魔法学園の生徒たち
第12話
勇者という犠牲の上に成り立つ平和。
ではその犠牲者を輩出した町や村は?
親や子が犠牲になった家族は……果たして手放しで喜べるのだろうか。
使者団はこの村と周囲の村々の温度差を体感していた。
どこの町や村では魔王の封印で齎された平和を祝って賑やかな祭りを始めている。
勇者を輩出した村は残された子供の存在に怯えて扉を固く閉ざし、息を潜めながら村から出ていくのを待っている。
話し合いは短時間……これはいつの時代でも同じ。
しかし今回はあまりにも短い。
使者が村長と対面し挨拶のため口を開いてからまだ10分もかかっていない。
差し出されたお茶もまだ飲み頃を保っている。
きっと相手の心を読める魔法があれば、この村の老若男女はバグマンひとりを除いて全員が同じことを思っているだろう。
「【勇者の子】を早く連れて行ってくれ」
魔王が封印されてからの数時間、村人はひとり残された【勇者の子】に関わりたくないのか家に引きこもっていると村長は言っていた。
そして村長から見た遺された子の性格を思慮し、使者団にある指示を出す。
気難しい子であろうと、これならすんなり同行するだろう。
バグマンひとりが残された家にたどり着いた使者が扉をノックする。
少しして再びドアをノックした使者は、今度は自分の用件を告げる。
「国の使者として選ばれし【勇者の子】バグマン殿を迎えに参りました」
村長の話と事前の調査報告書からバグマンは自尊の塊だと推測できた。
だったら間違いがひとつもないこの言葉にバグマンが食いつくはずだ。
そんな使者の先ほどの言葉を思い出していた使者団の一行は、使者の思惑通り玄関が内から開かれたのを見て一斉に片膝をついて頭を垂れる。
これもまた使者からの指示だ。
「お前たちは思惑通りに行動する【勇者の子】に笑いが止まらないだろう。ならば笑い顔がバレぬよう片膝をついて頭を垂れて顔を見せるな。その姿は自尊に凝り固まった少年のゆがんだ心を満足させるに足りるであろう」
「「「御意」」」
その言葉通り、家の中を荒らして向けられぬ感情の矛先を発散出来ずに暴れるしかなかったバグマンは、『選ばれし【勇者の子】』の言葉と跪いた使者団に目を輝かせた。
用意された煌びやかな馬車に恭しくバグマンを乗せると外から鍵をかける。
「安全に王城までお送りするためです、バグマン様」
この言葉だけでバグマンは気を良くした。
其の実、馬車に飽きて抜け出そうとしないためである。
今回はそれほど時間をかけないで移動できるのは、転移魔法が使える魔導師が同行しているからだ。
ちなみに魔導師とは魔術師を束ねる者を指す。
魔法学園で学ぶ者は卒業すれば魔術師となるが、学校などに通って卒業した者は魔術士であり、彼らを指導者として導く者を魔導師と呼ぶ。
バグマンの両親は学園を卒業出来たが、下位クラスだったためエリートの肩書きは付かなかった。
バグマンはまだ子供とはいえ魔力は強く、感情的に魔力を放出する可能性があったため、内部には魔力吸収の魔導具が設置されている。
「参ります」
その言葉と共にバグマンを乗せた馬車は、生まれ育った村と真新しい墓石の下で眠る弟を置き去りにして去って行った。
息を潜めて成り行きを見守っていた村人はひとり、またひとりと閉じこもっていた家から出てくる。
やっとこの村でも祝いの祭りが始まるのだろう。
バグマンという災厄が永遠に去ったお祝いが。
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