最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第37話 ニビシアの魔法使い
本日ついに決勝トーナメント本選が行われる。
ニーア達は第一試合なので、会場についてすぐにウォームアップを開始し始めた。
『ディーダ』はアップを始めつつもその顔には焦りが見て取れる。
今まで『グラン』のギルドは決勝まで来た事はなかった。
今回が初の決勝トーナメントという事に加えて、更には『ディーダ』は『ムラマサ』と戦って以降二回戦では戦ってすらいない。
その所為でかなりの期間に渡って試合間隔が空いており、緊張が高まっていたのである。
剣を振る腕にも力が入りすぎていて、試合前だというのに準備運動の素振りを行っているだけで息を切らし始めていた。
「その辺にしておけ、試合前にバテてしまうぞ。」
見るに見兼ねたソフィがディーダに声を掛けると、ようやくその手を止めてソフィの方を見るのだった。
「ハァハァッ……。そ、そうなんだけど、剣を振っていないと不安で……」
「お主の今日戦う相手は魔法使いだろうからな。気にせずお主の速度を活かして先手を取ればよい」
予選で戦った時は同じ剣士で相手は、勲章ランクBの格上であったが故に『ディーダ』は敗北を喫したが、本来の彼は『グラン』のギルドの剣士の中でも抜きんでている腕前を持っている。
確かに緊張に弱いという欠点はあるが本来の力を出し切れば、同ランクの冒険者や、Cランクでも相手が魔法使いであればその『ディーダ』の剣速を活かした腕前を用いれば完封も出来ない事はない筈である。
しかし残念な事に現在その緊張こそが、最高潮に達している状態であった。
このままでは、実力の半分も出せず仕舞で終わってしまう事だろう。
先程からソフィは素振りを行っていた『ディーダ』を観察していたが、どうにも力が入り過ぎていて力んでいるのが見て取れる程で、流石にこのままでは魔法使いの得意な小規模な魔法で相手の出鼻を挫くようなスタイル、前までのニーアが好んで行っていたスタイルを貫かれれば、何も出来ぬままに勝負がついてしまうだろうと、同じ魔法使いであるソフィは簡単に予測がついてしまうのだった。
(こういうことは自分で経験をしていかねばならぬのだが、仕方あるまいな。今回ばかりは少し我が手を貸すとしようか)
心の中である決心をしたソフィは『魔瞳』を使う決意を固めるのだった。
「安心するがよい、我がいる限りお前に負けはない」
――ソフィの目が妖しく、そしてとても美しい紅色に変わっていく。
「そんな我の尖兵を務めるお主もまた最強の一角、負ける筈がない」
「この俺が負ける筈がない……」
ソフィの言葉が頭の中にすんなりと入ってくるのを感じた『ディーダ』だが、そこで意識が混濁してソフィの声が頭の中で反芻していく。
「『俺に負けはない、俺は最強の剣士だ。誰であろうと負ける筈がない。俺に負けはない』」
「そうだ。お主は誰よりも強く負ける筈がない。さあ存分に暴れてくるがいい」
先程までの緊張に溺れていた男は何処にも居らず、堂々と胸を張って独り言を言っていた『ディーダ』だが、最後のソフィの言葉に対して手を挙げて応えるのだった。
「ソフィ君。キミは一体『ディーダ』君に何をしたんだい?」
リングに上がる『ディーダ』の後ろ姿を見ながら、これまでとまるで違うその様子に、ニーアはソフィに問いかけるのであった。
「お主たちも仲間に発破をかけるときに声を掛けるだろう? 我はそれと同じような事をしただけだ」
ソフィは確かに『魔法』を使ったりして『ディーダ』に特別何か力を貸したりといった事は一切していない。
ただ『アレルバレル』の世界であらゆる大陸を束ねる大魔王、そのソフィの率いる『最強の魔王軍の尖兵』。
そう言った魔族達と同じ気概を『ディーダ』に持たせただけである。
つまり簡単に言うと『ディーダ』の本来持つ力を100%引き出せるように『魔瞳』と呼ばれる魔族の扱う目で『ディーダ』に暗示をかけただけである。
「決勝トーナメント第一試合、『グラン』対『ニビシア』先鋒戦、始め!」
そして審判のコールが行われて、決勝トーナメント最初の試合が行われるのであった。
『ニビシア』の先鋒はやはり魔法使いであった。
