最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第138話 ゴルガーの心の吐露
ラルグ魔国の魔族達は『ミールガルド』大陸に侵攻するべく、シーマ王を筆頭に『ヴェルマー』大陸を発った。そして二日程が過ぎて、遂に『ミールガルド』大陸の目と鼻の先という所まで辿り着いた。
「シーマ王、ついにミールガルドが見えてきました」
ラルグ魔国の王シーマの側近『ゴルガー・フィクス』が声を掛ける。
大陸の規模は『ヴェルマー』大陸とは違い、『ミールガルド』の方が遥かに大きい。
シーマはこれまでヴェルマー大陸の他国の睨み合いのみに意識を割いていた為に、ミールガルド大陸がここまで大きな大陸だとは思わなかった。
「……素晴らしいではないか、この大陸もまた俺のものになるのだな」
シーマがそう言うと『ゴルガー』は大きく頷く。
「『ミールガルド』大陸の人間達に『魔族』がどれ程圧倒的な存在かを知らしめましょう」
そう言うゴルガーであったが、内心ではこの大陸に『魔王』がいるのではないかと懸念めいたものが浮かんでいる。
(いや考え過ぎだ。そもそも人間の国に魔族の『魔王』が居る筈がない……。居る筈が無いではないか!)
侵攻前に気が鈍っては行けないと、必死に頭から『魔王』の存在を消す『ゴルガー』であった。
「元より人間などは眼中にないが『レルバノン』だけは、部下共では荷が重いだろうな」
元ラルグ魔国No.2『レルバノン・フィクス』。
【種族:魔族 年齢:3754歳 名前:レルバノン 戦力値:3435万】。
――二つ名は『鮮血のレルバノン』。
普段は柔らかな物腰でどんな人物にも優しく接するが、ひとたび殺し合いが始まると普段の姿はなりを潜め、敵対する者を殺し尽くすまで止まる事がない。
敵、味方問わずに恐れられた『最上位魔族』である。
遠くない未来に『魔王の資質』に目覚めるだろうと言われていた男である。
シーマは自らの手でかつての配下『レルバノン』を殺めねばならぬだろうと覚悟を決める様に拳を握った。
ゴルガーはそんな様子の自分の主を目の端に捉えながら、自らが国を追いやった『レルバノン』を思い出していた。ゴルガーがまだ、No.3の『ビデス』であった頃、レルバノンはその人あたりの良さで多くの仲間がいた。そしてゴルガーもそんなレルバノンの事を尊敬していて、忠誠を尽くしていた。
だが、ある時の事件がきっかけで彼の中でのレルバノンの存在が一変してしまい、それまでと正反対にして忌むべき存在となってしまう。
それは『レイズ』魔国の拠点の一部を襲撃していた頃の話であった。当時はまだ『ヴェルトマー』が前線で猛威を奮っていた頃で『ラルグ』は、二軍以下の戦力では『レイズ』の国境にすら辿り着けない程であった。
それもその筈レイズの拠点に居ながらにして『広域殲滅魔法』を放ちながら、片手間で『遠距離広範囲増幅魔法』を使い『レイズ』魔国の兵全軍の魔力を数倍高めるというとんでもない事を、ヴェルトマーという魔法使いは為していた。
当時の指揮権を担っていたレルバノンは、そんな『ヴェルトマー』に悩まされていた。彼の助けになればと私が単独で動いた。当時はまだラルグにはシュライダー私兵団等もなく、第二軍までが戦力として数えられていた。
そこで私は独断で一団を率いて『レイズ』国境の一つ先にある地点を攻めた。ヴェルトマーの目を眩ませて『レルバノン』様の為になればと動いたのだ。
しかし、結果はヴェルトマーの魔法により全滅。
