最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第151話 ヴェルトマーとの出会い7
いつもシスに魔法を教えている訓練場ではなく『近接近衛部隊』達が使っている訓練場にラティオは居た。
ヴェルトマーは心の中で思う。
(行き先も告げずに勝手に出て行くなんてね。私が魔力探知出来なければこの場所に辿り着けないという事をこいつは気づかなかったのかしら? それともそれくらい出来なければその程度だとでも思っていたという事かしら)
「ふんっ、来たか……」
壁に身体を預けていたラティオは、ヴェルトマーの姿が見えた事で背筋を正してその場で剣を抜いた。
ヴェルトマーはその様子を見ながら、薄く笑みを浮かべて口を開いた。
「アンタが私を殺すつもりでその得物を抜いたというのであれば、この場で死を覚悟してもらうけど?」
ヴェルトマーは先程からラティオから漏れ出ている殺意を感じ取っている為に、どういうつもりなのかを言葉で明確にするために確認を行う。
明確な殺意というワケではなく、どうやら滲ませている怒りの中に見え隠れする殺意が、仄かに漏れ出ているようであった。
しかしそれでも『ヴェルトマー』はそんな仄かな殺意でさえ、自分に向けてきた以上は見逃す程に甘くはない。こう見えても彼女は『大魔王』なのである。
返答次第では冗談ではなく、本当に彼にはこの世から退場してもらう事となるだろう。
ヴェルトマーにとっては、この世界にもこの国にも興味はない。
この『レイズ』魔国の軍所属となったのも『シス』という存在が居たからに他ならない。
「安心しろ……! お前のような奴でもこの国の仲間を殺すような真似はしない。だが、二度と舐めた口を利けないように、片腕くらいは覚悟してもらうつもりだがなぁっ!」
そう言葉を吐きだしながら『ラティオ』は、紅いオーラを剣に纏い始める。
ヴェルトマーは『ああ面倒くさい』と心の中で呟きながらラティオと同じ色のオーラ、淡く紅いオーラを身体に纏い始める。
「ほう? そこまで力を使いこなしているのか。どうやら貴様はただの新人ではないようだ」
ヴェルトマーはラティオの言葉に、嘲笑するような笑みを浮かべた。
「そうね? まぁ貴方よりは長く生きているから」
魔族の年齢で言ってもまだまだ、シスより少しくらい年上にしか見えない為に、ラティオはおかしかったようで、ついついとばかりに笑ってしまうのであった。
「ククッ! まだまだ若く見えるがな? そういったセリフはもう少し年を取ってから使いやがれ! 痴れ者が!」
そしてラティオは地面を蹴って空を飛びあがると、そのまま真っすぐに剣を振り下ろしてきた。
確かに速度はあるようで、この世界の『魔族』にしては威力も申し分ないだろうと『ヴェルトマー』は目測で判断する。
この身体の私にであれば確かに、何万回かに一回くらいは、掠り傷くらいはつけられるかもしれないと、ヴェルトマーは思うのであった。
だが当然『ヴェルトマー』は、その何万回も付き合うつもりは毛頭無く、こちらに向かって襲い掛かって来るラティオの間合いを視線で精密に測りながら行動を開始した。
ヴェルトマーはその場で自分の身体の調子を確かめるかのように、トンットンッと跳ねるように、二、三度飛んだ後、左足を軸足にして思いきり前方へ駆け出す。
「!?」
先程までヴェルトマーが居た場所に向けて、空から刀を振り下ろして迫って来ていたラティオだが、その場に居た筈のヴェルトマーの姿が忽然と消え去った事で、彼は慌てて周囲を見回した。
「なっ……! ど、どこへ……」
「アンタさぁ……? 自分が剣士だからって『魔』に関しての知識を何一つ持ち合わせていないのかしら? 目視出来無いと気づいた時点で馬鹿みたいにきょろきょろしてどうするの? 魔力感知と魔力探知くらいは無意識に行えるようにしておきなさいよ。本当にそんな無様な戦い方だけでよく国を守る軍の指揮官になれたわね?」
「い、いつの間に!」
先程周囲を見回した時にはその姿がなかった筈の『ヴェルトマー』が、今は『ラティオ』の真後ろに立っていて、アドバイスをするようにそう言葉を口にしてくるのであった。
「え、ええい! まだ勝負の途中だぞ! 油断したな、ヴェルトマー!!」
自分の間合いに居るヴェルトマーは、構えすら取っておらず手を挙げてすらいなかった。
その状態で思い切り彼女を横凪ぎに斬りつけようと、ラティオはその自分のオーラで創成具現を施した紅のオーラの剣を振り切った。
どうやらもう手加減をするという先程の話は、彼の頭から飛んでしまっていたのだろう。
今のラティオの攻撃は、確実に相手の首を刎ね飛ばす程の勢いを有していた。
しかし先に振り切られた筈のそのオーラの剣が、ヴェルトマーの首元に届くかといった瞬間に、恐ろしい程に素早い所作で『ヴェルトマー』は自分の手を首元に持っていったかと思えば、そのラティオのオーラの剣を人差し指と親指で軽くつまんで止めた。
