魔法学園の生徒たち

アーエル

第3話


アナキントス魔法学園。
そこはこの国だけでなくこの世界において最重要な学園である。
少なくともこの学園を卒業したとなれば箔が付く。
しかし進級はお目溢めこぼしはあるものの、生半可な成績では卒業は認められない。
10歳で入学して18歳で卒業を迎えるが留年は2回まで許される。
進級で留年を繰り返していれば3度目はない。
退学処分になれば『魔術師や錬金術師に不向きな者』というレッテルを貼られてしまう。
そのため、早々に進級や卒業を諦めてランクを下げた学園もしくは学校に転校する生徒も多い。
学園とは寮の備わった寄宿学校で基本は全寮制である。
その中でもアナキントス魔法学園は世界一の授業が受けられることで有名である。
歴史は古く『はじめてのイケニエのために作られた学園』であり、彼の名を冠した学園は以降も数多くの勇者を輩出している。
その点から今では魔王と戦う魔術師を育成するための学園として最高位にあり、卒業生は魔法省への入省が許される。
魔術師を目指す者にとって、可能性を求めて手を伸ばして挑戦権をもぎ取りたいのだ。
森の中に海と見紛みまがうほど広大な湖の中央に浮かんだ島にその学園はある。
ここは童話の舞台であり、城は学園に改築されたが当時の面影を残し、島の東部に唯一残された村は週末の生徒たちが集う場として発展している。

そんな学園に入るにはルートはひとつである。
各国各地から集まった生徒たちはたった1本しかない魔導列車に乗って行くしかない。
湖を取り囲むような森はその木1本1本が結界であり不審者よけでもある。
その光景は高台から見下ろせば歓声が上がり、湖水に月が反射して浮かび上がる魔法学園は神秘的で心を奪われる。
しかし、森の中を走る魔導列車に乗っている生徒には「ただ木々が早い速度で通り過ぎていくだけ」にしか見えない。
少し上を見上げて葉に目を向ければ、揺れる木々が織りなす結界が重なりあって美しい虹色に輝いていることに気付けただろう。
これもまた、魔導師として『何気ない風景であろうと周囲を注意深く観察する』という基本の教えの一環である。
この揺れを見ているのは学園のいくつもある塔の最上階にいる人物2人のみ。
ひとりは濃い緑色のマントを纏った青年、この学園の教師である。

「アリス。そろそろ準備してきなさい」
「まだ大丈夫だよ?」
「……その格好で入学式に出るのかね?」
「そうだよ、リーヴァスパパ。どっかおかしい?」
「学園の中ではリーヴァス先生と呼びなさい。明日からならその姿でもおかしくはないが……今日は正装だったはずだぞ」
「…………あっ!」

アリスと呼ばれた少女は手にした双眼鏡から顔を離して下を向く。
彼女が身につけているのは私服、その上から学生用のマントを羽織っている。
このマントも魔法の暴走から身を守るための特別製だ。

「入学式まであと40分」
「きゃああっ! すぐ着替えてくるー!」

懐中時計を出して確認するリーヴァスの隣で慌ててマントを脱ぎ捨てる少女。
淡いピンク色のモコモコなセーターまで脱ぎ出すのは、リーヴァスとは生まれたときからの付き合いで親代わりでもあるからだ。

「シルキー、今日は正装だ。手伝ってあげなさい」
〈はい。アリシア、行きますよ〉
「うん! リーヴァスパパ、教えてくれてありがとう!」
「先生だと教えているだろう」

シルキーの魔法でたぶん女子寮の部屋へと転移したとんだであろう少女に苦笑する。
杖でマントとセーターを浮かべるとその後ろに銀色の渦が現れた。
そこから細く白い腕が伸ばされて、魔法で畳まれたマントとセーターを受け取る。

「忘れ物だ」
「ありがとう、リーヴァスパパ」
〈先生でしょう?〉
「ありがとう、リーヴァスパパ先生」
「学園内ではパパもママも禁止だ。いいね?」
「はい、リーヴァスパパ」

これはリーヴァスを揶揄っているのではなく『言えなくなるなら、いまのうちにいっぱい言っちゃおう』という10歳らしい幼い考えからである。
それが手に取るくらいわかりやすく、思わず笑ってしまうリーヴァスだった。


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