それもCクラスの上位攻撃魔法専門の魔法使いである。
「『紅蓮の矢、我に刃向かう愚者を迎え撃て』」
――上位魔法、『紅炎の破矢』。
炎の矢が次々と放たれて『ディーダ』に向かっていく。
流石魔法使いが多く居る町の冒険者ギルドなだけはあり、相手の魔法使いの纏っている『魔力』もこれまで見て来た対抗戦でも相当高く感じられる。
先程までの極度の緊張状態のままであった『ディーダ』であれば、この『魔法』の先制攻撃で怯まされて勝負はあっけなくついてしまっていただろうが、ソフィの魔瞳のおかげで今の彼は自信に満ち溢れているような表情を浮かべていた。
そして一本……、二本……、三本と『ディーダ』は、剣で格上の魔法使いの矢を斬り進んでいく。
――何と『ディーダ』は『ニビシア』の魔法使いの矢を全て剣技で撃ち落としたのだった。
「な、何だと!?」
『ニビシア』の魔法使い達は、まさか格下の勲章ランクDの剣士に誇りある『ニビシア』の代表を務める自分の『魔法』が全て防がれてしまい、流石に驚いて慌てて距離を取ろうとする。
しかし今の『ディーダ』は、最上級の剣士である。
一瞬で距離を詰めて、相手の行動を先読みしてその先の一手を放つ。
距離を詰められた魔法使いは分が悪く立ち回りを防がれてしまい、更には『ディーダ』の剣は鋭く重い上に剣速もある。
距離を取ろうと必死に逃げ回っていた魔法使いだが、結局全てを『ディーダ』に見切られてしまい、最後は顔の前でピタリと剣を止めながら『ディーダ』は凄みのある笑みを浮かべるのだった。
「ま、参った!」
どうやら勝ち目が無いと悟った『ニビシア』の魔法使いは、審判に聞こえるように大きな声で『敗北宣言』を言い放つのであった。
――そこでようやくディーダは我に返る。
「あ、あれ……?」
「勝者、ディーダ!」
「え……? もう試合終わったの?」
審判コールと共に観客席から歓声が上がるが『ディーダ』は、1人だけ現状を理解していなかった。
「ねぇソフィ君? 今のディーダ君は、本来の彼の実力通りなんだよね?」
ニーアはディーダの剣技で『ニビシア』の魔法使いが放っていたその全ての攻撃魔法を撃ち落としたのを見て、仲間でありながら背筋が凍る思いだった。
あれだけの『魔力』を込められた『魔法』をあれだけの数を放てるのは、流石『ニビシア』の魔法使いだと尊敬さえ抱けるが、その魔法を全て叩き落しただけでなく、そのまま相手の間合いまで一気に詰める速度、そして相手の逃げ道を防ぐ目的で先読みの攻撃、全てが完璧な詰めだった。
「す、凄いよディーダ君……!」
「確かにディーダは才ある剣士のようだが、今回のように自分の力を自覚した上でモノに出来るかどうかは、まぁ今後のあやつ次第だな」
(きっかけは作ったと思うがそれを今後、自分でコントロールが出来るようにならなければ意味がないからな……)
ソフィが毎回発破をかけなければいけないのであれば、それは真の意味で強くなったとは言えないからである。
「だが『ディーダ』もそしてお主にしても、我が見込みがあると判断している者達だ。案ずる事はなかろう」
それはソフィの偽らざる本心から出る言葉であった。
「しかし次の相手は流石に、ディーダでも荷が重いようだ」
「え?」
【種族:人間 性別:男 名前:ルビア
魔力値:999 戦力値:17万 職業:魔法使い 勲章ランクB】。
ソフィには開示されているが、当たり前のように隠蔽魔法を使われている上に、冒険者のランクはBであった。
たとえ『ディーダ』が本来の力を最大限に引き出せたとしても、それでも分が悪い相手であった。
「それでは第二試合、始め!」
ディーダはソフィの発破の効力が切れている為に、先程のような行動には出ずにジリジリと間合いを詰めながら様子を見ていた。
だが『ルビア』はそんな様子のディーダに目もくれず詠唱を始めた。
「『広大な空に一筋の閃光、我が声に呼応し敵を撃て』」
――最上位魔法、『雷撃閃光』。
空が突如暗く、雨雲が出てきたかと思うと一筋の閃光がリングに向かって伸びていき『ディーダ』の居る場所ををめがけて雷が落ちてくるのだった。
「う、うわあああ!!」
慌ててディーダはその場から離れようとするが、リング上全域が雷の標的となっている為に場外負けを気にする余裕もなく『ディーダ』は場外へ飛び降りるのだった。