私は命からがら逃げ帰った。不甲斐なく思いながらも国を思いレルバノン様を思っての行動だった。だが、叱責は覚悟していたのだが、予想以上にレルバノン様を激怒させてしまった。
……
……
……
「貴方の勝手な行動で、大事な戦力を消耗させてしまったのです。どういうつもりで動いたのか、理由を話しなさい」
私は素直に白状して『レルバノン』様の助けになるようにと思って行動した事を伝えた。別に恩を着せたいとかそういう気持ちは一切無く純粋にそう思っていたのだ。
――しかしあの時の返ってきた『レルバノン』の言葉と表情は、私は生涯忘れられないだろう。
「……あなたはそんなつまらない理由の為に、大事な戦力を割いたのですか? 貴方程度が何かをしたところでレイズ魔国は落とせない。そんな事も分からないのですか? 私の事を思って行動するというのであれば、今後は何もせずに上の命令に従いなさい。『足手まといだ』」。
そう言ってレルバノン様は大きな溜息を吐きながら、私を塵芥を見るような目で見た。
これが全く興味のない上司の言葉であったなら、私も聞き流して終わりであったのだろう。
だが私は『レルバノン』を尊敬していた。ラルグ魔国の誰よりも。この話を他人が聞けば、たかがそれだけの事だと思うだろう。しかしその時の私はもう色々な感情が綯交ぜになり、やがて頭の中は真っ白になった。尊敬するレルバノンに、足手まといだと思われて興味を失くされたのが、余程私には衝撃な出来事ようだ。
――やがて私は抜け殻のように毎日を生きていた。
そして沸々と胸に何かが宿ったように感じたのはその時だっただろうか。それからはレルバノンが指揮を執り、それに従うたびに私はよく分からない感情に苛まされた。いくら作戦が上手くいってレルバノンを喜ばせても私の中で小さな苛立ちが、ついて回るようになったのだ。
今までならば、自分の事のように喜んでいたのに。
そしてある日、レルバノンがシーマ様に一つの土地を任せられて統治するようになった。私は昔から悪知恵だけは他者以上に働く『魔族』だった。そしてそんな私の中に、ある一つの考えが働いた。
ここでレルバノンを失脚させれば、
あの時の私と同じ気持ちになるのではないか?
――何故そう思ったのかは、今でも分からない。
だが、レルバノンが取り返しのつかない事件を起こして、シーマ様を激怒させたらと考えるだけで、私の心がすっとする気持ちになるのだ。その後も計画の為に、レルバノンが謀反を目論んでいると吹聴して回った。何故だか分からないがそうする事で、どんどんと私の気持ちが晴れていくのだ。
『ああ、なんて気持ちがいいのだろうか』。私の胸に宿る何かが少しずつ、取れていくような気持ちだった。
そして行動すればする程にレルバノンが少しずつ、周りから人が離れていくのを見るだけで、最高の気持ちになっていく。この気持ちをもっと味わいたい。少しの事くらいでは『気持ちがいい』という感情が足りなくなり、もっと大きな事をしたいと思うようになった。
そしてその頃の私はもう、悪鬼羅刹にとりつかれていたように思う。
『この憎きレルバノンをこの国から追放してやろう!』そう考えただけで、ドクンッと胸が高なった。今まで感じた中でも最っ高の気持ちだった。考えただけで飛び跳ねたい程の感情が芽生えるのだ。これがもし『現実になれば、どうなってしまうのだろう?』もうそう考えると、他の事等一切手につかない。
(レルバノンを破滅させてやりたい! 取返しのつかない失脚を……っ!)
