最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第81話 大魔王の詠唱、力の魔神
「あ……、ああ……! そ、そんな、こ、こんな事が!?」
スフィアの目の前には、真なる魔王化を果たしたソフィ本来の姿が現れる。
スフィアは上位魔族として生き続けて1000歳を優に越えている。
魔物や魔族は年を取ればとる程に強さを増していく。
魔族としてはまだまだ若輩者のエルザと違い、魔力も戦闘としての経験もそして、戦力値も遥かに上である。
――そんなスフィアの目から見ても、目の前の存在は常軌を逸している。
リディアの時に見せた『魔王形態』の一つである『真なる魔王』形態は、ソフィがギリギリまで戦力値を抑えていたが、今この時に至ってはソフィの意識がない事で、その真なる魔王の形態を大きく上回る『真なる大魔王』の魔王形態となっている。
つまり『アレルバレル』の『魔界』で起こっていた『大魔王』と呼ばれるに至る魔族同士の激しい争いを強引にたった一人で止めて見せた時の『大魔王ソフィ』が、この『リラリオ』の世界に姿を現してしまったのである。
しかし幸か不幸か今はまだ、戦闘態勢に入ってはいない為に真なる大魔王化状態ではあるが、ソフィはまだ障害を取り除こうと動き出してはいない。
もしもソフィの意識があってこの形態が必要だと感じる程の相手と戦っていたならば、オーラの技法を用いてここから更に力を増幅させて、戦力値や魔力をあげていただろう。
その点ではソフィの意識がない事が、スフィアは幸運だったといえるのだが――。
――しかし逆に不幸だと言える点もまた、同じくソフィの意識がない事にあった。
ソフィの意識があれば戦いに勝つという前提条件は失われていても、まだ生きてやり直せる可能性がスフィアには残される。
だが、ソフィの意識がなければ、彼は無意識の内に『有象無象の魔族』を機械的に処理してしまうのである。
…………
スフィアになまじ力がある所為で、今の目の前の存在が自分程度ではどう足掻いたところでどうにもならない事が分かってしまう。
ソフィという存在は上位魔族程度では無かった。
――それどころか、彼女が生きて来た1000年という長い年月全てを省みても『スフィア』が出会った事のない程の存在、それが目の前に現れてしまったのである。
――スフィアやビレッジ達が西側の連中と呼んでいたこの『ミールガルド』大陸とは違う別大陸にある国の『魔族』達が結集しても誰も届き得ていない領域の存在。
それこそが今スフィアの目の前に居る『魔族』だと彼女は理解する――。
……
……
……
その頃レルバノンの屋敷では、ソフィの異様な変身を感じ取った『レルバノン』と『エルザ』が互いに顔を見合わせていた。
「れ、レルバノン様、こ、この恐ろしい力は、奴でしょうか……?」
エルザは歯をカチカチと震わせて、目の前にいるレルバノンに訊ねる。
「エルザ!! ソフィ君に対して『魔力』を探るのはその『魔力感知』に留めておきなさい! 絶対に、絶対に数値化をしようとして『漏出』だけは使ってはいけませんよ! さもなければ即座にこの場で死ぬ事になりますよ」
「え? え? は、はい! わ、分かりました、レルバノン様!」
(あ、危なかった……! 『魔力感知』でソフィの『魔力』の恐ろしさに気づいて今から『漏出』を使おうとしていたところだった! れ、レルバノン様があんなに声を荒げて怒るなんて、こ、怖いよぉ!)
レルバノン達はよく知らなかったとはいえ、自分達の物差しで測る事が決してできない存在を相手にしようとしていた事を今更ながらに知るのであった。
そしてギリギリの所ではあったが、ソフィという化け物に完全に敵対を行わず命を狙われる対象にされなかった事に幸福を噛みしめていた。
……
……
……
スフィアはなんとしてもこの場から逃げようとする。
今ならばまだあの化け物は意識がしっかりしていないのだ。
――呪文、『高等移動呪文』。
街道から移動呪文を用いて、スフィアはグングンと大魔王から逃亡する。
「も、もうこんな所になんて居てられない! 今すぐにでもラルグに戻らないと!」
(レルバノンなんてもうどうでもいいわ。この事を早くシーマ様に伝えないと!!)
