最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。
第26話 呪縛の血
リングの上でソフィは腕を組んで、次の対戦相手がリングにあがってくるのを待つ。
次の相手はリーネの兄である『スイレン』で『ルードリヒ王国』の領土にあるギルドの中では間違いなく最強の冒険者であった。
前の試合の後処理が終わったリング上に、ようやくその姿を見せたスイレンだがすでに視線をソフィに向けていた。
「それでは大将戦、はじめ!」
二人がリングにあがり準備が整ったと判断した審判は、試合開始のコールを告げた。
魔法使いの常套手段である先手必勝といった魔法詠唱もなく『ソフィ』は腕を組んだまま動かない。
スイレンもまた視線だけはソフィからは離してはいないが、戦闘態勢といった感じではなかった。
「どうした? 試合はすでに始まっているようだぞ」
ソフィは挑発をするように、スイレンに声を掛ける。
「その年齢にしてその余裕……。本当に大したものだな」
スイレンは自分より一回り以上も年下であるソフィを見て、その堂々とした態度に素直に感心するのであった。
「まぁじっとしていても仕方がないか、少しは試させてもらうとしよう」
スイレンは態勢を低くして、一気にソフィに向かって駆け出した。
恐ろしい速度のソフィの魔法よりも更に早くスイレンは動き、すかさず持っているクナイをソフィに投げつける。
ソフィの避ける動作に合わせて隙を誘い、攻撃を打ち込むつもりで背後に回り込もうとするが、ソフィは全く避けずにクナイをそのまま手で払いのけて、そのままスイレンの首を掴もうとする。
「……な、何というやつだ」
――忍術、『体動至影』。
「ほう?」
ソフィはスイレンの首を掴もうとしたが、握る直前に影だけが移動したかと思うと影の後を追うようにスイレンの体が移動して、あっさりと避けられたのだった。
「影がまるで本体のように移動したように見えたが……」
「我ら『影忍』は自在に影を操る事が出来る。忍びの動きを簡単に捉えられると思うなよ」
そしてスイレンが腕を左右に振ったかと思うと、ソフィはその場から動けなくなった。
「何だ? 動かぬ?」
「貴様はもうこれで動けまい」
スイレンの影を操る『体動至影』は自分だけでなく、他人の影をも自在に操り金縛る事も可能なのである。
「これがリーネの言っていた『影忍』の技という訳か」
ソフィは『リーネ』の『影忍』の忍術を一度その目で見ていた為、リーネの忍術とは少し異なってはいるが『魔法』とは違う性質の『術』を見て直ぐに同様な『技法』なのだろうとアタリをつけるのであった。
そしてリーネの言葉を出した瞬間にスイレンは、攻撃しようとしていた手を止めると、ソフィの前で再び姿を現した。
「お前、妹のことを知っているのか?」
スイレンは試合の最中だというのに、攻撃を行おうとする手を完全に止めたかと思うと、徐に質問を始めるのだった。
「む? 当然だ。リーネは我の友であり、仲間だからな」
そのソフィの言葉にスイレンは、薄く笑みを浮かべ始めた。
「そういえばお主の事も大まかにではあるが、リーネから話を聞いているぞ? 『影忍の里』を王国に渡す事はどういう意図でやったのだ?」
――スイレンはそこまで知っているかと驚いた。
そしてどうやら本当に妹と仲が良いのだろうなと、スイレンは確信を持つのであった。
本来スイレン達のような『忍者』達は、如何に幼子であろうとも里の話などの情報を漏らす事はない。
しかしそれは『忍者』の持つ情報を他者に話す事によって、家族や一族の仲間を危険に晒す可能性がある以上は当然の事である。
それをこの『影忍』どころか『忍者』ですらない『ソフィ』という少年に妹が里の事情を説明したということは、余程の親しい間柄で間違いない筈だと、彼は結論に至ったようである。
「それは簡単な事だ。王国軍を手中に収めて、いずれはこの王国自体を我ら『影忍』のものにするのだよ」
ソフィはやはり、自らの里を守るためにやったのかと納得しようとしたが、そこからスイレンは更に話を続けるのだった。
「だが、私の作る『影忍の一族』は、先代までの愚かな風習など切り捨てて、効率よくこの国を支配していずれはこの大陸そのものを私のモノにする事だ。その為には妹のリーネを上手く使わねばならぬのだ。リーネがどこにいるのかを知っているというのであれば、直ぐに私の元に連れてくるのだ」