「なっ!?」
驚愕で目を見開くラティオだが、直ぐに意識を手に戻しながら力を込めてオーラで出来た剣をヴェルトマーに突き入れようとする。
しかしどれだけ力を込めようとたった数ミリ程も動かせなかった。
「まぁ、貴方が喧嘩を売ってきたのだしね? 一発くらいは受けときなさい。それが礼儀よ?」
ヴェルトマーはそう告げると、あっさりとつまんでいた『ラティオ』の『紅のオーラ』で出来た創成具現の剣をボキリと捻り折った後に、その場で腰を低く落としたかと思えば次の瞬間に、恐ろしい速度で態勢を戻して、その反動で勢いをつけながら手の平の下の部分、手首に近いところを『ラティオ』の顎を目掛けて思いきり突き上げた。
――それは『掌底打ち』と呼ばれる技であった。
脳にダメージを残さない程度に意識を切断させるギリギリの力加減。
タイミングと相手の防御をする反応速度を全て緻密に計算された『ヴェルトマー」のその掌底打ちによって『ラティオ』は顎を突き上げられた事で、彼は目をぐるんと回して白目になりながらそのまま意識を失った。
ヴェルトマーはこれ以上は手加減が出来ないと言うところまで力を落として、最後の掌底打ちにはオーラすら纏わずにあくまでラティオの喧嘩に付き合った。
レイズ魔国No.3の『近接近衛部隊』の隊長『ラティオ・ビデス』は、何もする事が出来ぬままに『ヴェルトマー』の前で倒れ伏すのであった。
「はい、終わり」
そう言ってヴェルトマーは手をぶらぶらと振りながら倒れ伏したラティオを一瞥すると、この後に『魔法』を教えると約束した『シス』王女の元へ向かう為に、そのまま訓練場を後にするのであった。
……
……
……
会議の後の事が気になってしまい、訓練場の片隅でこっそりと成り行きを見ていた『近接近衛部隊』の副長『テレーゼ・クーティア』は、ヴェルトマーが居なくなった後もそのままその場で声を出せなかった。
(……な、なんなのあの化け物! た、隊長は『最上位魔族』の上位に位置されるお方なのよ!?)
テレーゼはその場に座り込んで頭に手をやりながら震え出す。
近接近衛部隊の副長として戦えるように、長年鍛え続けて来たテレーゼは『ヴェルトマー』が戦闘を始める直前の跳躍から、あっさりと隊長の『ラティオ』の攻撃を躱した直後に再び彼の間合いにまで飛び込んで見せた後に『ラティオ』に最後の一撃入れるまでの一連の流れを省みて、ヴェルトマーという魔法使いの筈の彼女の見事な体捌きに鳥肌を立てながら、白目を剥いて倒れている隊長の介抱を始めるテレーゼであった。
ヴェルトマーは心の中で思う。
(行き先も告げずに勝手に出て行くなんてね。私が魔力探知出来なければこの場所に辿り着けないという事をこいつは気づかなかったのかしら? それともそれくらい出来なければその程度だとでも思っていたという事かしら)
「ふんっ、来たか……」
壁に身体を預けていたラティオは、ヴェルトマーの姿が見えた事で背筋を正してその場で剣を抜いた。
ヴェルトマーはその様子を見ながら、薄く笑みを浮かべて口を開いた。
「アンタが私を殺すつもりでその得物を抜いたというのであれば、この場で死を覚悟してもらうけど?」
ヴェルトマーは先程からラティオから漏れ出ている殺意を感じ取っている為に、どういうつもりなのかを言葉で明確にするために確認を行う。
明確な殺意というワケではなく、どうやら滲ませている怒りの中に見え隠れする殺意が、仄かに漏れ出ているようであった。
しかしそれでも『ヴェルトマー』はそんな仄かな殺意でさえ、自分に向けてきた以上は見逃す程に甘くはない。こう見えても彼女は『大魔王』なのである。
返答次第では冗談ではなく、本当に彼にはこの世から退場してもらう事となるだろう。
ヴェルトマーにとっては、この世界にもこの国にも興味はない。
この『レイズ』魔国の軍所属となったのも『シス』という存在が居たからに他ならない。
「安心しろ……! お前のような奴でもこの国の仲間を殺すような真似はしない。だが、二度と舐めた口を利けないように、片腕くらいは覚悟してもらうつもりだがなぁっ!」
そう言葉を吐きだしながら『ラティオ』は、紅いオーラを剣に纏い始める。
ヴェルトマーは『ああ面倒くさい』と心の中で呟きながらラティオと同じ色のオーラ、淡く紅いオーラを身体に纏い始める。
「ほう? そこまで力を使いこなしているのか。どうやら貴様はただの新人ではないようだ」
ヴェルトマーはラティオの言葉に、嘲笑するような笑みを浮かべた。
「そうね? まぁ貴方よりは長く生きているから」
魔族の年齢で言ってもまだまだ、シスより少しくらい年上にしか見えない為に、ラティオはおかしかったようで、ついついとばかりに笑ってしまうのであった。
「ククッ! まだまだ若く見えるがな? そういったセリフはもう少し年を取ってから使いやがれ! 痴れ者が!」
