俺のハクスラ異世界冒険記は、ドタバタなのにスローライフ過ぎてストーリーに脈略が乏しいです。

ヒィッツカラルド

5-29【官能小説】

あー、ヤバかったわ~。

マジで死ぬかと思ったぜ。

もう、この髭面オッサンが無茶苦茶なことを抜かすから死にかけたじゃあねえか……。

なんだって、俺がポラリスをオカズに一人寂しく夜の秘め事をしただと!?

ん、いや、そんなことは言ってないか?

ついつい胸の痛みを堪えるのに話が混同してしまったぜ。

違う違う、俺がポラリスを手込めにしただと?

手込めってあれだよな。

良いではないか~、良いではないか~。

あ~れ~、お殿様~、ご無体な~。

嫌よ嫌よも好きのうちじゃわいって、あれだよな。

するか馬鹿オヤジが!!

なんで可愛いけれどゴリラ腕力の馬鹿女を俺が手込めにしなければならんのだ!?

そもそも俺は閉鎖ダンジョンに侵入してて、そんなムハムハな真夜中のフラグイベントを迎えている暇なんてなかったぞ。

むしろそんなエロエロな突発イベントを迎えたいぐらいだわ。

やっぱりこの髭面オヤジは何を抜かしているんだよ?

頭が可笑しいんじゃねえの?

俺が問う。

「一つ訊いていいか、髭オヤジ?」

「誰が髭オヤジだ!?」

「お前が髭オヤジだろ!」

「だから無礼だって言ってるんだよ、私は次の君主だぞ!!」

「まだ、君主じゃあねえだろ! そう言うことは堂々と君主に就任してから言いやがれ!!」

「何をこの糞冒険者が!?」

ここでベルセルクの爺さんが呆れながら口を挟む。

「いいから話を進めんか!!」

「良くありませんよ、父上。この冒険者風情が私を髭オヤジって呼んだのですよ!」

「髭オヤジじゃろ?」

「父上まで、何を言ってますか!?」

「わし、お前の髭は似合ってないと思ってたんだ」

「顔の基本設計は父上と同じです!!」

「ベオウルフ、いいから話を進めんか!」

「は、はい……」

ふう、やっと話が戻ったかな。

「じゃあ、なんで俺がポラリスを手込めにしたんだ。ハッキリと聞かせてもらおうか!?」

「言っている意味が分からんわ。それは私が訊きたいことだ!!」

「ええい、話が進まんな!!」

うん、状況が良く分からない方向に進んでいるぞ。

どうしよう、混乱しまくってますね?

「とにかくだ。俺はポラリスを辱しめるような行為はしてないぞ!」

「嘘を抜かすな。ネタは上がってるんだぞ!!」

「ネタってなんだよ!?」

「ポラリスが述べている!」

「なんて、言っているんだよ!?」

「ごほんっ!」

ベオウルフは咳払いを吐くと、懐から数枚の羊皮紙を出して語り出す

「これには我が娘であるポラリスの証言が詳しく記載されている!」

「読んでみろや!?」

「読むぞ~」

一瞬だが周囲が静かになった。

するとベオウルフがポラリスの証言を読み上げる。

「私が夜に自室で寝静まっていると、窓を叩く音が聞こえました。私は何かしらと思いながら窓に近付くと、そこにはアスラン様が立っておられました」

えっ?

俺にそんな記憶はないぞ?

こいつ、何をぬかしてやがるんだ?

「私は窓を開けてアスラン様を部屋に招き入れます」

俺がポラリスのほうを見ると、彼女は顔面を真っ赤に染めながら俯いていた。

ありゃあ、完全に照れてるな。

照れてるって言うか、こっぱづかしいのかな。

更にベオウルフが乙女の声色を真似ながら文章を読み上げる。

「アスラン様、こんな夜更けにどうなさいましたか?」

続いてベオウルフの声が男性の渋声に戻った。

「プリンセス・ポラリス。今宵は貴方を拐いに参りました」

また、乙女声に戻るベオウルフ。

「わたくしを拐いにとは、どう言うことですか?」

また、男性声に変わるベオウルフ。

「ええ、貴方の心を拐いに参りました」

えっ、なに、なんなの、この馬鹿話は?

茶番?

茶番劇ですか??

俺には心当たりが微塵もないぞ?