もう私の心は壊れていたのだろう。
――そして私は、取り返しのつかない程の大きな行動を起こした。
結果見事に策は嵌り『憎きレルバノン』は、ラルグ魔国から追放されて逃げ出した。それも命を狙われる程の大罪者となって。
全てが終わった後に私は、興奮と歓喜でこのまま死んでしまうのではないかと思う程の多幸感を得た。
……
……
……
(私はもうあれ程の気持ち良さを今後の生涯で、決して得る事はないでしょうね)
知らず知らずのうちに私は笑みを浮かべていた。ミールガルド大陸へ向かう最中で過去を思い耽る。人生で最高の絶頂を得た時の感覚を懐かしく思い、一人悦に入る『ゴルガー』であった。
「シーマ王、ついにミールガルドが見えてきました」
ラルグ魔国の王シーマの側近『ゴルガー・フィクス』が声を掛ける。
大陸の規模は『ヴェルマー』大陸とは違い、『ミールガルド』の方が遥かに大きい。
シーマはこれまでヴェルマー大陸の他国の睨み合いのみに意識を割いていた為に、ミールガルド大陸がここまで大きな大陸だとは思わなかった。
「……素晴らしいではないか、この大陸もまた俺のものになるのだな」
シーマがそう言うと『ゴルガー』は大きく頷く。
「『ミールガルド』大陸の人間達に『魔族』がどれ程圧倒的な存在かを知らしめましょう」
そう言うゴルガーであったが、内心ではこの大陸に『魔王』がいるのではないかと懸念めいたものが浮かんでいる。
(いや考え過ぎだ。そもそも人間の国に魔族の『魔王』が居る筈がない……。居る筈が無いではないか!)
侵攻前に気が鈍っては行けないと、必死に頭から『魔王』の存在を消す『ゴルガー』であった。
「元より人間などは眼中にないが『レルバノン』だけは、部下共では荷が重いだろうな」
元ラルグ魔国No.2『レルバノン・フィクス』。
【種族:魔族 年齢:3754歳 名前:レルバノン 戦力値:3435万】。
――二つ名は『鮮血のレルバノン』。
普段は柔らかな物腰でどんな人物にも優しく接するが、ひとたび殺し合いが始まると普段の姿はなりを潜め、敵対する者を殺し尽くすまで止まる事がない。
敵、味方問わずに恐れられた『最上位魔族』である。
遠くない未来に『魔王の資質』に目覚めるだろうと言われていた男である。
シーマは自らの手でかつての配下『レルバノン』を殺めねばならぬだろうと覚悟を決める様に拳を握った。
ゴルガーはそんな様子の自分の主を目の端に捉えながら、自らが国を追いやった『レルバノン』を思い出していた。ゴルガーがまだ、No.3の『ビデス』であった頃、レルバノンはその人あたりの良さで多くの仲間がいた。そしてゴルガーもそんなレルバノンの事を尊敬していて、忠誠を尽くしていた。
だが、ある時の事件がきっかけで彼の中でのレルバノンの存在が一変してしまい、それまでと正反対にして忌むべき存在となってしまう。
それは『レイズ』魔国の拠点の一部を襲撃していた頃の話であった。当時はまだ『ヴェルトマー』が前線で猛威を奮っていた頃で『ラルグ』は、二軍以下の戦力では『レイズ』の国境にすら辿り着けない程であった。
それもその筈レイズの拠点に居ながらにして『広域殲滅魔法』を放ちながら、片手間で『遠距離広範囲増幅魔法』を使い『レイズ』魔国の兵全軍の魔力を数倍高めるというとんでもない事を、ヴェルトマーという魔法使いは為していた。
当時の指揮権を担っていたレルバノンは、そんな『ヴェルトマー』に悩まされていた。彼の助けになればと私が単独で動いた。当時はまだラルグにはシュライダー私兵団等もなく、第二軍までが戦力として数えられていた。
そこで私は独断で一団を率いて『レイズ』国境の一つ先にある地点を攻めた。ヴェルトマーの目を眩ませて『レルバノン』様の為になればと動いたのだ。
しかし、結果はヴェルトマーの魔法により全滅。
私は命からがら逃げ帰った。不甲斐なく思いながらも国を思いレルバノン様を思っての行動だった。だが、叱責は覚悟していたのだが、予想以上にレルバノン様を激怒させてしまった。
……
……
……