「ほう? 天候操作の『魔法』とはなかなかやるではないか」
天候を操作する『雷』系統の『魔法』はその規模に拘わらず、全てが最上位に位置する魔法である。
この世界の『理』において四大元素とされる『風』『水』『地』『火』。
使い手の魔力と元素を利用した『魔法』が用いられているが、『地』を司る元素から利用された天候操作に『雷』系統がある。
並の魔法使いでは扱う事が出来ず、雨雲を生み出す事ですら奇跡とされる程の扱いが難しい魔法である。
ソフィたちの元居た世界の『人間界』でも、天候操作『魔法』は『賢者級』の魔法とされていた。
それ程までに体現が難しく非常に高難度の『魔法』である。
「ニーアよ……。あやつの『魔力』や戦力値は、明らかに今までの相手とは違う。戦力差を感じたならば遠慮は要らぬ。直ぐに我と代わるのだ、よいな?」
その言葉にゴクリとニーアは唾を飲んだ。
今までも常に余裕を見せてきたソフィが『ルビア』の魔法を一つ見ただけでそこまで告げたのだ。
余程、相手の『ルビア』という魔法使いは危険な相手だと認めているのだろう。
そしてニーアの思惑はそこまで間違ってはいない。
ソフィから見て今の『ルビア』の実力的には、同じ魔法使いとして『ニーア』の力量では、まだまだ太刀打ちが出来る相手ではないと判断したのであった。
「しょ、勝者! ルビア選手!」
ディーダは場外負けとなってしまい、これで『グラン』と『ニビシア』が共に1勝1敗となるのであった。
「す、すまない……! 恐怖心から場外へ飛び出して逃げてしまった……」
ディーダが戻ってきて開口一番に謝罪を口にしたが、ニーアもソフィも笑顔で迎えた。
「何を言うんだ、ディーダ君はよくやってくれたよ!」
「うむ。本来の力を出す事が出来れば、お主は直ぐに強くなれる。もっと自信を持つ事だな」
「ありがとう……、二人共!」
温かい言葉に迎え入れられた『ディーダ』は、素直に言葉を受け取りあまり気落ちせずにすんだのだった。
「さて、じゃあ行ってくるよ」
ニーアは気を引き締めて『ルビア』の待つリングを上がっていくのだった。
ニーア達は第一試合なので、会場についてすぐにウォームアップを開始し始めた。
『ディーダ』はアップを始めつつもその顔には焦りが見て取れる。
今まで『グラン』のギルドは決勝まで来た事はなかった。
今回が初の決勝トーナメントという事に加えて、更には『ディーダ』は『ムラマサ』と戦って以降二回戦では戦ってすらいない。
その所為でかなりの期間に渡って試合間隔が空いており、緊張が高まっていたのである。
剣を振る腕にも力が入りすぎていて、試合前だというのに準備運動の素振りを行っているだけで息を切らし始めていた。
「その辺にしておけ、試合前にバテてしまうぞ。」
見るに見兼ねたソフィがディーダに声を掛けると、ようやくその手を止めてソフィの方を見るのだった。
「ハァハァッ……。そ、そうなんだけど、剣を振っていないと不安で……」
「お主の今日戦う相手は魔法使いだろうからな。気にせずお主の速度を活かして先手を取ればよい」
予選で戦った時は同じ剣士で相手は、勲章ランクBの格上であったが故に『ディーダ』は敗北を喫したが、本来の彼は『グラン』のギルドの剣士の中でも抜きんでている腕前を持っている。
確かに緊張に弱いという欠点はあるが本来の力を出し切れば、同ランクの冒険者や、Cランクでも相手が魔法使いであればその『ディーダ』の剣速を活かした腕前を用いれば完封も出来ない事はない筈である。
しかし残念な事に現在その緊張こそが、最高潮に達している状態であった。
このままでは、実力の半分も出せず仕舞で終わってしまう事だろう。
先程からソフィは素振りを行っていた『ディーダ』を観察していたが、どうにも力が入り過ぎていて力んでいるのが見て取れる程で、流石にこのままでは魔法使いの得意な小規模な魔法で相手の出鼻を挫くようなスタイル、前までのニーアが好んで行っていたスタイルを貫かれれば、何も出来ぬままに勝負がついてしまうだろうと、同じ魔法使いであるソフィは簡単に予測がついてしまうのだった。
(こういうことは自分で経験をしていかねばならぬのだが、仕方あるまいな。今回ばかりは少し我が手を貸すとしようか)