「いけません、アスラン様。わたくしはこのお城のプリンセスですよ。幾らあなた様が逞しくお強い冒険者様でも、夜這いなんてなりませんわ。わたくしの身体は将来の旦那様に捧げるまで清いままでなければならないの。ああ、いけません。そんな力任せに抱き寄せないで、私の心の防壁が崩れてしまいます。貴族と言う壁が身分を越えて攻略されてしまいますわ。ベッドに押し倒さないでくださいませ、ああ……」

な、なにをこの馬鹿オヤジは読み上げてるんだよ。

あまりにも馬鹿馬鹿しくって燃え上がらねえぞ……。

なんなのこれ?

これは誰が書いた卑猥な文章だよ?

てか、卑猥でもないか。

駄作な官能小説かよ。

なんかポラリスが凄くモジモジしてやがるな。

頭が沸騰しそうなところから、犯人はこいつ自身だろう。

こいつが真犯人か?

この糞馬鹿女が真犯人じゃあねえの?

「ちょっとまてや、髭オヤジ」

「何かね、人が気持ち良く朗読していたのに?」

「それは誰が書いた文章なんだ?」

「娘のポラリスだが?」

「それは日記なのか?」

「日記ではないのか?」

「俺にはそんな記憶がないぞ」

「貴様、男なのに自分が仕出かしたことをなかったことにするつもりか!?」

「それ、ポラリスの妄想だろ。あいつの書いたノベルだろ?」

「何を馬鹿なことを言っている。私の娘はこんなに麗しい乙女だぞ。お前みたいな性欲の亡者がこのような卑猥な行為に励んでも致し方ないと思うのだが!?」

「するかよ。そもそも俺は呪いに掛かっていて、エロイことをすると死ぬんだよ。だから夜這いとか無理だから」

「呪い? どういうことだ?」

呪いと言うキーワードを聞いて謁見室の全員がキョトンとしていた。

もうこの際だから呪いの話を暴露する。

「だーかーらー、エロイことすると、呪いで死ぬのだ。そう言う冒険者なのだよ!」

「本当に?」

「本当だ」

「なんで、そんな呪いが?」

「以前の話だ。偶然に出会った性悪な糞女神に呪いを掛けられたのだ。ちっ、今思い出してもムカついてくる」

ここまで話が進むと、今まで一言も喋らなかった女性が口を開いた。

ポラリスの母である。

「あなた、だから述べたでしょう。これは娘の妄想ですわ」

「いや、でも、ほら……」

「こんな濃厚な文章を書くのは、おませなポラリスなら簡単ですわよ」

そんなに濃厚だったかな?

売れないド素人な官能作家のエロノベルよりレベルが低かったぞ。

これが通じるなら、俺が官能作家でデビューしてやるわ。

それよりもだ。

「あの~、そろそろ俺の誤解は解けたでしょうか?」

俺が丁寧に文句を飛ばすとベルセルクの爺さんが言う。

「アルビレオ、縄を解いてやりなさい」

ベルセルクの爺さんに言われて若い兄ちゃんが動いた。

俺よりは年上だが、生まれつきで上品なところが多い兄ちゃんだった。

そして、アルビレオは腰からダガーを抜くと、俺を束縛していたロープを切断する。

俺はロープから解放されると全裸のまま立ち上がり、ポラリスに近付いた。

「なんでお前はあんな下手くそな同人誌みたいな物を書きやがった!?」

「いや、ほら、ただの妄想だったんだけど。お父さまが勝手にわたくしの机を漁って見つけちゃったのじゃ……。すまぬ……」

「おい、馬鹿オヤジ。その羊皮紙をよこせ!」

「ああ……」

俺は羊皮紙を受けとると、もう一度内容を読んだ。

ごほん──。

「わたくしが夜に自室で寝静まっていると、窓を叩く音が聞こえました。

わたくしが何かしらと思いながら窓に近付くと、そこにはアスラン様が立っておられました。

わたくしは窓を開けてアスラン様を部屋に招き入れます。

アスラン様、こんな夜更けにどうなさいましたか? 

プリンセス・ポラリス。今宵は貴方を拐いに参りました。

わたくしを拐いにとは、どう言うことですか? 