『移動呪文』の効果のおかげで、自らが飛んで逃げるよりも遥かにスピードが乗っているスフィアは助かったと確信して彼女がシーマと呼んでいた人物の元へと飛んでいくのだった。
確かに最高位の移動呪文である『高等移動呪文』であれば、問題なく逃げ切れる事であろう。
――だが、それは常識の外にいる『大魔王』が相手でなければの話であるのだが。
そして――。
ガクンと飛んでいる最中に重力のようなものを感じたスフィアだったが、次の瞬間にはその重力によって、引っ張られるように引き戻されていく。
気が付けば遠く離れた空の上に居た筈が、ほんの僅か数秒で先程の場所まで戻されていた。
「え……っ!?」
スフィアが恐る恐る振り返ると、そこには再び『大魔王』が立っていた。
――『大魔王』からは何があっても逃げられない。
現在の真なる大魔王化状態であれば、瞬時に対象の魔力を測り自らが追いかけなくても、自分より遥か格下の存在であれば『魔力感知』から即座に目の前へと逆転移させられる。
――そして、死へと誘う詠唱が次々と紡がれる。
「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。敵を滅ぼす力を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ、我が名はソフィ』」。
「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。終焉を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ、我が名はソフィ』」。
――魔神域魔法、『終焉』。
大魔王ソフィの放った最強の魔法の詠唱に応じる為に、『力』の魔神はその姿を現世に体現させる。
絶世の美女と呼べるほどの見目麗しい女神がそこに居た。
空間の歪みから出現した『力』の魔神はソフィを見てにっこりと笑いかけるが、意識がないソフィに気づき、その美しい顔が徐々に憤怒の表情に変わる。
そしてソフィの意識を絶った理由を探し始めて周囲に満ちる魔力、スフィアの『光芒閃麗』に魔神は気づいた。
「――」
この世界では言語化されなかったが、魔神が何かを呟いた後に直ぐ様この世界に干渉が始まった。
『光芒閃麗』の『結界』は大元の満ち満ちている魔力ごと消し去られて強引に解除される。
そしてそのまま詠唱者のスフィアの『魔力』を感知したかと思うと、『力』の魔神は、塵芥を見るような目でスフィアを嘲笑う。
「――」(矮小な存在程度が、一体誰に手を出したと思っている? 貴様程度の存在の命と引き換えにこの世界を消し飛ばすつもりか? 塵芥が――!)
魔神はソフィの『終焉』の注文に眉をよせて悩む表情を浮かべていたが、やがてスフィアに向けて指を差す。
――その瞬間、何も抵抗する間もなくスフィアの『魔力』は0になる。
「!?」
スフィアは自分の身体から、突然『魔力』が消失していく感覚を感じ取って慌てふためく。
魔法を行使した事で消費されて魔力を失ったという事ではなく、その魔法を放とうとする根本の魔力自体を奪われて消え去ってしまったのである。
力の魔神はスフィアの魔族としての『魔力』、つまり力そのものを、奪ったのであった。
――彼女はもう『魔法』は生涯使えない。
何故なら魔法を使う為の魔力が赤子ですら持っている1すらなくなってしまい、何もない状態である『0』なのだから。
「――――」
そしてまた言語化されなかった『力』の魔神の言葉が呟かれた後、スフィアはそのまま眠るように息を引き取った。
意識のないソフィの願望を叶える為に、彼から預かっている『魔力』を本人に返還するのではなく、魔神はソフィの『魔力』を用いて『終焉』を、スフィアに行使したのであった。
――これは世界の崩壊を防ぐ為に、魔神なりに行った配慮であった。
もしも意識を失っている今のソフィに、望まれた分だけの魔力を返していた場合、その『魔力』を使ったソフィの中に眠っていた大魔王は遠慮無しにその全ての魔力を用いて『終焉』が発動されていた事だろう。
そうなれば被害は『スフィア』の命や魂程度の話ではなくなり、この『リラリオ』という世界全ての生きとし生ける全ての存在に影響を及ぼして、全ての魂は浄化されて『死神』連中が居る幽世の世界は突然の出来事にパニックになっていただろう。
