たリディアは苦笑いを浮かべるのだった。
(ククッ……! まだまだコイツの背中すら見えないか)
自分の目標が遥か遠くの領域に居るのを感じたリディアは、更に意欲を高めていくのだった。
ソフィは『金色の目』を解いて、いつもの目の色に戻った後に静かに口を開いた。
「まず最初に言っておくが我とレルバノンは魔族ではあるが、後ろに居る者達は『ミールガルド』大陸』から来た人間の冒険者である」
リーゼはソフィの話すその言葉に信じられないとばかりに驚いた。
「『ミールガルド』大陸だと!? た、確か今『ミールガルド』大陸にはラルグ魔国の者達が……」
リーゼ達は『レイズ』魔国が滅ぼされた後、子供達を連れてここに隠れ住んでいた。
そしてラルグ魔国の『シーマ』達は『ヴェルマー』大陸を制圧した後に侵略範囲を広げて人間達の大陸である『ミールガルド』をその手に収めようとしていた筈であった。
「うむ。しかし我らの住む大陸に危険を運んできたその『ラルグ』魔国とやらの魔族達は全員消えてもらった」
「えっ……?」
今度こそリーゼは驚愕に声を隠しきれなかった。
リーゼは少年の言葉を聞いた後、隣にいる『レルバノン』に視線を移すが、そのレルバノンもソフィが嘘偽りを申してはいないとばかりに、リーゼに視線を送りながら首を縦に振って同意して見せる。
「この方は嘘は言っておりませんよ。レイズ魔国の元フィクスのリーゼ殿。彼は私達とは比較にもならない強さを持つ、本当の魔王なのですから」
――『魔王』。
魔族の領域を遥かに上回る者。
過去『ヴェルマー』大陸に存在した魔王はその圧倒的な力から、次々と『リラリオ』に存在する大陸を支配して残虐の限りを尽くしたという。
信憑性は薄いと思われているお伽話ではあるが、リーゼやレルバノン、それにその前時代に生きていた魔族はこの『魔王』が本当に居たという事を知っている。
リーゼはお伽話の中身を確認するように思い耽っていたが、ふと意識を戻すとそのままソフィの方に視線を向けて口を開いた。
「な、成程。先程の力は『魔王』の領域に立つ者だというのであれば納得が行くというものだ。だが貴方がラルグ魔国を攻め滅ぼした『魔王』だとして、どうしてここ『ヴェルマー』大陸に?」
リーゼは子供達を守るように、自分の背後に移動させながらソフィに問いかける。
もしラルグ魔国が攻めてきた事に対して、この大陸へ報復に来たというのであれば、現在居るレイズの者達だけでも自分が守らなければとばかりに、リーゼは震える手を隠すように拳を握る。
ソフィはそんな様子のリーゼに溜息を吐いて頷きを一つ入れた。
「心配せずともよい。我はお主達に何かをしようと考えてここに来たわけではない」
そしてソフィは、シスとヴェルトマー達もこの大陸に一緒に来ている事を伝えるのだった。
「ま、待てっ……! ヴェルトマーが生きているだと!? 奴は病気に侵された後にラルグ魔国の『シュライダー』にその命を奪われた筈ではないのか!」
「彼女がそんな簡単に死ぬように者に思えますか?」
ソフィに向けて口を開いたリーゼだが、そのソフィの隣に居るレルバノンが、含みのある笑いを浮かべながら口を挟むのだった。
「……い、いや思わないが……。し、しかし……」
病気にかかって魔力が使えないにしても、身近で数千年も見てきたあのヴェルトマーがそう簡単に死ぬとは思えなかった。
しかしそれでも、どうやって生き延びたのかが説明がつかず、リーゼは口元に手をやりながら考え始めるのだった。
しかし考えていたリーゼだが、途中から笑みを浮かべ始めた。
「ふ、ふふ……。そうか無事だったか! 生きているというのであれば、もうそれでよい。考える必要などないな。よかった、本当によかった……!」
リーゼは自答に至った後も何度も頷きを繰り返した。
「それで、何故お主達はレイズ魔国に?」
リーゼはヴェルトマーの事は納得したが、そこでソフィの方に視線を向け直すと再び同じ疑問を口にするのであった。
「この大陸の者達が『ミールガルド』大陸に仕掛けた戦争で、この大陸の支配者である『ラルグ』魔国が敗戦した事は先程述べたな?」
そこでピンと来たのかソフィが続きを話す前に被せるようにリーゼが口を開いた。
「つまり『ヴェルマー』大陸の国々を人間達の属国、もしくは植民地にするという事を伝えに来たという事か?」
傍で聞いていた子供達が、リーゼの話す内容に驚きの声をあげた。
「な、なんだよそれ! ラルグ魔国の奴らが勝手に仕掛けたんだろ!」
「そうだよ、僕たちは関係ないじゃないか!」
まだ幼いとはいっても彼らは魔族であり、人間より長く生きている筈である。
つまり頭では理解している筈だが納得が行かないとばかりに、口を出さずにはいられないのだろう。年端のいかない子供のように駄々をこね始めた。
「まあ戦争を仕掛けてきたのがこの国でなかろうとも、この国を支配圏に収めたラルグが戦争を仕掛けた以上は、そのラルグ魔国の属国となったレイズ魔国も無関係というわけにはいかぬだろうな」
それが戦争で負けた者の宿命だと、そう言わんばかりにリーゼはそう告げた。
「うむ。普通であればそういう事なのだが、我は一つだけ条件を呑んでくれさえすれば、今まで通りにしてくれてよいと思っている」
リーゼは今喋っているソフィという存在が、どういう立場に居る者なのか全くわからなかった。
先程の一件を省みるにソフィが単なる『ミールガルド』の使者という立場で、遣わされた者とは思えなかったからである。
しかしその疑問の前にひとまずは、この目の前の少年の条件というモノを聞いてからにしようとリーゼは決断する。
「我はこのヴェルマー大陸に、冒険者ギルドを設立しようと思っておる」
リーゼはよく分からないと言った様子で、ソフィの言葉に耳を傾けた。
「その話をする前に聞きたいのだが、レイズ魔国とやらの生存者は、ここに居る者たちで全員か?」
ソフィの言葉にリーゼは首を横に振る。
「いや、食材を取りに行っている者や、その者達の護衛に出ている者。それにまだまだ居る事は居るのだが……」
やはりまだまだ生存者は多かったようだ。
「うむ、そうか。ではその者達が戻ってきてから続きを話そうと思うのだが、どこか全員を集められる程の広い場所が残っているのであれば、案内してもらえぬだろうか?」
この地下は確かに安全性を考えれば一番だろうが、大勢で会議等をするには手狭であった。
「分かった。しかしラルグ魔国はミールガルドに向かった軍以外にも、城を守る者達や少数ながら強者な魔族も残っている。そういった連中に見つかれば、非常にまずいのだが……」
リーゼがレイズ魔国の子供や戦えない者達の事を考えてそう口にすると、ソフィは問題はないとばかりに頷きを見せた。
「すでにこのレイズの町の周辺には、我の配下達が見張っている。たとえ『ラルグ』魔国の残党が攻めてきたとしても、お主らは何も心配はせずともよいぞ」
先程のソフィの魔力を見ていなければ『ラルグ魔国を侮るな』と告げていたリーゼだったが、その力を見た今となっては、リーゼも素直にソフィに頷きを見せる他なかった。
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