ええ、貴方の心を拐いに参りました。

いけません、アスラン様。

わたくしはこのお城のプリンセスですよ。

幾らあなた様が逞しくお強い冒険者様でも、夜這いなんてなりませんわ。

わたくしの身体は将来の旦那様に捧げるまで、清いままでなければ成らないの。

ああ、いけません。

そんな力任せに抱き寄せないで、私の心の防壁が崩れてしまいます。

貴族と言う壁が身分を越えて攻略されてしまいます。

ベッドに押し倒さないでくださいませ、ああ……」

俺はここまで読み上げると羊皮紙を丸めてフルスイングのもとにポラリスの頭をぶん殴る。

パコーーンっと音が鳴った。

「馬鹿か、お前は!!」

俺は丸めた羊皮紙の先でポラリスの頬をグリグリと押してやる。

「うぐぐ……」

「もっと官能的に書けよ。こんなので純粋で無垢な少年少女たちが萌え上がると思ったか~、あ~、え~!」

「す、すまぬ……」

「誰かペンを持ってこいや、俺が書き直す!!」

俺が興奮して怒鳴るとアルビレオが魔法のペンを懐から出して渡して来た。

この兄貴は気が効くな。

俺はペンを受けとると追筆を始める。

「ちょっと待ってろよ~」

俺はしばらく黙々と羊皮紙にペンを走らせた。

そして完成する。

「よし、出来た。読むぞ!」

ごほん──。

「心がざわめく淡い夜に、わたくしが寂しく一人で自室で寝静まっていると、静かな闇から窓を叩く音が聞こえてまいりました。

わたくしが何かしらと思いながら夜を映し出す窓に近付くと、そこには凛としたアスラン様が立っておられました。

ドキドキと胸を弾ませながら戸惑うわたくしが静かに窓を開けてアスラン様を部屋に招き入れると、凛とした姿勢のアスラン様の片腕がわたくしの顎先に伸びてまいります。

凛々しい眼差しでアスラン様は、わたくしの細い顎を優しく撫でるのです。

まるで赤子の肌を擦るがごとく──。

わたくしは火照る肌を寝巻きで隠しながら問いました。

アスラン様、こんな夜更けにどうなさいましたか? 

アスラン様は透き通った優しい眼差しでわたくしを見詰めながら言います。

プリンセス・ポラリス。今宵は貴方を拐いに参りました。

わたくしを拐いにとは、どう言うことですか? 

わたくしの心が強く動揺しました。

胸が弾みます。

心臓が徐々に苦しくなって参ります。

このようなときめく夜が来るなんてと思いながら。

そして、アスラン様は優しい声色で答えます。

ええ、貴方の心を拐いに参りました。

そしてわたくしの細い腰に腕を回して引き寄せたのです。

わたくしと彼との胸と胸が優しく力任せに重なり合ってしまいました。

彼の熱い鼓動が伝わってきます。

わたくしの顔がアスラン様の眼前に急接近しました。

見詰め合う二人。

勇ましく綺麗な眼差しが私だけを見詰めてました。

あまりの恥ずかしさにわたくしは視線を外して逃げてしまいます。

わたくしの心の中で何かが弾んだ思いでした。

狼狽したわたくしは身体を引き離そうと悶えながら言い訳を並べます。

いけません、アスラン様。わたくしはこのお城のプリンセスですよ。

幾らあなた様が逞しくお強い冒険者様でも、ふしだらな夜這いなんてはしたないですわ。

わたくしの身体は将来の旦那様に捧げるまで清楚なままでなければならないの。

ああ、いけません。そんな力任せに抱き寄せないで、わたくしの心の防壁が脆くも容易く崩れてしまいますわ。

わたくしの無垢で純な心が、貴族と言う壁を越えてあなた様に攻略されてしまいます。

ベッドに押し倒さないでくださいませ!

ああ、服を脱がさないでください!!

いけません、そんなに強く、そんなところを──。

わたくしのサーモンピンクな部分を掻き回さないでくださいませ。

心と体が刺激に堪えかねて悶えてしまいます。

止めてくださいませ、ああ──」

殺気っ!!

俺が素早く回避すると、ベオウルフが振り下ろした長剣を床に突き刺していた。

「何をしやがる、髭オヤジ!?」

「か、買い取ろう。言い値でそれを買い取ろう!?」

「ちょっと待ってください、父上。その秘文は私が買い取りましょう!」

割って入ったのは兄のアルビレオだった。

「出来れば完結するまで、続きを書いてもらいたいのだが!?」

更にポラリスも口を挟んで来た。

「お兄様、この秘文の原作者はわたくしですわ。買い取りの商談はわたくしに権利がありましてよ!」

「分かった。ならば、お前とアスランくんの結婚に私は賛成しようぞ」

「お兄様、売りますわ!」

ベオウルフが息子と娘に怒鳴り散らす。

「お父さんは、許しませんからね!!」

なんだよ、この馬鹿親子たちは……。



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