最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第71話 魔族レルバノン

 魔族エルザの後をついていき街道から森林へと移動を重ねて、ようやくエルザの足が止まった。

 その場所には大きな屋敷が建っており、如何にここの主が大物であるかを示しているようだった。

「貴様が会いたがっている者はこの中に居るが、その前にまずは我が主に会ってもらう」

 そこまで一方的に話すとエルザは屋敷の中へ入っていった。

 ソフィも屋敷周りを見回していたが、やがてエルザの後を追いかけるのだった。

 屋敷の中は想像していた所とは真逆でとても明るく、少し前に『グラン』と『ステンシア』を繋ぐ橋の先にあった盗賊のアジトの中に入った時に、ソフィが使った魔法と同様のモノが使われているようだった。

 屋敷の中は相当に長い廊下が広がっていて、玄関口から少し進んだ所には左右に通路が伸びており、まるで迷宮のような造りになっていた。

「ふむ、これは迷いそうだ……」

 ソフィがぽつりとそう呟くとエルザは振り返って口を開く。

「初めてこの屋敷に来たならば誰もがそう思うでしょうね。魔族達が攻めてくるのであれば全く意味はないけれど、人間のような種族が攻めてきた時は、ここは重宝する造りだといえるわ」

 元々この屋敷は目の前を歩いているエルザの主人と親交があった『ケビン王国』に領土を持つ大貴族の持ち物の屋敷で、現在のこの屋敷の所有者はその大貴族から譲り渡されたモノだった。

 どうやらそういう背景があり、まだエルザもこの屋敷の広さ自体に慣れてはいない様子であった。

 エルザはソフィと話をしながらも、右や左にと慣れた足取りで進んでいく。

 そして数分程歩いた先でようやくその足を止めるのだった。

「ここに我が主は居るわ」

 エルザはソフィにそう告げた後、彼女の主が居るという部屋を軽く数度叩いてノックするのだった。

「どうぞ」

 中から声が掛かるとエルザはドアを開けて、恭しく一礼して中へと入っていく。

 その後ろをソフィがついていくと、厳かな部屋の真ん中にその人物は居た。

「ふむ……。エルザが連れてきたという事は貴方が『ソフィ』君で間違いはないようだが、これは驚きましたね。相当に強力な『魔法』を使う魔族だと聞いていましたが、

 エルザの主だというその男は、ソフィを見て少しばかり驚いた表情を浮かべながら言った。

「我もなりたくてこの姿になっておる訳ではないのだがな。まあお主のように我にも事情があるのだ」

 ソフィがそう言うと、男は考える素振りを見せながら小さく頷いた。

「そうですか、まぁそれはいいでしょう。エルザ君は少し出ていてもらえるかな?」


「はい、分かりました」

 エルザは主の命令に素直に頭を下げて、部屋を出ていくのだった。

「さて……。まずはここまでご足労感謝しますよ。私がこの屋敷の主で配下の『魔族』達を取り纏める『レルバノン』と申す者です」

 椅子から立ち上がってソフィの前まで歩いてきて僅かに頭を下げる。

 どうやら礼儀は正しい『魔族』のようだ。

「我はソフィという『魔族』だ。レルバノン殿」

 ソフィも挨拶をレルバノンに返したが、その時に同時に『漏出サーチ』をかける。

 【種族:魔族 年齢:3754歳 名前:レルバノン
 魔力値:999 戦力値:測定不能】。

 当然のように魔力値は隠蔽されており、戦力値の方は現在のソフィの形態では測れない程に上の様子であった。


「それではソフィ君。早速ですが単刀直入にお聞きしたい事があるのです」

 そういうといつの間にかソフィの横に椅子が出現して『レルバノン』が手をゆっくり差し出して座るように促す。

 ソフィもレルバノンを一瞥した後に、そのまま特に警戒せずに出された椅子に座る。

「まず、貴方は今まで何処のに所属されていましたか?」

 ソフィが座ったのを確認した後、いつの間にかレルバノンは最初にこの部屋に居た場所の椅子に座って口を開いていた。

「魔国? 我はそんなものに所属していた事はないな」

 キッパリと言い放つソフィの様子を見ていたレルバノンだが、彼が嘘をついているようには見えなかった。

「では、今までこの大陸で『人間』として生活してきたと?」

 正直にこの世界に転移してきたとでも言うべきかとソフィは一瞬悩んだが、後々面倒なことになるのは目に見えているの為、真実を告げずにはぐらかす事にするのであった。

「そういう事だな。我は冒険者ギルドに所属して、と気ままに生きておるよ」

 ソフィがそう言うとレルバノンはそんな筈がないだろうとばかりに笑い始めるのであった。

 その様子からどうやらレルバノンは、全くソフィの言葉を信じていない様子だった。

 そして次の瞬間にレルバノンは『魔力』を高めて『』を纏い始めた。

「それはそれは好都合な事ですね。では貴方には……、今日から私の配下になって頂きましょうか?」

 レルバノンの目が紅く光り、有無を言わさずソフィを従わせようとする。

 ――魔瞳、『紅い目スカーレット・アイ』であった。

 恐るべき重圧がソフィを襲うが、しかし――。

「クックック、誰に向かっていっておる?」

 ソフィはレルバノンの『紅い目スカーレット・アイ』をその身に受ける前に、一瞬で自らの周りにオーラを纏わせながら、自身の目も『紅い目スカーレット・アイ』に変えて平然と笑いのけるのだった。

 ――これには流石に『レルバノン』も表情に驚きを隠しきれなかった。

 キィィインという音と共に、ソフィは更に魔力を高め始める。

 完全な上位以上の魔族でしか行えはずのである。

 その瞬間、レルバノンの放った重圧を一気に押しのけて、パリィンという音と共に打ち消し『相殺』を行う。

「……貴方は、何者だ?」

 レルバノンは立ち上がると、更に自身も戦力値コントロールで一気に魔力と戦力値を高め始めた。
 先程までの柔和な笑顔を見せていた頃とは違い、まるで彼の居た大陸の『魔族』と相対している時のような真剣な表情に変貌を遂げていた。

「クックック、先程言ったではないか。

 ソフィはギラリと赤く光る目を細めながら、視線をレルバノンに向けて嗤うのであった。

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