世界の崩壊を未然に防いだ『魔神』は『世界の敵』としてソフィが天上界に認定される事を拒否したのであった――。
そして世界を救った功労者といえる『力の魔神』はソフィのいる場所へ戻り、愛おしそうにその契約者の顔を両手で包むように触れて見る者を幸福にさせるような、そのような笑みを浮かべながら消えていった。
……
……
……
「む?」
やがて意識を取り戻したソフィは、自分の姿が『真なる大魔王化』していることに気づいた。
そして倒れているスフィアを一瞥して、自分の身に何が起きたかを思い出す。
「我の魔力が少々なくなっておるな。確かに意識を失う直前に奴を呼ぼうとはしていたが、我は無意識に『魔神』を呼んだのか?」
『真なる大魔王化』状態のソフィの魔力は、普段とは比べ物にならない規模の魔力値である。
エルザやスフィアといった上位魔族程度では決して『力』の魔神を召喚する『魔力』を賄うことは出来ない。
この形態のオーラを伴わないソフィの『魔力』がここまで失われる事に、思い当たるのが魔神を呼ぶ以外に思い浮かばなかったのであった。
「ふむ……。こやつを死なせるつもりはなかったのだがな。まぁ仕方あるまいて」
スフィア程の強さを持つ魔族は、この世界ではまだあまり見たことがなかった。
自分と同じ魔族でありソフィから見てだが、たかが1000歳程度しか生きてはいない若者が、これから強くなっていくところを見てみたいと思っていたソフィは、悲しげな表情を浮かべながら左手の人差し指を僅かに上げる。
次の瞬間、スフィアの身体が上空に浮かび上がり消えた。
ソフィは同胞といえる『魔族』である『スフィア』の亡骸を弔ってやったようである。
そして横で気を失っているミナトを抱えて『高等移動呪文』で、ステンシアの町のある方角へ飛んでいくのだった。
スフィアの目の前には、真なる魔王化を果たしたソフィ本来の姿が現れる。
スフィアは上位魔族として生き続けて1000歳を優に越えている。
魔物や魔族は年を取ればとる程に強さを増していく。
魔族としてはまだまだ若輩者のエルザと違い、魔力も戦闘としての経験もそして、戦力値も遥かに上である。
――そんなスフィアの目から見ても、目の前の存在は常軌を逸している。
リディアの時に見せた『魔王形態』の一つである『真なる魔王』形態は、ソフィがギリギリまで戦力値を抑えていたが、今この時に至ってはソフィの意識がない事で、その真なる魔王の形態を大きく上回る『真なる大魔王』の魔王形態となっている。
つまり『アレルバレル』の『魔界』で起こっていた『大魔王』と呼ばれるに至る魔族同士の激しい争いを強引にたった一人で止めて見せた時の『大魔王ソフィ』が、この『リラリオ』の世界に姿を現してしまったのである。
しかし幸か不幸か今はまだ、戦闘態勢に入ってはいない為に真なる大魔王化状態ではあるが、ソフィはまだ障害を取り除こうと動き出してはいない。
もしもソフィの意識があってこの形態が必要だと感じる程の相手と戦っていたならば、オーラの技法を用いてここから更に力を増幅させて、戦力値や魔力をあげていただろう。
その点ではソフィの意識がない事が、スフィアは幸運だったといえるのだが――。
――しかし逆に不幸だと言える点もまた、同じくソフィの意識がない事にあった。
ソフィの意識があれば戦いに勝つという前提条件は失われていても、まだ生きてやり直せる可能性がスフィアには残される。
だが、ソフィの意識がなければ、彼は無意識の内に『有象無象の魔族』を機械的に処理してしまうのである。
…………
スフィアになまじ力がある所為で、今の目の前の存在が自分程度ではどう足掻いたところでどうにもならない事が分かってしまう。
ソフィという存在は上位魔族程度では無かった。
――それどころか、彼女が生きて来た1000年という長い年月全てを省みても『スフィア』が出会った事のない程の存在、それが目の前に現れてしまったのである。
――スフィアやビレッジ達が西側の連中と呼んでいたこの『ミールガルド』大陸とは違う別大陸にある国の『魔族』達が結集しても誰も届き得ていない領域の存在。