――ソフィの中で目まぐるしくスイレンの評価が下がっていく。
スイレンの言い方では『影忍』を想って里を守るためではなくて『影忍』を使って、国を支配しようとしているだけのまるで暴君のような発言であった。
「リーネをどうするつもりなのだ?」
「決まっているだろう? あいつは優秀な『忍者』なのだ。この大陸を支配するには、妹の力が必要だ」
「それはリーネの意思など無視して自分の思い通りに、利用するという事か?」
徐々にソフィは、苛立ちを含んだ声色に変わっていく。
「ふっ……! 何を言っている。私は影忍の首領だぞ? 自分の同胞ましてや家族を自らの国の発展に使うのは、当然の事だろう? せっかく有能な力を持っているというのに、使い方を知らぬ馬鹿な妹をこの私が有効活用してやろうと言ってやっているのだ。何も出来ない無能が誰よりも役に立てるのだ。私に泣いて感謝をしてもいいくらいだろう?」
国の為ならば嫌がる者をも利用するといった発言をするスイレンに、ソフィの思う統治とはまた違う物だと感じ始めていた。
そしてスイレンの言葉はまさしく『アレルバレル』の世界の『人間界』の皇帝であった人間を彷彿とさせるような、そんな言い草であった。
「もうよい。どうやら我はお前を過大評価していたらしいな。お前にはここで退場してもらう」
ソフィは目の前の男に同じ統治をする側の人間だと感じていたが、自分とは決定的に考え方が違う事を感じて一切の興味を失ったのだった。
「は? おいおい。貴様どういう状況か分かっているのか?」
そう言ってスイレンは『体動至影』で動けなくしているソフィを嘲笑うかのように笑みを浮かべながら呟く。
「最後の通告だ。命を助けてもらいたければ、妹を私の前に連れてこい」
そのスイレンの言葉にソフィは大きく溜息を吐いた。
そして――。
「今すぐに我の前で跪け」
ソフィの目が紅くなっていき、ソフィの言葉を聞いたスイレンは言う通りに跪いてしまう。
「!?」
そのソフィの発した言葉にスイレンは勝手に身体が動いていき、抵抗しようにも全く動けなくなるのであった。
「いいか、よく聞け」
――呪文、『呪縛の血』。
動けないスイレンの心臓に、ソフィの呪の言の葉が打ち込まれた。
――それは一方的な契約である。
「『これよりお主が、リーネに危害や苦痛を与える行為を行う事を禁ずる』」
更にそこでソフィの目が『金色』に光り輝くと、スイレンは一瞬だけ目を虚ろにさせながら、無意識に首を縦に振るのであった。
――その瞬間、ソフィの『呪縛の血』の契約は成立するのであった。
「これでお主はリーネに手を出せなくなった。我の言葉に背いてお主が妹に手を出せば、お主の魂は死神の手によって奪われて、二度と目を覚ます事は出来なくなる」
「むっ……? い、いや何を馬鹿な事を……! ハッタリだ! いいか? 覚えていろよ!? お前だけは俺の手で確実に殺してやるからな!」
虚ろな目をしていたスイレンの目が正常に戻ると、どうやら操られている間にも言葉は正常に聞こえていたようで、顔を真っ赤にさせながらスイレンはソフィに恨みの言葉を発するのであった。
「クックック! 勝手にすればよい。だが忠告はしておいてやる。この試合が終わった後にリーネに少しでも手を出そうとするだけでお前は死ぬ。理解したな?」
――『呪縛の血』の発動条件は二つ。
一つ目は自分の遥か格下の相手に対してのみ発動可能で、二つ目に契約内容を理解させる事である。
そして契約内容を話したソフィは、動けなくなっているスイレンを蹴り飛ばした。
吹き飛ばされたスイレンは、そのままリングから会場の入り口の壁まで一直線に飛んでいって、壁に埋まったまま意識を失った。
「しょ、勝者、ソフィ!」
リング外へ飛ばされたスイレンが、生きていることを確認した後、審判は勝利コールを告げたのだった。
「くだらぬ」
冒険者ギルドに認められた勲章ランクAという最高峰の高みに居るスイレンを倒したソフィだが、全く嬉しそうな表情をせず、むしろ最悪の気分だと言った様子でそう呟いて、リングを降りるのであった。
そしてこの瞬間に『グラン』のギルドは、優勝候補の『リルバーグ』のギルドを下してあっさりと、一回戦を勝利で飾ったのであった。
