最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第147話 ヴェルトマーとの出会い3
そしてこれまで合格者が出ていない『魔法部隊』の入隊試験に、シスが見知った顔の女性の順番がまわってくるのであった。
「はいはーい」
ヴェルトマーが返事をして前に出てきたが、そこから一向に魔力を高める素振りを見せずにじっとヴェルトマーは試験官のリーゼの方を見ている。
――そしてリーゼが訝し気に眉を寄せた時である。
「ねえ貴方、そんな『結界』だけじゃなくてさ、魔法障壁も使っておいてくれないかしら?」
突然ヴェルトマーは、試験を行うリーゼにそう告げるのだった。
「……は? 何を言っている! 入隊テスト程度でそんなモノを使う必要はありません! 未熟な新人が何を偉そうに! いいからさっさと持っている力を示しなさい! 全く!!」
どうやらここまでに合格者が出ていない事に加えて、生意気な事を告げたヴェルトマーに苛立ちが募っていた『リーゼ』はぶつぶつと愚痴をこぼし始めるのだった。
結界だけじゃなくて障壁を使えという事は『暗にこの程度の結界では防ぐ事が出来ないから、もっと守りを固くしろ』と言っているのと同義と取れるのである。
入隊前の新人に舐めた口を利かれた軍の魔法部隊長であるリーゼは、苛立ちを隠しきれなかった様子であった。
「まぁ、別にいいけどね? この身体に慣れてないから手加減しきれず、殺しちゃっても文句言わないでよねー」
そう言うと『ヴェルトマー』は右手を天に翳した。
――次の瞬間、リーゼの周囲に幾重にも魔法陣が浮かび上がる。
この世界の『理』を無視した見た事のない文字が次々に空間に刻まれていく。
そして迸る程の『魔力』がヴェルトマーの周囲を覆っていき、その膨大な魔力は他者が可視化出来る程であった。
「えっ? ちょ、ちょっと、ま、待ちなさい……!!」
十・百・千と僅か数秒の間に魔法陣がさらにさらに重なっていく。
ヴェルトマーの魔力回路に蓄えられていた『魔力』が全て放出されたと同時、夥しい数の『発動羅列』が空中に表記されていく。
――超越魔法、『終焉の雷』。
この『リラリオ』の世界には既に現存しない位階領域――。
かつての精霊族が体現を試みようとはしたが、体現にまで至らなかった『超越』領域の最上級である『魔王』位階魔法が、リーゼという卓越した魔法使いの眼前で放たれるのであった。
流石のリーゼはこれまで成し遂げられなかった過去の伝説級の『魔法』が目の前で展開された事で、その入隊希望の新人が、自分の想像の埒外に居る存在なのだと理解に至るのであった。
「ま、魔法障壁!」
事の重大さを瞬時に理解したリーゼが、ようやく魔法障壁を何重にも張る。魔法障壁が張られたコンマ数秒後『ヴェルトマー』の超越魔法がリーゼに襲い掛かっていく。
「う、うわああああ!!!」
まず最初にキズをつける事が出来れば合格と言われていた『結界』が、最初からなかったかの如く『雷』の一撃によって全て破壊された後、次にその『結界』の中に居たリーゼを覆っていた『魔法障壁』に乾いた音が数度聞こえたかと思うと『リーゼ』の『魔法障壁』は全てが粉々にされて、爆風によってリーゼは背後へ吹き飛ばされていった。
あわや壁に激突するかと思われたが、そこでヴェルトマーが指をパチンと鳴らすと、リーゼの身体がふわっと浮いて空に舞って空中で身体を固定させられるのであった。
「耐魔力が脆いわねぇ? こんな程度で魔法部隊の試験官なんてやってて大丈夫なのかしらね」
ヴェルトマーに助けられたリーゼは、空の上で泡を吹いて意識を失った状態でふわふわと浮いていた。