心の中である決心をしたソフィは『魔瞳』を使う決意を固めるのだった。
「安心するがよい、我がいる限りお前に負けはない」
――ソフィの目が妖しく、そしてとても美しい紅色に変わっていく。
「そんな我の尖兵を務めるお主もまた最強の一角、負ける筈がない」
「この俺が負ける筈がない……」
ソフィの言葉が頭の中にすんなりと入ってくるのを感じた『ディーダ』だが、そこで意識が混濁してソフィの声が頭の中で反芻していく。
「『俺に負けはない、俺は最強の剣士だ。誰であろうと負ける筈がない。俺に負けはない』」
「そうだ。お主は誰よりも強く負ける筈がない。さあ存分に暴れてくるがいい」
先程までの緊張に溺れていた男は何処にも居らず、堂々と胸を張って独り言を言っていた『ディーダ』だが、最後のソフィの言葉に対して手を挙げて応えるのだった。
「ソフィ君。キミは一体『ディーダ』君に何をしたんだい?」
リングに上がる『ディーダ』の後ろ姿を見ながら、これまでとまるで違うその様子に、ニーアはソフィに問いかけるのであった。
「お主たちも仲間に発破をかけるときに声を掛けるだろう? 我はそれと同じような事をしただけだ」
ソフィは確かに『魔法』を使ったりして『ディーダ』に特別何か力を貸したりといった事は一切していない。
ただ『アレルバレル』の世界であらゆる大陸を束ねる大魔王、そのソフィの率いる『最強の魔王軍の尖兵』。
そう言った魔族達と同じ気概を『ディーダ』に持たせただけである。
つまり簡単に言うと『ディーダ』の本来持つ力を100%引き出せるように『魔瞳』と呼ばれる魔族の扱う目で『ディーダ』に暗示をかけただけである。
「決勝トーナメント第一試合、『グラン』対『ニビシア』先鋒戦、始め!」
そして審判のコールが行われて、決勝トーナメント最初の試合が行われるのであった。
『ニビシア』の先鋒はやはり魔法使いであった。
それもCクラスの上位攻撃魔法専門の魔法使いである。
「『紅蓮の矢、我に刃向かう愚者を迎え撃て』」
――上位魔法、『紅炎の破矢』。
炎の矢が次々と放たれて『ディーダ』に向かっていく。
流石魔法使いが多く居る町の冒険者ギルドなだけはあり、相手の魔法使いの纏っている『魔力』もこれまで見て来た対抗戦でも相当高く感じられる。
先程までの極度の緊張状態のままであった『ディーダ』であれば、この『魔法』の先制攻撃で怯まされて勝負はあっけなくついてしまっていただろうが、ソフィの魔瞳のおかげで今の彼は自信に満ち溢れているような表情を浮かべていた。
そして一本……、二本……、三本と『ディーダ』は、剣で格上の魔法使いの矢を斬り進んでいく。
――何と『ディーダ』は『ニビシア』の魔法使いの矢を全て剣技で撃ち落としたのだった。
「な、何だと!?」
『ニビシア』の魔法使い達は、まさか格下の勲章ランクDの剣士に誇りある『ニビシア』の代表を務める自分の『魔法』が全て防がれてしまい、流石に驚いて慌てて距離を取ろうとする。
しかし今の『ディーダ』は、最上級の剣士である。
一瞬で距離を詰めて、相手の行動を先読みしてその先の一手を放つ。
距離を詰められた魔法使いは分が悪く立ち回りを防がれてしまい、更には『ディーダ』の剣は鋭く重い上に剣速もある。
距離を取ろうと必死に逃げ回っていた魔法使いだが、結局全てを『ディーダ』に見切られてしまい、最後は顔の前でピタリと剣を止めながら『ディーダ』は凄みのある笑みを浮かべるのだった。
「ま、参った!」
どうやら勝ち目が無いと悟った『ニビシア』の魔法使いは、審判に聞こえるように大きな声で『敗北宣言』を言い放つのであった。
――そこでようやくディーダは我に返る。
「あ、あれ……?」
「勝者、ディーダ!」
「え……? もう試合終わったの?」
審判コールと共に観客席から歓声が上がるが『ディーダ』は、1人だけ現状を理解していなかった。
「ねぇソフィ君? 今のディーダ君は、本来の彼の実力通りなんだよね?」
ニーアはディーダの剣技で『ニビシア』の魔法使いが放っていたその全ての攻撃魔法を撃ち落としたのを見て、仲間でありながら背筋が凍る思いだった。