そしてラティオは地面を蹴って空を飛びあがると、そのまま真っすぐに剣を振り下ろしてきた。
確かに速度はあるようで、この世界の『魔族』にしては威力も申し分ないだろうと『ヴェルトマー』は目測で判断する。
この身体の私にであれば確かに、何万回かに一回くらいは、掠り傷くらいはつけられるかもしれないと、ヴェルトマーは思うのであった。
だが当然『ヴェルトマー』は、その何万回も付き合うつもりは毛頭無く、こちらに向かって襲い掛かって来るラティオの間合いを視線で精密に測りながら行動を開始した。
ヴェルトマーはその場で自分の身体の調子を確かめるかのように、トンットンッと跳ねるように、二、三度飛んだ後、左足を軸足にして思いきり前方へ駆け出す。
「!?」
先程までヴェルトマーが居た場所に向けて、空から刀を振り下ろして迫って来ていたラティオだが、その場に居た筈のヴェルトマーの姿が忽然と消え去った事で、彼は慌てて周囲を見回した。
「なっ……! ど、どこへ……」
「アンタさぁ……? 自分が剣士だからって『魔』に関しての知識を何一つ持ち合わせていないのかしら? 目視出来無いと気づいた時点で馬鹿みたいにきょろきょろしてどうするの? 魔力感知と魔力探知くらいは無意識に行えるようにしておきなさいよ。本当にそんな無様な戦い方だけでよく国を守る軍の指揮官になれたわね?」
「い、いつの間に!」
先程周囲を見回した時にはその姿がなかった筈の『ヴェルトマー』が、今は『ラティオ』の真後ろに立っていて、アドバイスをするようにそう言葉を口にしてくるのであった。
「え、ええい! まだ勝負の途中だぞ! 油断したな、ヴェルトマー!!」
自分の間合いに居るヴェルトマーは、構えすら取っておらず手を挙げてすらいなかった。
その状態で思い切り彼女を横凪ぎに斬りつけようと、ラティオはその自分のオーラで創成具現を施した紅のオーラの剣を振り切った。
どうやらもう手加減をするという先程の話は、彼の頭から飛んでしまっていたのだろう。
今のラティオの攻撃は、確実に相手の首を刎ね飛ばす程の勢いを有していた。
しかし先に振り切られた筈のそのオーラの剣が、ヴェルトマーの首元に届くかといった瞬間に、恐ろしい程に素早い所作で『ヴェルトマー』は自分の手を首元に持っていったかと思えば、そのラティオのオーラの剣を人差し指と親指で軽くつまんで止めた。
「なっ!?」
驚愕で目を見開くラティオだが、直ぐに意識を手に戻しながら力を込めてオーラで出来た剣をヴェルトマーに突き入れようとする。
しかしどれだけ力を込めようとたった数ミリ程も動かせなかった。
「まぁ、貴方が喧嘩を売ってきたのだしね? 一発くらいは受けときなさい。それが礼儀よ?」
ヴェルトマーはそう告げると、あっさりとつまんでいた『ラティオ』の『紅のオーラ』で出来た創成具現の剣をボキリと捻り折った後に、その場で腰を低く落としたかと思えば次の瞬間に、恐ろしい速度で態勢を戻して、その反動で勢いをつけながら手の平の下の部分、手首に近いところを『ラティオ』の顎を目掛けて思いきり突き上げた。
――それは『掌底打ち』と呼ばれる技であった。
脳にダメージを残さない程度に意識を切断させるギリギリの力加減。
タイミングと相手の防御をする反応速度を全て緻密に計算された『ヴェルトマー」のその掌底打ちによって『ラティオ』は顎を突き上げられた事で、彼は目をぐるんと回して白目になりながらそのまま意識を失った。
ヴェルトマーはこれ以上は手加減が出来ないと言うところまで力を落として、最後の掌底打ちにはオーラすら纏わずにあくまでラティオの喧嘩に付き合った。
レイズ魔国No.3の『近接近衛部隊』の隊長『ラティオ・ビデス』は、何もする事が出来ぬままに『ヴェルトマー』の前で倒れ伏すのであった。
「はい、終わり」
そう言ってヴェルトマーは手をぶらぶらと振りながら倒れ伏したラティオを一瞥すると、この後に『魔法』を教えると約束した『シス』王女の元へ向かう為に、そのまま訓練場を後にするのであった。
……
……
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(……な、なんなのあの化け物! た、隊長は『最上位魔族』の上位に位置されるお方なのよ!?)
テレーゼはその場に座り込んで頭に手をやりながら震え出す。
近接近衛部隊の副長として戦えるように、長年鍛え続けて来たテレーゼは『ヴェルトマー』が戦闘を始める直前の跳躍から、あっさりと隊長の『ラティオ』の攻撃を躱した直後に再び彼の間合いにまで飛び込んで見せた後に『ラティオ』に最後の一撃入れるまでの一連の流れを省みて、ヴェルトマーという魔法使いの筈の彼女の見事な体捌きに鳥肌を立てながら、白目を剥いて倒れている隊長の介抱を始めるテレーゼであった。
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