「貴方の勝手な行動で、大事な戦力を消耗させてしまったのです。どういうつもりで動いたのか、理由を話しなさい」
私は素直に白状して『レルバノン』様の助けになるようにと思って行動した事を伝えた。別に恩を着せたいとかそういう気持ちは一切無く純粋にそう思っていたのだ。
――しかしあの時の返ってきた『レルバノン』の言葉と表情は、私は生涯忘れられないだろう。
「……あなたはそんなつまらない理由の為に、大事な戦力を割いたのですか? 貴方程度が何かをしたところでレイズ魔国は落とせない。そんな事も分からないのですか? 私の事を思って行動するというのであれば、今後は何もせずに上の命令に従いなさい。『足手まといだ』」。
そう言ってレルバノン様は大きな溜息を吐きながら、私を塵芥を見るような目で見た。
これが全く興味のない上司の言葉であったなら、私も聞き流して終わりであったのだろう。
だが私は『レルバノン』を尊敬していた。ラルグ魔国の誰よりも。この話を他人が聞けば、たかがそれだけの事だと思うだろう。しかしその時の私はもう色々な感情が綯交ぜになり、やがて頭の中は真っ白になった。尊敬するレルバノンに、足手まといだと思われて興味を失くされたのが、余程私には衝撃な出来事ようだ。
――やがて私は抜け殻のように毎日を生きていた。
そして沸々と胸に何かが宿ったように感じたのはその時だっただろうか。それからはレルバノンが指揮を執り、それに従うたびに私はよく分からない感情に苛まされた。いくら作戦が上手くいってレルバノンを喜ばせても私の中で小さな苛立ちが、ついて回るようになったのだ。
今までならば、自分の事のように喜んでいたのに。
そしてある日、レルバノンがシーマ様に一つの土地を任せられて統治するようになった。私は昔から悪知恵だけは他者以上に働く『魔族』だった。そしてそんな私の中に、ある一つの考えが働いた。
ここでレルバノンを失脚させれば、
あの時の私と同じ気持ちになるのではないか?
――何故そう思ったのかは、今でも分からない。
だが、レルバノンが取り返しのつかない事件を起こして、シーマ様を激怒させたらと考えるだけで、私の心がすっとする気持ちになるのだ。その後も計画の為に、レルバノンが謀反を目論んでいると吹聴して回った。何故だか分からないがそうする事で、どんどんと私の気持ちが晴れていくのだ。
『ああ、なんて気持ちがいいのだろうか』。私の胸に宿る何かが少しずつ、取れていくような気持ちだった。
そして行動すればする程にレルバノンが少しずつ、周りから人が離れていくのを見るだけで、最高の気持ちになっていく。この気持ちをもっと味わいたい。少しの事くらいでは『気持ちがいい』という感情が足りなくなり、もっと大きな事をしたいと思うようになった。
そしてその頃の私はもう、悪鬼羅刹にとりつかれていたように思う。
『この憎きレルバノンをこの国から追放してやろう!』そう考えただけで、ドクンッと胸が高なった。今まで感じた中でも最っ高の気持ちだった。考えただけで飛び跳ねたい程の感情が芽生えるのだ。これがもし『現実になれば、どうなってしまうのだろう?』もうそう考えると、他の事等一切手につかない。
(レルバノンを破滅させてやりたい! 取返しのつかない失脚を……っ!)
もう私の心は壊れていたのだろう。
――そして私は、取り返しのつかない程の大きな行動を起こした。
結果見事に策は嵌り『憎きレルバノン』は、ラルグ魔国から追放されて逃げ出した。それも命を狙われる程の大罪者となって。
全てが終わった後に私は、興奮と歓喜でこのまま死んでしまうのではないかと思う程の多幸感を得た。
……
……
……
(私はもうあれ程の気持ち良さを今後の生涯で、決して得る事はないでしょうね)
知らず知らずのうちに私は笑みを浮かべていた。ミールガルド大陸へ向かう最中で過去を思い耽る。人生で最高の絶頂を得た時の感覚を懐かしく思い、一人悦に入る『ゴルガー』であった。
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