あれだけの『魔力』を込められた『魔法』をあれだけの数を放てるのは、流石『ニビシア』の魔法使いだと尊敬さえ抱けるが、その魔法を全て叩き落しただけでなく、そのまま相手の間合いまで一気に詰める速度、そして相手の逃げ道を防ぐ目的で先読みの攻撃、全てが完璧な詰めだった。
「す、凄いよディーダ君……!」
「確かにディーダは才ある剣士のようだが、今回のように自分の力を自覚した上でモノに出来るかどうかは、まぁ今後のあやつ次第だな」
(きっかけは作ったと思うがそれを今後、自分でコントロールが出来るようにならなければ意味がないからな……)
ソフィが毎回発破をかけなければいけないのであれば、それは真の意味で強くなったとは言えないからである。
「だが『ディーダ』もそしてお主にしても、我が見込みがあると判断している者達だ。案ずる事はなかろう」
それはソフィの偽らざる本心から出る言葉であった。
「しかし次の相手は流石に、ディーダでも荷が重いようだ」
「え?」
【種族:人間 性別:男 名前:ルビア
魔力値:999 戦力値:17万 職業:魔法使い 勲章ランクB】。
ソフィには開示されているが、当たり前のように隠蔽魔法を使われている上に、冒険者のランクはBであった。
たとえ『ディーダ』が本来の力を最大限に引き出せたとしても、それでも分が悪い相手であった。
「それでは第二試合、始め!」
ディーダはソフィの発破の効力が切れている為に、先程のような行動には出ずにジリジリと間合いを詰めながら様子を見ていた。
だが『ルビア』はそんな様子のディーダに目もくれず詠唱を始めた。
「『広大な空に一筋の閃光、我が声に呼応し敵を撃て』」
――最上位魔法、『雷撃閃光』。
空が突如暗く、雨雲が出てきたかと思うと一筋の閃光がリングに向かって伸びていき『ディーダ』の居る場所ををめがけて雷が落ちてくるのだった。
「う、うわあああ!!」
慌ててディーダはその場から離れようとするが、リング上全域が雷の標的となっている為に場外負けを気にする余裕もなく『ディーダ』は場外へ飛び降りるのだった。
「ほう? 天候操作の『魔法』とはなかなかやるではないか」
天候を操作する『雷』系統の『魔法』はその規模に拘わらず、全てが最上位に位置する魔法である。
この世界の『理』において四大元素とされる『風』『水』『地』『火』。
使い手の魔力と元素を利用した『魔法』が用いられているが、『地』を司る元素から利用された天候操作に『雷』系統がある。
並の魔法使いでは扱う事が出来ず、雨雲を生み出す事ですら奇跡とされる程の扱いが難しい魔法である。
ソフィたちの元居た世界の『人間界』でも、天候操作『魔法』は『賢者級』の魔法とされていた。
それ程までに体現が難しく非常に高難度の『魔法』である。
「ニーアよ……。あやつの『魔力』や戦力値は、明らかに今までの相手とは違う。戦力差を感じたならば遠慮は要らぬ。直ぐに我と代わるのだ、よいな?」
その言葉にゴクリとニーアは唾を飲んだ。
今までも常に余裕を見せてきたソフィが『ルビア』の魔法を一つ見ただけでそこまで告げたのだ。
余程、相手の『ルビア』という魔法使いは危険な相手だと認めているのだろう。
そしてニーアの思惑はそこまで間違ってはいない。
ソフィから見て今の『ルビア』の実力的には、同じ魔法使いとして『ニーア』の力量では、まだまだ太刀打ちが出来る相手ではないと判断したのであった。
「しょ、勝者! ルビア選手!」
ディーダは場外負けとなってしまい、これで『グラン』と『ニビシア』が共に1勝1敗となるのであった。
「す、すまない……! 恐怖心から場外へ飛び出して逃げてしまった……」
ディーダが戻ってきて開口一番に謝罪を口にしたが、ニーアもソフィも笑顔で迎えた。
「何を言うんだ、ディーダ君はよくやってくれたよ!」
「うむ。本来の力を出す事が出来れば、お主は直ぐに強くなれる。もっと自信を持つ事だな」
「ありがとう……、二人共!」
温かい言葉に迎え入れられた『ディーダ』は、素直に言葉を受け取りあまり気落ちせずにすんだのだった。
「さて、じゃあ行ってくるよ」
ニーアは気を引き締めて『ルビア』の待つリングを上がっていくのだった。
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