次の相手はリーネの兄である『スイレン』で『ルードリヒ王国』の領土にあるギルドの中では間違いなく最強の冒険者であった。
前の試合の後処理が終わったリング上に、ようやくその姿を見せたスイレンだがすでに視線をソフィに向けていた。
「それでは大将戦、はじめ!」
二人がリングにあがり準備が整ったと判断した審判は、試合開始のコールを告げた。
魔法使いの常套手段である先手必勝といった魔法詠唱もなく『ソフィ』は腕を組んだまま動かない。
スイレンもまた視線だけはソフィからは離してはいないが、戦闘態勢といった感じではなかった。
「どうした? 試合はすでに始まっているようだぞ」
ソフィは挑発をするように、スイレンに声を掛ける。
「その年齢にしてその余裕……。本当に大したものだな」
スイレンは自分より一回り以上も年下であるソフィを見て、その堂々とした態度に素直に感心するのであった。
「まぁじっとしていても仕方がないか、少しは試させてもらうとしよう」
スイレンは態勢を低くして、一気にソフィに向かって駆け出した。
恐ろしい速度のソフィの魔法よりも更に早くスイレンは動き、すかさず持っているクナイをソフィに投げつける。
ソフィの避ける動作に合わせて隙を誘い、攻撃を打ち込むつもりで背後に回り込もうとするが、ソフィは全く避けずにクナイをそのまま手で払いのけて、そのままスイレンの首を掴もうとする。
「……な、何というやつだ」
――忍術、『体動至影』。
「ほう?」
ソフィはスイレンの首を掴もうとしたが、握る直前に影だけが移動したかと思うと影の後を追うようにスイレンの体が移動して、あっさりと避けられたのだった。
「影がまるで本体のように移動したように見えたが……」
「我ら『影忍』は自在に影を操る事が出来る。忍びの動きを簡単に捉えられると思うなよ」
そしてスイレンが腕を左右に振ったかと思うと、ソフィはその場から動けなくなった。
「何だ? 動かぬ?」
「貴様はもうこれで動けまい」
スイレンの影を操る『体動至影』は自分だけでなく、他人の影をも自在に操り金縛る事も可能なのである。
「これがリーネの言っていた『影忍』の技という訳か」
ソフィは『リーネ』の『影忍』の忍術を一度その目で見ていた為、リーネの忍術とは少し異なってはいるが『魔法』とは違う性質の『術』を見て直ぐに同様な『技法』なのだろうとアタリをつけるのであった。
そしてリーネの言葉を出した瞬間にスイレンは、攻撃しようとしていた手を止めると、ソフィの前で再び姿を現した。
「お前、妹のことを知っているのか?」
スイレンは試合の最中だというのに、攻撃を行おうとする手を完全に止めたかと思うと、徐に質問を始めるのだった。
「む? 当然だ。リーネは我の友であり、仲間だからな」
そのソフィの言葉にスイレンは、薄く笑みを浮かべ始めた。
「そういえばお主の事も大まかにではあるが、リーネから話を聞いているぞ? 『影忍の里』を王国に渡す事はどういう意図でやったのだ?」
――スイレンはそこまで知っているかと驚いた。
そしてどうやら本当に妹と仲が良いのだろうなと、スイレンは確信を持つのであった。
本来スイレン達のような『忍者』達は、如何に幼子であろうとも里の話などの情報を漏らす事はない。
しかしそれは『忍者』の持つ情報を他者に話す事によって、家族や一族の仲間を危険に晒す可能性がある以上は当然の事である。
それをこの『影忍』どころか『忍者』ですらない『ソフィ』という少年に妹が里の事情を説明したということは、余程の親しい間柄で間違いない筈だと、彼は結論に至ったようである。
「それは簡単な事だ。王国軍を手中に収めて、いずれはこの王国自体を我ら『影忍』のものにするのだよ」
ソフィはやはり、自らの里を守るためにやったのかと納得しようとしたが、そこからスイレンは更に話を続けるのだった。
「だが、私の作る『影忍の一族』は、先代までの愚かな風習など切り捨てて、効率よくこの国を支配していずれはこの大陸そのものを私のモノにする事だ。その為には妹のリーネを上手く使わねばならぬのだ。リーネがどこにいるのかを知っているというのであれば、直ぐに私の元に連れてくるのだ」
――ソフィの中で目まぐるしくスイレンの評価が下がっていく。