「え……?」
様子を見ていた他の魔法部隊員や、シスは何が起きたのか分らぬままに入隊試験にきていた新人である『ヴェルトマー』を見た。
当の本人であるヴェルトマーは、自分の手を見て何かブツブツと呟いていた。
「それにしてもこの身体の影響の所為か、私の『魔力』のコントロールがだいぶ甘くなっているわね。私も他者の事をとやかく言えないわ」
『魔』に関しては自分にも他者にも厳しいヴェルトマーは、試験官のリーゼの耐魔力を指摘した後に、今度は自分の『魔力』のコントロールの甘さにダメだしをしながら、自分も研鑽が足りていないと反省するのであった。
しかし反省を終えたヴェルトマーが、こちらを見て呆然としていたシス王女の姿を見たかと思うと、嬉しそうに笑顔で手を振って見せるのであった。
「あっ……、あはは……」
シスも乾いた笑い声をあげながら、こちらを嬉しそうに見ている『ヴェルトマー』に手を振り返すのであった。
……
……
……
そして『ヴェルトマー』のその『魔力』と『魔法』を間近で見ていた『レイズ』魔国の現『魔法部隊』の者達は、火が付いたかの如く盛り上がりを見せていた。
それもその筈『ヴェルトマー』が入隊試験で見せた魔法は、誰が見ても勢い付いている『ラルグ』魔国軍の侵攻を防ぐ事が出来るかもしれないと思わせる程の『レイズ』魔国の希望の灯だったからである。
……
……
……
魔法部隊達の間で大騒ぎになっている事など知らない『ヴェルトマー』は、シスの部屋に連れられていた。
「全くびっくりしたわよ! お姉さんが軍に『レイズ』魔国軍に入隊するなんて初めて知ったもの!」
シスの自室に『ヴェルトマー』を連れてきたシスは、興奮しながら何度も同じ事を早口で捲し立てるように告げるのだった。
「貴方が私に『魔法』を習いたいって言ったからね? どうすれば貴方が外に出てこれなくても『魔法』を教えられるかしらって考えていたんだけど、今日この国の軍の入隊試験があるって聞いて、これだと思って応募してきたのよ」
「わ、私に『魔法』を教えるためだけに、軍隊の入隊試験に応募したの!?」
出会ったばかりの私が『魔法』を教えて欲しいって言っただけで、彼女はそんな私に教える為に、わざわざ軍にまで加入してくれたのである。
シスはそこまでしてくれた『ヴェルトマー』に胸が温かくなった。
「他に貴方に会う方法が思いつかなくってね。まあ少しばかり時間がかかったけど、安心しなさい! 貴方は魔法の才能があるって自分で理解出来るようにしてあげるからね!」
シスは驚きで目を丸くする。今の今まで自分には魔法の才能がないと思っていた。
そしてシスは、面と向かっては言われてはいないが、今まで魔法を教えてくれていた『リーゼ』の表情からも悟っていた。
最近では簡単な魔法の反復練習ばかりで『リーゼ』からは難しい魔法を一切教えてくれなくなっていたのだ。
そして情けない者を見るような目を向けられるようになって、悔しくてこの自室で泣く事はあっても、自分の才能がないのが悪いのだと思う事にしてリーゼを責める事もせず、愚直に反復練習のみを続けていたのだった。
そんな彼女が才能があると言われたのである。
お世辞だと分かってはいても、初めて他者から頑張っていた事を褒められたシスは、嬉しくて仕方がなかったようで、ニコニコと上機嫌に笑うのだった。
「で、でも私は、上位魔法を使おうとすると魔法が発動せず消えちゃうし。使える魔法といったら、この前くらいなものなのよ?」
最後の方は声が小さくなっていった。
「あっはっは、笑わせないでよ?」
突然笑い始めたヴェルトマーを驚いた顔で見つめる。
「安心しなさい? 貴方以上の天才はこの世界にはいないから」
