魔法学園の生徒たち

アーエル

第26話


クラスを移動しても加点や減点されたポイントがリセットされることはない。
そのまま減点し続ければ留年ではなく退学に……

「なるということは聞いていたはずだ」

学園に現れた父親が対峙しているのは、地元では出来が良かったはずの娘カリーナ。
離れた国からわざわざ学園にまで足を運んだのは、外交でこの国に来ていたからだ。
まさか娘が減点による脱落をしたとは思っていなかった彼は、誇らしかった娘の存在が急に不快な存在に落ちてしまった。

「これほど恥ずかしい思いをさせられるとはな」

父親のいかりに触れて、顔色を失った顔を上げられないカリーナ。
膝に乗せた握りこぶしも小さく揺れている。
末っ子として今まで甘やかされて生きてきたカリーナにとって、周囲が自分のために率先して動くのは当然だった。
しかし、学園では誰かが自分のために何かしてくれることもなく。
彼女から「手伝って」と言っても断られる現状を受け入れられなかった。

「イーグルクラスでついていけないのではなく、日々の行動で減点され。ホーククラスでは態度を改めず、果ては我が物顔で女王気取り。そして昨日まで自室で謹慎処分。はあ…………なんとも嘆かわしい」

何を言われても返す言葉がなく俯き続けるカリーナ。
父からの期待をことごとく裏切ったことを一応は理解している。
しかし……
そう、カリーナの思考には「しかし」がつく。
今もなお、カリーナの頭の中には「しかし」で始まる言い訳が巡っている。

私がお願いしても手伝ってくれなかった。
私がわざわざ頼んでも助けてくれなかった。
なんで、私が困っているのに助けてくれないの?
なんで、私のために動いてくれないの?

「私はメボリーナ王国の公女なのよ! なんで誰も媚びを売って私の機嫌を取ろうとしないのよ!」
「それはお前に人望がないからだ」

父親の諦めに似た声に、自分の思いが声になって漏れていたのだと気づいたのか。
慌てて両手で口を押さえたが、いまさら言葉を撤回などできない。
そしてメボリーナ王国では言葉に責任が伸し掛かる。

「たしかにお前は公女として我が公爵家に生まれた。だが、お前自身は無爵の小娘だ。私という公爵の末娘という肩書きは、周囲がそう認識しなければその胸を飾るただの羽根飾りと同じだ」

男らしいゴツゴツした指がカリーナの胸を飾る孔雀翅、その中央に輝くルビーはカリーナの両目のように力強く輝いている。

「カリーナ……お前は友をなんだと思っている?」
「男は私を飾る装飾品アクセサリー。女は私をより良く見せるための小間使い」

カリーナは自分の言葉が間違っているとは思っていない。
母からそれが上級貴族の振る舞い方だと教わってきたからだ。
だからこそ、目の前の父親が目を見開いている理由が分からなかった。

「カリーナ。後期が始まるまで家に帰ろう」
「なんで?」
「停学やなんだで授業が遅れているだろう? 前期は基本がほとんどだから、家で十分勉強して自信をつけたら戻ればいい」

カリーナにとってもそれは救いの言葉だった。
ホーククラスに移ってから、教室が分からなくて授業に出ていない。
誰かに聞けばいいものの、カリーナは「クラスを替わったばかりの私に優しくしなさい!」と上から目線。
誰がそのような態度をとるクラスメイトに優しくするのか。

クラスに馴染めず孤立したカリーナは、教師に聞けばよかったのだが、こちらもまた「私の面倒を見るのは当然よ」と上から目線。
自ら教師に尋ねることもしなかった。

そして授業に出ないカリーナが大人しく自習をしているのかといえばそうではなかった。
寮内を歩き回り、大部屋に勝手に入り込んでは私物……主に売店で販売されているお菓子だったが持ち出した。
先日までの自室での謹慎はそれが理由だ。
手癖の悪い生徒がクラスに馴染めるはずがない。

娘の教育を間違えたと理解した父親は、後期に入るまでカリーナの休学を申請して受理された。
後期までに授業内容に追いつかない場合、カリーナを自国の魔法学校に通わせるつもりだ。
カリーナの魔法の能力は高いため、自国の魔導師を家庭教師に招いて教本にあわせて教われば大丈夫だろう。
ただ、公爵令嬢というプライドがひねくれてねじれまくって常識から逸脱してしまっていた。
そちらの矯正が心配なのだ。

10歳の子どもに罪はない。
悪いのは、末っ子ということで甘やかして育てた両親にあるだろう。

カリーナが後期に戻ってこられるかは本人次第。
人との付き合い方を覚え始めたバグマンが、ホーククラスでクラスメイトと馴染んでいる前例もある。
カリーナもまた、クラスメイトに受け入れられたらバグマン同様に学園生活を充実できることだろう。

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