最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第173話 始まりは冒険者ギルド

 ソフィとラルフが冒険者ギルドの門を開けると、こちらを見た一人の冒険者が声を上げた。

「そ、ソフィさんがきたぞ!」

 その言葉にギルドに居た多くの冒険者達が一斉にソフィの方を見る。

「ほ、本物だ!」

「俺、初めて生で見るよ!」

「さ、サイン! サインもらおう!」

 ソフィは、一気に冒険者達に取り囲まれるのだった。

「お、お主たち離れるのだ!」

 その様子を掲示板の前で絵を描いていたリーネが、ニヤニヤと笑みを浮かべながらソフィの絵を描き始める。

「貴方も人が悪いですね、助けないのですか?」

 そんなリーネにラルフが溜息を吐きながら声を掛けた。

「なんだか、懐かしくってね」

 あの時は『ギルド指定C級討伐クエスト』のアウルベアである『ベア』の討伐達成の時だっただろうか。今と同じように冒険者達に囲まれて、質問責めにされていたソフィをリーネは思い出すのだった。

 あの時に初めてリーネはソフィに声を掛けたのだ。

 当時を思い出して幸せそうな笑みをリーネは浮かべる。

 今ではもう誰よりもソフィを愛している自分がいる。ソフィがこの大陸から離れるというのならば、必ず自分は地の果てまでついていこうと決心出来る程に。

 やがてリーネは取り囲まれている冒険者達の背後からソフィに近づくと、先程まで描き上げていた一枚の紙をそっと取り出した。

「はい、どうぞ」

 そしてほんのりと頬を赤らめながら、リーネは最愛の人の似顔絵を渡すのだった。

「うーむ、確かに絵の才能はあるようだな?」

 当時の事を思い出しながらソフィはそう答えた。

「……ふふ、ありがと」

 そう言ってリーネは嬉しそうに笑うのだった。

「ま、眩しい……」

「お、おいお前ら行くぞ。これ以上邪魔をしちゃいけない」

 ソフィを取り囲んでいた冒険者達が、ソフィとリーネの醸し出す空間に耐え切れずに離れていった。

「さて……。我はディラックの元へ向かうが、リーネお前もついてくるか?」

 ソフィの言葉に、コクンと頷くリーネだった。

 ……
 ……
 ……

 冒険者の窓口のお姉さんは、ソフィとリーネの姿を見ながら呟いた。

「あーあ……。もうソフィ君は諦めないといけないわね」

 隣に居た同僚の職員が、からかうような笑みを浮かべて口を開いた。

「まさかあんな小さな冒険者が、国の大英雄になるなんて世の中分からないわねぇ……。貴方も残念だったわね」

 くすくすと同僚は笑いながら去っていった。

 窓口のお姉さんは同僚の言葉にむっとしたが、やがて大きく溜息をついた。

「お似合いよ、二人とも」

 そう言ってお姉さんは、祝福するような笑みを浮かべながら、ソフィとリーネを祝福するのだった。

 ……
 ……
 ……

 窓口でギルド長のディラックを呼んでもらうと、ソフィはギルドの奥の部屋へ通された。

 その時に窓口のお姉さんは小声で頑張りなさいと、リーネに声をかけていた。

 リーネは突然の窓口のお姉さんの言葉に驚いていたが、最後の方は恥ずかしそうに頷くのであった。

 そしてソフィ達は、もう何度足を運んだか分からない『グラン』のギルド長のディラックの部屋へと入るのだった。

「おお、ソフィ君! そちらも何か話があるようだが、先に聞いてもらえるか?」

 ディラックはそう言うと、ソフィをソファーに座らせた後に、机の上に数枚の書類を並べ始める。

「む? なんだこれは?」

 書類には何やら『冒険者ギルド・ヴェルマー支部』と書かれた物があった。

「ソフィ君。キミはこれから『ヴェルマー』大陸に渡り、そこで指導者としての立場に就くと聞いたのだが、真の事なのだろうか?」

 先日のケビン王国での話がもう『グラン』の町にまで伝わっているのかとばかりに、この世界の伝達速度の早さにソフィは驚くのであった。

「うむ。どうやらそのようになるらしいが、まだ詳しい話は『ヴェルマー』大陸に行くまでは分からぬぞ?」

 ディラックは静かに頷きを見せた。

「もちろんソフィ君がそういう立場になってからでいいのだが、君に頼みたい事があるのだ。この書類に書かれている事なのだが、端的に言うと今はまだ『ヴェルマー』大陸には無い冒険者ギルドを設立する機会の場を作って欲しいのだ」

 今は『ミールガルド』大陸にしか存在しない冒険者ギルドだが、ソフィが『ヴェルマー』大陸にある大国『ラルグ』魔国の王という立場になれば、そういう機関を設立する事も可能だろう。

「あちらの大陸には今まで魔族や魔物達が多く居て、どのような素材や資源、それにアイテムがあるのかもよく分かっていなかった。こちらの大陸では手に入らない貴重な武具の素材等があるかもしれない」

 ディラックは興奮交じりに説明を続ける。

「そこでだ、ソフィ君! キミに『ヴェルマー』大陸で冒険者ギルドを設立してもらって、依頼を通してそういった素材等を恒久的に、そちらの大陸の冒険者に取ってきてもらうという仕組みを作ってこちらとの交流を図って欲しいのだ!」

 つまり簡単に言うとこの『ミールガルド』大陸にある冒険者ギルドと、同じモノを設立してこちらの大陸にヴェルマー大陸の資源などを流通させて欲しいという事なのだろう。

「まあ、我も冒険者はやめるつもりはないのでな。そういう話が出来る機会があればやってみる事にしよう」

 ソフィがそう言うとディラックは、嬉しそうな笑みをうかべながら大きく頷いた。

「それともう一つ重要な事を伝えておかなければならないのだが……。ここミールガルド大陸からヴェルマー大陸へは、海を渡らなければならず、行き来するにはあまりに遠いだろう? そこで出来ればソフィ君達の中からギルド長を選んでもらって、こちらのギルドと定期的に交流が出来る者を選んで立ててもらいたいのだ」

 つまりディラックは『ヴェルマー』大陸支部の冒険者ギルド長を選べという事らしい。

「ふむ……。それはまぁそうだな。しかしそれはしっかりと話し合ってから決めてもよいか?」

「ああ! もちろんだとも。この場で安易に決められる事でもないからな」

 この世界は現在『ミールガルド』大陸と『ヴェルマー』大陸しか確認されておらず、今までは魔族達や魔物が『ヴェルマー』大陸に蔓延っていて、まだまだミールガルド大陸にとっては、ヴェルマー大陸は未開拓の地と呼んでも差し支えない程に何も分かってはいない。

 だが、今回の事で『ヴェルマー』大陸に冒険者ギルドが出来るとなると、ミールガルドでは入手困難な素材等も手に入る可能性が出てくるのだ。

 そうなればその素材から新たな装備品や、アイテムの生成。更には新たな発見も増えて、良い事尽くめになる事は間違いないとディラックは考えた。

 そこでディラックは何としてもソフィに、冒険者ギルドを設立してもらいたいのだった。

 しかし実はこのミールガルド大陸とヴェルマー大陸の他にも、龍族達の住む大陸である『ターティス大陸』の半分が現世に復活していたのだが、

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