『ヴェルトマー』は自信満々にシスにそう言い放つのであった。
……
……
……
「はいはーい」
ヴェルトマーが返事をして前に出てきたが、そこから一向に魔力を高める素振りを見せずにじっとヴェルトマーは試験官のリーゼの方を見ている。
――そしてリーゼが訝し気に眉を寄せた時である。
「ねえ貴方、そんな『結界』だけじゃなくてさ、魔法障壁も使っておいてくれないかしら?」
突然ヴェルトマーは、試験を行うリーゼにそう告げるのだった。
「……は? 何を言っている! 入隊テスト程度でそんなモノを使う必要はありません! 未熟な新人が何を偉そうに! いいからさっさと持っている力を示しなさい! 全く!!」
どうやらここまでに合格者が出ていない事に加えて、生意気な事を告げたヴェルトマーに苛立ちが募っていた『リーゼ』はぶつぶつと愚痴をこぼし始めるのだった。
結界だけじゃなくて障壁を使えという事は『暗にこの程度の結界では防ぐ事が出来ないから、もっと守りを固くしろ』と言っているのと同義と取れるのである。
入隊前の新人に舐めた口を利かれた軍の魔法部隊長であるリーゼは、苛立ちを隠しきれなかった様子であった。
「まぁ、別にいいけどね? この身体に慣れてないから手加減しきれず、殺しちゃっても文句言わないでよねー」
そう言うと『ヴェルトマー』は右手を天に翳した。
――次の瞬間、リーゼの周囲に幾重にも魔法陣が浮かび上がる。
この世界の『理』を無視した見た事のない文字が次々に空間に刻まれていく。
そして迸る程の『魔力』がヴェルトマーの周囲を覆っていき、その膨大な魔力は他者が可視化出来る程であった。
「えっ? ちょ、ちょっと、ま、待ちなさい……!!」
十・百・千と僅か数秒の間に魔法陣がさらにさらに重なっていく。
ヴェルトマーの魔力回路に蓄えられていた『魔力』が全て放出されたと同時、夥しい数の『発動羅列』が空中に表記されていく。
――超越魔法、『終焉の雷』。
この『リラリオ』の世界には既に現存しない位階領域――。
かつての精霊族が体現を試みようとはしたが、体現にまで至らなかった『超越』領域の最上級である『魔王』位階魔法が、リーゼという卓越した魔法使いの眼前で放たれるのであった。
流石のリーゼはこれまで成し遂げられなかった過去の伝説級の『魔法』が目の前で展開された事で、その入隊希望の新人が、自分の想像の埒外に居る存在なのだと理解に至るのであった。
「ま、魔法障壁!」
事の重大さを瞬時に理解したリーゼが、ようやく魔法障壁を何重にも張る。魔法障壁が張られたコンマ数秒後『ヴェルトマー』の超越魔法がリーゼに襲い掛かっていく。
「う、うわああああ!!!」
まず最初にキズをつける事が出来れば合格と言われていた『結界』が、最初からなかったかの如く『雷』の一撃によって全て破壊された後、次にその『結界』の中に居たリーゼを覆っていた『魔法障壁』に乾いた音が数度聞こえたかと思うと『リーゼ』の『魔法障壁』は全てが粉々にされて、爆風によってリーゼは背後へ吹き飛ばされていった。
あわや壁に激突するかと思われたが、そこでヴェルトマーが指をパチンと鳴らすと、リーゼの身体がふわっと浮いて空に舞って空中で身体を固定させられるのであった。
「耐魔力が脆いわねぇ? こんな程度で魔法部隊の試験官なんてやってて大丈夫なのかしらね」
ヴェルトマーに助けられたリーゼは、空の上で泡を吹いて意識を失った状態でふわふわと浮いていた。
「え……?」
様子を見ていた他の魔法部隊員や、シスは何が起きたのか分らぬままに入隊試験にきていた新人である『ヴェルトマー』を見た。
当の本人であるヴェルトマーは、自分の手を見て何かブツブツと呟いていた。
