最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第45話 今後の行動

 ソフィは戦った後に『微笑』を配下に加えた後、再び廃墟に戻りリーネ達の居た部屋の扉を開ける。

 この廃墟は一番最初にソフィと『微笑』の両名が争い戦った事で崩壊間近といえるような状態になっていた。

 この場所はソフィが気を付けて戦っていたがために、出た時とあまり変わっていないのだが、このリーネ達の居る場所から少し離れた場所では、一階から屋上までが一直線に直通で穴が開けられていて、非常に危ない状態になっていた。

 これはソフィが『魔族』の姿へと変貌を遂げた後に、一階から『微笑』を蹴り上げた時に出来た穴であった。

 そんな穴が出来ている事をまだ知る由もないリーネ達はだったが、突然開かれた扉に身体を震わせたが、入って来たのがソフィだと分かると嬉しそうな表情になった。

「!?」

 しかしその後ろに『微笑』がついてきたのが見えて、更にびくっと身体を震わせる。

「おやこれは失礼。驚かせてしまったようですね」

 そう言って部屋の中から前を向いたまま後退して、部屋の外へと出て待機するのだった。

「リーネ安心するがよい、こやつはもう我の仲間だ。脅えなくてもよい」

 猿轡さるぐつわと手錠を取ってやると、動けるようになったリーネはソフィに抱きついた。

 ――彼女は余程怖かったのだろう。

 14歳のリーネは目に涙を溜めた後にソフィに抱き着いたまま泣き始めるのだった。

「うむ、もう大丈夫だぞ」

 ディラックも解放されて今は部屋の外に居る『微笑』と何かを話していた。

 流石に『グラン』のギルド長である『ディラック』は肝が据わっているようで、あれだけ自分に危害を加えようとしてきていた殺し屋の『微笑』であっても、もう大丈夫だと判断した後は普通通りに会話を行っているのであった。

 そしてようやくリーネも落ち着いたようで、冷静になった後に顔を赤くしながらソフィから離れる。

 そこで廊下で会話を交わしていた『微笑』達も部屋の中へ入ってきて、今回の一件のあらましを話し始めた。

「リーネさん、ディラックさん。今回は誠に失礼致しました」

 『微笑』は真面目な顔を浮かべて、今回の誘拐の謝罪を始めた。

「ヘルサス伯爵からの依頼だったのだろう? まぁあんたも仕事じゃ仕方ないだろう」

 ディラックは長い眉を左右に伸ばすように動かした後、やがては笑みを浮かべる。

「もうお気づきかもしれませんが、を買っておいでです」

 ソフィは溜息を吐いた。

「それって試合で、スイレン兄さんを倒したからなんでしょ?」

 リーネの言葉に神妙に『微笑』は頷く。

「どうやらヘルサス伯爵はスイレン氏を使って、ルードリヒ王国軍内で地位を確立させようとしていたらしく、今回の一件で全てを台無しにされてしまった事で逆恨みをしているようですね」

「くだらぬ。何とも器の小さい奴だな。そんな事で国の貴族が務まるというのか?」 

 ソフィはヘルサスのに、心底呆れているようだった。

「ヘルサス伯爵としては大会が終わってしまう前に、ソフィ様を亡き者にしようと動くでしょう」

「成程。ヘルサスとかいう貴族も相当に焦っているようだな」

 大会が終わればソフィは、『グラン』に帰ってしまうからである。

 『グラン』は『ケビン王国』の領土であり『ルードリヒ王国』の者が『ケビン王国』内で殺人など起こせばそれは、他国への外交問題になってしまう。

 それはつまり『ヘルサス』はこの対抗戦の大会中であれば、影から影に処理する事が出来るという事なのだろう。

「当然私が今日暗殺に失敗した事は直ぐに知られる事でしょうし、そうなればなりふり構わずに手を出してくる可能性もあります」

 このまま大会最終日まで試合を見た後に、帰りたいというのが本心ではあるが、それはリーネ達を危険に晒してまでする事ではない。

 ヘルサス伯爵という貴族は逆恨みから自分を見失って、ソフィを殺す事に執着しているようである。

 ――では一番いい選択肢とは何であろうか。

 そこまで考えたソフィは一つの明確な答えを思い浮かべて、そしてその決断を下した。

「仕方あるまい、ニーア達が目を覚ましたら『』に

 その言葉にリーネやディラックたちは、喜びの表情を浮かべた。

 そして一行は帰路に着いた後は皆で試合の反省会やら、初めての決勝進出を果たした事を喜び皆で騒いだ。

 そしてえんたけなわとなり、リーネは同じ宿の自分の部屋に戻っていき、ディラックが酔い潰れたのを見計らって『ソフィ』と『微笑』は動くのだった。

「クックック! お主、良く気づいたではないか?」

 ソフィの言葉に『微笑』は、愚問だとばかりに笑った。

「私は貴方の剣になると、そう言ったではありませんか」

「クックック、そうだったな……。ところでお主の名は何という? まさか『微笑』が本当の名前ではあるまい?」

「これは失礼を致しました。私は『ラルフ・アンデルセン』と言います」

 ラルフ、ラルフと名前を覚えようとソフィは口に出して繰り返す。

「ではラルフよ、お主に露払いは任せるとしようか」

 ラルフは微笑を浮かべてその場で跪いた。

「分かりました。お任せ下さいソフィ様」

 そう言って『微笑』は懐から『』に使っている手袋を取り出す。

 ――現在の時刻は、午前二時であった。

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