最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。

羽海汐遠

第43話 ソフィVS微笑2

 人払いの『結界』によって建物が崩れているにも拘わらず『サシス』の住人たちが気づく事もなく普段通りに時は流れていく。

 しかしその中で殺し屋が標的を仕留めるところであった。

 『微笑』の攻撃によってソフィは片膝をついていたが、脇腹を押さえながら見上げる。

 微笑はその態勢のソフィに向けて手刀で首を狙いトドメを刺しに行くが、何とその手をソフィに掴まれるのだった。

 そしてソフィの顔を見て『微笑』は目を見開く。

 何と口角を吊り上げてその標的は笑っていた。

「クックック、ハーッハッハッハッハ!!」

 ソフィは今までと人格が変わったかのように笑い始めた。

 そしてソフィの目は先程のような『魔瞳まどう』の紅い色ではなく、光り輝く金色に変わっていく。

 そして何と変貌を遂げたのは目だけではなく、背中からは羽が生えて口からは牙が見えるようになり、次々と顔が凶悪に変わっていくのだった。

 ――どうやら『微笑』という人間は、この世界に来て初めて『魔族』としてのソフィの姿を見る人間となるようであった。

 ソフィが掴んでいる『微笑』の手がミシミシと嫌な音がなり響き、その度に微笑の顔が苦悩に歪む。

「ぬっぅ……!」

「クックック! ようやくこの世界で我を楽しませられる者が現れたようだ!」

 ソフィは左手で『微笑』の手を掴みながら右手で乱打を繰り出す。

 身動きのとれない『微笑』の肺、心臓、胃、鳩尾、脇腹と、次々と内臓を潰すつもりでソフィは殴り続けていく。

 数多くの鈍い打撃音が周囲に響く中、骨の折れる感触が伝わったソフィはそのまま笑みを浮かべると同じところをより強く執拗に殴り始めるのだった。

「グボァッ……!」

 内臓のどこかを潰されたようで『微笑』は、苦痛に顔を歪めながら口から大量に血を吐き出すと、ソフィは満足そうに頷き、そして大笑いを始めた。

「ふははは!! 内臓が潰れたか? さて、その状態でどれくらい動けるのだろうか? いやいや、お主程の力量の持ち主だ、何ともないだろう? そうでなくては期待外れで終わってしまうからなぁ……?」

 もはや先程までのソフィとは似ても似つかぬ程に暴力的になり、そして心底楽しそうに『微笑』に攻撃を仕掛ける。

「どうした? 何故攻撃をしてこぬ? むっ! そうか、お主も我と同じく本気になってしまうと周囲の者達を傷つけてしまいかねないと考えて、中々本気を出せないといった事だろうか? よしよし、分かった。こんな狭い場所ではなく、もっと広いところで心おきなく戦えるようにしてやろうではないか!」

 そう言うとソフィは満面の笑みを浮かべると、そのまま『微笑』を大きく蹴り飛ばすのだった。

 蹴り飛ばされた『微笑』は一階のエントランスから三階の天井まで突き破って上がっていき、勢いが一向に衰えぬままにそのまま更に空高く飛ばされていく。

 そしてそれを見上げて笑みを浮かべたソフィは、背中の羽を羽搏かせて自らも空高く飛び上がり『微笑』を追従する。

 あっという間に吹き飛ばされていった『微笑』を下から追い越したかと思うと、振り向き様に今度は空から別方向に蹴り飛ばした。

 数多くの者達に十歳くらいの人間の子供と思われていたソフィの姿とは、似ても似つかぬその魔族の形態となっているソフィに、まるでピンボールのように扱われて蹴り飛ばされていく『微笑』だったが、大きなダメージと引き換えにそのまま蹴り飛ばされた反動を利用して、町の外壁を飛び越えていった。

「クックック!! おいおい、どこへ行くのだ? これからこの街の外の周囲一帯を更地に変えてやろうというのに、別方向へ行かれては意味がないではないか! まぁよい、そちらで戦いたいというのであれば、それでも我は一向に構わぬ」

 そう告げると同時にソフィの『魔力回路』から集約された迸る程の『魔力』が放出されたかと思えば、次々と鮮やかな色の魔法陣が空中の広範囲に浮かび上がっていく。

 ――超越魔法、『万物の爆発ビッグバン』。

 次の瞬間――。

 『サシス』の町周辺の平地に大爆発が起きた。

 『サシス』の町の遥か西の森まで逃げていた『微笑』ではあるが、背後から放たれた極大魔法は『サシス』周辺の平地を次々と呑み込んでいき、まるで『微笑』を呑み込むまでは永遠に追いかけてくるのではないかという勢いを保ったまま追いかけてくる。

 そして『微笑』が居た森に辿り着いたかと思うと同時、その広大な森一帯全てが消し飛んだ。

 大地が割られて崖が出来上がり底が見えない。

「ば、馬鹿げていますね……」

 『微笑』は湖から這い上がり、全身がボロボロのままでポツリと一言漏らした。

 爆風で吹き飛ばされながらも森の湖の中に落ちて『ソフィ』の魔法から、無事に生存を果たしたのだった。

「こ、こりゃあ駄目だ。私は降りさせてもらいますよ。あんな化け物を相手に、。あまりに安すぎる……!」

(あれ程の威力を持った『魔法』をそう何度も撃てるとは思えないが、たとえ数発でも撃てるとするならば、あの化け物の存在はたった一人で十分に『』とも渡り合えるだろう)

 ――『微笑』の思っている事は、そこまで間違ってはいない。

 ただ付け加えるとするならば、森一帯を吹き飛ばしたソフィの『魔法』は、彼にとっては本気でも何でもなく、それこそ大会中に使ったのと変わりがない無詠唱で放たれた

 そして森が完全になくなってしまい『サシス』周辺の平地の面積が増えてしまった場所をふらふらと、歩いて去ろうとする『微笑』の前方から、

「おかえり、遅かったじゃないか。じゃあ続きをしようか?」

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