それこそが今スフィアの目の前に居る『魔族』だと彼女は理解する――。
……
……
……
その頃レルバノンの屋敷では、ソフィの異様な変身を感じ取った『レルバノン』と『エルザ』が互いに顔を見合わせていた。
「れ、レルバノン様、こ、この恐ろしい力は、奴でしょうか……?」
エルザは歯をカチカチと震わせて、目の前にいるレルバノンに訊ねる。
「エルザ!! ソフィ君に対して『魔力』を探るのはその『魔力感知』に留めておきなさい! 絶対に、絶対に数値化をしようとして『漏出』だけは使ってはいけませんよ! さもなければ即座にこの場で死ぬ事になりますよ」
「え? え? は、はい! わ、分かりました、レルバノン様!」
(あ、危なかった……! 『魔力感知』でソフィの『魔力』の恐ろしさに気づいて今から『漏出』を使おうとしていたところだった! れ、レルバノン様があんなに声を荒げて怒るなんて、こ、怖いよぉ!)
レルバノン達はよく知らなかったとはいえ、自分達の物差しで測る事が決してできない存在を相手にしようとしていた事を今更ながらに知るのであった。
そしてギリギリの所ではあったが、ソフィという化け物に完全に敵対を行わず命を狙われる対象にされなかった事に幸福を噛みしめていた。
……
……
……
スフィアはなんとしてもこの場から逃げようとする。
今ならばまだあの化け物は意識がしっかりしていないのだ。
――呪文、『高等移動呪文』。
街道から移動呪文を用いて、スフィアはグングンと大魔王から逃亡する。
「も、もうこんな所になんて居てられない! 今すぐにでもラルグに戻らないと!」
(レルバノンなんてもうどうでもいいわ。この事を早くシーマ様に伝えないと!!)
『移動呪文』の効果のおかげで、自らが飛んで逃げるよりも遥かにスピードが乗っているスフィアは助かったと確信して彼女がシーマと呼んでいた人物の元へと飛んでいくのだった。
確かに最高位の移動呪文である『高等移動呪文』であれば、問題なく逃げ切れる事であろう。
――だが、それは常識の外にいる『大魔王』が相手でなければの話であるのだが。
そして――。
ガクンと飛んでいる最中に重力のようなものを感じたスフィアだったが、次の瞬間にはその重力によって、引っ張られるように引き戻されていく。
気が付けば遠く離れた空の上に居た筈が、ほんの僅か数秒で先程の場所まで戻されていた。
「え……っ!?」
スフィアが恐る恐る振り返ると、そこには再び『大魔王』が立っていた。
――『大魔王』からは何があっても逃げられない。
現在の真なる大魔王化状態であれば、瞬時に対象の魔力を測り自らが追いかけなくても、自分より遥か格下の存在であれば『魔力感知』から即座に目の前へと逆転移させられる。
――そして、死へと誘う詠唱が次々と紡がれる。
「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。敵を滅ぼす力を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ、我が名はソフィ』」。
「『数多の神々を従える魔神よ、汝の全てを今ここに欲す。終焉を我は望む、契約者たる大魔王の言葉に応じよ、我が名はソフィ』」。
――魔神域魔法、『終焉』。
大魔王ソフィの放った最強の魔法の詠唱に応じる為に、『力』の魔神はその姿を現世に体現させる。
絶世の美女と呼べるほどの見目麗しい女神がそこに居た。
空間の歪みから出現した『力』の魔神はソフィを見てにっこりと笑いかけるが、意識がないソフィに気づき、その美しい顔が徐々に憤怒の表情に変わる。
そしてソフィの意識を絶った理由を探し始めて周囲に満ちる魔力、スフィアの『光芒閃麗』に魔神は気づいた。
「――」
この世界では言語化されなかったが、魔神が何かを呟いた後に直ぐ様この世界に干渉が始まった。
『光芒閃麗』の『結界』は大元の満ち満ちている魔力ごと消し去られて強引に解除される。
そしてそのまま詠唱者のスフィアの『魔力』を感知したかと思うと、『力』の魔神は、塵芥を見るような目でスフィアを嘲笑う。
「――」(矮小な存在程度が、一体誰に手を出したと思っている? 貴様程度の存在の命と引き換えにこの世界を消し飛ばすつもりか? 塵芥が――!)
