最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第61話 危険な薬草

 薬草とは使用者の怪我を治す回復薬として多くの冒険者に使われているが、どうやらこの街で流行っている危険な薬草とは、一時的に傷口に塗る事で麻酔効果をもたらす薬を別の薬物と配合し、化学反応を起こして使用者の脳を狂わせて人を襲う程の暴力性等を引き起こすようだった。

「その危険な薬草の元となる薬を、売っている者を捕らえよという事か?」

「いや、それも重要な事なのだが、それどころではない事が起きているのだ」

 そこで話を一度切って、リルキンスは煙草に火をつけ始めた。

「実はその危険な薬草を意図的に魔物達に投与して、凶暴な魔物達がさらに暴力性を増して集団で次々と街を襲ってきているのだ」

 どうやら商人を捕らえる等といっている場合ではないらしい。

 個人なのか複数なのかも分からないが何者かが、意図的に魔物達に薬を投与して町を襲わせているとの事だった。

「今はまだ冒険者達が食い止めてくれているのだが、すでに怪我人もかなり出ていてな。今後も魔物の数が増えるとなると、これは最早冗談では済まされない」

 魔物自体はそこまで大した強さではないが、暴力性のある魔物が徒党を組んでかなりの数で攻めてくるという。

「そこでソフィ君達に頼みなのだが、その魔物達に薬を投与している者達を突き止めて捕まえて欲しいというワケなのだ」

 非常に難しいクエストであるといえるだろう。

 単に攻めてくる魔物を全滅させて欲しいとかであれば、ソフィ達にとってはそこまで難しくはない。

 だが、薬を魔物達に投与している奴らを捕まえるというのは簡単な事ではない。

 そもそも自分で使用している奴もいるのだから、単に所持をしている奴を捕まえても意味がない。

 その中から魔物達に故意に投与している奴を捕まえろというのは相当に難しく、勲章ランクがBから上であっても相当に難しいといえる内容であった――。

 ――

「うむ、そのような顔をするのも無理はない。このクエストは高難易度だが、誰でも受けられるようにして人海戦術を使うつもりだったくらいだしな」

 そして煙草の煙を吐いてギルド長の『リルキンス』は再度口を開く。

「そこでだ、ソフィ君。今回のこのクエストひとまず『指名依頼』として、私が君に依頼するだろう? そして未解決でも何か手がかりを見つけてくれるだけで、クエスト達成という事にする」

「手がかりを見つけるだけ? 持ってる奴を見つけなくてもいいのか?」

「うむ、君に依頼するだけでも、十分に価値があると私は見ているのだ」

 ソフィはすでに『破壊神』の二つ名持ちとしてこの大陸全土に知れ渡っている。

 つまりこの街でソフィが犯人を捜しているだけで、犯人にとっては恐ろしい程の重圧を与える事が出来るとリルキンスは考えているのである。

 何せ破壊神はその気になれば大陸ごと沈める程の魔法を使う。

 それは犯人にとっては大きな圧力となり、この場所から逃げたいと思える事だろう。

 それを利用してこの場から最悪犯人を遠ざけて、その間に大量に街に攻めてくる魔物共を一網打尽にするつもりなのである。

「犯人を捕まえなければまた同じ事の繰り返しになるだろうが、今は目の前の危機から街の者達を救う事が最優先なのだ」

 リルキンスの話す内容は妥協という事であろうが、確かに街の冒険者ギルドを預かる人間としては、目の前の危機を取り除く事が最優先という考えになるのも頷けるというものだった。

「うーむ。まぁ我はクエストを受けても構わぬが、お主たちはどう思う?」

 一緒に話を聞いていたリーネとラルフに視線を向ける。

「確かに面倒なクエストだとは思うけど、ステンシアはグランから近い街の危機だしね。私としては解決してあげたいから、受けてもいいと思うわよ?」

「私はソフィ様に従いますよ。邪魔だというのであれば、薬漬けの人間を

 ラルフが物騒な事を何でもないかのように口に出し始めたため、慌ててリルキンスは止めに入る。

「ま、待ってくれ、出来れば街の人間には穏便に頼む! 街の人間を死なせてしまっては元も子もない!」

 リルキンスは慌てふためいて、このパーティリーダーのソフィに手を合わせて懇願する。

「うむ、それは当然分かっておるよ。手あたり次第に人を傷つけるような真似はせぬ」

 ソフィの言葉にほっと胸を撫でおろす『リルキンス』であった。

「ではリルキンス。お主の『指名依頼』とやらは受ける事にしよう」

 こうしてソフィ達は、僅か数か月の間に『ギルド対抗戦』に次いで、二度目の『』を受ける事となった。

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