野球少女は天才と呼ばれた
第2話 天見香織というキャッチャー
左バッターボックスに入った光を一塁側から見ていた為背中しか見えなかったが、絶対に打つという雰囲気を龍は感じ取った。
弟の龍に光は野球を始めてからなにか特別なものを感じていた。
実際に龍はこの頃からグランドにいる選手が放つ、色々な雰囲気みたいなものを微かに感じることが出来るようになっていたのかもしれない。
キィィィーン!!
光は初球の甘めのストレートをフルスイングし、綺麗な打球音と共に高々と上がったフライが太陽と重なってスタンドからは眩しく、打球を目で追うのが難しかった。
スタンドで応援している光のチームメイトが一斉に大声を上げて盛り上がっていた。
その光景をゆったりとグランドを回っている光は横目で確認してにこりと笑っていた気がした。
光は龍に向かって利き手の左手で高々とガッツポーズしてアピールを忘れなかった。
この試合は光の独壇場だった。
というよりもレベルが違いすぎて、姉のプレーの一挙手一投足に観客が釘付けになっているのが8歳の龍にもよく分かった。
「お母さん、おねぇちゃんかっこいいね!」
光が聞けばとても喜ぶ弟の純粋な気持ちだった。
光は気づいていないかもしれないが、この辺りから弟は光の背中を追って野球を続けていたのかもしれない。
「ゲームセット!5ー1で城西高校の勝利!」
女子野球は9回まででは無く、7回までの試合になっておりスタミナのある投手なら最後まで投げきれる回数になっており、試合時間も早い時は2時間かからず間延びせずに終わるのも人気の要因となっている。
7回まで1人で投げきり被安打0、四死球0で完璧に抑えたが光以外が1年生ということもあり緊張からか、振り逃げやエラーなどが絡んで1失点してしまったという形になった。
「りゅー少年、お姉様のナイスなピッチング見ていたかね??」
試合が終わって少し経った後に家族の元にニコニコしながら近づいてきた。
「おねーちゃん!見てたよ!凄いかっこよかったよ!」
弟の素直な返答に珍しく恥ずかしそうに笑って頭を撫でた。
光は基本的にお喋りなのだが、大切なことはあまり言わずにはぐらかしたり黙っていることが多く本心を聞けることが少ない。
最後に弟の頭をポンと叩いて、そのまま自分達の後ろにいた野球部のチームメイトにお礼を言っているみたいだった。
「君が龍くんかな?私は光さんとバッテリーを組んでる天見香織だよ。光さんからよく話を聞いてるから私とも仲良くしてくれるかな?」
そこにはショートヘアーの肌の色が白いやや小柄の女の人が目の前にしゃがんでいた。
「バッテリーってことはおねーちゃんのキャッチャー?」
「そうだよ。光さんが君は特別な子だっていつも言ってるから会いに来てみたんだ。」
「特別?僕が?よく分からない。」
光はバッテリーを組んでる天見さんだけは弟が特別な子だと話していたみたいだった。
そう言われても何が特別だという実感は弟自身にはなく、光は何を思って龍の事を特別だと思ったかも聞くことも無く真相は謎のままになっている。
「龍くん、私もそうだけどチームメイトみんな光さんとまだまだ試合が沢山したいから絶対に負けないから応援しててね!」
そう力強い言葉を残して、ヒラヒラと手を振って光のところに歩いて行った。
高校在籍中に本来なら公式戦にも出れずに終わるはずだった光が、女子野球という思ってもいなかった舞台での最初で最後の公式戦はまだ始まったばかりだ。
          
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