魔神はソフィの『終焉』の注文に眉をよせて悩む表情を浮かべていたが、やがてスフィアに向けて指を差す。
――その瞬間、何も抵抗する間もなくスフィアの『魔力』は0になる。
「!?」
スフィアは自分の身体から、突然『魔力』が消失していく感覚を感じ取って慌てふためく。
魔法を行使した事で消費されて魔力を失ったという事ではなく、その魔法を放とうとする根本の魔力自体を奪われて消え去ってしまったのである。
力の魔神はスフィアの魔族としての『魔力』、つまり力そのものを、奪ったのであった。
――彼女はもう『魔法』は生涯使えない。
何故なら魔法を使う為の魔力が赤子ですら持っている1すらなくなってしまい、何もない状態である『0』なのだから。
「――――」
そしてまた言語化されなかった『力』の魔神の言葉が呟かれた後、スフィアはそのまま眠るように息を引き取った。
意識のないソフィの願望を叶える為に、彼から預かっている『魔力』を本人に返還するのではなく、魔神はソフィの『魔力』を用いて『終焉』を、スフィアに行使したのであった。
――これは世界の崩壊を防ぐ為に、魔神なりに行った配慮であった。
もしも意識を失っている今のソフィに、望まれた分だけの魔力を返していた場合、その『魔力』を使ったソフィの中に眠っていた大魔王は遠慮無しにその全ての魔力を用いて『終焉』が発動されていた事だろう。
そうなれば被害は『スフィア』の命や魂程度の話ではなくなり、この『リラリオ』という世界全ての生きとし生ける全ての存在に影響を及ぼして、全ての魂は浄化されて『死神』連中が居る幽世の世界は突然の出来事にパニックになっていただろう。
世界の崩壊を未然に防いだ『魔神』は『世界の敵』としてソフィが天上界に認定される事を拒否したのであった――。
そして世界を救った功労者といえる『力の魔神』はソフィのいる場所へ戻り、愛おしそうにその契約者の顔を両手で包むように触れて見る者を幸福にさせるような、そのような笑みを浮かべながら消えていった。
……
……
……
「む?」
やがて意識を取り戻したソフィは、自分の姿が『真なる大魔王化』していることに気づいた。
そして倒れているスフィアを一瞥して、自分の身に何が起きたかを思い出す。
「我の魔力が少々なくなっておるな。確かに意識を失う直前に奴を呼ぼうとはしていたが、我は無意識に『魔神』を呼んだのか?」
『真なる大魔王化』状態のソフィの魔力は、普段とは比べ物にならない規模の魔力値である。
エルザやスフィアといった上位魔族程度では決して『力』の魔神を召喚する『魔力』を賄うことは出来ない。
この形態のオーラを伴わないソフィの『魔力』がここまで失われる事に、思い当たるのが魔神を呼ぶ以外に思い浮かばなかったのであった。
「ふむ……。こやつを死なせるつもりはなかったのだがな。まぁ仕方あるまいて」
スフィア程の強さを持つ魔族は、この世界ではまだあまり見たことがなかった。
自分と同じ魔族でありソフィから見てだが、たかが1000歳程度しか生きてはいない若者が、これから強くなっていくところを見てみたいと思っていたソフィは、悲しげな表情を浮かべながら左手の人差し指を僅かに上げる。
次の瞬間、スフィアの身体が上空に浮かび上がり消えた。
ソフィは同胞といえる『魔族』である『スフィア』の亡骸を弔ってやったようである。
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