「それにしてもこの身体の影響の所為か、私の『魔力』のコントロールがだいぶ甘くなっているわね。私も他者の事をとやかく言えないわ」
『魔』に関しては自分にも他者にも厳しいヴェルトマーは、試験官のリーゼの耐魔力を指摘した後に、今度は自分の『魔力』のコントロールの甘さにダメだしをしながら、自分も研鑽が足りていないと反省するのであった。
しかし反省を終えたヴェルトマーが、こちらを見て呆然としていたシス王女の姿を見たかと思うと、嬉しそうに笑顔で手を振って見せるのであった。
「あっ……、あはは……」
シスも乾いた笑い声をあげながら、こちらを嬉しそうに見ている『ヴェルトマー』に手を振り返すのであった。
……
……
……
そして『ヴェルトマー』のその『魔力』と『魔法』を間近で見ていた『レイズ』魔国の現『魔法部隊』の者達は、火が付いたかの如く盛り上がりを見せていた。
それもその筈『ヴェルトマー』が入隊試験で見せた魔法は、誰が見ても勢い付いている『ラルグ』魔国軍の侵攻を防ぐ事が出来るかもしれないと思わせる程の『レイズ』魔国の希望の灯だったからである。
……
……
……
魔法部隊達の間で大騒ぎになっている事など知らない『ヴェルトマー』は、シスの部屋に連れられていた。
「全くびっくりしたわよ! お姉さんが軍に『レイズ』魔国軍に入隊するなんて初めて知ったもの!」
シスの自室に『ヴェルトマー』を連れてきたシスは、興奮しながら何度も同じ事を早口で捲し立てるように告げるのだった。
「貴方が私に『魔法』を習いたいって言ったからね? どうすれば貴方が外に出てこれなくても『魔法』を教えられるかしらって考えていたんだけど、今日この国の軍の入隊試験があるって聞いて、これだと思って応募してきたのよ」
「わ、私に『魔法』を教えるためだけに、軍隊の入隊試験に応募したの!?」
出会ったばかりの私が『魔法』を教えて欲しいって言っただけで、彼女はそんな私に教える為に、わざわざ軍にまで加入してくれたのである。
シスはそこまでしてくれた『ヴェルトマー』に胸が温かくなった。
「他に貴方に会う方法が思いつかなくってね。まあ少しばかり時間がかかったけど、安心しなさい! 貴方は魔法の才能があるって自分で理解出来るようにしてあげるからね!」
シスは驚きで目を丸くする。今の今まで自分には魔法の才能がないと思っていた。
そしてシスは、面と向かっては言われてはいないが、今まで魔法を教えてくれていた『リーゼ』の表情からも悟っていた。
最近では簡単な魔法の反復練習ばかりで『リーゼ』からは難しい魔法を一切教えてくれなくなっていたのだ。
そして情けない者を見るような目を向けられるようになって、悔しくてこの自室で泣く事はあっても、自分の才能がないのが悪いのだと思う事にしてリーゼを責める事もせず、愚直に反復練習のみを続けていたのだった。
そんな彼女が才能があると言われたのである。
お世辞だと分かってはいても、初めて他者から頑張っていた事を褒められたシスは、嬉しくて仕方がなかったようで、ニコニコと上機嫌に笑うのだった。
「で、でも私は、上位魔法を使おうとすると魔法が発動せず消えちゃうし。使える魔法といったら、この前くらいなものなのよ?」
最後の方は声が小さくなっていった。
「あっはっは、笑わせないでよ?」
突然笑い始めたヴェルトマーを驚いた顔で見つめる。
「安心しなさい? 貴方以上の天才はこの世界にはいないから」
『ヴェルトマー』は自信満々にシスにそう言い放つのであった。
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