スイレンの言い方では『影忍』を想って里を守るためではなくて『影忍』を使って、国を支配しようとしているだけのまるで暴君のような発言であった。
「リーネをどうするつもりなのだ?」
「決まっているだろう? あいつは優秀な『忍者』なのだ。この大陸を支配するには、妹の力が必要だ」
「それはリーネの意思など無視して自分の思い通りに、利用するという事か?」
徐々にソフィは、苛立ちを含んだ声色に変わっていく。
「ふっ……! 何を言っている。私は影忍の首領だぞ? 自分の同胞ましてや家族を自らの国の発展に使うのは、当然の事だろう? せっかく有能な力を持っているというのに、使い方を知らぬ馬鹿な妹をこの私が有効活用してやろうと言ってやっているのだ。何も出来ない無能が誰よりも役に立てるのだ。私に泣いて感謝をしてもいいくらいだろう?」
国の為ならば嫌がる者をも利用するといった発言をするスイレンに、ソフィの思う統治とはまた違う物だと感じ始めていた。
そしてスイレンの言葉はまさしく『アレルバレル』の世界の『人間界』の皇帝であった人間を彷彿とさせるような、そんな言い草であった。
「もうよい。どうやら我はお前を過大評価していたらしいな。お前にはここで退場してもらう」
ソフィは目の前の男に同じ統治をする側の人間だと感じていたが、自分とは決定的に考え方が違う事を感じて一切の興味を失ったのだった。
「は? おいおい。貴様どういう状況か分かっているのか?」
そう言ってスイレンは『体動至影』で動けなくしているソフィを嘲笑うかのように笑みを浮かべながら呟く。
「最後の通告だ。命を助けてもらいたければ、妹を私の前に連れてこい」
そのスイレンの言葉にソフィは大きく溜息を吐いた。
そして――。
「今すぐに我の前で跪け」
ソフィの目が紅くなっていき、ソフィの言葉を聞いたスイレンは言う通りに跪いてしまう。
「!?」
そのソフィの発した言葉にスイレンは勝手に身体が動いていき、抵抗しようにも全く動けなくなるのであった。
「いいか、よく聞け」
――呪文、『呪縛の血』。
動けないスイレンの心臓に、ソフィの呪の言の葉が打ち込まれた。
――それは一方的な契約である。
「『これよりお主が、リーネに危害や苦痛を与える行為を行う事を禁ずる』」
更にそこでソフィの目が『金色』に光り輝くと、スイレンは一瞬だけ目を虚ろにさせながら、無意識に首を縦に振るのであった。
――その瞬間、ソフィの『呪縛の血』の契約は成立するのであった。
「これでお主はリーネに手を出せなくなった。我の言葉に背いてお主が妹に手を出せば、お主の魂は死神の手によって奪われて、二度と目を覚ます事は出来なくなる」
「むっ……? い、いや何を馬鹿な事を……! ハッタリだ! いいか? 覚えていろよ!? お前だけは俺の手で確実に殺してやるからな!」
虚ろな目をしていたスイレンの目が正常に戻ると、どうやら操られている間にも言葉は正常に聞こえていたようで、顔を真っ赤にさせながらスイレンはソフィに恨みの言葉を発するのであった。
「クックック! 勝手にすればよい。だが忠告はしておいてやる。この試合が終わった後にリーネに少しでも手を出そうとするだけでお前は死ぬ。理解したな?」
――『呪縛の血』の発動条件は二つ。
一つ目は自分の遥か格下の相手に対してのみ発動可能で、二つ目に契約内容を理解させる事である。
そして契約内容を話したソフィは、動けなくなっているスイレンを蹴り飛ばした。
吹き飛ばされたスイレンは、そのままリングから会場の入り口の壁まで一直線に飛んでいって、壁に埋まったまま意識を失った。
「しょ、勝者、ソフィ!」
リング外へ飛ばされたスイレンが、生きていることを確認した後、審判は勝利コールを告げたのだった。
「くだらぬ」
冒険者ギルドに認められた勲章ランクAという最高峰の高みに居るスイレンを倒したソフィだが、全く嬉しそうな表情をせず、むしろ最悪の気分だと言った様子でそう呟いて、リングを降りるのであった。
そしてこの瞬間に『グラン』のギルドは、優勝候補の『リルバーグ』のギルドを下してあっさりと、一回戦を勝利で飾ったのであった。
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